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20話 片鱗を見る



 これから先に予想できる厳しい状況から、目をそらすかのように少女たちは騒ぐ。

 そんな様子の馬車に並走する冒険者が数人いる。そのうちの一人が近接系冒険者の代表となったブルグだ。


 彼はアイテムボックスに避難する事なく、ゲディックの街まで走破する事を選んだ。

 一部とは言え冒険者たち代表者の一人となった責任として、多くの冒険者の命を預かる事になったテオの護衛として名乗り出たのだ。


 馬車を囲むように走っているのはテオの護衛を名乗り出た中で、護衛としての能力と性格を考慮してブルグが選んだ者たちだ。

 他にも、テオの護衛として名乗り出た者は居る。正確には、テオのアイテムボックスの中に避難した仲間を守る為に名乗り出たのだろう。

 しかし人を極力乗せない方が馬車の速度が早くなる。そのため護衛を担う者は馬車に乗ることなく、馬車に並走しながら護衛を行うことになった。


 ゲディックの街まで走破できるだけのスキルレベルのある冒険者ならば多く居た。だがその上で護衛を務められる実力者となると、ここまで数が減った。


 テオの護衛として依頼を受けていたレイナも馬車の護衛として立候補した。しかし彼女は投げ槍がうまくなく、命中率が低く、街まで走り続けるほどの体力には自信がないとの事で、他の冒険者同様にアイテムボックスの中へと避難する事になった。


 ブルグは馬車の荷台からジッと後方のダンジョンを囲む石壁を見つめているテオを横目で見やる。


 ブルグのテオへ対する最初の印象は、本当にこの少年が石壁を築いたのかという疑いだった。

 マリカのように実力はあり、経験を積んでいても見た目が若い者も居る。彼女の場合は見た目は幼いと言ってもいい。

 種族ごとに見た目の年齢がわかりにくい者も多い為に、見た目では実力を読み取れない事も多い。

 しかしそういった者でも、どことなく雰囲気で実力というのはわかるものだ。


 けれどテオは新人冒険者のようにしか見えない。凄み、といったモノを感じられないのだ。


 今でもそれは変わっては居ない。ジッと後方を見据えている彼は冒険者という荒事に関わる者には到底見えない。物静かな文学少年のようだ。


 だが、そんな印象をもたらす外見とは違うことを、今は理解している。


 物静かな文学少年があんな事を押し通せるはずがない。


 ブルグはほんの少しだけ前の揉め事を思い出していた。




  ◇  ◇  ◇




 ギルド支部の建物の前では、多くの冒険者たちが集まっていた。

 それが本当に砦喰い(フォートイーター)の幼虫の足なのか、確認に向かったケニーを出待ちしていたのだ。


 砦喰い(フォートイーター)の事はすでに噂として、前線基地全体に広まってしまっていた。

 冒険者たちは自分たちが生き残る為に、噂には耳ざとい。ここまで砦喰い(フォートイーター)の件が広まっている以上、もしも籠城戦を選んだとしても、実行する事は不可能だっただろう。


 ギルド支部の建物から出てきたペトラ支部長、ブルグ、マリカ、そしてテオは、その場で前線基地の放棄と撤退を説明することになった。


 鑑定の結果、砦喰い(フォートイーター)の幼虫で間違い無いこと。

 砦喰い(フォートイーター)の成虫が群れで現れる可能性が高いと言わざるを得ないこと。

 今のままの封じ込め戦を取りやめて、前線基地の防衛に戦力を集中させたところで、砦喰い(フォートイーター)の成虫が現れたら、防衛しきるのは困難であること。


 そのために前線基地を放棄し、撤退への決定をしたこと。

 そして前線基地すべての者を撤退させる方法として、自力で大暴走(スタンピード)を起こしているモンスターから逃げ切れない者は、テオのアイテムボックスの中に退避してゲディックの街まで運んでもらうことを説明する。


 集まっている冒険者の間でざわめきが広がる。

 退避までは予想ができて居たのだろう、深刻な様子でいたが動揺は小さかった。だがアイテムボックスに退避すると聞いて、戸惑う者が多くいた。


 テオが壁作る為の石壁を運んできたのは知っていることだろう。彼のアイテムボックスはそれだけの量の石材を収納できる容量がある。

 そして同時に、彼のアイテムボックスは生きた人も、生きたままで収納できる。


 その説明に、おおよそのざわめきは収まるが、一部の者のざわめきは収まらない。


「納得いかねぇ!」

 群衆の中から声を上げたのは、見るからに近接系の冒険者の一人だった。


「俺たちの力じゃ生き残れないとお前らは見てるって事だろ? なめやがって!

 俺たちの力より、そんなモヤシみたいなガキに頼るだと? そんなガキに命を預けられるわけねーだろっ!

 しかもアイテムボックスの中だぁ?! そんな物扱いが納得できるはずがないだろっ!


