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産廃スキル『アイテムボックス』しか使えない俺が、何故か魔王と呼ばれるその日まで。  作者: 雪月 智也
第一章 〇〇殺し編  新人冒険者の俺が〇〇殺しとなるまで
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03話 宿にて



 テオは取った宿の部屋のベッドに腰を下ろすと、ため息をついた。


 冒険者ギルドに対して自分のアイテムボックスの特異性を証明するのは非常に面倒だった。


 証明方法自体は簡単だ。屈強なギルド員を引き連れて再び門の外の草原に行き、実際にアイテムボックスを使用したスライム討伐を実演しただけだ。


 一度だけでは信じてもらえず、結局は三匹のスライムを倒す事になった。

 そこまでは大した手間では無かった。ギルドに戻ってから彼らに信じてもらう事の方が面倒だった。

 同行したギルド員全員からの証言があったにもかかわらず、なかなか信じてもらえなかった。


 いや信じてはいたのだろう。泥棒の疑い自体はすぐに晴れたようだった。

 しかし聞いたことの無いアイテムボックスを効能に、彼らは喧々諤々の議論をしていたらしい。


 当人であるテオはギルドの狭い部屋の中でかなりの時間、一人で放置された。

 幸い、謝罪と共にお茶が出された。それが無かったらこの疲労はさらに深いものになっていただろう。


 ギルド内部の議論が終わった後、再びアイテムボックスについての話しをする事になった。


 色々な事を聞かれたが、彼らが最も関心があったのは『アイテムボックスの中に生きたまま人間を入れて運ぶ事ができるか』という問だった。


 テオは『わからない』と答えた。


「少なくとも今まで、生きた人間をアイテムボックスの中に入れたことが無い。

 けれど生きたイノシシの場合、十数分以上入れたままにしていた時は出した時には死んでいた」


 テオの答えにギルドはまた議論になったようだ。その後いくつかの質問を答えた後になんとか解放された。

 非常に面倒な時間だったが、これから先ギルドから疑われ続ける事に比べれば、耐えられる面倒だった。


 二回の討伐で手に入れた『スライムの目玉』は、きちんと買い取って貰えた。計十三個分は二万六千エメラになった。小銀貨混じりで小銀貨五枚と大銅貨二枚だ。

 泥棒と疑った慰謝料に五千エメラの小銀貨一枚。

 さらにアイテムボックスのスキルの新たな情報料として五万エメラの銀貨一枚を受け取った。


 この値段が高いのか安いのかテオには分からない。

 ただ『五千エメラは冒険者ギルドがFランクに対して支払う慰謝料として破格な金額だ』とヴェルナーが言っていた。

 Eランク以上に同様の慰謝料を支払う場合、最低、三万エメラは必要らしい。


 それだけギルドはFランクに信用を置いていないという証拠だ。


 ただテオに対する謝罪料には、今日泊まるこの宿の料金も含まれていた。FからEランクを対象にした安宿だがFランクにとってはそこそこ良い宿だ。


 一泊料金は夕食、朝食付きで五千エメラ也。


 一人部屋のきれいな部屋で彼はゴロリとベッドに転がる。


 本日の稼ぎは全部で八万千エメラ。

 硬貨の種類と数とてしは銀貨一枚と少銀貨六枚、それに大銅貨二枚だ。全部を大銅貨に換算すると一六二枚分。


 大銅貨一枚は五百エメラであり、それだけで安い外食が食べられる。


「登録したばかりのFランクの、一日の稼ぎにしては破格だな……」


 その内、慰謝料と情報料の五万五千エメラを抜かすと、純粋な討伐報酬は二万六千エメラだ。


 村から出てゲディックの街にたどり着いた時に持ち合わせて居たのが、一万二千エメラだ。

 全財産の二倍を一日で稼げた事になる。この宿のレベルを常宿にしなければ十分にやっていけるだろう。大部屋の雑魚寝ならばもっと安い宿がある。

 サボったり散財しなければ余裕でやっていける。


「よかった……」


 彼の頬がわずかに緩んだ。

 これなら、これから食べて行けそうだと安心した。


 テオは取り出したステータスカードを見やる。




名前 テオ

種族 人間

性別 男

年齢 14


 ステータス

STR 4

VIT 5

DEX 6

AGI 4

INT 7

LUK 4



 スキル


アイテムボックス




 ステータスの数値の方はいい。人間の成人男性の平均的数値が4~6なのだから平均値に収まっている。

 テオにはあまり関係無いが、魔法に関する数値であるINTが高いのもいいだろう。


 問題はスキルの方だ。

 アイテムボックスしかない。


 人間の成人男性の平均的なスキルの数は、五個~八個だ。

 スキルの数が一つだけというのは、とても少ない。

 スキルの数が0である『無能者』という被差別民にならなかっただけ幸運だ。

 アイテムボックスという有用なスキルの持ち主にもかかわらず、村に残る事をしなかったのは、『無能者』ギリギリの自分に対しての嘲りの視線に我慢ならなかったのも理由の一つだ。


