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013_後宮めぐり

 


 ふー、今日は忙しいな。次は本日最後にして、最大の正念場だ。

 サキノと別れて後宮の中に入り、母親の部屋に向かった。


「遅くなりました」

「ゼノキア殿も忙しいのですから、構いませんよ。それに約束の時間ぴったりですから」


 俺は母親と一緒に部屋を出て、後宮の奥へ向かった。

 あまりいきたくはないが、これもケジメなのでいかざるを得ない。


 後宮の中でもひと際豪華な扉の前にやってきた。

 ここは皇后、つまり後宮内にあってその頂点の存在である人物の部屋だ。

 皇后の部屋に入った俺と母親は、待ち構えていた皇后に挨拶をした。


「よくきました。陛下よりゼノキア殿のことは伺っておりますよ」


 皇后は今年で五十三歳になる初老の女性で、皇太子の母親でもある。

 だから、親王は皇后にとって自分の息子の帝位継承を脅かす相手である。

 今も俺を値踏みするような鋭い視線を向けている。


「まだ四歳のゼノキア殿に親王の才覚があるとは思えませぬが、せいぜい親王の品格を落とさぬよう、なさりませ」

「皇后様にありがたきお言葉をいただきまして、恐悦至極に存じ上げ奉ります」

「ありがたきお言葉」


 全然ありがたくないけど、母親の次に俺もお礼の言葉を言った。

 こういう嫌味を言うのも皇后の仕事だし、それを聞くのが俺たちの仕事だ。そして、嫌味を受け入れる度量というものを示すことができる。

 それに、こんなことでいちいち怒っていたら、怒りすぎて血圧が上がって仕方がないのが、この後宮という狭い世界だ。


 皇后の次は正妃たちの部屋を回った。

 皇后との面会は大したことない。むしろ、最後に訪れるこの部屋の主との面会が一番精神的にきつい。


「マルム様、この度はなんと申し上げればよいか……」


 そう、この部屋の主であるマルム様は、アクラマ王に封じられることになった第二皇子の母親なのだ。


「気にする必要はありません。ゼノキア殿であればきっとよい親王になりましょう」


 この言葉は心からのものだと思う。

 このマルム様は正妃にしておくのがもったいないくらい、心が優しい人物だと俺は思っている。

 皇后や他の正妃、側妃たちは後宮内で権力闘争をしているが、この方はそのようなことをまったくしないのだ。

 残念なことに、これだけ素晴らしい方から生まれた第二皇子は、あまりよい評判を聞かないが……。


 第二皇子は評判が悪いので、皇帝に見限られて王に封じられることになった。

 その穴埋めに俺が選ばれたというのが、正しい時間的順序なんだろう。

 もしかしたら、皇帝がそのことを考えている時に四歳の俺が都合よくちょっとした戦功を挙げてしまったので、とどめを刺してしまった形になったのかもしれない。


「マルム様はケルファス殿と共に、アクラマに向かわれるとか?」

「ええ、私はすでに床をご辞退して久しく、ケルファス殿以外には子もありませんから、後宮にいても陛下のお役には立てませんので」


 床を辞退するというのは、皇帝との子作りを辞退したということだ。

 皇帝が自然と遠ざかる場合もあるが、妃は二十代後半、遅い場合でも三十歳になると自分で床を辞退することが慣例になっている。

 これは、若い女性の方が子供を身ごもる可能性が高いことから、皇帝が効率よく子作りをするための慣例だ。


 マルム様は皇帝よりは若いとはいえ、すでに五十代後半だったと思うので床を辞退して二十年以上たっているはずだ。

 そして、第二皇子についてアクラマに向かうのは、評判の悪い第二皇子を諫める役をするつもりなんだろう。


 本来、アクラマは皇帝の直轄地なので、王がいると帝国はそこからの税収がなくなってしまう。

 今の皇帝は第二皇子の父親なので、父として子を処分するようなことはないと思うが、今の皇帝がいつまで皇帝でいるか分からない。

 次の皇帝から見れば、王がいるということは税収が下がるということなので、失政があれば容赦なく処分してアクラマを直轄地に戻そうとするだろう。

 そうならないために、マルム様が第二皇子についていって目を光らせるのだと思う。

 だが、第二皇子は四十近い年齢なので、今さら変われるだろうか?

 兄である第二皇子がいい王になってくれたらと思うが、マルム様の心労は絶えないだろうな。


 

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