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03話 ギルドマスター『荒くれ者の頭目に、――――』



 真紅を身に纏う竜(レッドドラゴン)のオークションは劇場を借り切って行われる。


 冒険者ギルド主催のオークションには多くの人々がやって来ていた。


 ヴェルナーさんが待っていると劇場入り口の受付で聞いた。彼に会いに行くとフォーマルな服に着替える事になった。

 ドラゴンキラーとして人前に出されるかと警戒したが、今回のオークションでは、参加者全員が礼服の着用が義務付けているのだそうだ。


 オークションの順番はまずは価値が低い部位から順番に、行われる。

 とはいえ今回のオークションの商品は全て真紅を身に纏う竜(レッドドラゴン)だ。価値の低い商品と言えど、大金が動く。

 そんな大金を動かす人々がこの場に集まっているのだ。当然、それに相応しい服装が求められる。

 オークションの参加者に身分の制限は無いが、お忍びで参加している貴族の方も数人いらっしゃるそうだ。


 貸衣装に身を包んたテオはホールで一人、集まった人々を見ていた。

 集まっている人々の視線は、解体され、商品となったドラゴンの身体が一部だ。

 鱗、牙、角、頭骨、頭部の皮、眼球、見栄えのする商品が、まるで美術館の展示物のように飾られている。

 警備の者に守られているとは言え、ここまでの至近距離でドラゴンの身体の一部を鑑賞できるのならば、それだけで高い入場料を支払う価値がある。

 これらの商品は、オークションの最後の方に出品される。


 見映えのしない商品は別の場所で、求める者達の厳しい目で値踏みされていることだろう。そちらの商品は、肉、骨、皮、内蔵、その他だ。単純に見映えがしないだけで、予想価格が低いというわけではない。


 テオはホールの中の美術品とも思える商品を、時間つぶしに見て回る。

 と、不意に呼び掛けられた。


「あ、テオさん」


 振り返ると、知らない金髪の美少女がいた。どこかの貴族の令嬢だろうか、シンプルとも思えるドレスに身を包んた、美少女だ。

 そんな少女が小さく手を振りながら、笑顔で近づいて来る。


 ――え? 誰だ?


 テオは戸惑う。貴族の令嬢などに知り合いなどは居ない。マジマジと少女の顔を見て、こんな美少女が知り合いに居たかどうかを考える。

 彼女はテオの表情に、自分の事を分かっていないのかと首をかしげた。


「えっと? テオさん? 私の事分からないんすか? イーリスっすよ?」

「――え!?」


 驚きの表情で改めて目の前の少女を見やる。言われて見れば確かにイーリスだ。

 イーリスの着飾った姿だった。


「……いや、驚いた。本当に。馬子にも衣装ってやつか……」

「失礼な事言うっすね。私はどんな時でも、美少女っすよ」

「その格好はどうした?」

「ああ。貸衣装っすよ。似合うっすか?」


 ニヘラと笑って、ドレスを見せつけるようにくるりと回る。


「ああ。確かに似合う」


 テオは彼女を褒めるが、何故だろう。イーリスが口を開いた途端、残念だという気持ちが湧いて出たのは。


「えへへ……」


 褒められて照れる彼女に、テオは美少女のイメージを崩さないでくれと思いながら聞く。


「イーリスの方もヴェルナーさんに呼ばれていたのか?」

「え? 違うっすよ。私は警備のお仕事っすよ?

