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産廃スキル『アイテムボックス』しか使えない俺が、何故か魔王と呼ばれるその日まで。  作者: 雪月 智也
第一章 〇〇殺し編  新人冒険者の俺が〇〇殺しとなるまで
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02話 疑惑



 街の外、門近くの草原には多くの冒険者の姿があった。この街にやって来る時も見かけていたが、その時は彼らが冒険者だとは思っていなかった。


 討伐対象であるスライムも彼らよりも多く姿が見える。


 街や村の外ではある意味見慣れた風景だ。モンスターはいくら倒した所でドコからともなくポコポコと湧いて出る。

 その謎を解いた者はまだいない。


 テオはスライムを倒すと、討伐証明部位である『スライムの目玉』を手に入れる為にナイフで解体を行なう。


 スライムの体は直径一メートル程の大きさの透明な球体だ。

 生きている内はぼよんぼよんと跳ねながら移動する。跳ねない時でも丸い形を維持しているが、死ぬとのっぺりと地面に平に広がる。

 ナイフを入れると体の大部分を構成する体液が溢れ出る。この体液は普通の水と大差が無い。

 しかし、水袋のような外膜を切り裂きれても、生きている内は液体として流れ出る事は無い。なのに死んだら、ただの水のようになるのは不思議なことだ。

 モンスターは時折常識外れな事がある。


 外膜に入れた切り込みから溢れ出る体液によって、『スライムの目玉』とそれに繋がった『核』が一緒に流れ出てくる。


 『スライムの目玉』と言うが、実際には見た目が目玉のように見える内臓の一部だ。

 内臓とは言ってもあまりグロい物ではない。

 スライムの内臓は『核』と呼ばれている大人の両拳程の大きさの球体と、小さめの子供の握り拳ほどの大きさの『目玉』だけだ。

 それらが一緒に、球体で透明な体の中に浮かんでいる。『核』の方も一見して水晶玉のようにも見える。

 そのため見た目だけは綺麗だ。


 テオは『スライムの目玉』を拾うと『核』につながっている神経索を切る。これでスライムの解体は終了だ。残った外膜と『核』は放置しておいても大丈夫だ。新たに湧き出る他のスライムに食われる事になる。


