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09話 酔人の望み



 前線基地を囲む土壁は全て石壁に置き換えられた。

 そればかりではなく、今まで土壁で囲んでいた範囲よりも、二回り程広い敷地を囲むように石壁は建てられた。

 今までの土壁の大きさはマリカが維持できるの精神力の容量ギリギリの大きさだった為に、かなり窮屈な広さしか囲めていなかった。

 これで余裕をもった敷地を前線基地の壁の中で確保できたことになる。


 その精神力ギリギリまで前線基地を守護し続けていた功労者たるマリカは、今現在、前線基地にやって来てからロクに得られる事の無かった深い安眠の中にいる。


 石壁を作り出したこれからの功労者であるテオは、前線基地を囲む壁を作り終わった後に、ダンジョンの入り口を囲む石壁の上に上る階段も数を増やすことになった。


 もしもスタンピードが起き、ダンジョンからモンスターが湧き出し始めたら、多くの者が壁の上に登りそこから遠距離攻撃を放つ事でモンスターを処理する。

 その際に壁の上へと移動する者たちのボトルネックとなるのが、数の少ない階段だ。


 前線基地の壁には、ダンジョンへ向かう為に小さな門がある。始めに取り付けた階段は、最短距離に登り口がくるように取り付けていた。

 すぐにダンジョンを囲む壁を登れるように動線を考慮して、階段を設置したのだが、多くの者が一斉に移動するとなると、確実にボトルネックになるだろう。


 そのために追加の階段を作るように頼まれる事になった。追加の階段は最初の階段の左右に一つずつだ。

 緊急時にすばやく壁の上に配備できるように、階段の下り口はダンジョンを囲む壁の角の部分に接するように考慮して作ることになった。


 この工夫はペトラの要求だ。

 そんな凝ったことを要求するなら、石工を呼んでそっちに頼んで来れと文句を言いテオははじめ断った。テオからすれば石壁作りは荷物置きのついでにすぎないのだ。階段を取り付けたのだって、ただのサービスだ。


 階段が一つだけでも最低限の機能は果たすのだ。要求されてまで、追加の階段を作る気などおきない。それは荷物置きの範疇を超えるからだ。

 しかし、いつ起きるか分からないスタンピードに準備するには石工を待つ時間など無いと、必死なペトラ支部長の主張に押し切られた。

 石工を街から呼んだ作らせるとなれば、階段が出来上がるのが何時になる分かったものではない。それよりも今、テオがその階段を作った方が確実に安全になるだろう、とのことだった。


 前線基地のギルド支部は、酒場のようになっていた。


 そこで酒を飲んでいるのはダンジョン攻略をしていた複数の冒険者パーティーだ。ギルド支部の小さな建物では全員が入れない為に建物の中で酒を飲む者の数は少ない。入りきれなかった者たちは外で酒盛りをしている。

 建物の中で酒が飲めるのはその日のダンジョン攻略での貢献が大きい順だ。

 本来ならば、ダンジョン攻略を行っていないテオ達が建物の中で席に着いて酒を飲む権利など無い。


 だが今回ばかりは例外だ。

 これからの前線基地の機能強化に必須である大量の資材を持ってたのに加え、石壁を作り上げたテオとその仲間たちは、本日の最大功労者だ。ダンジョン攻略をしていないなどと小さな事を言う者はいない。


「驚いたぜ。ダンジョンが帰って来たら、壁が土壁から真っ白い石壁に変わっていたんだからな」


 ダンジョン攻略パーティーの一つ『青の刃』のリーダー、ブルグがそう声を掛けてきた。

 彼等を始め、今日ダンジョンに潜っていたパーティーは、ダンジョンから出た際に様変わりした光景に唖然としたそうだ。


「しかも壁の上に居たヤツに縄ばしごをかけてもらうまで、しばらく閉じ込められたもんだ」

「あー、そいつは悪いことをしたな」


 テオの申し訳なさそうな返事に、ブルグは豪快に笑い飛ばす。


「いいさいいさ。あの頑丈そうな壁なら、ダンジョンからモンスターが出てきた所で安心だからな。

 いままではマリカの土魔法だよりの、何時崩壊するかわからない壁だ。

 マリカのやつもかなり限界が近いって見て取れたもんで、攻略組も不安に思ってたヤツが多かったんだ。

 休める場所が安全だって分かってれば、安心してダンジョン攻略に精を出せるってもんだ。


 お前さんもこれから稼げるぜ? どでかいアイテムボックスを持ってるっていうなら、ここから街までの輸送依頼や、マジックバックじゃ間に合わないような大量の、ダンジョンの奥から素材の運搬やらで需要が出てくるだろうしな」