 今回のオークションはギルド主催っすから、警備は冒険者がしているんすよ」

「警備? いや、確かに冒険者らしい格好をした人物が多く立っているのを見かけるが……。警備なら、なんでドレスなんて着てるんだ?」

「こういった場所に、むさ苦しくて、みすぼらしい格好をした冒険者ばかりにするなって前に文句があったらしいっす。

 それで、綺麗どころの冒険者はおめかしして警備することになったんすよ」


 確かに彼女は見た目だけなら華やかだ。


「テオさん。ヴェルナーさんにテオさんを案内するようにと言われたっす。私についてきて下さいっす」


 イーリスについて行き、控室の一つに案内された。


「イーリスです。テオさんを連れてきました」


 イーリスに続いて部屋に入ると、ヴェルナーともう一人、知らない人物がいた。年かさの男だが、ヴェルナーに比べると筋肉によって身体が分厚い。


「イーリス君ありがとう。さてテオ君。まず座ってくれ」

 ヴェルナーに勧められるままに、ソファに腰をかける。イーリスはその隣でひかえている。

 ヴェルナーは自分の隣、テオの対面のソファに座るもう一人を紹介する。


「彼を紹介しよう。彼は冒険者ギルドのゲディックの街の支部長。いわゆるギルドマスター、キリクだ」


 キリクという名のギルドマスターはじろじろとテオを観察していた。


「……お前が【竜牢】か。……本当に新人にしか見えないのだな……」

「俺は新人ですよ。それより二つ名で呼んで欲しくないんですが」


 テオの抗議にキリクは鼻を鳴らす。


「はっ。諦めろ。二つ名持ちになった以上、それ以上の名声か悪名を高めない限り、これから先ずっとその名で呼ばれるんだ。

 公式書類には本名の方より、二つ名の方が有名になる。

 お前も聞いたことがあるだろう?


 【聖剣】【炎杖】【氷姫】


 二つ名は有名でも、こいつらの本名を言えるか?」


 その名は聞いた事がある。隣国との戦争で名を挙げた者の二つ名だ。けれど確かに、本名の方は聞き覚が無い。


 テオは首を振った。


「いいえ。それでギルドマスターはこんな所で俺に、何の御用なんですか?」

「こんな所とはよく言う。この劇場はゲディックの街じゃ、一番格式の高い会場だぞ?」

「ギルド所属の冒険者が、ギルドマスターと劇場で初顔合わせはおかしいでしょう。

 普通ならギルドの方で顔を合わせるのが先でしょうに」


「まあ確かな。俺がお前とこんな所で初顔合わせになったのは、俺の方の予定が会ったからだ。ここしばらくはゲディックを離れていたからな。戻ってきたのは昨日の夕方だ。


 予め、概要は出先で聞いたが、詳しくお前の事を聞いたのはそれからだ。

 お前さんを呼んだのは、いくつか用があってな。

 まずはいくつかの疑問点を解消したい」


 乱暴な口調だったがどこか暖かみのあったキリクの言葉は途端に鋭いものに変わる。


「お前さんのスキルはアイテムボックス一つだけ。それに偽りは無いな?」

「ステータスオーブをどうやって誤摩化すんですか……」

「まあそうだ。そこは前提だ。だが、おまえさん。誤摩化している事があるだろう?

