06話 食事
イーリスを先頭に店に入り、席に着くとすぐに注文を取った。
エミリは微笑んでいるが、テオにはその笑顔が威嚇の為の表情にしか思えない。
彼女は言う。
「テオさん……でしたか? イーリスの命の恩人だと聞きましたが、一体どんな事から彼女を助けたのですか?」
これは、テオが些細なことでイーリスに恩を着せていると思っているのだろうか。
と言うよりも、イーリスは彼女に言っていないのか? 確認の為に視線で問う。
「さっき会ったばっかりっすから、まだ言っていないっすよ?」
と、助けれらた当人は気楽な様子で言うので、テオは軽く教える。
「ストークベアーから助けたんだよ」
「ストークベアー? え? なによそれ? イーリス、本当のことなの?」
「あ、イヤー。チョイとミスっちまいましてなー。
チョイとトレインをやらかしてしまった所をテオさんに救われたんすよ」
「な! トレイン?! 貴女がしたの? 彼にされたのではなく?!」
それは流石に失礼ではなかろうかとテオは思うが、興奮状態の女性に口を挟むとろくな事にならないのは経験上知っているので、あえて口をつぐむ。
「テオさんは私を助けてくれた方っすよ? それなりに迷惑を掛けたから、昼ごはんをおごるって事でここに連れてきたんすから」
「それなりに迷惑って……」
軽い様子で説明するイーリスにエミリは絶句して、テオの方を見やる。彼女は改めてテオの事を観察しているようだ。
「……テオさんのジョブは何なのですか? 魔法使いにも戦士にも見えないのですが」
冒険者の言うジョブとは、冒険者自身が自称する、自分の役割の事だ。
スキル構成は個人によって大きく異なる。しかしメインに使用するスキルによって、ある程度、何ができるのかの傾向が分かる。
武術系スキルをメインに使っているのならば、戦士をジョブとして名乗り。魔法系スキルをメインに使っているのならば、魔法使いを名乗る。
その名乗りが所謂ジョブというモノだ。
一般的なのが、今例に挙げた戦士と魔法使いの二つだ。その事以外にもこの二つジョブは、高い攻撃力を持つ事でもよく知られている。ストークベアーのような丈夫なモンスターを倒すだけの攻撃力は、他のジョブでは中々だせない。
戦士で在るならば、主武装となる剣なり槍なりを持っているはずだし、魔法使いならば、魔法スキルの効果を増幅させる杖は必須となる。
テオが身につけている武器は剥ぎ取り用のナイフくらいだ。とてもその二つのジョブであるようには見えない。
テオは肩をすくめる。
「昨日冒険者登録をしたばかりのFランクに、ジョブを名乗れる程のスキルは無いよ」
「え? Fランク? Fランクがどうやって?」
「テオさんは登録したばかりなんすから、実力がFランク相当と限らないっすよ?」
「あ、それもそうか」
イーリスの言葉にエミリ納得しかけ、しかし首を振る。
「いえ、待って。戦士でも魔法使いでもないなら、どうやってストークベアーを倒したって言うのよ。
あ、そうか。倒したんじゃなくて、イーリスが逃げるのを助けてくれたんですか? それなら納得が――」
「エミリ。テオさんはストークベアーを倒したっすよ?」
勝手に思考を暴走させて納得しようとするエミリに、イーリスはのんきに訂正する。
「どうやってよ? 体付きは戦士には見えないし、魔法スキルを使ったとしても杖無しじゃ、魔法の威力なんでお察しなのよ?」
「えっと……」
問い詰められるイーリスは、チラリとテオを見やると聞いてきた。
「テオさん。どうやって倒したか言っていいっすかね?」
「むしろ言っていない方が驚きなんだが。冒険者と言うのは、他の同業者の変わった所があれば、すぐにウワサし合うんじゃないのか?」
「いやー、その事を話す前にテオさんが合流したっすから。
流石に本人目の前で、当人の能力をバラすのは気が引けるっす」
「なるほど。まあ、話していいよ。どうせその内に広まるだろうから」
秘密にしておく事は既に諦め気味だ。
「そうっすね。テオさんの能力は目立つっすから」
「……で、どうやってストークベアーを倒したのよ?」
「テオさんのアイテムボックスは生きたモンスターを収納できるんすよ」
「……は?」
「アイテムボックスに収納したストークベアーは、高い所に出して、墜落させて倒したっす。ただの墜落じゃなくで、地面に矢を逆さに突き立てておいて、串刺しにしたんすけど」
