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07話 前線基地への到着



 休憩を終わらせて巨石を始め設置した荷物を回収すると、一行は再び歩き始めた。


 その速度が変わらなかったのはテオの意思だ。スキルに支えられているとはいえ、少女達には負けたく無いと言う男の意地だった。


 結果としてテオは、疲労困憊の様子で彼女達の後をついて行く事になった。

 彼女達の呆れた様子の視線が刺さっていることには気が付いてはいたが、テオは気が付かなったフリをした。


「テオさーん? 大丈夫っすか? なんなら私が担いで運ぶっすよ?」


 善意からの提案であろうが、イーリスの言葉にテオは首を左右に振る。


「いや、いい……。大丈夫だ……、なんとか、歩けるから……」


 なけなしのプライドはもうボロボロだが、彼女に担がれて運ばれてしまっては、それこそプライドが粉砕されてしまう。


 そんな様子で夕方まで歩き続け、今日の野営地とする場所にたどりつく。なにもない平原のど真ん中だ。

 ぱっと見た限りでは野営の跡は見当たらない。


「ここらへんはモンスターの発生状況も特に変化が無いからな。ダンジョンに向かう者たちの野営地は固定されているわけでもない。

 大体、この周辺が野営に使われているだけだ」

 疑問の表情を浮かべる同行者に、案内人であるレイヤは答えた。


 テオは巨石を並べて防壁を作ると、最早そこで限界だった。座り込んだまま動くのことも出来ずに女性陣の作った簡単な料理を食欲の無い腹に詰め込む。


 女性陣はまだまだ体力が残っているようでおしゃべりに忙しい。彼女らを尻目にテオはテントの中に入り、毛布にくるまって横になった。

 次の瞬間、ふと目が覚めたと思ったら、周囲はすでに明るくなっていた。


 まだ寝たりないとは感じるが、体力はそこそこ回復したようだ。


 簡単な朝食の後に出発する。レイヤは目的地まではあと少しだと言う。ならば、そこまでは意地でも保たせねばなるまい。


「あー。本当に大丈夫っすか? 本当にダメだって思ったらちゃんと言ってくれないとだめっすよ?」

「大丈夫だ……。限界ならちゃんと言う」


 優しく諭してくるイーリスにテオは情けなく思う。


「言ってくれれば私が助けて上げるっすからね?」

「………」


 そんな慈愛に満ちた笑みを向けないでくれ。逆に辛い。テオは頷くしか無かった


 それから数時間後、間に一度の休憩を挟んだが目的地の前線基地にたどり着いた。


 遠くから見るとだだっ広い平原の中にポツンと土が盛り上がっているのがそうだった。

 近くまで行くと土塁で囲われた陣地であることが分かった。高い土壁に囲まれ、そのすぐ外側には空堀が掘ってあり、実際の高さよりも高く見える。

 土壁は人の背丈の三倍はある。


 一行が向かう先には門がある。丸太を組んだ頑丈そうな門だ。


「だれだ!?」


 門の脇の土壁の上から誰何の声がかかった。


「私はレイヤだ! 案内人としてゲディックの街の冒険者ギルド支部からの依頼により、客人を一人、連れてきた。残りの二人は客人の護衛だ!」


「テオさんは客人扱いなんすね……」

「一応、彼の情報を広げない為の措置でしょ」


 イーリスとエミリが小声でささやきあう。テオにも聞こえていたが、息を整えるのに忙しく答えることはできなかった。


「客人? 誰への客だ?」

「ペトラ支部長への客人だ!」


「……分かった! 門を開く! 中に入って少し待ってろ!」


 少しして重い門が僅かに開く。


「悪いが、スキマから入ってくれ。この門は重くてな。モンスター対策に長くも開けていられない」

「感謝する」


 一行が中に入ると、数人の男達の手によって門は閉じられ閂が掛けられた。装備からすると彼等も冒険者だろう。


 土壁の中はあまり広いとは思えない場所だった。囲まれた中に建物は、一つ大きめの建物がある以外は掘っ立て小屋の様なものが数戸だけ。それ以外はテントが立ち並んでいる


「うわー」

「へえ、凄いわね」

 草原のど真ん中にまがりなりにも人の拠点が作られている事にイーリスとエミリは感心した様子の声を上げた。

