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04話 カフェにて



 ゲディックの街のメインストリート。そこに開いているカフェのオープンテラスにてテオはぼんやりと人通りを眺めていた。


 昼下がり、多くの人々が行き交う。と、不意にテオの座るテーブルの直ぐ側を歩く人物と目があった。


「あっ」


 ハーフエルフの金髪の少女、イーリスだ。


「あれ? テオさん? お茶っすか?」


 足を止めた彼女は笑顔でテオの座るテーブルの前にやって来る。


「座っていいっすか?」

「あ、ああ。かまわない」


 あまりにも自然な流れで同席を求められ、なにも考える余裕もなくテオは頷いた。

 素早くやって来た店員にお茶とデザートを頼むイーリスを見ながら、彼女とここで落ち合う約束をしていただろうかとテオはしばし悩む。


当然そんな約束は交わしては居ない。


「あー、イーリス?」

「ん? なんすか?」

「イーリスは何かこれから用事が有ったんじゃないのか?」

「いや、無いっすよ? 今はちょっと散歩していただけっすから。テオも今日はお仕事は無いんすか?」

「ああ。今日は買い物を済ませていたんだ。

 食料やら、テントやら、鎧やら、服とかな。

 自分の買い物だって言うのに結構な量を買い込んだから、疲れてな。ここで休憩中だったんだよ」

「買い物っすか? それにしては荷物が何も無いみたいっすけど?」


 空いた席に買ったであろう荷物を求めて視線を巡らすイーリスに、テオは苦笑する。


「おいおい。俺がアイテムボックス持ちだって事忘れるなよ。買った端からアイテムボックスに放り込んでいるに決まってるじゃないのか」

「あ……」

「まあ、服だけは新しく買ったものに着替えたんだけどな」

「……そう言われると、小奇麗な服になってるっすね。結構似合ってるっすよ」

「ありがとう」


 テオは礼を言う。

 そこでイーリスは彼の様子がおかしい事に気が付き、首を傾げた。


「あれ? テオさんひょっとしてお疲れっすか?」

「ああ、だから休憩中だったんだ」

「いや、そうじゃないっす。何と言うか……。力が入ってないっていうか、気が抜けてるっていうか……」


 彼女の言いたい事に、テオは思い至る事があった。


「ああ、そうかもしれないな。確かに、気が抜けちまったなー、感じだな。今は」

「気が抜ける」


 相槌に頷く。


「ああ、俺は今まで必死になって生きて来たわけだ。

 村じゃロクに飯は食えなかったから、常に空きっ腹を抱えて山の中をかけまわっていた。

 村の近くにもモンスターが湧いていたけど、食える種類のモンスターじゃなかったからな。

 たまに獣を獲れた時だけが、腹いっぱいになれた時だった。


 そんで。もう村じゃ生きていけないってなったから、村を出てゲディックの街にやって来たわけだ。

 はっきりと自分の物だと言える少ない荷物と、僅かな金だけを抱えてな。

 で、食っていく為に冒険者になった。


 スライムを倒すなんて簡単な事でこんなに金をもらっていいのかと思ったな」

「スライムを倒すのが簡単っすか? 私がFランクの時はスライムは面倒なモンスターとしか思えなかったんすけど?」


「モンスターとの戦い自体は村に居た時もやってたんだよ。山の中を歩いていたら、いくらでも遭遇したし。俺の場合は戦いって言うよりも処理って言った方が近かったけど。


 けどそのモンスターは毒持ちで倒しても食えないし、金になる部位もなかった。

 そいつに比べたらスライムは簡単だったんだよ」

「ああ。場所によって湧いてくるモンスターは違うっすからね。

 金や食料になるモンスターが湧いてくるここみたいな場所もあれば、全く役に立たないモンスターが湧く場所もある。

 テオさんの故郷はそんな所だったんすか?」

「ああ、何もない村だったよ。


 そんで話を戻すが、そんな簡単に金になるって事の中でドラゴンを売ったあの金額だろ?