 おい行くぞ!」


 仲間とともに踵を返す。


 ブルグを始め、そのような反発がある事は予想できて居た為に、呼び止めるようなことはしない。


 しかし、テオが彼らを呼び止めた。

「おい待てよ!」

「あん?」


「お前たちはどこに行くつもりだ? 門とも宿泊場所とも方向が違うぞ?」

「……チッ」


 指摘したテオを彼は舌打ちと共に睨む。

 彼らが向かおうとしていた方向は馬小屋に隣接している駐車場だ。そして彼の言葉に従った数人の仲間の中には、明らかに近接系ではない冒険者の姿がある。


「お前らが自分の力だけでゲディックの街へと向かうって言うなら止めはしない。

 だがな、お前らが撤退の要である馬をどうこうしようって言うなら容赦はしないぞ?」


「……人聞きの悪い言いがかりはやめてもらおうか?」


 忌々しげに睨んでくる彼にテオは静かに睨み返しながら指摘する。


「なら、お前は仲間をどうやって逃げ切らせるつもりなんだ?

 大暴走(スタンピード)を起こした砦喰い(フォートイーター)からゲディックの街まで、馬車も無しにどうやって逃げ切らせる?」

「ゴチャゴチャとやかましい事言いやがって。テメーに関係ねーだろーが」

「おおありだ。馬車を奪われたら前線基地にいる大多数の者は生き残れない。

 馬車を奪おうって言うのなら……。許さない」


「はっ! 俺はそんな事をするつもりなんて無いさ。だがな、仮にそうだとしたら、許さないって言うテメーはどうするつもりだ?」


 抜きはしないが、腰の剣の柄に手を掛けて問う。テオの指摘が図星であることを言外に証明してしまっている。

 高まる緊張状態にテオが次に何かをしたならば、すぐさま斬り掛かってくるだろう。


 テオは一言だけ答えた。


「こうする」

「?」


 疑問符を浮かべる彼は、次の瞬間姿が消えた。


「なっ!? どこへ!?」


 彼の仲間は動揺し、周囲を見回す。


「あいつなら、俺のアイテムボックスの中に招待したよ」

「なんだと!?」


 驚愕する彼の仲間にテオは冷静に告げる。


「生き残るのに邪魔をするような言動をするヤツは、ゲディックの街まで自力で踏破できる実力があろうとなかろうと、強制的に俺のアイテムボックスの中で大人しくしていてもらう。


