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06話 初心者向け講習 実習



 モンスターとは何か?

 それは湧いて出てくるものだ。


 人類はどこでも湧いて出てくるモンスターとの生存領域を削り合いながら、少しずつ自らの生存領域を広げてきた。


 モンスターの発生原因は瘴気であるとされている。瘴気がある場所ではモンスターがわき続ける。

 瘴気が濃い場所では強力なモンスターが多く湧く。湧き出るモンスターを駆除し続けることによって、その場の瘴気が薄まって行く。


 瘴気の薄まった場所に湧いて出てくるモンスターは弱いモノがほとんどだ。


 結界の魔法を施すことによって、モンスターの湧かない領域を確保することは可能だ。しかし、それができるのは瘴気が薄く、弱いモンスターしか湧かない場所に限られる。

 完全な瘴気の除去は不可能であり、街中や村などの周辺からの防備を固めた人里であっても僅かな瘴気が存在している。当然、その瘴気に対して対策を施していなければ、人里の中でもモンスターが発生する。


 それを防ぐ為に、人里には結界柱と呼ばれる結界の起点設置されている。結界柱は石や木の柱に刻みつけた管状魔法陣だ。それを複数個設置することによってモンスターの発生しない領域を確保する。

 残念ながら、結界柱は一度設置すれば永続的に効果が得られるものではない。設置後の機動からおよそ数ヶ月から半年ほどで効果を失う。保守点検を行なっていてもその程度しか持たない。


 結界を常時展開し人里の安全確保には、結界柱の制作と起動を行なう多くの魔法使いの存在が必須となる。


 結界柱によって作られた結界の中だけが、人類がモンスターに脅かされない揺り籠だ。


 一時的ならば大掛かりになる結界柱によらない、純粋な魔法だけの結界によってモンスターの湧かない領域を確保することも可能だ。

 しかしそれが可能なのはおよそ半日というごく僅かな時間だ。瘴気の濃い場所であるならば、効果時間はさらに短くなり数時間保てば良い方となる。


 また。魔法を使用せずとも、瘴気の薄い場所ならばモンスターの発生を抑制する結界の構築方法が存在している。ほんの数時間しか効果が持たないが、知ってさえ居ればだれでも使用できる。


 野宿する機会のある冒険者にとって、その結界構築方法は必須の技術だ。


 石や木片に文様を刻んだものを確保しておきたい場所を囲むように設置すればいい。


 魔法を使えぬ者でもほんの僅かとは言え、モンスターの発生を抑える事ができるこの技法は、スキルと同様にモンスターに抗うために神によって人にもたらされた力の一つだとされている。


 その昔は、どんな小さな子供であろうと覚えていたと言われている技法だが、産まれてから死ぬまで結界柱の結果に守られている街育ちの者には、覚えていない者もいる。


 今回の演習はそんな街産まれ街育ちから冒険者になった者を主な対象としている。確認したところ、フレッドとスサンナが街産まれの街育ちだ。

 ミルカは村育ちで夜営の経験はあるとの事だ。


 そしてテオも村育ちだ。簡易結界に構築技法も覚えている。山歩きは時には野宿をしなければならない時がある。野宿について今更学ぶ事は無いのだが、今回の演習に参加するのはEランク冒険者の義務だ。


 場所は北門を出た先の森の中だ。初心者向け講習で使う野宿の演習地として普段から使っている場所だという。

 しかし特別な施設があるわけではない。森の中にあるただの空き地だ。


 確保の為にはまず必要な事は周辺の安全確保だ。モンスターの発生は簡易結界にて抑える事ができる。だが、結界は発生しすでに存在しているモンスターに対しては無力だ。


 そこでまず行なう事が周辺のモンスターの間引きだ。


 初心者向け講習の生徒達全員で協力してモンスターを倒していく。


 間引きの担当は講師であるイーリスの指示で生徒たちに任される。講師であるイーリスの仕事は手伝いの域を出てはいけない。生徒たち自身で野宿を行う際の流れを実践しなければならないのだ。


 しかしテオは早々に、協力してモンスターを倒す為のパーティーメンバーから外される事になった。

 なにせ協力してモンスターを倒そうにも、彼が手を出した瞬間、倒すべきモンスターはその場から消失してしまう。

 襲い掛かってくるモンスターがアイテムボックスの中に収納されてしまうと、他の者は手出しのしようがなくなる。


 さらに言うならばテオは、一度モンスターを収納してしまえば『竜断ちの鋏』を使って止めをさせるようになった。墜落攻撃を行なう必要すらなくなった為に、他の者が手出しする隙きすらなくなっている。


 テオが一人抜け、フレッド、スサンナ、ミルカの三人で戦うことになったが、連携が全くとれていなかった。


 フレッドとスサンナは組んで戦っていただけあって、協調した様子を見せていた。だが、ミルカはいつも通りのソロとしての行動をとっていた為に連携が取れているとは到底言えない。


 木々の影から現れたキラーラビットへ対して、ミルカはすぐに杖を構え、呪文を唱える。


「大地の力よ。その身、蔓延る蔓に姿を変えよ。我が敵に絡みつき、絞め殺したまえ。

大地の呪縛(アースバインド)】」


 【大地の呪縛(アースバインド)】は対象の居る地面から土くれでできた蔓を伸ばし、対象を拘束する魔法だ。高位の魔法使いならばたやすく敵を絞め殺す事ができる魔法だが、ミルカにそこまでの実力はない。


