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09話 占いの詩『ひだまりの中で、――――。』



 クリスタは助けを求めるかのように、側に控えるレベッカに視線をむける。


 受けてレベッカは頷く。


「よろしいかと。冒険者ギルドにはすでにお話した事ですので」

「うん。それじゃあレベッカ。私の部屋から例の文箱を持って来てくれる?」

「かしこまりました」


 レベッカが部屋を出て行く。

「文箱?」

「私が書いたモノを纏めているあるだけのモノなのですが……」

「クリスタ様が書いたモノ……?」


 テオは首を傾げる。それが何故、クリスタが狙われた理由になるのか分からない。


 レベッカはすぐに部屋に戻って来た。その手には一つの細やかな細工が施された木の箱がある。クリスタの前に置く。


「クリスタ様どうぞ」


 クリスタはその木の箱をふたを開けて、中から紙の束を取り出す。数枚の紙をめくり、すぐに目的の紙を見つけて、それを抜き出した。


「まず、これを見て下さい」


 と、テオにその取り出した紙を差し出す。


「それは一月ほど前に私が書いたものです」


 クリスタの言葉に疑問を抱きながらもテオは受け取った紙に視線を落とす。

 大きめの紙に数行しかない文章が書かれているだけだ。




『骸に群がる亡者達。金で築くは竜への道。


 花泥棒がやって来る。銀の花を贈る為。


 荒くれ者の頭目に、亡者の宴の主催者との面会を求めよう。


 牢に花を閉じ込めよう。手折られ枯れぬ為に、陽に留め続ける為に。

 三つのひだまり数える頃、竜の力が花食い人を退ける。

 それまで牢から花を出してはいけない。花が盗まれてしまうから。


 ひだまりの中で、詩を見せるのもいいだろう。

 花と牢の友好こそが、花を守る鎖となるのだから』




「……これは?」


 読んだテオは、クリスタに問いかける。


「テオ様は私の事を普通の女の子だと言って下さいましたけど、そんな事はないのです。


 私のスキルには一つだけ、特殊なモノがあります。『未来詩筆記(みらいしひっき)』という占い系スキルの一つです」


 クリスタが説明する所によると、『未来詩筆記』は対象の未来の事を、数行の詩の形で表現するのだという。

 けれど、好きな時に占なえるわけではない。このスキルは持ち主であるクリスタの制御からは完全に外れているのだいう。


「スキルが暴走しているのか?」

「いえ、と言うよりも。そもそも、私の意思で発動できるアクティブスキルではないようなんです。

 このスキルはどこからか、決まった()が送られ、私はその詩を紙に書き写す為の道具にされている。

 そのようなモノらしいのです。


 そうなった時、私は書きたくて書きたくて、しょうがなくなります。

 一度、それを拒否しようと限界まで我慢した事がありますけど……。


 その時の苦しみは酷いものでした。

 結局私は、一時間も持たずにその苦しみに負けました。


 私のこのスキル『未来詩筆記』は書かない限り、どのような内容の詩なのか、私にも分かりません。自分で書いた文字を読んで、初めてその内容を知ることになります。


 それだけならば自分のスキルに振り回されているだけで済みます。

 それも問題と言えば問題なのですが……。


 もっとも大きな問題は、この詩による占いは一〇〇%当たるという事です」

「一〇〇%?」

「ええ、そうです。もっとも詩の内容の解釈が正しかった場合に限られます。


 テオ様。今渡した詩の内容。どう解釈しましたか?


 あ、ちなみに『銀の花』と言う単語が、クリスタ・フォン・ゲディック。つまり私の事を指しているというのは、今までの多くの詩から経験的に分かっています」


 クリスタの質問に、テオは手元の詩に視線を落として、頭をひねる。


「一〇〇%当たる占いで、今、俺に聞いてくるなら、これは俺にも関わるって事だろう?