 お前らはどうする? 見た所、踏破できるスキル持ちには見えないが?」


 仲間であろう彼らは魔法使いや、軽装の者が多い。体力が向上するようなスキル持ちは重装備になるので、装備を見ればスキル構成のおおよそ推測はできる。


「ふっざけんなっ! グルフさんを返せ!」

「そしだっ! リーダーを返しやがれ!」


「そうか、残念だ」

 全く残念そうではない口調でテオはつぶやく。

 次の瞬間。抗議の罵声を上げた本人だけではなく、その周囲の不満気に睨んでくる数人の仲間たちもアイテムボックスに収納された。


 一瞬で消失した彼らに集まっている冒険者たちは驚きと畏怖の視線をテオに向ける。


 テオはそんな視線に対して、取るに足らないモノであるかのような視線を彼らにめぐらした。


「議論の余地も、説得するような時間も、俺たちには無いんだ。

 撤退を邪魔するような言動を取るヤツは、俺たち全員の命を脅かす害悪だ。

 そんな奴らは優先的にアイテムボックスの中に避難してもらう。


 彼らの避難は完了した。


 それで? この撤退戦に反対意見を持った、優先的にアイテムボックスの中に避難したいって希望者は、居るのか?」


 静かな言葉だ。しかし張り詰めた空気の中では、聞き逃す事はできない言葉だった。


 優先的な避難とは言い繕ってはいるが、反対意見を持った者の強制的な排除宣言だ。


 内心ではその事に反発を覚える者は居ただろう。しかしそれを表明する者は居なかった。

 もし居たならば、テオは真っ先にその者をアイテムボックスの中に『避難』させる事が目に見えていた。

 必ず実行するという、強い意思の込められた言葉だった。


 希望者が居ない事を確認すると、テオはブルグに話の主導権を返す


「ブルグさん。アイテムボックスに避難する人と、自力でゲディックの街へと逃げる人の分別をおねがいできるか?」


「あ、ああ。そうしよう……」

 戸惑いつつもブルグは頷く。


 テオが選別を行うよりもその方がいいだろう。


 ブルグはその後、自力で逃げる能力がある者とそうでない者を分ける。

 自力で逃げる能力がある者は近接系冒険者の中でも高いスキルレベルの持ち主だ。


 そして自力で逃げられない者とはほとんどが魔法使い系の冒険者だ。


 文句を言っていた者も居たが、テオはそれを無視して次々とアイテムボックスに収納していった。


 冒険者たちを歩かせて、地面に立てるように開いた(ゲート)に順次通らせる。


 それはアイテムボックスに入る彼らへの配慮だ。


 上空からかぶせるように開いた巨大な(ゲート)を使えば、冒険者の集団をまとめてアイテムボックスに収納できる。

 だがそれでは全員を残らず収納できるわけではないし、残った者が恐慌状態に陥る可能性があった。複数人の者が唐突に消失する光景は流石にインパクトが強すぎるだろう。


 自分の足でアイテムボックスの中に入らせる方法は、まとめて収納する方法に比べれば遅々たる進行状況だが、恐慌状態になって取りこぼしがあっては困る。


 順次アイテムボックスに入らせる者をブルグは誘導していく。


 しかし、アイテムボックスに入れられる事に反感を覚える者は多かった。

 実際に行動を起こす者は少ないが、その不満を口に出す者は多かった。


 時間があるならば説得を選んだのだろう。だが今は時間がない。

 テオはわずかでも拒否の姿勢を見せた者や不満を口にした者を、有無を言わさずアイテムボックスに収納していった。


 中には名の知られた冒険者も居た。

 けれど僅かな抵抗もできずにアイテムボックスの中に収納されることになった。


 わずかでも不満を顕にする者はテオによって睨まれ、その次の瞬間には姿が消えていく。

 反感の芽は出た瞬間に摘み取られていった。


 そんな事が数度目の当たりにされては、反感を見せる気概は失われていく。


 反感を見せた者を優先して収納していった結果、残った冒険者たちは列を作って自らアイテムボックスの中へと入っていく。

 荒くれ者の代表格とも言われる冒険者たちがまるで従順な子羊の群れになったかのようだ。


 そうなってしまえば後は問題など起こりようもない。一番の懸念事項だった自力で脱出できない近接系冒険者は前線基地から居なくなる。


 自力脱出ができる近接系冒険者は、後は放って置けばいい。


 半端に力のある近接系冒険者に比べれば、魔法使い系などの冒険者は簡単に済むだろう。

 魔法使い系の冒険者のほとんどは、今はダンジョンの入り口を囲む石壁の上で封じ込め戦に従事している。


 しかしすぐに全ての者をアイテムボックスの中に収納するわけではない。

 一部の魔法使いは、テオを乗せた馬車が前線基地を脱出するギリギリまで封じ込めに従事する。

 彼らの脱出は、馬車が出発する時に、テオが石壁の上に居る彼らをアイテムボックスに収納する事になっている。


 その最後まで残る魔法使い以外は、徐々に石壁から戻ってきている。

 騒ぐ事なく従順に、アイテムボックスへ入っていく近接系の冒険者たちの姿は異様さを感じるには十分な出来事だ。

 その異常を原因がテオであることは容易に察っせられた。


 その後の魔法使い系の冒険者たちに行われたアイテムボックスへの収納は、テオが問答無用に収納する回数は少なかった。

 これは反発を顕にする者が少なかったためだ。彼ら、明らかにゲディックの街まで自力でたどり着けない者は、仲間のできることと自分のできないことを後方から見る機会が多い分、自力の力をわきまえている事が多い。


 しかし少ない数とは言え反発した者は、問答無用で消失した。そんな光景を目の当たりにされては誰もが逆らおうとはしなくなった。


 そして前線基地に大勢いた人間のほとんどが姿を消したのだ。


 そんなつい数十分ほど前の出来事を思い出しながら、ブルグは馬車に乗っているテオの横顔を見た。


 見た目は少年しか見えない。後数年もすれば青年と呼べる歳になるだろうが、ブルグは到底彼を子供扱いする気にはなれなかった。


 ――おっかない男だ。そうブルグは思う。


 数十人の腕の覚えのある、不満を抱いている冒険者たちを前にして、自分の意見を押し通した。

 いや意見を押し通す、という生易しい行為ではない。彼らの意思や不満を轢き潰すかの行為だ。

 特異なアイテムボックスの力を持っていたとしても、普通はそんな事はしようとも思わないし、できるものではない。


 しかしテオはあの時、荒くれ者である冒険者たちを完全に抑えつけ、そして支配していた。


 遥か昔に存在していたとされている魔王と呼ばれていた存在は、あの時のテオのような存在だったのだろうかと、ブルグは思った。


 と、不意に後方へ視線を向けていたテオの顔に緊張が走った。彼は警告を発した。


「ダンジョンからモンスターが溢れ出し始めたぞ!」


 全員が振り返る。ダンジョンの入り口を囲む石壁の内側から大量のモンスターが溢れ出していた。大量のモンスターで黒煙が吹き上がっているかのようにも見える。しかし、懸念していた砦喰い(フォートイーター)の白い姿は見られない。

 大量のモンスターはこちらの存在には気がついては居ないようだ。


 しかし、安心などしてはいられない。四方八方へと散っていくモンスターの中で、こちらへ向かって来るモンスターの割合はごく僅かとは言え、数は多かった。



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