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02話 砲撃の検証



 熱エネルギーに関する検証は今の所はここまで良いだろうと、テオはもう一つの他人には知られずに行ないたい検証に移った。


 それが運動エネルギーの付与のほうだ。


 アニタに対して石弾と凍りついた花瓶を砲弾として使用したモノだ。


 テオは『Eの項目』から運動エネルギーを付与した石を、幾度が発射する。砲弾となったのは、この森で通りすがりに見つけた一抱え程の石だ。


 テオはこの攻撃の事を、単純に『砲撃』と呼んでいる。

 石を放つから『石砲』とでも名付けようとも思ったが、放つ砲弾が石である制限は無い。石だろうが氷の塊だろうが丸太であろうが砲弾にできる。

 故にただの『砲撃』だ。


 放たれた石は、砲口たる排出(ゲート)から離れた場所にある、人に見立てた的である木の幹に迫る。

 だが当たる事はなく、その横をすり抜けていった。


 これで一つの的を狙って放たれた『砲撃』は四発目だ。

 しかし狙われ続けた木は無傷だ。


「ダメだコレ……。当たりやしない……」


 命中精度が悪すぎる。

 アニタへのまがりなりにも牽制と成り立っていたのはマグレか、もしくはあまりにも強い威力に動き難かっただけか。


 ――……おそらくは後者だ。


 『砲撃』の有効射程距離は排出(ゲート)から五メートルから十メートルほどだろうか。砲門である排出(ゲート)を直接、的である木に近づけないと、まともに当たりはしない。


 今までテオが持っていなかった遠距離攻撃ではある。

 テオの今までの攻撃射程は(ゲート)の届く距離である五十メートル以内だ。調子のいい時は六十メートルまで伸びるが、それ以上はなんの手出しはできない。


 十分に遠距離だと言えるが、テオにとって、一刀一足の間合いに入られた時点で負けだ。


 『砲撃』の射程距離――つまり『砲撃』が届く距離だけを考えると、凄まじい伸びを見せた事になる。

 しかしその『砲撃』が有効となる距離だけを考えると、五十メートルよりもわずかに距離が伸びた程度だ。


 威力があるのはいい。けれど命中精度が悪く、速射性能もお世辞にも良いとは言えない。その為に使い勝手が悪くなっている。


 せめて命中精度が良ければ使い勝手が劇的に改善できるのだが。

 命中精度が悪いのは射撃系スキルの補正が無いせいでもあるのだろうが、それにしても悪すぎる。


 『砲撃』が使える場面を考える。


 遠距離での牽制。

 収納(ゲート)が届かない五十メートル以上先にいる大型モンスターへの攻撃。

 遠近合わせた集団への攻撃。


 使えそうなのはそれくらいだろうか。


 遠距離の牽制はいくら威力が有ったとしても、命中精度の悪さからどれ程効果があるか疑わしい。


 近距離ならば『剣の舞』の方が牽制に向く。そもそも収納(ゲート)が届く五十メートル以内の距離に敵が居るならば、牽制するよりも収納してしまった方が確実だ。これは保留とした水蒸気爆弾と同じだ。


 となると、『砲撃』の使い道は遠距離に居る大型モンスターと集団相手への攻撃となる。


 遠距離に居る大型モンスター相手ならば活躍してくれる事だろう。


 しかしそのモンスターは、足の遅い敵に限られると思う。

 足が早く、すぐに接近してくる相手だと、速射性能が低くすぎて次弾を装填するよりも(ゲート)の射程範囲内に侵入してくる方が早いだろう。そうなったら収納する方が早くて確実だ。

 ドラゴンのような収納に抵抗できる能力を持った大型モンスターなどと、相対する予定など微塵も無い。それならば収納だけで十分に対処は可能だ。

 そして何よりもドラゴンのような大型モンスター相手だと、威力が足りるのかという問題も出できかねない。


 ならば大型モンスターではなく、対集団戦なら活躍できるのか?


