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13話 気づき『――――、詩を見せるのもいいだろう』



 やる気をみなぎらせるアニタに、テオはうんざりした。

 結局、クリスタ達の占い詩の解釈は間違っていた。当たっている方が、テオにしてみれば嬉しかった。

 ドラゴンキラーの勇名は何の役にも立ってない。それどころか反対に、厄介事しか呼び込んでいない。


「テオ。私の事はアニタと呼べ。テオにはその資格がある。」


 なにやら気に入られたようだが、テオは嬉しくない。

 アニタは上機嫌で続ける。

「私はテオの力が何なのか、大体分かって来たぞ?


 テオの力は、アイテムボックスだろう?


 私の魔法を防いぎ、炎を遮るその見えない壁は、収納の能力。

 私に襲いかかった塊、アレはドラゴンの牙か? 私のこの剣で切れないモノなんて滅多にない。なら、あれは魔法の産物じゃないって事だ。

 ドラゴンキラーなら、牙くらい確保していてもおかしくないだろう?


 ドラゴンの牙の高速移動は、排出の能力の応用か?


 そしてクリスタと兵士たちが消えたアレ。転移魔法かと思ったが、転移魔法は高等魔法だ。どんなに腕が良くても、魔力は漏れる。

 けど消失の瞬間からは魔力を感じられなかった。それほどの高位魔法使いかと思ったが、テオは流石に若すぎる。


 だがアイテムボックスだと考えれば納得がいく。もっとも、生きて居る人間をも収納できるとは驚きだがな。


 さっきの土属性魔法の一撃といい。炎を消した氷属性魔法といい。

 流石、ドラゴンキラーといったところだな」


 アニタは、テオが魔法を使ったのだと勘違いをしている。訂正する気は起きなかった。魔法を警戒し、テオの攻撃と致命的な齟齬をおこしてくれるならありがたい事だ。


 アイテムボックスを使って居る事は見抜かれた。こちらの戦力を明らかになるのは戦いにおいては不利な材料だ。けれど逆を言うと、アイテムボックスを使っていると明らかな行動も、何のリスクも無く使えるようになったと言う事だ。


「アンタのその剣は……」

「アニタだ。そう呼ばない限り質問には答えないぞ? ああ、アニーと愛称で呼んでもくれてもいいぞ?」


 ――めんどくせぇ……! なんで敵対しているのに愛称でよべと要求されないといけないのだ。


「……アニタの持ってるその剣は、魔剣かなにかか?」

「そうだ。私の愛剣だ。銘は『紅魔剣』。魔力を込めれば込める程斬れ味が増していく魔剣だ。さっきは咄嗟だったからドラゴンの牙は切れなかったが、今ほど魔力を込めて居れば、絶対に切れるぞ?」

 嬉しそうに剣を掲げて自慢する。銘の通りに魔力を吸った紅魔剣は紅く鈍い光を放っている。


「そうか……。なら、そんな危険な剣は没収だ」


 テオが言うなり、アニタの手にあった紅魔剣は唐突に消失した。


「…………え?」


 アニタは呆然と己の剣のあった空間を見つめる。


「ついでだ。マジックバックも没収しておく。また別の武器を出されたら、たまったものじゃない」


「な、な、な、なな……!」

「な?」

「何をするんだっ!? 貴様!! 私の剣を返せっ! テオ! 貴様それでも誇り高い魔法使いの一員かっ! アイテムボックスによる窃盗など、下賤な技を使うなんて……!」


 アニタの言い方にテオは苛立った。


「……俺の事をアイテムボックス使いだと気がついたクセに、そいつを前に武器自慢なんかしたら、盗まれる事くらい警戒をしておくべきだろう?

 アイテムボックス持ちが嫌われ者だとされているのは、それが窃盗に対する天性の才能だとされているからだぞ?