「え? 待って。え? アイテムボックスに生きたモンスターを収納した? 嘘をでしょ?」
「嘘ついてどうするんすか」
やっぱり驚くのだなと、テオは二人のやり取りを見ながら、他人事のように思う。この程度の事で驚かれるとこの先、少し困るかもしれないと考えていた。
気がつくとエミリは疑いの視線をこちらに向けていた。
「テオさん。悪いけど、貴方のステータスカードを見せてもらっていい?」
テオは顔をしかめる。
「あまり見せたく無いんだが」
「ステータスカードを見せ合うのは当然の事っすよ? はい、これが私のステータスカードっす」
と、横合いからステータスカードを渡されてしまう。木製ではなく金属製のステータスカードだ。
ギルドランクE
名前イーリス
種族ハーフエルフ
性別女
年齢15
ステータス
STR4
VIT4
DEX6
AGI7
INT5
LUK4
スキル
AGI上昇 Lev.5
俊足
隠密
矢避け
慧眼
回避力上昇
短剣術 Lev.3
早い、というのが真っ先に思った感想だ。回避特化のスキル構成だ。
珍しいと思ったのが『慧眼』のスキルだ。確か、感知系魔法の使用時効果を高める補助スキルだったはずだ。彼女のスキル構成では役に立たないスキルではなかなろうか?
それを抜かせば、斥候と呼ばれるジョブとて、優秀なスキル構成だ。
「はい。これが私のステータスカードね」
とエミリからもステータスカードを渡されてしまう。
ギルドランクE
名前エミリ
種族人間
性別女
年齢16
ステータス
STR4
VIT5
DEX4
AGI4
INT7
LUK5
スキル
INT上昇 Lev.4
VIT上昇 Lev.3
風魔法 Lev.4
伐採
魔法攻撃力上昇
魔法使いとして非常に優秀なステータスとスキル構成だ。魔法スキルの威力を決めるINT(賢さ)が高く、『INT上昇 Lev.4』に『魔法攻撃力上昇』でさらに魔法の攻撃力を高める事ができる。
さらに『VIT上昇 Lev.3』によって体力も上昇するのだから、何度でも魔法を放つ事ができるだろう。
『伐採』スキルは魔法使いの彼女には役に立たないスキルだろうが、仕方のない事だろう。どのようなスキルを持っているかは生まれついての影響が大きい。
二人からステータスカードを見せられたテオは困った。自分のステータスカードは見せたくは無い。だがこれから先、冒険者としてやってくには見せねばならない機会は多々あるようだ。
ため息とともに諦めて、大人しくステータスカードを二人に見せた。
「え?」
「うわ……」
驚きの声が二人から上がる。
「私、一つしかスキルが無い人、初めて見る……」
「え、なんで一つしか無いんでやんすか?」
テオのスキルの数を知ると反応は大体二つに別れる。優しい人は哀れみの、意地の悪い人は嘲りの視線を向けてくる。
どちらの反応もイヤだったのでステータスカードは見せたくは無かったのだ。
幸いにも二人はマシな方の前者の反応だった。
と、その時に注文していた食事がやって来る。キラーラビットのステーキとスープ。そして大きめのパン。
「あ、まあ、食べるっすよ。ここの店は美味しいっすよ?」
フォローするイーリスに促され、食事を始める。
確かに薦めるだけはある。感動するほど美味しい訳ではないが、この価格帯ならば十分過ぎるほどに美味しい。
舌鼓を打つテオとイーリスに対して、困った顔で唸っているのはエミリだけだ。
彼女は意を決したようにテオを見据える。
「ねえ、テオ。貴方はこのスキル構成で冒険者を続けて行くつもりなの?」
「ああ、そのつもりだ」
彼女は顔をしかめる。
「……悪いことは言わないわ。今すぐ別な仕事を探した方がいいわ。こんな戦闘も逃げる事にも向かないスキルじゃ、遠からず命を落とすわよ?」
「――心配してくれるのは嬉しいけど、俺は大丈夫だよ。
何せアイテムボックスは最強スキルの一つだからな」
テオの言葉に二人はキョトンとする。
「最強スキルって……。アイテムボックスは補助スキルの一つでしょ? 荷物の運搬なら最強とは言えるけど、アイテムバッグを買えば代わりにはなるし……。戦いがメインになる冒険者にはとても最強とは言えないわよ?」
「テオさんのモンスターの墜落攻撃は確かに強いと思うっすけど、それだけで最強とは言えないと思うっすよ? 通用しないモンスターも多いっすから」