 テオが今までに経験した対集団戦は、蛙狩りの時のポイズントードを相手にした時だけだ。

 あの時はこちらにも味方がおり、彼らが前衛を務めていた。その上で敵は一方向からしか近づいて来なかった。


 前衛が敵と接近して居る状況では、命中精度の悪い『砲撃』は使えない。味方を誤射する可能性の方が高いからだ。

 そうなると使えるのは前衛が敵に接近する前の一撃だけだろう。


 それ以外に対集団戦で『砲撃』が使える場面を想定すると、前衛無しでの戦い位しか思いつかない。そんな状況になったのならばさっさと逃げ出した方がマシだ。


 複数の小石を纏めて、散弾のようにぶっ放す事も可能だ。しかしそれは装填に時間がかかる。その上、威力が分散する為に遠距離では意味がない。

 いや、散弾を放つ際に威力を高めて置けば、遠距離の攻撃にも使えるかもしれない。威力をそのままに数を増やせば、下手な射撃も当たるだろう。


 しかし散弾が使えるのは、前衛が居ない時に限られる。

 それは戦うよりも逃げるべき時の話しだ。

 逃げるべき時にそんな手間のかかる事をやっていられるだろうか? ハッキリ言って無理だと思う。


「うーん……」


 テオは唸った。どうも使いにくい。

 そこで、考え方を変えてみる事にする。


 ――『砲撃』はどれ程まで、威力を高める事ができるのだろうか、と。


 『Eの項目』は排出時に使用する数値に比例してその威力を高める。

 今までの『砲撃』は、アニタに向けて放った時と同じ数値しか使って来なかった。


 確か、あの時に決めた数値は、考慮や試行錯誤の末に決定したものでは無かった。

 消火の為に極寒の空気を作り出す為に、致死性の高温の空気から奪った熱エネルギー分の数値をそのまま転用しただけだったはずだ。


 なら『Eの項目』にある全ての数値を費やして石を排出したら、どうなるのだろうか?


