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07話 襲撃 『花泥棒がやって来る。――――』



 ギルド関係者だけの相談が終わり、伯爵家との交渉はテオ主体ではなく、ギルド主体――この場合はヴェルナーが交渉を担当する事にきまり、交渉を再開しようと、席に戻りかけたその時。


 部屋の外から騒動の音が聞こえていた。


「なんだ?」


 テオは疑問の声出すが、百戦錬磨のギルドマスターはそれだけで大体の騒動を察したようだ。


「ああ。どうやら交渉がまとまる前に、また襲撃が来たようだな」


 キリクの言葉の前に部屋にいる伯爵家の兵士達は、警戒をあらわにしている。


「おいテオ。お前アイテムボックス持ちだろう? 予備の武器をよこせ」

「つい先日までFランクだったんだぞ俺は? 予備の武器なんて持ってるわけないだろう」


 正装姿で武装解除をしているキリクの言葉に、テオは言い返す。そもそもテオはメインの武器を持っている事すら怪しい。


「ちっ! アイテムボックス持ちなら、それくらい用意しておけよ。で? 武器代わりになるような物も持ってないのか?」

「藪こぎ用のナタならある。その他に武器になりそうな物は薪のついでに集めた長い木の枝くらいだ」


 言いながらテオは片手にナタを取り出し、もう片手に形が剣に似ている丈夫な木の枝を取り出してキリクに見せる。


「なんだ、あるじゃねえか」


 ギルドマスターだというのに喜々として粗末な武器を両方受け取る。鞘付きのナタをベルトに挟み、木の枝を剣の様に振る。


「ただの木の枝を振るうなんてガキの頃以来か?」

「あの。キリク様? 剣ならお貸ししますが?」


 貴賓室に似つかわしくない木の枝を振るう彼に戸惑った様子でレベッカが申し出る。


「いや、結構。その剣は兵士達の武器で、予備では無いのでしょう? 予備があるのならばお借りしますが?」

「確かに予備ではありませんが……」

「ならば、そちらからお借りなどできません。コイツは丈夫な種類の木のようですからな、人の頭を叩き割るには十分です」


 物騒なことをいうキリクの言葉が終わるかいなかの時、部屋のドアが勢い良く開かれる。

 入ってきた剣を手にしている男は、ざっと部屋の中を見回すと、部屋の隅で兵士達に守られているクリスタの姿を見つける。


「居たぞ! クリスタ・フォン・ゲディックだ!」


 大声を上げる男は正装姿だが、その服には似つかわしくないたくましい体格だ。オークションに参加する商人達の護衛にも見えるが、粗野な雰囲気と血に濡れた剣が何よりも彼が狼藉者だと語っている。