 キラーラビットは一瞬で土くれの蔓に絡みつかれる。暴れるが蔓から逃れる事はできない。


「よーし! 俺がトドメを……!」


 意気揚々と声を上げ踏み込もうとしたフレッドだったが、その前にミルカが飛び出した。

 動きの止まったキラーラビットへ素早く接近した魔法使いであるミルカは、腰から取り出した手斧をその頭に振り下ろした。


 手慣れた様子でキラーラビットの頭を叩き割ったミルカに、前に出ようとしていたフレッドはあっけに取られる。


「お前、魔法使いじゃないのかよ?」

「? 魔法使いよ? 私のメインスキルは魔法だし、今見せたでしょう?」

「いやそうじゃなくてだな。魔法使いって言ったら、後ろで魔法を撃つヤツの事だろう? なんで前に出て手斧でトドメを刺すんだよ」

「魔法で止めを刺すよりもこっちの方が精神力を使わずに済むもの」


 しれっとしたミルカの様子にフレッドは鼻白む。


「だから、なんでお前がトドメを刺すんだよ! トドメは俺の仕事だろ! 人の仕事盗るんじゃねえよ!」

「人の仕事? 自分の仕事だって言い張るなら、私が行動する前にやりなさいよ。貴方がトロいから私がやったのよ」

「トロいだと!? 魔法の射線を開けてやってるからだろうが、このアマっ!」

「射線を開ける? 貴方は邪魔しかしてないじゃない。このノロマ」


「ハイハイ。落ち着くでやんすよ」


 ヒートアップする二人にイーリスは仲裁に入る。


「えっとフレッド君はスサンナと組んでたんすよね? 今まで組んでた人と違う人との連携はいきなりは難しいっすから、今まで組んでた人と同じ動きを要求するのは無茶ってもんすよ。

 それとミルカは、ソロでモンスターを倒せるっていう実力は分かるっすけど、これから先、連携も必要になることもあるっす。連携相手は自分じゃないんすから、望んでいない動きをする事は考慮に入れとかないといけないっすよ。


 お互い、相手に要求するレベルが高すぎるんすよ。


 ランクが上がった以上、他の冒険者と協力して仕事をする事もあるんすから。ある程度の妥協を覚えないと、これから先やっていけないっすよ?」


「チッ……」

「わかりました。注意します」


 フレッドは舌打ちし、ミルカは神妙に頷いた。それでも彼を視界に入れようとしない彼女に、イーリスは苦笑いを浮かべる。


「まあ今回は、同じモンスターを相手した連携をこなす必要は無いっす。

 今まで通りの方法で、個別にモンスターを倒してくれればいいっすから」


「わかった。最初からそうしとけばいいんだよ……。

 スサンナ、コンビで何時も通りに討伐だ!」

「はーい。足止めは任せなさいよ」


 フレッドはスサンナと合流する。


「………」


 ミルカは無言で少し離れ、モンスターを警戒する為に森へ視線を巡らせる。

 彼等の視線が合うことはなかった。


 険悪な雰囲気に、イーリスは苦笑いしか浮かばない。


 だが幸いな事に、別れた事によって問題なくモンスターの間引きは行われる。


 フレッドとスサンナのペアは、スムーズな連携で危うげなくキラーラビットを倒す。ミルカは捕縛魔法を使用して堅実といってもいい倒し方をしている。


「今回の子たちは優秀っすね……」


 多くの新人Eランクを見る事になったイーリスはぽつりと感想を漏らした。新人の中には危なっかしい者も何人か居たのだ。

 そんな者に比べると安心して見ていられる。手助けも必要ないだろう。


 彼等のモンスターを討伐する姿を見ていて、ふと疑問に思った。


「おかしいでやんすね……」


 イーリスは首を傾げる。


「何がおかしいんだ?」

「おかしくないっすか? モンスターの数があまりに多いような気がするっす」

「そうか?」


 テオは首をかしげる。とは言えこの森の、普段のモンスターの数を把握しているわけではない。

 しかし言われてみれば、先日森の中に入った時はコレほどの数のモンスターはやってこなかった。この多さはこちらの人数が多いせいではないのか。


「まあ、俺はこの森に詳しい訳じゃないから、なんとも言えないんだが……」


 言いつつテオは、またこちらにやって来たモンスターの一匹を収納する。


「……今のでテオさんだけで何匹目っすか?」

「いまので六匹目……。確かに多いかもしれないな……」


 さらに言うならば、既にイーリスだけで三匹は始末し、テオを抜かした新米だけでも四匹は倒している。

 野営の為に周辺にいるモンスターを殲滅しなければならないとはいえ、その狭い範囲にコレだけの数のモンスターは多い。


「やっぱりおかしいっよ……。

 この辺りはそんなにモンスターが多いって事は無いはずなんすよ。

 私は前回も初心者向け講習の講師をやってたっすけど、こんなに多くのモンスターは居なかったっす……。


 結界の力が及んでいるっすからモンスターの発生量はもっと少ないはずなんすけが……」


 イーリスは少し考え込んだ後、決心した。


「――うん。そうっすね」



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