「まあ、そういう反応になるのは予想通りだけどな」
テオは特に気にした様子も無く肩をすくめる。
はて、どこまで彼女達に教えたものだろうかと考え、アイテムボックスとマジックバックの違いについて教えることにした。
マジックバックとは、スキルのアイテムボックスを参考に作られた魔法道具の一つだ。
アイテムボックスはスキルであり、マジックバックは人が作った道具という違いはあるが、どちらも基本的な機能は同じだ。
物を保管し、外部に対して入れた物の大きさと重さの影響を与えない。
道具であるマジックバックの外見は、一辺が10センチ程の立方体をした箱だ。
見た目からするとアイテムボックスの名称はこちらの方が相応しいだろうが、スキルのそれと混同しないように、マジックバックの名が付いている。
初期には本当にバックの形をしていたが、今は製作の都合により箱の形が基本になっている。
マジックバックはその蓋を開けても内側が見える事は無い。黒い空間が見えるだけだ。
内部の大きさはそれぞれのマジックバックの性能によるが、一般的な物は一辺の大きさが一メートル程であり、最高級品だと一辺の大きさが二メートルを超えるものもある。
物を入れる時は、入れると念じながら黒い空間に入れる物を触れさせる。すると、その物は消滅したように見える。大部分が内部に入っていなくとも、内部に入るのだ。
その際に内部に入れられる大きさならば、箱の入り口の大きさを超える物でも問題は無い。
逆に物を出す時は、まず黒い空間に指先を入れる。するとマジックバックの内部の様子が脳裏に映る。あとはその中から出したい物を選択して念ずるだけで、内部の物を取り出せる。
大量の荷物を持ち歩いても、マジックバックがあればその重さを感じる事がない。
身軽に動き回る事が必須である冒険者にとって必須となる魔法道具だ。ある程度稼げるようになった冒険者は必ず持つ事になる。
対してアイテムボックスは、スキルの一つだ。
マジックバックの高い需要とは裏腹に、アイテムボックスは有用と認められるスキルではない。確かに持っていれば便利ではあるが、所持者に依存する融通の利かないスキルだ。
それよりもマジックバックを買えば済むとしか認識されていない。
アイテムボックスの利点としては、他の全てのスキルと同等に何度も使う事で性能が向上する事。つまり、容量を増やす事ができることだ。
しかし、アイテムボックスは成長しにくいスキルとされていて、一般的には四立方メートル辺りで頭打ちになるとされている。
マジックバックとの違いは、収納できる物の形が自由である事だ。マジックバックは内部の形はそれぞれに決っているので、内部より長い物は入らない。
対してアイテムボックスは、容量換算で収納しているので、どんな長い物でも内部容量を超えない限りは収納できる。
アイテムボックスとマジックバック。細かな違いは存在すれど、性能自体は特別にどちらが優れていると言う事は無い。
しかし先天的、もしくは相当な努力の末に手に入るか分からないスキルという力と、ある程度苦労はするだろうが、金を積めば手に入る力。
どちらが人々に求められるかは火を見るよりも明らかだ。
それらを自ら語ったテオは、それでも個人が持つ力としてはアイテムボックスの方が遥かに優れていると断言する。
「そもそもアイテムボックスのスキルの本質ってどんなものだと思う?」
「本質っすか?」
「そう。本質。そのスキルの最も重要な部分はドコかって話だ」
「そりゃ、物を保管する事でしょう?」
予想通りの答えを返してくるエミリにテオは思わず笑う。
「違う。アイテムボックスの本質は、物を出し入れする事だ。そしてその本質こそが、俺がアイテムボックスが最強だと思う根拠だよ。
目に見えない場所に物を保管する事は、副次的な事にすぎないと俺は考えている」
「物を出し入れ? それがアイテムボックスの本質なんすか?」
「それがどうして最強だって根拠に?」
首をかしげる二人にテオは手のひらを上にして手を差し出す。手のひらの上の何もない空間が陽炎のように揺らいだ。
「これは……?」
「アイテムボックスの出入り口だ」
「水面にできた波紋みたいでやんすね」
イーリスの感想にテオは頷く。
「その認識は正しい。今は出入り口が分かりやすいように、水面を激しく叩いているようなものだと思ってくれればいい。普段はこんな風に揺らがせたりはしないんだが」