 彼は一人では無く仲間も次々に部屋に入ってくる。


「クリスタ・フォン・ゲディックだけを生かして連れ去ればいい。他は全て切り捨てろ!」


 襲撃者達はそのまま襲いかかる為に床を蹴る。が、その瞬間。その内先陣を切った者の手から剣が消失した。


「は?」

「どっせい!!」


 己の空になった手に思わず視線を向けた男は、キリクの掛け声と共に振られた木の枝に顔面を強打されて吹っ飛ばされる。


「なっ!? 魔法か?!」


 剣の消失現象と、正装のクセに木の枝で仲間を打ち倒したキリクの尖すぎる一撃に、警戒して彼らの足は一瞬止まる。


 その瞬間にまた襲撃者の一人の持つ剣が消失する。次々に彼らの持つ武器は消えていく。


「とりゃあっ!」


 キリクは彼らに飛び込み次々と打ち倒し、兵士達も戦いに参加する。


「今だ! キリク様に加勢するんだ!!」


 武器の消失した者はあっと言う間に打ち倒される。

 武器が消えていない者は兵士と数度武器を交える事になっても、武器が消失するか、多くの兵士達に数の力で負けて打ち倒される。

 キリクと対峙した者は、武器が有ってもあっと言う間に打ち倒された。


 襲撃者側には死んだ者もいるが、部屋の中に居た者に深刻な被害はない。


「襲撃はこいつらだけか?」

「そのよう……ですね。魔法使いは居なかったようですが……」

「魔法使いなんぞ、誘拐目的の屋内の襲撃では使わんだろう。詠唱に時間がかかるし、仲間もターゲットも一緒に殺すのが落ちだ」

「ですが、前回の襲撃では魔法使いもおりました」

「なら、ここには来てない。つまり別働隊がいるかもしれないってことだ」


 レベッカとキリクの話を最中、兵士達は生き残った襲撃者達を縛り上げている。


「ところで、何故彼らの武器は消えていったのでしょう?」


 あの不思議現象のお陰で圧倒的有利に迎撃が行われた。しかし、不気味な現象でもある。

 レベッカの口にした疑問は、その場の者が大多数の疑問だろう。

 それに答えたのはテオだ。


「ああ。あいつらの武器なら俺が取り上げた」


 言いつつ、襲撃者達の武器を自分の足元にアイテムボックスから排出する。ガランガランと積み上がる武器の山に、なんとも言い難い視線が集中する。


「あの、テオ様? 取り上げたってどうやってです?」


 聞いて来たのはクリスタだ。


「いや、どうやってって……。普通に?」

「は、はぁ……」


 首を傾げるテオに、クリスタは困ったような笑みを浮かべるしかない。理解してくれなかったと気がついたテオは説明をし直す。


「あ、いや。普通にっていうか、ただ単にアイテムボックスの中に収納しただけなんだが?」

「……敵の持っている武器を、ですか?」


 何が不思議なのだろう? テオは不思議に思う彼女の方が不思議でしかたない。


「収納できない理由が無いだろう? ドラゴンみたいに収納に抵抗するっ事も無いし」

「ああ……。テオ様はドラゴンキラーでしたね……」


 納得した様子のクリスタに、テオは釈然としないものを感じる。聞いていた他の者もほとんどが納得しているようだ。


 ドラゴンをたとえに出して普通を語った所で、基準がズレているとしか思われないだろう。その事にテオは気が付かず、キリクに視線を向ける。


「ギルマス。武器はこいつを使うか? 木の枝よりはマシだろうと思うが?」

「いや、そいつは証拠品だ。テオお前が保管してろ。お前なら奪われる事もないだろう。

 俺はこの木の枝で十分だ。なかなか具合がいい。そこそこ力を入れて振っても折れん程度には丈夫だし、特に小細工をしないでも相手が死なないからな。生け捕り用のエモノにしては上等だ」

「気に入ったのならあげますよ」

「そうか、そいつは悪いな」


 テオはもう一度武器をアイテムボックスの中に収納しながら彼に言う。同じような木の枝なら中に他にもたくさんある。キリクは子供のように笑った。

 そして、彼はクリスタに向き直り、真剣な口調で告げる。


「クリスタ様。どうやら襲撃者には別働隊もいると思われます。このままこの貴賓室に籠るのは危険だと思われます。

 現在ギルドの冒険者の警備は、商品の引き渡しの為に貴賓室周辺から離れた場所に集中しています。

 御身の安全の為にまとまってそちらと合流をしてよろしいでしょうか?」


 クリスタは戸惑った様子でレベッカに助けを求める視線を向ける。

「当家の商品の引き取りの為の別部隊もそちらにおります。ギルドの方々と共に移動なされた方がよろしいかと」

「……分かりました。よろしくお願いしますキリク様」

「承りました」


 ペコリと頭を下げるクリスタに、キリクは自信満々に引き受けた。移動する際の隊列をテキパキとその場にいる者たちに指示し、大体の移動経路も指示をする。

 キリクが先頭となり、兵士達でクリスタを含む非戦闘員を囲む隊列だ。最も安全な位置にクリスタを置くのは当然の事だ。


 隊列移動時のテオの位置は、先頭を行くキリクのすぐ斜め後ろだ。敵がいたら、武器を奪う援護をしろとの事だ。


「ああ、そうだテオ。武器と一緒にそいつらもアイテムボックスの中に入れておけ」


 キリクは床に転がる襲撃者を指差しながら、付け加えた。


 テオは驚く。人をアイテムボックスに入れる事ができること自体が、ギルドの者以外には知られては困る情報だ。しかも貴族に連なる者が大勢いる前での事だ。

 しかし、ギルドマスターたるもの、そんな不用心に言ってはならない事を言うとは思えない。

 キリクは言葉を続ける。


「長時間、アイテムボックスに入れておくと死ぬっていうのは知ってるが、この劇場を脱出するまでの話だ」


 ああなるほど。テオは彼の意図を把握した。

 テオのアイテムボックスは人を入れる事は可能だが、そのまま中で死にかねない危険がある。その事を貴族に連なる者の前で口にする事で、長時間、長距離の大量人員の移動には使えないと、知らしめて置けと言う事か。