 しかし、彼女達と同様初見であるテオはじっくり周囲を見て回る余裕など無かった。


「着いたんだな……? これでもう歩かなくてもいいんだな……?」

「あ、うん。もう大丈夫よ」


 レイヤの言葉にテオはヨロヨロと道の脇に移動すると、その場に仰向けに寝転がる。


「あ、テオさん。本当に大丈夫っすか?」

「………」


 心配気なイーリスにテオは手のひらを動かすだけで、声を出す気力もない。


 そこまで体力を使い果たすのならば、意地など張らずに居れば良いのにと、エミリとレイヤは呆れた視線を向けた。とエミリはその呆れた視線をイーリスにも向ける。


「イーリス? どうして貴女はそんなに嬉しそうな顔で介抱しているのよ?」

「えー? そんな顔してるっすか? まあ、テオさんがここまで弱ってる姿は珍しいっすから。いつもは私が情けない姿を見せられて居るっすからね。おもしろいなって思って」

「……起きる」


 テオはイーリスの言葉を聞いて、体を起こした。まだまだ体はしんどいままだが、なけなしの男のプライドというものがある。ぶっ倒れたままではいられない。

 イーリスは不満気な声を上げた。


「えー? もうちょっと横になってた方がいいっすよ?」

「いや、いい。ホント、大丈夫だから」

「そうっすか?」


 イーリスは納得していない様子で、実際の所テオはもう少し横になって休んでいた買った。だが彼女の嬉しそうな笑顔を見てしまうと、これ以上弱っている姿を見せる気にはなれない。


 何で嬉しそうなのか、突っ込まない方が幸せになれるだろうと、テオはあえて何も指摘しなかった。


 仲が良いなとレイヤが思っていると、不意に声が掛けられた。


「レイヤ。随分と早く戻ってきたのね。ゲディックの街からの客人を連れてたと聞いたけど……」


 やって来たのは女性だ。冒険者ギルドの制服に身を包んた二十代後半の亜麻色の髪を伸ばした女性だ。


「あ、ペトラ支部長。お久しぶりです」

「ええ、久しぶり。客人というのは彼女達のこと? 所で……彼は大丈夫なの?」


 ペトラ支部長と呼ばれた女性はイーリスとエミリに視線を向けて、二人の陰になっていたテオに気がつく。道の隅にうずくまっている少年は傍目に見てもしんどそうだ。

 そしてその隣では楽しそうに介抱している金髪の少女がいる。ペトラの表情が訝しげなモノに変わるのも無理のない話だ。


 レイヤは僅かに視線を泳がせて答えた。


「ステータス上昇のスキルが有るの私達の移動に、無理に着いて来て体力の限界になってしまっているんです。

 彼は疲れているだけなので、少しすれば復活するのでほっといて大丈夫ですよ」


「ひょっとしてステータス上昇のスキルが無いのに、ゲディックの街から徒歩で来たの? 貴女のペースに合わせて?」

「え、ええ。休憩は多く取りましたが大体は私のいつものペースで」


 レイヤ頷きに、ペトラは呆れた溜息を付いた。

「無茶するわね。スキルでステータスが上昇している人のペースに合わせるなんて。普通、ゲディックの街からここまでは乗り物を利用する距離でしょうに……。


 それで、客人というのは彼でいいのかしら?」

「ええそうです」


 レイヤは答え、うずくまりながらも二人の話を聞いていたテオは立ち上がり、彼女に向き合う。

 ペトラは歓迎の言葉を口にした。


「ようこそ。キルリー・ダンジョン攻略前線基地予定地へ。私はペトラ。冒険者ギルド、キルリー・ダンジョン支部の支部長だ」

「……俺はテオ。Eランク冒険者で、ゲディックの街の冒険者ギルドからの指名の輸送依頼を受けてやって来た。これが、ヴェルナーさんからまず渡せと言われた手紙です」


 目録索(インベントリリンク)の貴重品品目に分類しておいた手紙を取り出し、彼女に手渡す。


「ヴェルナーの? アイテムボックス持ちに託す手紙なんて随分と厳重だけど……。Eランク? なんでEランクの冒険者に……?」


 アイテムボックス持ちを手紙の配達人にするの事は、重要な手紙を運ぶ際には時折使われる手法だ。

 アイテムボックス持ちは死ぬ事が無い限り、アイテムボックスの内部の物を紛失する事が無い。故に重要な手紙や小包が道中に紛失することがないように、アイテムボックス持ちが運び手として用いられる。

