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産廃スキル『アイテムボックス』しか使えない俺が、何故か魔王と呼ばれるその日まで。  作者: 雪月 智也
第一章 〇〇殺し編  新人冒険者の俺が〇〇殺しとなるまで
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08話 買い物



 次の日テオは、明日の依頼の為の準備の為にゲディックの街を歩いていた。

 依頼は片道丸一日を掛けるため、行き帰りの途中で一度野宿をする事になる。


 ギルドが編成したパーティーに加わる形になり、馬車での移動の為に道中の食事や野宿の用意はされているという。

 しかし冒険者のアイテムボックス持ちなのに、ろくな野宿道具も持ち合わせていないというのはどうかと思う。

 今テオが持ち合わせている野宿道具と言えば、自分が獲った動物の毛皮が二枚と、水筒一つ、あと剥ぎ取りに使っているナイフと、先日かったナタくらいだろうか。


 Eランクになっていないので割引は利かないが、懐は暖かい。少々割高でも使いそうな道具はアイテムボックスに入れておきたい。


 飲水は宿の井戸から頂いている。後は食料品も買い込んでおきたい。アイテムボックスに入れておけば腐る事は無い。

 この点がマジックバックとは違う所の一つだ。


 まずは食料品の買い出しに市場へ向かう。


 他の冒険者ならば保存食として考慮する必要があるが、アイテムボックス持ちにはその必要が無い。

 結果、買い込むのは普通のパンにチーズ、果物だ。


 携帯保存食にできるような堅焼きパンやドライフルーツはかなりの割高だ。割高なそれらを買わずに済むのはアイテムボックスの利点だろう。


 肉は買わずとも問題はない。前に獲ったイノシシ肉がアイテムボックス内に残っている。


 ただし手持ちに無い塩は買い求める。塩は高価な品だ。ゲディックの街は海からも岩塩の産出地からも距離があるので仕方のないことだ。


 さてこれで十分だろう。食料品の買い出しにかかった金額は大体一万エメラ。買った食料品だけで十日は食いつなげるだろう。

 もっとも、これから十日で食い潰す気はない。アイテムボックスの中に入れておけば、いつまで鮮度を保つのだ。いざという時の非常食代わりに、これらに手をつけるのは後回しになるだろう。


 続いてテオは、まずギルドでオススメの道具屋を聞いてくる。

 商店街の端にあるのが、ギルドのオススメの店である『道具屋 転ばぬ先の杖』だ。


「いらっしゃいませー」


 ドアを開けるとドアべルの音色と共に、高い声に迎えられた。

 店内は所狭しと様々な道具が並べられている。自分で探そうかと思って居たが、その商品の混み具合に自分で探すよりも探してもらった方がいいと考えを改める。


 置くのカウンターにはニコニコと笑顔を浮かべる、テオと同年代の少女がいた。丈夫なエプロンを身につけている事から、店主の娘だろうか。


「すまない。野営道具を探しているんだが」

「冒険者の方ですか? Eランク以上の方でしたらギルドカード提示していただければ割引いたしますけど?」

「いや。まだFランクだ。明日から遠出する予定があってな。金の方にも余裕が在る内にそろえておこうと思ってな」

「なるほど。ではどういった物にいたしましょう。一口に野営道具と言っても色々ありますよ?」

「そうだな、まずは一人用のテントと毛布、それと煮炊き用の小さな鍋を見せて貰えるか?」


「一人用とは言えテントは重いですよ? それに毛布もかさばりますし。乗り物に乗るかマジックバックが無い限り、遠出するのにはオススメできませんが」

「大丈夫だ。俺はアイテムボックス持ちだからな」

「あ、なら大丈夫ですね」

 少女はテキパキと商品を用意する。


「テントが十万エメラ。毛布が五千エメラ。小さな鍋が二千エメラですね」

「……テント、ちょっと高くないか?」


 手持ちの金額は十四万と少しだが、生活費の事もある。流石にテント一つに大部分を費やす気にはなれない。


「物がいいですから仕方ありません。虫除け染料を使ってますし、基本的に馬で移動する方が使うようなテントですから」

「あー……」

 いわゆる貴族と呼ばれるような者が一人旅をする際に使う品なのだろう。


「じゃあ、テントを使う冒険者は少ないって事か?」

「そうですね。冒険者の方は大体、帆布とロープでテントにしているようですよ? そちらの値段は四千エメラです。

 ですけど水が染みてきますから、蝋引きの帆布をオススメしますよ? 一万エメラと少々お高く、重さも普通のよりも増しますが、雨を弾きますし、アイテムボックス持ちならば問題無いはずです」