 テオは彼の意図に乗ることに決める。


「まあ、中に入れたら一度に全員が死ぬってわけじゃないかならな。一人二人が死んでも、その時に出せば問題ないかな?」


 部屋の中に押し入った襲撃者は全員で九人。その中の生き残りは五人だ。キリクに殴られた者は三人全員が生き残り、兵士に相対した者は運の良い者だけが生き残った。


「できるだけ死人が増える前に出せ。そいつらは貴重な情報源だ」

「了解。気をつける」


 気をつけるもなにも、どれほど入れておいても死にはしないだろう。ギルド関係者以外に見せるためのお芝居だ。

 テオが生き残りに手を伸ばすと、次々に消失していく。ついでに、死体も収納していく。


 その光景を目の当たりにした伯爵家の者達はそろって顔色を悪くする。


「あの、テオ様。生きた人をアイテムボックスの中に入れることができるのですか?」

「短い時間ならね。長時間になると命の保証はできない」


 クリスタの問にテオは端的に答える。その間に全ての襲撃者の収納が終わり、その場には血痕だけが残された。


「さっさと並べ。時間を潰している暇はないんだ」


 キリクの言葉にテオもクリスタも慌てて隊列の指定の位置に付く。


「よし、行くぞ! しっかりとついて来いよ!」


 キリクは号令を発すると同時に、部屋のドアを開けて部屋を出る。他の者たちもソレに続く。

 部屋の外は凄惨な戦いの痕が残されている。伯爵家の兵士血にまみれたの死体が転がっている。その数は三体。抵抗の痕跡は在るが、やられてしまっている。


 テオは変わり果てた彼らを見て、顔色を蒼白にしつつも、気丈に立つクリスタに尋ねる。


「……クリスタ様。彼らも俺のアイテムボックスに収納しておきますか? 後で人を回して遺体を回収するのでも、構いませんが」

「……お願い、できますか? 彼らも早く、私どもと一緒に家に戻してやりたいですから」

「分かりました」


 話をしている内に、浸透方式で三体の遺体を指定していたので、遺体の回収は一瞬だ。彼らも持っていただろう床に転がっている武器も共に回収した。

 その場に残ったのは大量の血痕だけだ。


「良し! この近くにはまだ居ないらしい。行くぞ!」


 テオとクリスタのやり取りに、周辺警戒をしていたキリクが遺体の収納が終わった途端に出発の合図と共に歩き出す。


 隊列の歩みが遅くなる一番の要因は、伯爵家のメイドの怯えた足取りだ。

 しかし、キリクの足取りは普通に歩くのとほとんど変わらぬ速さだ。幸い、メイド達の主であるクリスタとレベッカはキリクのペースに遅れないようにしているので、彼女達によって、メイド達も早く歩く事ができていた。