 スキルの数を後天的に増やす事も可能だともされているが、才能の在る者が必死に学んで、一生に二個のスキルを新たに増やす事がギリギリだという。


 また、多くスキルの名称の後ろにはレベル表示がされている。

 例として上げると『火魔法 Lev.1』と言うスキルがある。

 このスキルを所有している事を知らず、使った事の無いスキルは『火魔法 Lev.0』とステータスオーブには表示される。

 一度でも使う事によって『火魔法 Lev.1』にレベルアップするのだ。


 『火魔法 Lev.1』は焚付に使える程の小さな炎を出す事しかできない。しかし何度も使用する事によってレベルが上がり、戦闘でも使用できるほどの威力を得る。


 火魔法のスキルだけでスライムを倒そうとするならば、最低でも『火魔法 Lev.3』は必要だという。

 そんなレベル表示があるスキルはレベルが上がるたびに段階的にその能力を向上させる。


 しかし、スキルの中にはレベル表示が無いスキルが存在する。


 そんなスキルは何度使ったとしてもスキルが成長しない。もしくは、ある一定までしか成長しないとされている。


 アイテムボックスというスキルは、後者の典型例だとされている。

 どんなにアイテムボックスを使い続けても、おおよそ一立方メートル程の容量にしかならないとされているのだ。


 その認識は誤りだと、テオは声を大にして言いたい。


 現にテオは、今までにアイテムボックスの容量を八立方メートル程までに成長させた実績がある。


 アイテムボックスというスキルしか持っていなかったからこそ、テオは自分の持つたった一つのスキルをいじくり回し続けた。

 結果として、テオはアイテムボックスの真の能力を理解したのだ。


 いや、それは言い過ぎかもしれない。アイテムボックスというスキルは使う度に新たな発見がある。到底、真の能力までは理解したとは言い切れない。しかしそれでも、アイテムボックスの真の姿に一番迫っているのは自分だ。

 そう確信している。


 それらを知る中で痛感した事は、『スキルとは使い手の認識次第でいくらでも変わる』ということだ。


 自分も冒険者になった以上は多彩な戦闘用スキルを持った他の冒険者達に、アイテムボックスという補助とされているスキルだけで張り合わないといけない。

 十分に張り合えるだろうという目算はある。

 しかしそれを実現するには、なによりも必要な事は訓練だ。

 いくら認識次第で能力を向上できても、その認識を自らに定着させるのは訓練を積むしかないのだ。


 テオはベッドから起き上がると、宿から出る事を決める。


「外出かい?」

「ああ、この街に来たばっかりだからな。この街のことを見て回りたい。夕食前には帰るよ」

「行ってらっしゃい」


 宿の主人の見送りに、手を振る事で答えて宿を出る。


 この街には始めて来た。アイテムボックスの訓練ができる場所が見つかるといいのだが。




 この街、ゲディックは平原の終わりの崖に、へばり付くように作られた市壁によって囲まれた大きな街だ。

 多くの石積みの家が市壁に囲まれた中に所狭しと立ち並んでいる。

 その為、訓練が行えそうな広い場所で、且つ人目につきにくい場所は中々見つかりそうもない。


 代わりにテオは見つけた武具店に寄った。


 剣や槍、弓矢などの武器に様々の種類の防具類が置かれている。

 流石に良い物は高いが、今の手持ちの資金でも買える武器も無いわけではない。


 今の装備は丈夫な布の服に、剥ぎ取り用の小さなナイフだけだ。


 冒険者となった以上は装備を整えた方がいいだろう。

 しかし正直な話し、武器を買う必要があるのかと疑問に思う。


 接近戦闘用スキルがない自分がモンスター相手に接近戦をしたところで、返り討ちに合うのが関の山だ。

 戦いに置いてアイテムボックスを活用するしか無い自分にとって、下手に武器を持つ事は逆に危険だ。


 考えた末に購入したのは藪漕ぎ用の大きめのナタを一本。それに十本一束になっている安物の矢を二束。

 占めて、五千エメラなり。


 防具の方は鎧が欲しかったが少々お高い。そちらはお金が貯まるまではおあずけだ。


 日も傾いて来たので、その日は宿に戻った。



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