 もう、生きるだけなら必死にならなくて済むんだ。


 そう思ったらなぁ……。

 もう、のんびりと日々を過ごしたいだけだって思っちまう……」


 テオはあくびをする。まるで日向ぼっこをする老猫のようだとイーリスは思った。ドラゴン相手に啖呵を切った人物と同じ人だとは到底思えない。


「テオさんはもうお仕事はしないつもりなんすか?」

「しないつもりは無いさ。俺はギルドに貢献しないといけない身の上だからな。

 ただ、必死になって働こうって気分にならないな……」


「ひょっとしてテオさんって、基本怠け者なんすか?」

「あー……」


 空を見上げて、イーリスの暴言に否定の言葉を探す。だが明確な否定の言葉は見つからなかった。


「……そうかもしれないな」


 イーリスは呆れた表情で溜息を漏らした。


「『やらないといけない事』が『やらなくてもいい事』になっちゃったから、気が抜けたような気分になってるんすよ。

 テオさんはもう遊んで暮らせるだけの金があるんすから、気分転換に遊ぶって手段もあるっすよ?」


「遊ぶと言われてもな……」


 テオは首を傾げる。

 酒は飲んでも美味しいと思えないし、賭け事は楽しいと思った事がない。女は買ってまで抱こうとは思わない。美味しいご飯は食べたいと思うが、大金を投じてまで美食を求めたいとはおもえない。


「……金を使ってまで遊びたいと思えるような事が無いんだが……?」

「なら、テオさんの趣味ってなんすか? やっていて楽しいこと、ついつい時間を掛けてしてまう事はないんすか?」

「趣味なぁ……。

 趣味と言えるとは思えないけど……。ついつい時間を掛けてしまうことと言ったら、アイテムボックスを弄る事かな? アイテムボックスを弄っていれば時間はあっという間に過ぎるし。上手く使う為の訓練は苦痛だとは思わない。

 アイテムボックスは色々と奥が深いからな。多分……、俺はその事が楽しいと思ってるんだと思う」


「あ、テオさんはスキルエンジョイ勢だったんすね」

「……なんだ? そのスキルエンジョイ勢って言うのは?」

「自分の持っているスキルを使うことが、楽しくてしょうがない人の事っすよ。

「ソレを言ったら、剣術スキル持ちが剣の訓練が好きなら、そいつもスキルエンジョイ勢になるのか?」

「武術系スキルと魔法系スキルの場合は言わないっすね。その場合は武術バカとか魔法マニアとか呼ぶっすね。


 その他の、スキルでしかできない事をして楽しむのがスキルエンジョイ勢っす。

 例えば、情報系とか知覚強化系のスキルが対象になるっすね」


「知覚強化系のスキルって言えば、イーリスの持っている『慧眼』のスキルもそうじゃなかったか? 確か、感知系魔法の使用時効果を高めるとかいう」

「そうっすけど、私は『慧眼』のスキルは使ってないっすよ?」


「使ってないって……」

「いやだって使い方がよく分からないスキルっすよ? 補助スキルだって言われてるけど、よく分からない『慧眼』のスキルを鍛えるくらいなら他のスキルを鍛えた方がマシっすよ」

「……それもそうか……」


 複数個のスキルを持っている者はどのスキルを鍛えるかの選択を行なうのは当然の事だ。

 複数のスキルだと使わないスキルも出てくる事がある。それらの複数のスキルを鍛えようとするならば、当然一つ一つのスキルの付いての習熟は疎かになりがちだ。

 テオはその点で言えば一つのスキルに習熟できる時間的余裕があったと前向きに解釈できる。


 どのスキルを優先的に鍛えるか。そんな悩みはテオには無いものだ。羨ましいとかすかに思う。

 だが、どうしょうもないことだ。頭を降ってまとわりつく考えを振り払う。


「そうじゃなくても私はスキルエンジョイ勢にはなれないっすね。他のスキルが冒険者に必須なモノばかりっすから、それで楽しむって言うよりは、辛い訓練にしかならないっすよ」