キレイ過ぎて空気との境がよく分からない水面に、わざと波立たせているのと同じだ。
「二人はアイテムボックスやマジックバックに物が入っていく過程を見たことはあるか?」
「一瞬で出入りするっすから、入っていく過程は見た事無いっすね」
「マジックバックは私達も持っているけど、まじまじと見たことは無いわね」
言う二人の腰にもマジックバックがある。ただし一見してそうと分かる物ではなく、革のウエストバックに組み込んだ形のマジックバックだ。
マジックバックは大きく重い物を運ぶ仕事には欠かせない魔法道具であり、夜営道具や食料を身につけて運ばなければならない冒険者にとっては必需品だ。
個人の行商人でも数個は保持し、大きな商会ならば数百個単位でマジックバックを運用している。
箱の形のまま使うのは大きな商会などが大量に使う場合くらいで、冒険者に人気なのはウエストバックや背嚢形に外装を整えた商品だ。
大量に使用されるだけあって魔法道具の中でもマジックバックの値段は安い。
最もグレードの低い容量が小さな品でも百万エメラで買える。中古品ならばもっと安く買えることもある。
Eランクに昇格した冒険者はDランクを目指すのと同時に、マジックバックを買う為に貯金を行なうのが常だという。
アイテムボックス持ちが不遇となったのは、安く大量に出回っているマジックバックの影響が最も大きい。
「アイテムボックス持ちも知り合いにはいないし、間近で見たことは無いわね」
「そうっすね。アイテムボックス持ちだって知ってるのはテオさんが初めてっすね」
二人は答えながらも、興味深けに波紋も作る空間を見つめている。
テオは食事用のナイフを波紋の中心に差し入れ手を離す。食事用ナイフは先端を波紋にめり込ませて空中でピタリと留まる。
「うわ……」
その奇妙な光景にイーリスは声を上げる。
「今はアイテムボックスに物を入れるって事を、ものすごくゆっくりやっている。徐々に中にナイフが消えて行くのがわかるだろう? じゃあイーリス。このナイフを引っこ抜いてみてくれないか?」
テオの言葉に従ってナイフに手を伸ばす彼女だが、ナイフの柄を掴んだまま動きが止まる。
「ん? な、なんすか? ものすごく固い……って言うか、びくともしないし。なんか、中に入るのが止まりもしないんすけど? テオさん? 意地悪はしないで欲しいんでやんすが……」
「いや、別に意地悪している訳じゃない。これが最低限の引き込む力の強さなんだ。で、この力がどれくらい強いかって言うと――」
テオはイーリスにナイフを引き抜く事を止めさせて、自分でナイフを手にとって手元に置く。代わりにドコからともなく折れた矢の先端を取り出した。
二人によく見えるように、矢尻をアイテムボックスの出入り口に差し込む。矢尻の先端のみだ。
「入り口の引き込む速度は最低にして、内部の引き込む速度を早めてやると、この矢尻の先端だけに引っ張る力を加える事ができる。
すると――」
ビィンッ!! とテオが握る箆(矢の棒の部分)が一度、震えた。
「こうなる」
「うわぁ……」
「マジっすか……」
手にしている矢をアイテムボックスの入り口から離して、その先端――矢尻部分を見せると二人は慄く。
鉄でできているはずの矢尻が、引きちぎられ、先端がなくなっていた。
テオは引きちぎった方の矢尻の先端をアイテムボックスから取り出し、矢の本体と一緒に二人に渡す。
「うわぁ。本当に引きちぎってる……」
「マジでやんすか……。これ鉄でしょ? しかも、こんな小さな矢尻に……」
「アイテムボックスの引き込む力っていうのはそれほど強いんだ。今、鉄の矢尻を引きちぎった力も本当に最低の出力だ。そして、この力はアイテムボックスに入る全ての物に与える事ができる。
つまり、アイテムボックスに入る物で壊せない物は無いって話だ」
「いや、けど、それは物だけの話でしょ? アイテムボックスは生き物は入れられないし――」
「エミリ。テオさんはアイテムボックスに生き物を入れる事ができるでやんすよ――」
「………」
エミリはイーリスに訂正されて、沈黙する。
「あ、けど、こんなことができるのはテオ、一人だけなんでしょう? それじゃアイテムボックスが最強スキルとは言えないんじゃない?」
「いや、今の技、『収納破壊』って俺は呼んでるけど、アイテムボックス持ちなら誰でもできると思うぞ?