 スライム討伐方法の基本は三種類ある。

 『目玉を傷つけずに核を攻撃する』事。

 『体液を保持できなくなるほど外膜を切り裂く』事。

 もしくは『スライムの体全体に激しい衝撃を複数回与える』事だ。


 テオは十体のスライムの討伐と解体を終えると、討伐を切り上げる事を決める。

 まだ討伐を続けることはできたが、少々目立ちすぎた。

 周りからの視線が痛い。


 こそこそと逃げるように街へと戻り、ギルドの受付まで行く。

 戻ってくる時間が早かったためか、ギルドにいる人影は少なかった。


 偶然にも精算を頼んだのは、登録をした時の受付嬢だった。


「精算をお願いしたい」


 『スライムの目玉』を詰めた革袋をアイテムボックスから取り出す。

 そこから取り出した戦利品の数に、受付嬢は訝しげな目を向ける。


「お一人でこれだけの数を討伐したのですか?」

「ああ」

「……貴方のステータスとスキルで? しかもこの短時間で?」

「ああ、そうだが?」


 テオは疑問を感じながら、頷く。

 受付嬢の視線に含まれる疑いの色が、益々濃くなっていく。


 その事にテオは気がついた。

 イカン。完全に誰かから横取りをしたのだと疑われている。


 テオは困った様子で眉根を寄せる。


「えっと……。俺が倒した事には間違いないんだが……。

 どうやって倒したかの手の内をあまりバラしたくは無いんだが……?」

「ギルドとしては不正の疑いが晴れない限り、貴方からの討伐証明部位の買い取りはできないのですが?」


 厳しい視線と口調に、テオは自分の手の内を隠す事を諦めた。

 苦労してできるようになった事をあまり知られたくは無いが仕方がない事だろう。疑いを晴らして買い取って貰わないと生きてゆけない。


 草原でのスライム討伐の際に周囲から注目を受けていたから、広く知られるのも時間の問題だ。

 そう思っていたが、こんなに早く自分の口から言うことになるとは予想外だ。


「……分かりました。どうやって倒したかの説明はします。けれどギルドに手の内を説明するのはともかくとして、他の人にはあまり知られたくはないのですが……」


 不穏な気配を感じたのか居合わせた冒険者が注目している。チラリとそちらに目を向ける。

「分かりました。では別室でお話をお聞きしましょう」


 言うなり受付嬢は同僚にテオを見張っているように頼み、席を後にする。テオはしばらく居心地の悪い時をすごす事になった。


 その後、呼ばれた別室へと見張りの屈強なギルド職員二名と共に向かう。直接拘束されているのではないが、決して逃さんとばかりに両脇を固めている。

 連れて行かれた別室には、これまた屈強なギルド職員が二名と、受付嬢、それにもう一人、一目で偉い人だと分かる壮年の男性がいた。

 彼は部屋の奥にあるデスクに陣取り待ち構えていた。今まで見張りをしていたギルド職員から耳打ちを受けて一瞬訝しげな様子を見せた。が、すぐにその表情を消す。


「とりあえず掛けたまえ。テオ君」


 部屋の中央にぽつんと置かれた簡素なイスに座るように促される。


 礼儀の部分もあるのだろうが、イスに座らせるのはいざという時の行動を阻害する為だろう。現に屈強なギルド職員四人は囲むようにして立ったままだ。

 その事を理解していてもテオは得に気にした様子もなくイスに腰掛ける。


「さて、まずは自己紹介をしよう。私はヴェルナー。ギルド役員で、監査部にも所属している。

 私の仕事は色々あるが……。

 その内の一つに、ギルド規約を破った者に制裁を加える事がある。


 つまり、ギルドに相応しくない行動をとった者を袋叩きにして、本人を含めてその周囲にもギルドを舐めた行動を二度と取らせないようにすることだ。


 君がここに居るのはどうしてだか理解しているかね?」


 質問に――と言うより尋問にテオは素直に頷く。


「ああ、分かっている。

 ステータスは平凡なものでしか無く、しかもスキルがアイテムボックスしかない俺が、ソロで、短時間に、多くの『スライムの目玉』を持ってきたから、他の人から横取りしたのではないか? と疑われているんですよね?」


 疑わしげな要素を区切って明言するテオに、ヴェルナーは一瞬戸惑いを見せた。


「……その通り。

 スライムはモンスターの中では雑魚だが、君のような戦闘向けでは無いスキル構成者にとっては倒す事すら困難な、脅威となるモンスターだ。


 戦闘スキルを持っていてもスキルの育っていないFランクにとっては、スライム一匹倒すのにも死闘を演じる事は珍しい事ではない。


 そのような、『命を掛けて得た成果』を横から盗み出した者がいるとしたら、ギルドとしては徹底的な制裁を与えねばならない。


 ――分かるね?」

「分かります」


 落ち着いた様子でテオは同意する。

 即答された事に、問い詰めるヴェルナーだけではなく、立ち会うギルド職員達も肩透かしをくらったような様子を見せる。

 彼らの脳裏にひょっとして泥棒では無いのかもしれないと言う考えがもたげてくる。


 彼が泥棒をしていたのなら、自分に待ちけるであろう凄惨な未来に対して、怯えたり動揺する。しかしテオにその様子は無い。

 ヴェルナーは表情を引き締めて続ける。


「君のようなアイテムボックスのスキル持ち主がそのような事をした場合。被害は拡大し易い。

 何せアイテムボックスの中は本人にしか確認できないのだ。


 さらにアイテムボックスのスキル持ちの中には、手に持たずとも物をアイテムボックスに入れる事ができる者も居る。

 通りすがりに他人の物をアイテムボックスの中に入れてしまえば、その犯行の瞬間を見られない限り誰も気がつけない。


 ギルドは本来ならFランクに干渉はしない。

 しかし被害拡大の恐れが高いのであれば話は別だ。その前に措置をしておかねばならない。


 ――ここまで言えば、君がここにいる理由は理解できたと思う。


 さて、君はギルド相手にならば『スライムの目玉』を大量に集める事ができた理由を説明できても、他の不特定多数の者には知られたく無いと言う。


 では問おう。君はどうやってアレほど多くの『スライムの目玉』を持ってこれたのかね?」


 威圧した問いに、テオは落ち着いた様子で、端的に答えた。


「俺のアイテムボックスは生きたモンスターを収納できるからです」

「………」


 その場に沈黙が下りる。ヴェルナーは首を傾げて聞く。


「……今。なんと言ったかね?」

「俺のアイテムボックスは生きたモンスターを収納できる。と言ったんです。

 ついでに言えば、俺は手に触れずとも離れた場所にある物をアイテムボックスに入れる事もできます。生きているモンスターでも同様です。


 俺がアレほど多くの『スライムの目玉』を持ってこれたのは、遠くに居るスライムを生きたままアイテムボックスに入れた後、高い位置にスライムを出して地面に叩き落として殺したからです。


 一回落とすだけで死ぬ事は滅多に無いですけど、数回繰り返せばスライムは死にます。

 叩き落とす場所が岩だと尚いい。落とす回数が少なくなる」


「……アイテムボックスのスキルは、生き物を入れる事はできないはずだが?」

「他の人のアイテムボックスはそうみたいですね」

「…………」


 再び沈黙が下りる。


「……それは本当の話かね?」

「できない事をできると言っても、実際に試してみればすぐに嘘だとバレるでしょう?」

「……では、その証明を実際にしてもらって構わないかね?」


 若干、戸惑い気味のヴェルナーの問いかけに、テオは頷いた。



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