『花泥棒がやって来る。銀の花を贈る為』は、『花泥棒』は襲撃してく奴ら。『銀の花を贈る為』はクリスタ様を何処かへ連れさろうとするもの。


 だとしたら前の、『骸に群がる亡者達。金で築くは竜への道』

 これはドラゴン素材のオークションの事だろう? 『亡者達』は。金の亡者の意味で、金儲けに勤しむ商人達。『金で築くは竜への道』は、竜素材を求める競売の事だ。


 で、『荒くれ者の頭目に、亡者の宴の主催者との面会を求めよう』

 これは『荒くれ者の頭目に』がギルマスの事。で『亡者の宴の主催者』はオークション自体はギルドが主催したけど、それなら、ギルマスと別にするのはちょっとおかしい。

 だからここは、ギルドにドラゴンの骸を持ち込んだ持ち込んだ俺の事。


 『牢に花を閉じ込めよう。手折られ枯れぬ為に、陽に留め続ける為に』

 ……ここでの『牢』も俺の事だろうな。俺の二つ名は、あまり広まってない。前の段落の『亡者の宴の主催者』も『牢』にしたら、クリスタ様達には誰を指しているのか分からなったはずだ。ギルドも『牢』っ言葉だけで、俺の事を言うとは思えない。

 つまりここは、【竜牢】にクリスタ様を守らせろって意味だろうな。


 で、次。

『三つのひだまり数える頃、竜の力が花食い人を退ける』

『三つのひだまり数える頃』が日数の事か?

『竜の力』も俺の事だろうし、『花食い人』はクリスタ様を狙っている者。つまり襲撃者達の黒幕。

『竜の力が花食い人を退ける』は、俺が直接、黒幕と対峙でもするのか? ここはちょっと分からないな。


 その次。

『それまで牢から花を出してはいけない。花が盗まれてしまうから』

 これは護衛を止めていけない。後の句がその理由で、『花が盗まれてしまうから』――つまり、クリスタ様がさらわれるって事でしょう?

 俺が『花食い人』を退けるまで、護衛を続けないといけないという意味でしょう。


 で、最後の二つ。

『ひだまりの中で、(うた)を見せるのもいいだろう。

 花と牢の友好こそが、花を守る鎖となるのだから』


 これはつまり……。今、この場の事だろう?」


 テオの問にクリスタは頷いた。


「ええそうです。

 大体、私達の解釈と同じになりましたね。


 テオ様がちょっと分からないと言った部分。

『竜の力が花食い人を退ける』は、『ドラゴンキラーの勇名が、私を狙う者を諦めさせる』と私達は解釈しています」

「ああ、それでドラゴンキラーの名前を広めようとしているのか」


 無断でその名を使い、今も『クリスタを守っているのはドラゴンキラーである』とウワサを広めているのは、それがあるからかと、テオは納得した。


「はい。『竜の力』は竜殺しの名の事だと思っています。


 そして、その詩の最後に『()を見せるのもいいだろう』と在るから、私はテオ様に私のスキル『未来詩筆記』の事をお話ししているのです。

 そうでなかったら秘密にしていたでしょうね。


 私を襲撃してくる者達の心当たりとなると、私にはこのスキルの事しか思い浮かばないのです。

 父は伯爵でそれなりに権力がありますが、その権力を利用しようとしているなら何度も私を狙う事自体がおかしいのです。

 父は伯爵で、守るべきモノが沢山あります。いざとなれば、私を切り捨てる事もするでしょう。


 だから、私を誘拐しようとする心当たりは、このスキルだけになるのです……」


 父のいざという時の判断を理解できてしまうからこそ、悲しげにクリスタは告げる。


「……この占い『未来詩筆記』の事は広く知られているのか? 得に一〇〇%当たるという点を」

「ええ。二、三度ほど、貴族の令嬢達のお茶会の際に発動した事があります。

 その際に一度、書き上がったばかりの詩をその場に居た人に読み上げられてしまったのです。


 その時の詩は、出席者の一人の未来を詠んだモノでした。その内容は彼女の親族に不幸がやって来るという詩でした。しかし同時にその不幸の回避方法も詠まれていたのです。


 だから私は、この詩が一〇〇%当たる占いスキルによる文章で、不幸を回避するためには、この詩に従わないといけないと告げました。

 けれど彼女は私の言葉を信じず、詠まれた詩には従いませんでした。


 結局、彼女の親族は不幸に見舞われ、私の『未来詩筆記』の事は貴族の令嬢達の間では有名になりました。


 彼女達の親族達も知っているでしょうから、貴族階級で知らない人は居ないのではないでしょうか?」

「……その点から、襲撃者達の黒幕を探すのは無理って事か」

「ええ。貴族階級、もしくはそこに近しい者でしょう。対象が多すぎて絞れません。

 私の意思で自由に使えるものではないとも知らせているのですが、未来を知るというのは魅力的らしいです。


 『未来詩筆記』は私自身と、対面している人物、そして世界の未来を占います。

 その中で数が圧倒的に多いのが二つ目の、対面している人物の未来を占う事です。これは、私がこの目で見ている人物の事になります。

 ですから『未来詩筆記』を発動させる対象は、私が近しい人物、伯爵家に仕えている者が多いのです。


 そのほとんどが大した事のない未来ですが、幾度か危険を詠んだ詩もあります。その時は回避しているのですが、私の周囲にいるからと言って、全ての危険を回避できるわけではありません。