 しかしそれは、あくまでもそのアイテムボックス持ちが信用できる者である事が前提の話だ。

 ペトラが混乱しているのは、冒険者の中では信用の無い者であるEランクがその手紙を渡してきたからだ。


 彼女は訝しげな視線をテオに向けるが、それ以上は何も言わずに開封し手紙に目を通す。

 読み進める内に彼女の眉間の皺は深くなっていく。

 そして読み終わると改めてテオに疑いの目で見て、ため息をついた。


「まあ、いいわ。ギルド支部まで案内するわ。そこで改めて話をしましょう」


 踵を返して歩き出す行くについて行くテオたち。


「疑われてるっすね?」

「すぐに信じられるような内容でもないだろうしな」


 ペトラについて行った先は、この前線基地で見えた中では最もまともで大きな建物だ。

 とは言え、その大きさは小屋に毛が生えた程度のものだ。


「ここがギルド支部よ。悪いけど、ここには内緒話をできるような場所はないからね。できる限り内密にしてくれって手紙にはあったけど、防諜は諦めてちょうだい。

 まあ、知ってもバラそうとするヤツはここにはいないけどね。この場所に居るのは口の固いヤツらを集めているから」


 ギルドハウスの中は複数のテーブルとイスがあるだけで狭苦しく感じる程度の狭さしかない。

 小規模な料理屋を連想する室内だ。しかし板張りでもないむき出しの土のままの床が料理屋ではないことを明示している。そして受付用カウンターがある点がここが冒険者ギルドであることを主張していた。

 室内には一人だけ他の人の姿があった。寝ているのだろうか、端のテーブルでうつ伏せになったままぴくりとも動いていない。


「彼女の事はほっといていいわ。信用できる相手だから。

 さて、いろいろと問い詰めたい事はあるのだけど……」

 ペトラはテオを見据えた。


「君がドラゴンキラー言うのは本当の事? ここは陸の孤島とは言え、真紅を身に纏う竜(レッドドラゴン)が討伐されて、ゲディックの街でオークションに出されたという話は伝わってる。