 それと一つ訂正してやる。俺は魔法スキルを持ち合わせてなんか居ない。だから俺は、誇り高い魔法使いなんかじゃない。

 俺の持ってるスキルはアイテムボックス、ただ一つだけ。


 アイテムボックスしか使えない俺が、その能力を十全に使うのは当然の事だろう?」


「アイテムボックスしか使えない……? 何を言っているんだ? 土属性魔法の石弾(ストーンブリット)を使っただろう?」


 戸惑った様子で問うアニタに、テオは無言で氷の塊となった花瓶の水を、その塊に刺さる花束ごと収納する。

 そして先程放った石の一撃と同様の運動エネルギーを与えて、放つ。


「! シールド!」


 直感スキルの警告に従って作った障壁に、それは直撃した。咄嗟に作った先の障壁とは違い、しっかりと構築できた今回の障壁は破られる事はなかった。

 砲弾の方が砕け散る。

 アニタは自分の周りに広がる砲弾の破片を見た。キラキラと輝く氷の破片に混じって花びらが舞っている。


「これを土属性魔法だと言うのか?」

「……!」


「それに剣を返せ……か。押し込み強盗の言い分にしてはお笑い草だな。

 取り返したいなら、自分で奪い返せばいい」


 テオは言いつつ、紅魔剣を(ゲート)から刀身のみを取り出す。その剣は帯状門(リボンゲート)に繋がっている。

 (ゲート)から半端に姿を表したのは紅魔剣だけではない。ドラゴンの牙も姿を表し、更に兵士たちが持っていた複数の剣の刀身も空中から姿を表す。


「できるなら、の話しだけどな」


 テオが言うなり剣の群れはアニタへ向かって一斉に襲いかかった。


 複数の帯状門(リボンゲート)をアニタとの間に展開しておいた。アニタの周囲には特に複雑に絡み合っている軌道だ。

 その帯状門(リボンゲート)の配置の際に剣とマジックバックを没収したのだが、そのついでにアニタ本人を収納する事も試みた。だがやはりそれは弾かれた。

 ヴァンパイアの持つスキルにアイテムボックスの収納の弾くモノがあるのだろう。しかし真紅を身に纏う竜(レッドドラゴン)と同じように、意識をそらすか弱らせる事ができれば収納できるのではないかと言う手応えがあった。


「卑怯だぞ! まともに戦え!」


 必死になって、縦横無尽に踊る剣とドラゴンの牙を避けながら、アニタは叫ぶ。高速で飛び回るそれらを避けきる身体能力は、ステータス底上げスキルのレベルが高い事を示している。


「戦闘スキルを持ってないヤツに、持っているヤツが正面戦闘を要求する事の方が卑怯だろうが!」


 テオにとって戦いとは、敵の長所を潰し、敵が攻撃を行なう前に行動を不可能にする事だ。

 戦闘スキルに恵まれなかったテオはそんな戦い方しかできない。

 アニタの言うような戦いは、そのような状況が整ってしまった時点でテオの負けだ。


 アニタは時折無属性魔法をテオに放つが、テオに直撃するモノは展開してある収納(ゲート)に突入して影響を及ばさない。

 その前で破裂する魔法も、廊下を破壊するだけで、余波がテオに届く事はない。


 テオに接近しようすとするアニタだが、乱舞する無数の剣によって邪魔されて近づけ無い。

 踊る剣だけではなく、テオは隙きを見て砲撃を放つ。連続で放てないのは『Eの項目』からの数値設定が慣れていない為だ。


「くそッ! ふざけんな!」


 口汚く罵り、アニタは無属性魔法を近くの壁へ向けて放つ。壁を打ち砕き、空けた大穴にアニタは飛び込んだ。


 廊下の壁の向こうは部屋になっている。

 テオはアニタを追って帯状門(リボンゲート)を大きく広げる。壁に何の影響を与えず突き抜ける帯状門(リボンゲート)は、テオの視界の届かない場所を探る。


 しかし動くモノや人の形は見つからない。


 ――……逃げたか?


 物音一つしない状況に、テオはそう思う。もうクリスタを出しても大丈夫だろうかと考えて、慌ててその考えを否定する。

 アニタが退くのは、『三つのひだまり』を数えた後だ。その前にクリスタを『牢』から出したら、奪われる。


 結局ひだまりとはなんのことだ?


 警戒を続けながら、その事を考えていると、ふと、火が付いた焦げ付いた廊下の一部が目に入った。


「あ」


 ――『ひだまり』って、『火だまり』か!