 出してきた蝋引き帆布を広げて見せられた。大きさは一人用のテントの代用には十分だし、ロープを付けるためのハトメ加工もしてある。

「じゃあロープと一緒にそれを」

「ありがとうございます。

 お鍋は野外で焚き火で使うのですよね? だったら五徳も一種にいかがです? あると便利ですよ」

「ではそれも」


 それからいくつかの小物を勧められ、購入することになった。


「ありがとうございましたー」


 元気な声に送られらてテオは店を出る。


 購入したのは毛布、小さな鍋、蝋引き帆布、ロープ、五徳、スプーン・フォークを含む食器類。占めて二万二千エメラかかった。


「……さて、これからどうするか?」


 意外に早く、買い出しが終了してしまった。まだこの街に慣れていない事から一日仕事になるかと思っていたが簡単に揃ってしまった。


 街の散策でいいかと、テオは歩き出す。こちらの方はまだ見てはいない。


 しかし、テオの足はすぐに止まった。奇妙な店を見つけてしまったからだ。


 『魔王の館』


 看板にはおどろおどろしい字体でそう記されている。


「……何の店だ? ここは」


 魔法屋だろうか? それならば少々威圧的なデザインと店名でも、あっておかしくはない。

 しかし立看板の方にはパステルカラーで『新規ポーション入荷しました』の言葉が丸文字で書かれている。しかも語尾にはハートマークも付いている。


 どちらか片方の看板だけならば、ただの変わった店だなとしか思わなかっただろう。けれど、あまりのミスマッチに興味を惹かれてしょうがない。


 ドアには営業中の札が掛かっている。

 テオはそっとドアを開けて覗き込んだ。

 狭い店内はすぐにカウンターで仕切られている。店の外見のおどろおどろしさに比べて薄暗いにもかかわらずさっぱりした印象がある。


「いらっしゃい」


 カウンターに座っている店主らしき中年男がそう声をかけてきた。


「ここは何の店なんだ?」

「見て分からんのか?」


 分かないから聞いたのだ。


「ここは薬屋だ」


 ――薬屋?

