014_屋敷妖精メイゾン
徐々に俺の親王宣下の機運が高まってきた今日この頃、屋敷の改修も終わって調度品などが運び込まれている。
そして、もうすぐ俺のお披露目パーティー、そして親王宣下の日だ。
「ふむ、なかなかいい屋敷だ」
「ゼノキア様がお住まいになるには、少々小さいようですが?」
カルミナ子爵夫人はもっと大きな屋敷があったのに、この屋敷にしたことが気に入らないのだ。
貴族というのは見栄とか虚栄心の塊なので、屋敷も大きいほうがいいと思っているのだろう。
「この屋敷でも帝城の外の屋敷から見れば、大きいぞ」
「ゼノキア様は欲がなさすぎます」
ぶつぶつ文句をいうカルミナ子爵夫人を引き連れて、屋敷の中を見て回る。
「………」
三階の奥に足を踏み入れた時だった、なんだか魔力の塊が廊下の先にあるのを見つけてしまった。
「どうかされましたか?」
サキノには見えないようだ。あの魔力の塊はなんだろうか? とりあえず魔力の塊に近づいてみた。
「………」
手を伸ばせば魔力の塊にふれそうな場所までやってきた。
ここまで近づくとなんとなく分かるが、この魔力の塊から嬉しそうな、そんな気配がする。
「お前はなんだ?」
「「ゼノキア様?」」
俺が壁に向かって話しかけているのを見て、カルミナ子爵夫人とサキノが不思議がっている。
「………」
魔力の塊が蠢いた。不思議と敵意はないように思えた。
魔力の塊から手のようなものが伸びてきて、俺の頬にふれてきても避けるようなことはしなかった。
次第に魔力の塊が俺の体中を包みこんでいく。
「……そうか、お前は寂しかったのだな」
この魔力の塊は、この屋敷の意思のようなものだ。俗に言う屋敷妖精だ。
数十年という長き間、この屋敷には誰も住んでいなかったので寂しい思いをしていたようだな。
「これからは俺がいる。寂しくないぞ」
嬉しそうにしているのが分かる。
「お前の名はなんというのだ?」
魔力の塊はフルフルとその不定形の体を揺らした。どうやら、名はないようだ。
「俺がつけてやろう。そうだな……メイゾンというのはどうだ?」
とても喜んでいるように見えた。
魔力の塊は何度も俺にお礼を言うと(そう思っている)、パッと弾けて屋敷の中に消えていった。
いなくなったわけではなく、この屋敷の管理をするために仕事を始めたのだ。
「ゼノキア様、どうかされましたか?」
サキノの声に振り向くと、カルミナ子爵夫人とサキノが不安そうな表情をしていた。
壁に話しかけている子供がいたら、誰でも心配するだろうから仕方がないな。
「いや、なんでもない」
俺は他の部屋も見て回ったが、どの部屋にもメイゾンの魔力が感じられた。
▽▽▽
俺のお披露目パーティーが数日後に迫っている。
前世ではこんな面倒なものはなかったと、ちょっと緊張しながら日課になっている朝のランニングをする。
魔法の練習は王級までは常時行っているが、帝級はなかなか外に出ることができないのでしていない。
命を狙われている身としては、少しでも抵抗できるようにしておかなければと思い体づくりに力がこもる。
「ゼノキア様、ペースが落ちていますよ」
「うむ」
俺のペースが落ちると、サキノが注意をしてくれる。
一定のペースを保って走るのはなかなか難しい。
サキノは体力もそうだが、精神を鍛えるためにもペースを保つようにと言う。
さらに、常に平静で同じペースで走ることを心がけるのが、剣の道にも通じるらしい。
前世では剣も魔法も習ったが、こんな小さな時から体は鍛えなかった。
まあ、小さい頃の記憶なんてほとんど忘れてしまったけどな。
だが、剣の達人が言うのだから間違いないと思って、サキノの言う通りにしている。
とても広い訓練場の壁際を五周も走ると、汗が噴き出てきて息も荒くなる。
それを平常心を保って一定のペースで走るのはとても大変なことだ。
十周して俺のランニングは終了する。
まだ四歳なので、体へ大きな負荷をかけない程度がいいとサキノが言うので、十周が今の俺のノルマになっている。
「少しずつよくなっています。この調子で続けていきましょう」
「分かった」
俺が走り終わると侍女のエッダがタオルを持ってくる。
俺はタオルで顔の汗を拭きながら息を整え、自室に向かって歩く。
走った後は止まったり座ったりせずに、しばらく歩きながら息を整えるのがサキノ流だ。
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