 だけど討伐した者、ドラゴンキラーの話は正確な話は伝わってきていない。名誉を求めるような一般的な冒険者なら大体的に伝わってもいいはずなのに。


 そんな状況でドラゴンキラーとされる者がやって来たとしら、それがたとえギルドマスターの署名が入った手紙を持ってきたとしても疑わざるをえないんだけど?」


 テオはため息をついて、己のギルドカードを手渡した。


「自分がドラゴンキラーであることはあまり広めて欲しくはないから広まってないだけだ。

 それに証明ならギルドカードで十分だろ? ギルマスから聞いたが、竜の言葉が入った二つ名は実質的にドラゴンキラーの証明みたいなものなんだろう?」


「本当にEランクなのね……。まあギルドカードを見せられても、偽造という可能性があるのだけど……」


「ギルドカードの偽造って、やったらヤバイ事になるっすよね?」

「ええ。生死不問の討伐対象になるわ」

 イーリスとエミリはテオの後ろで小声でささやきあう。


「それを確認する為に貴方にはステータスオーブによる鑑定を今ここで受けてもらいます。いいですね?」

「それはいいが……。ステータスオーブがここにあるのか? ここは新規の冒険者なんか来ないだろうに……」


「ありますよ。ギルド支部にはステータスオーブを備えておく事が義務なんですから。

 それにギルドカードは定期的な更新が必要ですから、その時に鑑定を行なうのですよ」


 言いつつ彼女はカウンターに備え付けてあるステータスオーブをテオが座るテーブルの前に置いた。


「あれ? ステータスオーブって固定されてるはずじゃないんすか?」

「普通のギルドハウスならそうだろうけど、この建物は仮のものだから。いつまで使えるか分からない建物に術式を使った固定なんてできないわよ」


 ステータスオーブの固定には意外と高度な魔法が使われていたようだ。


「そんな事より鑑定を行いなさい」


 ペトラの威圧に、テオは言われるがままオーブに手のひらに乗せる。

 対面に座る彼女にテオのステータスが明らかにされる。


「……【竜牢】……。本当に二つ名持ち。しかも本当にアイテムボックスしかスキルが無い……」

「……アイテムボックスしか無いことは指摘しなくともいいことだと思うんですけどね……」


 テオが顔をしかめて抗議する。


「え? あ、ごめんなさい。けど、貴方が手紙に書いてあるドラゴンキラーであることは確かなようね。

 それじゃぁ、運んで来た物のリストを渡してくれる? 何故だが知らないけど、ここで渡すんじゃなくて、まずリストを受け取れとあったからね」

「流石にここじゃ渡せないよ」


 テオ言いながらもう一つの封書を取り出し、不思議そうな表情をしているペトラに渡す。

 彼女は、届けられた荷物が簡単に手渡せる程度の大きさだと思っているのだろう。一般的なアイテムボックスの大きさからすればそれは間違った推測ではない。しかし、テオのアイテムボックスの容量はそれこそ桁が違う。


 開封して取り出した数ページの書類に、目を通していくごとに彼女の眉間に皺が寄った。


「これ……どうゆうこと? え? なに? ひょっとしてギルドマスターの壮大な冗談にからかわれてるの? だとしたらただじゃ済まないんだけど?」


 静かな怒りを湛える彼女に、テオは気にした様子も無く否定する。


「冗談じゃなくて事実だよ。そのリストにある建築資材はちゃんと運んできた」

「そんな事ある訳ないでしょっ! このリストに載ってる量もまともに持って来れたなら、あっという間にこの場所は安全な街が出来上がるわよっ!?

 そんな事が出来るなら、私たちはこんな苦労はしてないわっ!」


 テーブルを手のひらで叩き、怒りをテオにぶつける。

 ぶつけられた方からすれば理不尽な怒りだが、テオは静かに見返すだけだった。


「この場所を、ダンジョンに隣接して危険な場所を安全にするために、ゲディックの街のギルドはなんとかしようとしていた。

 そして俺ならこの量の建築資材を運搬できるから、ギルドは俺に輸送の指名依頼を出したんだ。


 俺の仕事は後は持ってきた資材をここに置いていく事だけだ。けど、貴女はそれでいいのか?」

「……いいのか、ってどういう意味よ?」


 冷静なテオの問い掛けに、ペトラは頭が冷えたようだ。


「ダンジョンっていうのはスタンピードの危険性が常に存在しているんだろう?


 そのリストにあるように、俺が今アイテムボックスの中に収納している建築資材の量は大量だ。だから、そのまま置いていくなら言葉通りの『山』ができる。


 けどな、アイテムボックスの中から出す時に貴女が指示をしてくれるなら、『ダンジョンやこの前線基地を囲む、壁の様に』これらの大量の資材を置いていく事もできるんだ。


 もっともコレは正式に請け負った依頼の範囲以上の事だから、ここの責任者である貴女が必要ないと言うのなら資材を山積みにするだけで俺は帰るつもりなんだね」


「………」


 テオの言葉にペトラはキョトンとした表情になった。


「テオさんって結構ツンデレな所があるっすよね?」

「そうね。ツンデレな感じがするわね」

「ツンデレなんですか?」


 イーリス、エミリ、レイヤがテオの背後でささやきあう。


「そこ、うるさい。誰がツンデレだ」

「えー、だって口では仕事以上の事はしたくはないとか言ってるっすけど、本当にしたくないんなら、そんな事は黙っていればいいだけっすよ? 

 人を助けようとしてるから、口にしたんすよね?」


 苦虫を噛み潰す表情でテオを言い返す。

「……そもそもゲディックの街のギルドは、俺がダンジョンに壁を造るように資材を置いていく事を見越してこの依頼を出してるんだ。この提案は俺の意思じゃない」


 テオの言葉に、ペトラは笑い声を上げた。


「あっはっは。そう、『正式な依頼の範囲以上』で『街のギルドが見越している』依頼か。貴方はなかなか面倒な事に巻き込まれているようね


 では私は、君の厚意として申し出を受けるわ。ありがたい事だわ。

 それじゃぁ、早速資材を置いていく場所を指示するわ。ダンジョンの囲む壁になるようにね」



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