第二話 生計
釈放された翌日、早速連絡があった。
オッサンとメガネ、なにもふたりで来なくとも。
ましてオッサン、俺の許可も無くヤードを見に行きやがって。やましいことなんかないぞ?
「向こうでどうしているか、聞くのを失念していた」
嘘だなこの野郎、無意味な言い訳しやがって。逆らっても無駄ってことぐらい知ってるよ、素直にお答えいたしますっての。
「どうって……車を向こうの同業に売ってるんだけど?」
メガネの顔にイラつきが浮かんだ。
優等生ってやつはいつもこれだ。こっちをマヌケだと思い込んでやがる。
これから順を追って説明するんだよ、先回りするんじゃねえ!
「メールやSNSで連絡しあってる。向こうは欲しい車種を言い、こっちはそれが手に入りそうだとか、別の車ならあるとか。例の車種ならいつだって大人気だ。どこの業者にでも、事前連絡無しでも売れる」
「いくつも付き合いがあるのか? 向こうの業者で日本に買い付けに来ているところは? ロシア語を話せる?」
「そりゃ商売だ、話せるさ。俺がハーフだってことも知ってんだろ?」
最近はダブルとか言うらしいな。
ハーフだダブルだって、カロリーでも便所紙でもねえよ。
「買い付け業者の噂は聞かない。向こうの同業に日本語話せるヤツいないしな」
なんだよおい、メガネ光らせて。
よく見てるなっててめえ、バカにしてんのか? 商売敵の情報収集ぐらい誰だってやるだろうがよ!
「向こうに着いてからの行動は?」
「車を船から降ろす。業者のところへ持って行く。で、売る。即時現金払いだ」
ツケだの翌月払いだのを許して良い連中じゃない。
くさすつもりじゃ無い。信用ってのはな、どう言えば良い? 文化、お国柄なんだよ。それが根付いてそれで回ってる社会と、それ無しで回してきた社会がある、そういうこった。慣れるまでは苦労した。
慣れだ信用だと言えば、あいつらと同じ顔に生んでくれたお袋には感謝だな。不機嫌なツラさえ作ってりゃあ受けがいい。戸惑った時には睨んどけば舐められずにすむ。
「商談もするんだろう? 食事はどこで? 向こうでの宿泊は?」
おい、それが事件と何の関係が……睨むなよ、なんて目つきだ。分かった、言うって。
「そりゃ商談もする。ちょっと良いレストランとかで食事しながら。自分ひとりで飲みに行くこともある。大概はあれだな……日本で言う『ガールズバー』、そんなとこだよ。何、知らねえ?」
まだ疑われてるみたいだから多少は品良く見せようとしたんだが、空振りか。
界隈をうろついて細かい摘発稼ぎする必要が無いご身分かよ、結構なことで。
「あれだ、おっさんなら『スナック』とか『パブ』って言うんだろうな」
その手の店はガキの時分から知ってる。鼻が忘れてくれない。
タバコに酒、吐瀉物の酸っぱい臭い。時折混ざるなまぐささ、そして血の匂い。
「そこから車転がして事務所に泊まる。天候が悪けりゃもう一泊。で、船に乗る。飲酒運転とか言われても困るぞ? 日本では誓ってやってない」
鼻のむずがゆさが不愉快で、早口になっちまう。言わなくて良いことまでベラベラと。
じっとこっちを見てやがる。後で裏取りするんだろうな、関係ないところまで。
当然のように人の過去を覗き見る、薄汚え話だ。
「分かった。帰国後、また聞きに来る。向こうでの行動については逐一報告を求めるから、そのつもりでしっかり記憶しておいてくれ」
「何だよおい?」
「中古自動車輸出業者と盗難車にまつわる事件は、増加傾向にある。業者の実態を把握しておきたい、それだけのことだ」
やっぱり犯罪者扱いじゃねえか。さっさと帰れこの野郎。
次は数日内に異世界王朝物語を投稿します。