 言うだけ言って、酒の入っている彼は笑いながら、仲間の待つテーブルへと戻っていった。


 今の俺が稼ぐ必要があるのだろうかと、テオは首をかしげる。

 しかし入ってきた大金は、同時に手に入れたドラゴン素材を使った装備への購入に大半が流れていったばかりだ。これから装備を新調する可能性は大幅に減るが、大金が減った分、手元が心もとなくなるかもしれない。それにギルドへの貢献の事もある。しばらくは仕事を続ける必要があるのだろう。


 そう簡単に、楽にはならない。


「テオさん。確認したいことがあるんですけど?」


 と、同じテーブルについているレイヤが話しかけてきた。ちなみに同じテーブルにはイーリスとエミリもいるのだが、彼女達は早々に酒に潰れて、テーブルにうつ伏せになって幸せそうな笑顔で夢の中へ旅立っている。

 ハイペースで飲んでいたワケではないのだが二人は酒好きの割りに酒に弱い体質のようだ。

 逆にテオは酒があまり好きではなく酒にも強い体質の為に、大して飲む事も無くほぼ素面に近い。

 レイヤも酒は苦手だと言うことで、あまり飲んで居ない為に、酔ってはいない。


「ん? なんだ?」

「私の依頼はテオさんの行きの案内と同時に、行き帰りの際の護衛です。

 それで、ゲディックの街へは何時帰るのですか?」

「いや、まだ全部の建築資材を置いていないから、しばらくかかるぞ?」

「え? あれ? まだ量があるんですか?」

「ああ、今日は壁を作ってたから、その他の分がほとんど残ってるからな」


 レイヤは眉根を寄せて、子供のような不満げな表情になる。


「……どれくらい残っているので?」

「石材はあと半分くらいで、木材を含んだその他は丸々残っている。どこに置くかっていうのは問題だからな。

 それぞれの資材を使いやすいように、小分けにして置いておかないといけないから、ペトラ支部長の指示待ちなんだよ」


「……壁を作ったのに、石材はまだそんなに残っているんですか? なら、もっと広く囲むように壁を作ってしまった方がいいんじゃ?」

「石材の使い道は壁だけじゃないだろ。建物にも使わないといけないし、その分の割り振りは街のギルドの方で大雑把には決めたらしいけど、細かい所は現場のペトラ支部長の担当だ。

 それが決まるまでは、しばらくはここで待機していて欲しいって事だ。大体二、三日はかかるって話だ」

「そうですか。それじゃあ私はしばらくはヒマになっちゃうんですけど……。仕事がないと私の生活が……」


 レイヤの苦悩のつぶやきに、テオは困った。テオ自身は金銭的な余裕があるが、同行者がそうだとか限らない。知り合ったばかりと言え、彼女が困窮するのを見捨てるのも心苦しい。


「それじゃあ、俺が帰れるようになるまでは、ここの支部で仕事を受ければいいんじゃないか?」

「……テオさん。ここをドコだと思っているんですか。ここはダンジョン攻略の前線基地ですよ?

 この近くはダンジョンが見つかるまでは入植する価値が無い場所と見なされていたんです。この近くに湧くモンスターも生えてる植物もロクに価値がないモノばかりで、近くに人里も無いからロクな仕事なんて無いんですよ」