 その事に気取れられて居たせいで、帯状門(リボンゲート)に動いているモノへの接触に一瞬遅れた。

 接触反応があったのは、今までアニタが居たのとは廊下の反対。そちらから、高速でこちらに迫ってくる。

 

 テオは振り返るのと同時に、防御用の収納(ゲート)を身体の寸前に開く。

 高速で飛んできたのは火炎弾だ。そのままの直撃コースならば、収納防御を行なう事で何の影響をもたらさなかった。

 けれどその火炎弾は(ゲート)に接触する前に炸裂した。


 炎を周囲に撒き散らす。


 (ゲート)の展開が咄嗟だった為に、廊下を完全に遮断する形に(ゲート)を展開できていなかった。

 テオの身体を守る事はできたが、前回とは違いテオの前方向だけではなく、後ろの方にも炎が広がった。


 消火を……! 炎に巻かれたらソレだけで死ぬ。焦るテオは極寒の空気を出そうと意識する。だがその前に、見つけなければならない存在が見つかっていない事に気がつく。


 ――アニタの姿は何処にある!?


 その気付きは、一瞬遅かった。


 炎が上げる煙の中から、唐突にアニタが現れる。煙ではなく霧から彼女の腕がテオへと伸びる。


 ヴァンパイアの霧への変身スキルか!


 クリスタへ接近した時の方法に今更になって気がついた。霧になってテオの前から消え、クリスタの側で実体化したのだ。


 一度効かないと分かっているだろう火炎弾を使ったのは、炸裂させて防御に使っている収納(ゲート)の大きさを知る為だろう。

 もし一度目と同じように、廊下を遮断するように完全に塞いでいたならば、アニタは霧化をしての接近はしなかった。


「やっとつかまえた」


 賭けとも言える行動が見通し通りに進んだ事に、アニタは口角を釣り上げる。

 その手はすでにテオの胸ぐらを掴んでいる。


「おらぁ!」

「ぐっ!」


 アニタは腕力だけでテオを投げ、地面に叩きつける。そのままテオの上に馬乗りになった。


「これで私の勝ちだな。テオ?

 お前のアイテムボックスは、出した物を動かす時には一拍、間が在る。

 物を出すなら、それを動かす前に殺すぞ?」


 アニタの脅迫に、随分とのんきのモノだと、テオは呆れの感想を懐く。しかし、自分の身体の上で勝利を誇る彼女よりも、もっと気になる事がテオにはあった。


 テオが背を叩きつけられた床の、周りには炎が広がっている。

 痛みもあったが、テオは思わず笑い声を上げた。


「はっはっ……」

「なんだ? 変な所にでもぶつけたか?」


 笑い出すテオにアニタは不気味そうに顔をしかめる。


「なあ、アニタ」

「なんだよ?」

「ここは、ひだまりの中だな?」

「は?」


 これで『火だまり』は二回目だ。しかし、ひだまりに関する詩はもう一文存在していた。


 『ひだまりの中で、詩を見せるのもいいだろう』


 クリスタ達は、穏やかな日常の中で占い詩をテオに見せる事だと解釈したのだろう。


 だが『花喰い人』に襲撃を受けているのが今である以上、その解釈は間違っているだろう。


 『詩を見せる』のは、今ここでの話しだ。『火だまり』の中で、テオがアニタに向けて見せる詩。


 クリスタはこの句を『ひだまりの中で、()を見せるのもいいだろう』と読んだ。

 けれど、『ひだまりの中で、(うた)を見せるのもいいだろう』とも読める。


 テオは()を持っては居ない。

 占い詩の書かれた紙は読んだ後にクリスタに返した。()とされるようなモノは、保管世界(ストレージワールド)の中には存在していない。


 けれど、(うた)ならば心当たりがある。

 そしてそれは、アニタが言うように出してから動かす必要は、ない。


「なら、見せてやるよ。その(うた)を」

「?」


 アニタにはテオが何を言っているのか理解できなかった。


 もしも、アニタに(ゲート)を知覚できる能力があったとしたら、『直感』スキルの警告無しにテオの上から飛び退いていただろう。

 二つの小さな(ゲート)がアニタの両耳に触れるか触れないかの距離に開いていた。


 そして、テオの持つ(うた)が解き放たれる。



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