「イーリスのスキルは確か、『AGI上昇』を始めとしたスピード系のスキル構成だったか?」

「そうっすよ。私のスキルは『AGI上昇 Lev.5』『俊足』『隠密』『矢避け』『慧眼』『回避力上昇』『短剣術 Lev.3』っす。

 だから私のスキルのレベル上げ訓練は短剣を持って、矢の雨を降らしてる場所を一気に駆け抜けるってモノっす。その訓練が一番万編無くスキルを使うっすから」


 スキル構成は個人によって千差万別だ。ゆえにスキルを鍛え上げる方法も個々人によって全く異なっていく。


「矢の雨を降らすって……。死ぬぞ?」


 呆れたテオにイーリスはパタパタと手を振る。


「あ、いや。さすがに本物の矢は使わんっすよ? 矢尻の代わりに木の重りを付けた当たってもケガをしない訓練用の矢を使ってるっすよ。

 当たっても少し痛いだけっすから、弓使いの知り合いに頼んで自分を狙わせたりもしてるっす。『矢避け』と『回避力上昇』のスキルを集中的に鍛えるのはこれが一番いいんすよね」


「ほお、そう言えば他の人のスキルの鍛え方はあんまり気にした事なかったな。

 にしても『矢避け』のスキルを集中的に鍛えるって、いつか戦場に行く予定でもあるのか? 弓矢を使うのは人だけでモンスターは使ってこない来ないだろうに」

「戦場に行く予定なんてあるわけないっす。

 それに勘違いしてるっすよ? 『矢避け』のスキルはただ単に矢を避ける時に補正がかかるスキルじゃないっす。遠距離攻撃全般の回避に補正がかかるスキルっす。


 あ、どうもっす」

 やって来たお茶とデザートをイーリスは笑顔で受け取り、早速舌鼓を打つ。


「うーん。美味しいっす。この店のケーキは当たりっすね。テオさんは誰かにこの店の評判を聞いて来たんすか?」

「いや、休憩しようと思った時に目についただけだ」

「運が良いっすね。一発でこのレベルのケーキを出すお店を選ぶとは……」


「俺のLUKは4だぞ?  平均的ではあるが運の悪い方なんだが?」


 人間におけるステータスの平均値は5だ。運の良さを示すLUKはほとんどの者で大きな差が存在していない。大多数の人間は5の数値を示し、4以下の数値であれば運の悪い者だと言われる。


「……私もLUKは4なんすけど……」

「………」


 悲しげなイーリスに言われ、思わずその場に沈黙が降りた。


 テオはこの話題に触れることを止める事にした。この話題は掘り下げない方がお互いのためだ。

「あー……。イーリスはどうなんだ? 趣味とか?」

「私の趣味はカードとかの賭け事とかなんすが……」

「………」


 話題の転換が足らなかった。


「あー、うん。その、なんだ。イーリスは次の仕事はどんなのを受けるつもりなんだ?」

「まあ、テオさんの下手な話題変更に付き合ってあげるっすよ」

「そらありがたいね」


 彼女の勝ち誇った様子に、テオはおざなりに感謝を捧げた。


「次の仕事っすか。まだ、ペナルティの仕事が残っているんすよねー……。多分また初心者向け講習の講師になると思うンすけど……。アレ結構面倒な仕事なんすよ」

「ほう……?」


 テオが興味深げに相槌を打った事に、イーリスは特に気にしなかった。


「まあ、それが終わったら。まだ決めては無いんすけど、たぶん採取依頼を受けるとおもうっすよ。

 森の中の薬草は見つけるのが他の人には難しいらしいんすよ。

 だから、結構割りのいい仕事なんすよ。

 前は油断してストークベアと鉢合わせたっすけど、普段は鉢合わせる前にすぐに移動するっすから、あんな事は無いっすから」


 イーリスとの初めての出会いが思い出される。


「普段から日常的に鉢合わせていたら、命がいくつあっても足らないだろしな」

「そっすねー……。あの時はマジで命の危機を感じたっすから。テオさんにはマジ感謝っすよ

 テオさんのほうは次の仕事はどんなのを受ける気なんすか?」


「ふむ……」


 質問にテオは空を見上げた。青空に僅かな白い雲が見える。いい天気だ。


「……まあ。とりあえずギルドに行って、指名依頼がないかの確認だな。それがなかったら、そうだな……。のんびり討伐でもしてるさ」

「討伐をのんびりって……」


 イーリスの呆れた声が聞こえる。


「だがまあ、そういうわけにもいかないだろうなぁ」


 自分で言うのも何だが自分は便利な駒だ。あのいい性格をしていそうなギルドマスターが放置してくれるとは到底思えない。

 ギルドはきっと自分の事をこき使ってくる。そんな面白くもない未来予想図を確信しながら、テオはため息を付くしかなかった。



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