 あと少しで目的地に辿り付きそうになるまで、誰とも遭遇する事はなかった。

 と、曲がり角でキリクは後続を手で制して立ち止まる。彼は小声で告げる。


「この先で、どうやら、襲撃者と警備の者が遠距離攻撃合戦の、にらみ合いになってる」


 ちょうど、襲撃者の後ろ側に出る形に自分達はいる。襲撃者をなんとかしないと、警備の者達と合流できない。


「……迂回することは?」

 レベッカの問にキリクは首を振る。


「それは無理だ。その前に見つかる。この中に遠距離攻撃持ちはいるか?」

「いえ。劇場内の警護でしたので、こっちの部隊は近距離ばかりです」


 兵士の隊長がキリクの問いに答える。


「ちっ。おれが突っ込むしか無いか。ちょっと遠いんだがな……」

「ギルマス。そのまえに、俺に状況を見せて下さい」


 提案するテオからは、戦況が角の死角になっている。


「なんとかできる手があるのか?」

「実際見ないことにはなんとも……」

「……あまり顔出すなよ。見つかる」


 場所を譲られて、テオはその先を覗き込む。確かに襲撃者との間には距離がある。そして人が隠れられるような物陰は無い。

 見つかる前に頭を引っ込めて、キリクに言う。


「多分、なんとかなります」

「よし! なら、なんとかしろ!」

 打てば響く返事に、テオは従う。


「ちょっと待って。準備が必要だから」


 テオは死角越しに(ゲート)を作る。その門は通常の(ゲート)では無く。細長い帯状門(リボンゲート)だ。


 テオの手の先から伸びる帯状門(リボンゲート)は死角となっている壁を突き抜ける。

 帯状門(リボンゲート)を知覚できる者は襲撃者達の中にはいないようだ。それでも見つかる危険を避けて、天井をはうように彼らの近くまで届かせる。


 ここまでは、彼らの姿が見えない死角になっている位置から可能だったが。これからは彼らの位置を見ながらでないと無理だ。

 そっと覗いて、彼らの位置を確認しながら帯状門(リボンゲート)の配置を行なう。数秒で見つかること無くそれは終了した。


「準備できた。ギルマス。合図をしたら突っ込んでください。俺の攻撃だけじゃ全員の無力化は無理だと思うので。できるだけ静かに接近してください。注意を引く事位はできるので」

「わかった」


 突撃する構えを取るキリクにテオはカウントダウンを行なう。


「では行きます。3、2、1、0!!」


 0カウントの瞬間、キリクは足音を立てる事無く襲撃者達に突撃する。


 静かなキリクの突撃に対して、襲撃者達は、突然自分たちに降り掛かった出来事に動揺した。


「な、なんだ!? 木の枝?!」


 突然自分たちの間に長い木の枝が出現したと思ったら、その木の枝が独りでに縦横無尽に暴れまわり、仲間たちを叩きのめしていったのだ。


「行け! 『剣の舞』!!」


 暴れまわる木の枝はテオの攻撃。『剣の舞』と名付けた技だ。

 まず帯状門(リボンゲート)で敵の周囲に縦横無尽に曲線を描く。剣ならば柄の部分のみをアイテムボックスに半端に収納して、刀身部分を現実世界に現出させる。

 後は、帯状門(リボンゲート)のレールの上を勢い良く走らせるだけだ。


 今やっているのは、襲撃者達の近くで排出した木の枝を、全ては排出せずに剣として躍らせているだけだ。


 襲撃者達は、人の振るう武器ならばあり得ない動きに戸惑い、次々に打ち倒されていく。

 しかし動きの奇妙さはともかくとして、鋭さは無い木の枝の動きを見切って避ける者も居た。


 『剣の舞』の弱点として、前準備として帯状門(リボンゲート)の設置が必要な事と、テオ自身に剣を振るうセンス方面での能力が無いために、素人が振り回す程度の攻撃にしかならない。


 ある意味、ネタ技にしかならない『剣の舞』だが、陽動としては効果的だ。縦横無尽に暴れまわり、何時自分に襲いかかって来るか分からない存在に注目が集まる。


 その為、静かに突撃するキリクにほとんどの者が接近されるまで気が付かなかった。


「どっせい!」


 キリクは寸前で気が付き振り返った敵の顔に、木の枝を叩き込む。次々に襲いかかる。


 テオも死角から飛び込み、キリクから離れた場所にいる敵の武器を収納していく。その武器はほとんどが杖。魔法を使う為の武器だ。


 魔法は杖が無くとも使えはするが、その威力、命中率は著しく低下する。また、発動に必要な詠唱の短縮も担っている。唐突に杖を失うと、咄嗟には発動に必要な詠唱は出て来ない。


 杖を失った魔法使いが棒立ちになるのはほんの一瞬だが、それだけで十分な打ち倒せる隙きになる。キリクの踏み込みが届くのならば確実に打ち倒された。


 キリクから遠い者は、慌てて逃げ出そうする。しかし、キリクはこの街の冒険者にとっての有名人だ。


「ギルマスだ! ギルマスが応援に駆けつけてくれたぞ!」


 襲撃者と相対していた警備の冒険者達が沸き立つ。


「ギルマスを援護しろ!」


 相対していた警備側から複数の魔法が飛ぶ。水、氷、光、土などの属性を持った魔法の矢だ。

 火属性の魔法は無い。屋内で使ったら火事になる。

 魔法による攻撃によって直接倒される者は居なかったが、その援護は戦局を決定づける一撃となった。


 キリクによって数を減らされた襲撃者達は、膠着して攻めあぐねていた警備側からの攻撃にロクに反撃ができない。

 その隙きに、警備側から突撃する者たちが現れる。

 崩れかかった中に近接戦闘要員に突入されては、襲撃者達に持ちこたえる事はできなかった。


 オークション会場の襲撃事件は、その戦闘の終了を持って終息した。



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