 もしそうなら、襲撃者による兵士の死者は無かったでしょう……。


 私に対面する人物を自分一人だけにして、自分の未来だけを多く占わせる事。

 それが私を攫おうとする者の目的なのだと、私は思っています。


 それに、そうなれば、私自身の未来と世界の未来を詠んだ詩も、見るのはその者だけになるでしょう」


「未来を知るものが自分一人だけならば、それから得られる利益も独占できるから?」

「そうなのでしょうね。

 私からすると、そんな都合の良い力ではないのですが……。


 不幸を回避しようとしても、できなかった事もありますし。そもそも詩の内容の解釈が誤っていて、予想した未来とは全く違う未来がやって来た事もあります。


 正直な所、この力は……。私を振り回す、人には過ぎたモノに感じられます。

 ……もっとも、この力に多くを頼ってしまう私は、そんな事を言う資格など無いのですけどね」


 苦笑交じりに言うクリスタに、テオは肩をすくめた。


「その点で言えばクリスタ様は、俺と似ているのでしょうね。


『天恵の子』による出処の分からない高度な知識と、

『未来詩筆記』による出処の分からない未来の知識。


 どちらもその知識に振り回されているのに、それの恩恵を拒絶する事もできない」


 クリスタはキョトンとして、テオの顔を見た。

「……そういうふうには、考えてませんでした……。確かにそう言われると似ているのかもしれませんね。


 テオ様は、知識に振り回される事はなくなって来たとおっしゃいましたが、何かコツでもあるのですか?」


「……俺の場合は、クリスタ様の参考にはならないと思いますよ?」

「それでも聞かせてください」


 答えるのを渋るテオに、ジッと見つめてクリスタは答えを求める。

 彼女の真っ直ぐな視線に、テオは負けて目をそらす。

「……本当に、参考になりませんよ?」

「お聞かせください」


 テオはため息をついて答えた。


「俺の場合は、口を開く事を止めたんです」

「え?」

「俺の知識は俺の頭の中にあるだけで、口を閉ざせば、他の者には在る事すらも分からない。

 知識によって何かの恩恵として物を手に入れたとしても、俺はアイテムボックス持ちだ。アイテムボックスの中にしまってしまえば、俺が言わない限り誰もそれに気が付けない。


 俺が口を開いて、それが、わずかでも彼らの気に入らない事ならば、やはり悪魔の子かと見られる。そんな奴らの為に、自分の知識を教えてやろうとも思えなかった。

 だがら俺は、知識を自分の為だけに使う事にしたんだ。村の奴らには俺は無口な人間だと思われているだろうね」


「そう……なのですか……」

「参考にはならなかったでしょう?」


 呆然と目を見開くクリスタに、テオは軽い様子だ。


「そう……ですね。私の場合は、人前でも紙に書きますから、どうしても他の方に知られてしまいます。隠すのは、ちょっと無理だと思います……。


 あの……テオ様?」


 戸惑った様子でクリスタは呼び掛ける。


「ん?何?」

「申し訳ありません。辛い事を言わせてしまいました……」


 丁寧に頭を下げるクリスタに、テオは目を見開いて動きを止める。


 辛い事……。村での日々はそうだったのだろうか? いや、そうかもしれない。

 村を出て、ゲディックの街に向かう道を歩いている時、二度と村には戻らないと考えていた。

 その時の感情は、故郷を離れる事への未練を断ち切る為の決意ではなかった。ようやく息苦しい場所を離れる事のできた清々しい気分だった。


 あの村での日々は辛い事だったのだと、初めて気付かされ、テオは湧き上がる感情と共にクリスタに礼を口にした。


「あ、いや……。

 ――そう言ってくれるだけで、俺は救われるよ。ありがとう」


 礼を言われてキョトンとした後、クリスタは花開くような笑顔を見せた。


「どういたしまして」



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