何せ、収納した時に物を壊すっていうのは、小さな頃、スキルに不慣れな頃にはよくやる失敗だからな。ある意味、わざと収納を失敗するっだけの技だし」
揺らぐアイテムボックスを出入り口を消して、テオは食事を再開する。
「アイテムボックスに生き物を入れられないって言うのも、それが要因の一つだと思うけどね。
アイテムボックスの引き込む力の強さを無意識の内に恐れているんだと思う。
生き物を収納する時に失敗したら、その生き物は殺してしまうんだ。しかも結構グチャグチャに。
それにアイテムボックスには生き物は入れられないって言う、間違った常識を子供の内に教えられる。
それで誰もが、生き物をアイテムボックスに入れようなんてしなくなるし、実際に入らなくなっていく。スキルの方向性がそう定まってしまうんだろうな」
テオの考察に、エミリは首をかしげた。
「そうかしら……それだけで生き物を入れられなくなるなんて、納得いかないんだけど……」
テオは肩をすくめた。
「まあ、今のは俺が勝手にそう思ってるってだけの話だ。あってるかどうかは知らないよ」
アイテムボックスというスキルは普通、普段使いに足りる程度に成長できれば、それ以上は成長させようとする者はいない。他の者はその頃には別のスキルを鍛えている。テオはそう考えている。
テオがアイテムボックスに生き物を入れる事が可能だと気がつけたのは、自分はアイテムボックスというスキル以外に成長させる事のできるスキルを持ち合わせては居なかったからだ。
彼女に言わないのは、その事を口にしたく無いためだ。
「ま、ともかく。俺はこれからも冒険者を続けて行くつもりだよ。これ以外にもいくつか技はあるし、冒険者としてやっていくのに問題は無いと思ってるからな」
「そう……。ならいいのだけど……」
「テオさんは大丈夫だと思うっすけどね」
心配気なエミリにイーリスは気楽なようすで言う。
「その根拠は何よ? 優れたスキルを持った人でも、簡単にあの世に行くのがこの商売なのよ?」
「なんとなくっすね」
さらりと答えるイーリスに、エミリは絶句する。
「……まあ、貴女がそう言うのならそうなのでしょうけど……」
「おいおい。なんでそれだけで納得するんだ?」
あっさり頷くエミリにテオは思わず突っ込む。
「この子のなんとなくは結構当たるからよ」
「や。そんな事言われても、賭け事ではなんとなくで結構負けてるんでやんすが……」
「貴女はLUKが低いんだから、賭け事なんて負けるに決っているでしょ」
「低いと言っても平均値なんでやんすが」
「賭け事なんてする輩のLUKは総じて高いって決まってるんだから、カモにされているでしょうに」
「賭けているとは言っても小金っすから。それに偶には勝つっすよ?」
「はいはい、勝たせてもらっている事にいい加減気が付きなさいよ」
「私の勝利は私の実力っすよ!」
力強く主張するが、エミリには柳に風だ。
彼女はイーリスを指差し、テオに言う。
「この子はこんなんだけど、他の人に対しての評価は結構当たるのよ。出世するって言った人がすぐに成功したり、危なかっしいなーって言ってた人が本当に失敗したりとか」
「私は預言者じゃ無いっすよ? その人を見て思った事しか言ってないっすから」
「へぇ。じゃあイーリスから見て俺はどんな風になると思う?」
「え? テオさんっすか? いやだから私は預言者じゃないって……」
「いいじゃない。ただの雑談よ」
「そうそう、ただの雑談だ。深く考える事ないさ」
「そうっすか……? なら」
イーリスはテオを見た。
黙っていれば美少女である彼女にまっすぐに見詰められ、テオは居心地の悪い思いを懐く。しかしその時間は長くは無かった。
「そうっすね。テオさんは大陸を揺るがすような人物になると思うっすよ?」
彼女の言葉にテオとエミリの二人はキョトンとする。そして二人は声を上げて笑った。
「ハッハッハ。そりゃいい。そこまで褒めてくれるとは思わなかった」
「ふふふ。イーリス。いくらなんでも持ち上げすぎよ」
「や。私は思った事を言っただけでやんすが……。そもそも私の人物評なんて当てにならないと思うでやんすよ?」
「いやいや、当てにさせてもらうよ。それなら気分良くこれから過ごせそうだ」
彼女の冗句にテオは笑いながら答えた。