 店内を入って見回すと、カウンターのこちら側には棚が無い。向こう側には多くの棚があり、そこには多くの液体の入ったビンが並んでいる。


 薬屋だと言われると確かにその通りだ。薄暗い店内は光による水薬の劣化を防ぐためだろ。


「……なんで薬屋の店名が『魔王の館』なんだ?」

「ああ。お前さん、店名に誘われてやって来たクチか。

 お前さん、魔王と聞いてどんなイメージを持つ?」

「そりゃ、おとぎ話の勇者の敵役か、モンスターの親玉だろう?」

「それもそうなんだが、魔王と言う称号は他にもいくつもの意味がある。


 その一つに『魔法を究めた者』という意味がある。

 この街で作られるポーションは、魔法を極めて魔王と呼ばれるように成った魔法使いの一人が開発したんだ。

 薬屋がポーションの開発者にあやかって魔王の名を店名に付けるのは珍しい事じゃない」

「へぇ……」


 その話は初耳だ。


「魔王っていうから、もっと悪い事をした人物かと思っていた」

「魔王という称号はそもそも畏怖や尊敬、はたまた侮蔑をなどの複雑な感情が込められた称号だしな。

 自分ではどうしょうもできない強大な存在に無差別につけられるモノだ。


 所で、お前さんは新人冒険者か?」

「ああ、つい先日この街で登録したばかりだ」

「ならFランクか。この街で冒険者を務めるならポーションを作った魔王さま、ディエナ様には感謝しておけよ?」


「え?」

「この街で作られるポーションはディエナさまが作ったレシピをなぞって作れられてる。

 そのレシピでポーションの材料として使われてるの『スライムの目玉』だ。

 この街で数多くのFランク冒険者を抱え込めるのは、『スライムの目玉』からポーションを作れるようにしたディエナ様のお陰ってわけだ」


「『スライムの目玉』がポーションの材料?」

「ああ、『スライムの目玉』はほぼ全ての種類のポーションに使用する、基礎の材料になっている。

 いくらあっても足らない位だからスライムの湧く場所周辺に、スライムを狩る為の基地ができた。

 その基地がこの街、ゲディックの街の始まりだそうだ。

 今でもこの街の主要産業はポーションの制作だ」

「へぇ」


 食料や革に使えるキラーラビットはともかく、食べる事もできないスライムの素材を買い取るなんて何に使っているのだとは疑問に思っていたが。

 そうか、ポーションに使われているのか。


 テオが感心していると店主がカウンターに一本のポーションを置いて聞いて来た。


「それで、お前さんは何を買う?

 オススメはコイツだ。いざと言う時の為に冒険者用低級ポーションは、一本位は持っておいて損はないぞ?」

「……Fランクに金があると思っているのか?」

「ばかやろう。Fランクだからこそ多少無理でもポーションは買っておくべきだぞ?

 Fランク冒険者なんか仲間以外に誰も助けてはくれないんだぞ?


 この低級ポーションを一本持っておけば、出血もおさえられるし、痛みも抑えられる。

 動けなくなるような怪我を負ってもコレ一本飲めば、なんとか体を引きずってでも街に戻ってこれる可能性が産まれるんだ。持たない理由がないだろう?

 今なら、一本一万エメラだ! お守りとして持っていて損はないぜ?」


 カウンターに置かれたポーションを見てテオは唸った。


 値段が適正かどうかはテオには分からない。

 けれど、確かに買っておいて損は無いのかと思う。


 テオには自分の怪我を治す術がない。応急処置の知識はあり、包帯と消毒用の薬草はアイテムボックスの中に入ってはいる。

 しかし回復魔法を使ったかのような短時間で傷を癒やす術などない。

 確かにいざという時に備えとして、ポーションは必要かもしれない。


 幸い買えるだけの金はある。


 その冒険者の低級ポーションを含めて、いくつかのポーションに付いての性能を聞いた。


 低級ポーションは出血を抑え、擦り傷程度ならば一時間程安静にしていれば治る。

 オススメするこの低級ポーションは冒険者用に店主が特別に調合した品で、痛みを和らげる効果を強くした品だという。


 中級ポーションは小さな傷で有ればすぐに治り、致命傷と思われるような傷でも使用が早ければ命を取り留める可能性も無くはないそうだ。

 ランクの上がった冒険者は中級ポーションを常備しておくのが基本だと店主は言う。


「上位の冒険者でも上級ポーションは常備しないのか?」

「上級ポーションは値段が跳ね上がるから常備用には少々厳しいな。

 それにポーションってのは三ヶ月程度しか日持ちしないんだが、上級ポーションはそれ以上に日持ちしない。精々一月だ。

 だから上位冒険者でも普段は中級ポーションで、危険な仕事の前に上級ポーションを用意するっていうのか基本だな。

 ま、値段相応に効果は高いんだが」


 その効果を聞くと、致命傷だろうとすぐさま回復し、ちぎれかけた手足だろとつながるという代物だった。値段も到底テオが手の届く位置には無い。


「流石に死んだ者は生き還りはしないんだがな」

 苦笑と共に店主は付け加えた。

「生き還りをするポーションなんて、おとぎ話の世界じゃないか」

「ま、そうだがな。

 で、どれを買う?」


 カウンターに並んだのは三種のポーション。

 最初にオススメされた冒険者用の低級ポーション。値段は一万エメラ。

 二つ目は冒険者以外の痛み止め成分の弱い通常のポーション。少し安くなっており値段は八千エメラ。

 三つ目が中級ポーション。中級は冒険者用の調合は無いそうだ。値段は五万エメラ。


 散々唸った後テオは、始めにオススメされた冒険者用の低級ポーションと中級ポーションを一本ずつ購入した。

 お会計は計六万エメラ。

 懐に対しての大きなダメージとはなったが、命の値段としては安いものだろう。



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