「あ、そうか。けど、ダンジョンの攻略っていう仕事はあるんじゃないか?」

「無理です。ダンジョンの攻略はパーティー単位でしか受け付けていません」

「そうか……。あれ? けど、レイヤはここに居たんだろ? ダンジョンの攻略に従事していたんじゃないのか?」

「基本ソロの私はダンジョンの攻略はしてません。私はここでは警備の仕事しかしてませんから。というか、ここではそれ以外に仕事なんてありませんよ」

「あ、なら、それをすればいいじゃないか」


 テオは自分が思い煩う事が無いと知ってホッとしながら提案し、レイヤの恨めしい視線にさらされた。


「……その警備の仕事がイヤだから、私はこの場所からゲディックの街に戻ったんですけど? まあ、案内人としてすぐにここに戻る事になったんですけど……」

「え? なんで?」


 彼女はため息を付いた。


「ここの警備っていうのは、街中での対人への警備ってワケじゃないんです。

 ここに居る人たちは全員がギルドからの信頼がある人達だけです。だから問題が起きるとはないし、起きたとしてもすぐに他の冒険者が取り押さえます。


 ここの警備の仕事は、市壁の上に立ってモンスターが近づいて来ないか外を監視するか、ダンジョンの中からモンスターが出てこないかを監視することだけです。

 外のモンスターはこの場所には近づいて来ないし、壁の上に居る人間にも興味もいだかない。

 ダンジョンの入り口を監視しても、今までで数回しか、しかも単独でゴブリンが迷い出る程度です。そのゴブリンも遠距離攻撃持ちが壁の上から処理しましたし……。


 私のような剣士にとって、力を振るう機会が全く無い仕事なんですよ。


 ここでの警備の仕事は受けていると剣の腕が鈍るばかりです……。流石に警備の仕事中に剣の鍛錬もできないですし……。


 ――テオさん。なんとかなりません?」


 足止めをされているテオとどうにかする権限を持っているのはペトラ支部長だし、この場所で剣士として働ける仕事を斡旋するのもギルド――ひいてはペトラ支部長の仕事だ。


「それは俺に言われても困るんだが……?」

「いや、テオさんはドラゴンキラーだし、お金持ちじゃないですか。私を雇って何か剣士として働けるお仕事をくれないかなって思って」


 お金をたかるよりはマシだが、仕事をたかるのはどうなのかとテオは思う。


「と言うかそもそも、俺の護衛の仕事っていうのは、行き帰りの道中だけじゃなくて、ここでの拘束期間も含むんじゃないのか?」

「……あ」


 レイヤは慌てて契約書を取り出し熟読する。

 そして、彼女はゆっくりと赤くしている顔を上げる。


「あの……。行き帰りだけってことじゃなくて、行って帰ってくるまでなってた……。

 だから、ここに居る間も私はテオさんを護衛する事になってた……」

「あー……、本来なら荷物を置いていくだけだから、ここの滞在時間は短くなってるはずなんだが……。石壁を作ってたからな。

 拘束期間を伸ばす要因になった俺が言うのものなんだが、ギルドからの要請に近いモノだから、ちゃんとその期間の仕事料も出ると思うぞ?」

「そうですね。ちゃんと出ますよね」


 うんうんとごまかすように頷くと、己の剣を鞘ごと抱きしめる。


「安心して下さいね。私がこの剣でしっかりと守って上げますからっ」

「そう言われても、この場所でレイヤが俺を護衛する必要があるのか? さっき君が言った通り、ここでは問題が起きないんだろ? 壁の外に出るなら護衛を必要とするけど、壁の外に二つ目の壁を作るってなった時くらいだぞ?」

「その時は任せて下さいっ! この剣でモンスターをたたっ斬ってやりますからっ!」


 レイヤの剣の腕はこちらへ来る道中で見ていた。テオはまじまじと観察する余裕は無かったが、彼女が相当に腕の経つ剣士だということはわかる。モンスターと近づいたと思ったら、次の瞬間にはモンスターが彼女の振るう剣に飛び込んでいるような錯覚を覚える剣だった。


 イーリスも小剣ながら剣を振るってモンスターを倒すが、二人の戦い方の印象は全く違う。イーリスは素早い動きで撹乱し、隙きを突いて刃を届かせる。

 対してレイヤは、ゆったりとした動きとも思えるのに気がついたら、一刀のもとにモンスターを倒している。


「わざわざモンスターに近づく気はないけど、その機会があれば頼りにするさ」


 テオはそう答え、ふと思いつく。


「あ、そうだ。せっかくダンジョンの近くまで来たんだから、ダンジョンの中を見てみたいな。あそこの中ならレイヤの剣の活躍の場は沢山あるだろうし」

「そうですよねっ!」

「え?」


 軽い気持ちで言った言葉にレイヤは凄まじい勢いで食いついてくる。


「私がここに居たのはダンジョンの中で剣を振るう為だったんですよ! それなのに、ソロだからダメだとか、初期調査の段階だからダメだとかで、ほとんどダンジョンに潜れなかったんですよっ!? 酷いと思いません?」

「お、おう……」

「ですが、そうですか。テオさんはダンジョンの中に入りたいと。仕方ありませんね。中は危険ですからね。入るには護衛たる私が必要です。では一緒に入りましょうっ!」


「いや待て。無理だって。俺は今大量の建築資材を抱えてる身だぞ? 俺がダンジョンの中で死んだら、その大量の資材でダンジョンの通路が埋まるぞ?」


 死んだら溢れ出すのは資材だけでは済まないのだが、あえて言わない。


「ペトラ支部長がそんな危険を冒すはずないだろう?」

「あ、そうですよね。ペトラ支部長の許可が必要ですね。それじゃペトラ支部長に許可を取ってきます!」


 そう宣言するなりレイヤは席を立ち、支部長室のある奥へと駆け出した。

 テオはぽかんと彼女を見送るしかなかった。


「……ひょっとしてアイツ、酔っ払っていたのか?」


 彼女は大して飲んでいなかったし、見た目には素面そのままだったから油断をしていた。


 だが、テオがダンジョンに潜る事はないだろう。ダンジョンを預かるギルド支部長であるペトラが、そんな前線基地の整備に支障をきたし、ダンジョンを潰しかねないような提案を受けるはずが無い。


 彼女が戻って話相手になるまでは、ツマミを口に放り込む事にテオは決めた。



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