9.婚約なんて聞いてません!
「ちょっと待ってください。簡単に聞き流しましたが、婚約者とはなんのお話ですか……?」
さっきフィリップ様がポロッと言っていたのを
聞き流してしまったが、
私とフィリップ様は幼なじみとはいえ
まだ婚約なんてしていない。
どこかのタイミングでフィリップ様を好きになったパールが
お父様に嘆願して取り付けてもらったのが原作のはず。
命と声を守るためには、婚約自体を無しにする
のが最適だと考えていたのだが……
「そうだ、パールは眠っていたから知らなかったね。」
フィリップ様がにこにことしながら言う。
「パールはなぜ眠り続ける事になったか覚えているかな?」
「家の裏手の海辺でお姉様やフィリップ様達王家の方とお茶会をしていた際、波に巻き込まれて溺れたと記憶しておりましたが……」
薄い記憶を辿りつつ思い出す。
するとお母様が口を開いた。
「パール、あなたは波にさらわれ溺れかけたフィリップ様を助けるために海に飛び込み、浅瀬近くに戻ったと同時に意識を失ったのよ。」
ええぇぇぇえええぇええぇええ!?
私イケメンすぎんか!?!?
確かにリル・ハゥフル家は人魚姫がベースという
事もあって、裏手には海があり、
家族は皆泳ぎがとても得意である。
(かと言って5歳が王子を助けに海に飛び込むか……??)
もしかしてそれこそが人魚姫たる資格なのだろうか。
「わたくしが、そんなことを……?」
「だから、僕からお願いをしたんだよ。命を救ってくれたあなたと一生添い遂げたいと。」
にこにこしているフィリップ様と対称に涙ぐむお父様が
唇を噛み締めながら話す。
「うちが第三公爵家とはいえ、王家には逆らえないからっ……!!!」
「すみません♪」
「いやいや、わたくしなんかが王家の妻なんて無理ですよ!?!?」
「まだ嫁ぐまで10年以上あるよ。僕と一緒に立派な王家の人間になればいいよ。」
正論を放ってくるフィリップ様。
断る理由なんて無い。
むしろ反逆罪として早くも死を迎えるかもしれないほどの
圧力をフィリップ様の笑顔から感じる。
「改めてパール。僕のお嫁さんになってくれるね?」
「謹んでお受け致します……」
お父様、泣きたいのは私だよ。