 テオは『Eの項目』を見ながら考えて、その時に全身に走る悪寒に動きを止めた。


 ――ダメだそれはやってはいけない。


 それは本能からの警告だったのだろう。慌ててその考えを頭から振り払う。

 今の悪寒は火竜の吐息(ファイヤーブレス)を何の防護対策も行わずに放とうと考えた時に匹敵する。

 それは自身の身を骨すら残さずに焼き尽くすのと同じことだ。


 迫る悪寒を振り払うように代わりに、一つの小さな小石に対して『Eの項目』を用いての排出を試す事にした。


 排出する際の数値を『砲撃』と同等の数値から徐々に高めていく。


 アニタに放った砲撃に使った数値の十倍ほど。『Eの項目』に残る数値と比べたら、ささやかな数値だ。

 そこまで上げた所で、テオはかすかな寒気を感じた。


 ――これ以上、上げない方がいい。


 水蒸気爆弾ができた時と同じような感覚を覚えた。


 テオは空に向けて手を伸ばす。


 排出(ゲート)を限界まで遠くで開く。その距離はおよそ五十メートル。開いた(ゲート)は小石を一つ発射する為の小さなものだ。


 排出(ゲート)になど、テオにしてみれば身体の一部にすぎない。なのにその小さな(ゲート)にどうしてこんなにも怖気が走るのか。


 テオは空へと向けて、小石を発射した。


 爆発音が轟いた。


「うわっ!?」


 射線の真後ろに居たはずのテオも衝撃波に押され尻もちをつく。


 大気がビリビリと震える。森の中から爆発音に怯えた大量の鳥が飛び立った。


 放たれた小石は、ほんの一瞬しか見ることはできなかった。

 爆発の瞬間、灼熱の光が一筋、真っ直ぐ空を貫いていった。


 小さな(ゲート)の周囲には、今の爆発が起きた事を思わせる痕跡は残っていない。しかし、その門から真っ直ぐ空へ一筋の煙が残っていた。


 テオの出どころ不明の知識が告げる。

 あまりの速さに、空気との摩擦熱によって小石は燃え尽きた。あの煙は小石の成れの果てなのだと。


 たったアレだけの数値で、尚且つ小さな小石を使ったにもかかわらず、これだ。


 もしも『Eの項目』に存在する全ての数値を使って何かを排出した場合、どうなるのか……。


 ――……一撃で街をたやすく滅ぼせる……。


 小石を放った余波だけで、尻もちを付くほどなのだ。そんな一撃を放ったら、当然テオも無事では済まないだろう。


 けれどテオは、その衝撃波をやり過ごす術を思いついてしまった。


 アニタに対して火竜の吐息(ファイヤーブレス)を放った時の彼女を閉じ込めた黒い箱。


 アレを反転させて、自分を守ればいい。


 それならば、どのような衝撃波がやって来ようとも黒い箱の中に居る限りは無傷でやり過ごせる。


 問題なのはこの『砲撃』が火竜の吐息(ファイヤーブレス)とは違って、排出して回収しなければ、それでおしまい。では無い事だ。


 必要なのは、モノを収納する時の運動エネルギーと収納物の熱エネルギー。それと砲弾として発射する、適当な大きさの石。

 それだけがあれば、何回でも再現できる。


 運動エネルギーは適当な大岩を上空で排出して、落下地点に収納(ゲート)を開いて、回収すればいい。それを繰り返せばいくらでも運動エネルギーとして収納できる。


 熱エネルギーの場合はもっと簡単だ。

 空気だけを収納する(ゲート)を開いておくだけで、熱エネルギーを有した空気をいくらでも収納できる。


「これは……困ったな……?」


 テオは口ではそう言うが、その表情は困っているようには到底見えなかっただろう。


 いざという時、自分はこれを使ってしまうだろう。それは分かっている。


 何せ自分は、全事象収納の(ゲート)で作った黒い箱に閉じ込めていたとはいえ、世間一般では滅びの象徴ともされている火竜の吐息(ファイヤーブレス)を街中で、しかも貴族の屋敷の中でぶっ放す人間なのだ。


 ならば、どうしたらこの凶悪すぎるこの一撃が使えるか。どのような場面ならば使っても許されるのか。

 使える状況を想定して、実際に使う時の為に思考を巡らすのは当然の事なのだ


 興奮したまま、思考は高速で回転している。

 テオは自分の顔にわずかな笑みが浮かんでいる事を自覚していた。


 ――ああ、そうだ。今放った『砲撃』と街を一撃で滅ぼせる破滅的な『砲撃』は明確に区別を付けなければならないだろう。

 その為にそれぞれに名前をつけよう。ただの『砲撃』と同一視してよい威力ではない。


 テオはしばし考え、ふと空へと真っ直ぐに伸びる雲の跡が目に入る。


 弾丸が発射された時、激しい光を残しながら、一直線に空へと消えていった様を思い出す。

 その弾丸が燃え尽き、一筋の輝跡を残す様がまるで流星のようだった。

 そこから今は放った『砲撃』は『流星砲』と呼ぶ事を決める。


 『流星砲』は威力が高くなっただけで、『砲撃』から命中精度が上がったワケではない。


 水蒸気爆弾は(ゲート)の開閉射程の外縁付近までが効果範囲だ。

 しかし『流星砲』は発射時の爆発に加えて、飛翔する弾丸の周囲に余波という形で効果範囲を広げる事ができる。命中精度が低くとも(ゲート)の射程よりも遠くまで、そして効果範囲が広いために十分使い道はあるだろう。


 そして破滅的な『砲撃』の方は『流星砲』からさらに威力を上げただけの代物だ。

 しかし、余波の影響範囲は桁が違う。

 既に砲という領域を超える被害をもたらすであろう事から、すでに『砲』と呼ぶことすら難しい。

 ならばあえて『砲』という言葉を外す事を決める。


 ――そうだな、単純に『厄災の一投』と呼ぶことにしよう。


 使わなければいいがとテオは思う。けれど冒険者になって時が経っていないのに、強大な存在と相対する事が多すぎる。ドラゴンと吸血鬼の二つだけだが、それだけで十分すぎる。

 一生使う機会が無い事を願うのは、儚い願いなのだろうか?



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