8.微妙な朝食
どうしてこうなった…………???
たらたらと落ちる冷や汗が止まらない。
原因である隣の席の人間はニコニコとこちらを向いている。
(笑顔がうさんくせぇ……)
「食事の進みが悪そうだね、僕が食べさせてあげようか。」
「お気になさらず……」
なぜいつもはアリスタお姉様(5番目のお姉様)が
座っているはずの席にこの男が座ってるのか。
ハリのある黒髪に深い青の目。
7歳とは思えない落ち着きと笑顔。
フィリップ・エル・ダー・プリンツである。
娘溺愛の父がオロオロとこちらを見ている。
父親としての複雑な気持ちと王族に対する臣下の気持ちがせめぎ合ってるのだろう。
頑張れ父親の気持ち。
早くここから解放してくれ。
早めに起きたパールが準備を終え、ダイニングに向かうと、
そこには今と同じく複雑な顔をしたお父様と
キラキラ笑顔のフィリップ様がいた。
「どうしてフィリップ様がこちらに……?」
「来ると伝えてあったはずですよ。」
にこっ。
いやいや、朝の7時やで。王子様よ。
来る言うても10時とかのお茶の時間と思うやろ。
と心の中でツッコミ。
「こんな早くに来て下さると思っていなかったので……
お待たせして申し訳ありませんわ。」
「気にしないで、婚約者が心配で早く期待とわがままを
言ったのは僕の方なんだから。
何はともあれ、元気そうでよかった。」
にこにこっ。
(あー眩しい。王子補正やべぇ。)
独特のきらきらに充てられてると、
お父様が声をかけてくださった。
「フィリップ王子、朝ごはんはこちらで……?」
「よろしければ頂いてもいいでしょうか?」
「すぐご用意を致します。キース、皆も呼んできておくれ。」
父は、執事長であるキースに声をかけ、
家族を集めさせた。
ダイニング入ってくる母、姉たちはみんな同じく
フィリップ様にえぇー…って顔を一瞬させ、
すぐ笑顔になり挨拶をする。
(うちは家族団欒を良しとしてるのに〜)
そんなこと言ったら、将来は家族でしょとか言われる。
最後に入ってきたアリスタお姉様は
いつもの席をフィリップ様に取られ、
しぶしぶと別の席に着いた。
寂しそうな瞳と目が合う。
私も寂しいよお姉様〜〜〜。
「皆様おはようございます。食事を始めさせて頂きます。」
キースの挨拶で朝食が始まった。
そして今に至る。
「あれ、パール、もう食べないの?」
「あっ、はい。少し紅茶を頂いてきたので……
フィリップ様は本日のご予定は?」
「午前はこちらにいさせてもらおうかと。
パールのことが心配だったからね。」
にこにこにこっ。
ゲームではヒロインに恋をし、パールを容赦なく処刑する
王子ではあるが、この時点では関係が良好なのだ。
(この人が私を殺すのか……)
ゲーム開始まで10年近くあるのに、
警戒が抜けない。
あどけないフィリップの笑顔も、
今の私には恐怖の対象にしか見えないのだ。