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025_監獄騒動(一)

 


 毒というのは効果を弱めることで薬にもなる。その考えでいくと、薬でも過剰に摂取したら毒になるのではと考えた俺は、試してみることにした。


「しかし、試してみると言っても、どのように試すのですか?」

「罪人を使う」


 死刑が確定している罪人に毒の被験者になるなら、罪を軽くしてやると言えば飛びついてくるだろう。

 俺は実験ができるし、罪人は死刑を免れることができるのだからお互いにウインウインの関係だ。


「なるほど……」

「陛下に罪人での実験許可を申請する」


 俺は親王なので、俺が捕まえた罪人に関しては俺に裁く権限がある。親王府の権限として、捕縛権と裁判権を持っているのだ。

 しかし、今現在、俺が抱えている罪人はいない。

 この屋敷が帝城の一角にあるから罪人を捕まえることがないのだ。

 刺客でもきてくれたら捕縛したのだが、幸か不幸か三年以上刺客はきていない。だから、皇帝に罪人を融通してほしいと頼むのだ。


 数日後、罪人を実験に使うために引き渡しの許可が下りたことで、その罪人を引き取るために、帝城の外へ出ることにした。

 当然、この行動は法務大臣にも伝わっている。法務省は罪人の管理をしているのだから、罪人の引き渡しについて知らないわけがないのだ。


 帝城の北門を出て、帝城の堀沿いに進んで西へ向かった。罪人を収監している監獄は帝都の郊外にあって、帝都を出る必要がある。

 皆は俺が直接いく必要はないと言うが、これは法務大臣のミスを誘う作戦でもあるので、俺自身を餌にする必要がある。

 少なくとも、法務大臣は俺に刺客を一回は送っているので、俺は法務大臣を放置するつもりはない。それに、いくら屋敷内が安全でもいつ刺客が送られてくるか分からないのは、精神衛生上よくないからな。


 帝都の美しい町並みを抜けてしばらく進むと、帝都の周りを囲んでいる防壁が見えてくる。

 帝都の防壁は外敵を防ぐものだが、監獄の防壁は収監されている罪人の逃走を防ぐものだ。

 門番に命令書を見せて中に入る。監獄だけあって重苦しい空気が漂っているな。


「殿下、何があるかわかりませんので、馬車から下りないでください」

「サキノ、それでは餌にならないだろ。餌をちらつかせなければ、魚は釣れぬぞ」

「しかし……」

「心配するな、サキノも知っているように、余は大丈夫だ」

「分かりました」


 看守長が出てきて、ハンカチで額の汗を拭きながら俺にペコペコする。


「楽にしろ。罪人を引き渡してもらうだけだ」

「ははー! すでに十人の罪人を用意しております。こちらへお越しくださいませ」


 緊張するなというのは無理かもしれないが、米つきバッタのようにペコペコする看守長には引く。

 しかし、この調子だと看守長は法務大臣から何も指示を受けていないように見える。さて、法務大臣は仕かけてくるだろうか?


 看守長について奥へ向かうと、鎖でつながれた十人の罪人が看守たちに囲まれて待たされていた。


「あの者たちでございます」

「うむ、世話をかけたな」

「はひぃ、滅相もございません!」


 俺は騎士たちに罪人を連れていくように指示して、汗だくの看守長が差し出してきた書類にサインをした。


 何もないのかなと思っていたが、周囲が騒がしくなった。


「ど、どうしたのだ!?」

「ぼ、暴動です! 罪人どもが暴動を起こしました!」

「なんだとぉぉぉーーー……」


 看守長は叫ぶようにしてその場で倒れてしまった。卒倒してしまったようだ。

 どうやら法務大臣は罪人たちを使って俺を始末しようと考えたようだな。まあ、妥当な線だろう。


「おい、看守長の次の権限者はいるか」


 俺は看守たちに聞いた。


「わ、私です。副看守長をしています」


 細身の男性が出てきた。


「非常事態ゆえ、余が指揮を執る。異論はあるか?」

「い、いいえ! 異論なんてありません!」

「皆、聞いたな! 今から余が指揮を執る!」

「「「はい!」」」


 看守たちが背筋を伸ばして返事をした。


「おい、出入り口は一カ所だけか?」


 副看守長に聞いた。


「はい、あの門だけです」


 なら、簡単だ。


「いますぐ全ての看守たちを門の前に集めろ」

「「「はい!」」」


 看守たちが俺の指示で走り出した。

 さて、問題は罪人を扇動した存在だ。おそらく看守の中にその人物がいると思うのだが、確定ではない。


「サキノ、受け取った罪人たちを馬車に入れておけ」

「は!」


 俺の指示を聞いたサキノが騎士たちに指示して、罪人を檻のような馬車に詰め込んでいく。

 せっかく受け取った罪人なので、無駄に失うのは避けたい。それに、もしかしたら受け取った罪人の中に本命がいるのかもしれない。


 

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