 お前のアイテムボックスの容量の話だよ」


「……ギルドは気がついた上で、あえて聞いて来なかったんだと思っていたんですけど?」


 テオと直接交渉や、事情聴取をしたヴェルナーに視線を向ける。

「ええ。その傾向はありました。自分の手の内を知られたくない者は多いですし。無理に暴こうとすれば、ドラゴンキラーがどこかへ行ってしまう可能性もありましたしね。

 あえて聞かない事でこのゲディックの街のギルドは居心地がいい場所として認識して貰った方が、どちらにとっても良い結果をもたらしますから」


 ヴェルナーの説明に、テオは疑問の視線をギルドマスターに向ける。


「まあ確かにそうなんだが、そうも言ってられん事になった。

 貴族の間で、ドラゴンを殺せるような戦力を持った冒険者を手元に置いておきたいって話が、ここしばらくずっとくすぶっているんだ。


 そんな中に現れたドラゴンキラーだ。今は大丈夫だろうが、そのうちにウワサは広まって、お前さんを確保しようとする動きが活発になりかねん。

 ギルドとしては、貴族連中にギルド員たるお前さんを渡す気はない。

 お前さんは二つ名を持っていると分かった時点でEランクになったからな。Fランクのままだったら、ギルドが守る事は難しかっただろうが……」


 冒険者ギルドは、社会の救済システムの一端を担い、食い詰めものをFランクにして、糊口をしのぐ手助けをしている。

 Fランクは、街の周囲で無限湧きするモンスター――スライムやキラーラビットなどの間引きをする存在だ。

 しかしそれは同時に、危険な仕事をあてがう事でFランク(食い詰めもの)自身の間引きが行われているのと同義でもある。

 ギルドは困窮する全ての者を救済する事などできないのだ。


 その為、冒険者ギルドはFランクを守る事は基本しないし、またできない。


 ギリギリで冒険者ギルドから切り捨てられるFランクを脱して、守られる立場(Eランク)になった事に、テオは安堵と同時に背筋に冷たいモノを感じた。


「まあ、しかしだ。いくらEランクの、ギルドとして確保しておきたいドラゴンキラーだとしてもだ。正確な情報が無いと守る事もできない。

 だから今までお前がギルドの方に誤摩化しておいた事を、あえて聞いてるのさ」


 キリクにジッと見据えられる。見返していたテオは、やがて目を伏せ、ため息をつく。


「……まあ、仕方ないですね。こんな事になるだろうと思っていたから他の人にも功績を押し付けたかったんですけど……」


 チラリと隣にいる、退出する時を見誤ったイーリスに視線を向ける。


「いや、私もこんな事になるのは嫌っすから強行に否定したんすよ。そもそも、ギルドの方も私に功績は無いって認定してくれたじゃないっすか」

「実に残念だった」

「その分、ドラゴンに関する報酬は一切無いんすが?」


「……大金が手に入るなら、一緒に厄介事のドラゴンキラーになってくれたのか?」

「お断りっす!」


 速攻で断固として断られた。


「そっちの綺麗なお嬢ちゃんもギルド員か?」

「ええ、彼女はEランクのイーリス。一度はDランクに上がりましたが、ストークベアのトレイン事故を起こしかかけまして、テオ君に助けれらて居ます。

 その後、ペナルティによってEランクに降格。無償奉仕の一つとして蛙狩りに参加。そのまま真紅を身に纏う竜(レッドドラゴン)に遭遇しています。

 報告によると彼女はドラゴンに襲われた時、最も近い位置に居て、テオ君にまた命を救われたようです。

 ギルド内では、テオ君の最も親しい人物でしょうね。他所での人間関係はいまだ分かっていませんが……」

「なるほど……」


 ヴェルナーの小声の説明に、キリクは一つ頷いた。

 じゃれ始める二人にキリクは制止する。


「まあ、遊ぶのは後にしろ。それでテオよ。お前さんが誤摩化している事を教えて貰えるか? お前のアイテムボックスはどれほどの容量が在る? 最低でも真紅を身に纏う竜(レッドドラゴン)一匹に、そいつに一撃をかませるドラゴンと同じ大きさの巨岩が入れられるって事は分かっているんだ」


 イーリスが戸惑った様子で聞いてくる。


「えっと。私は部屋を出た方がいいっすかね……?」

「テオがいいなら、ギルドとしては構わんぞ?」

「俺も別に構わない。

 どの道いずれはバレると、ドラゴンに一撃かました時から覚悟してた。二つ名持ちになって注目されてるから、これから先バレないとも思えない。

 イーリスは巨岩を直接見てるからな。言いふらさないなら居てもいい」


 テオの言葉に、キリクはずいっと身体を乗り出し聞いた。


「で、容量はどれくらいある?」

「分からない」

「……ん? どういうことだ?」


 端的に答えたテオに、その場の全員が首をかしげる。

 テオは改めて正確に答える。


「俺のアイテムボックスの倉庫――俺はもう保管世界(ストレージワールド)と呼んでるんだが、容量限界っていうのは多分無いと思う。

 巨岩以外にも大量の空気を入れてあるんだが……。その空気の量だけで、多分このゲディックの街をすっぽり覆えるくらいはあると思う。

 それだけ入っていても、容量を削っているって言う感覚すら無い。


 下手したら、この世界一つがまるまる入るんじゃないと、最近は疑っている」


「…………」


 キリクは無言でテオを見た。


「あと多分、これから聞かれると思うから先に言っておくけど。火竜の吐息(ファイヤーブレス)も収納してる。

 やろうと思えば、今ここで真紅を身に纏う竜(レッドドラゴン)の本気の一撃を再現できる」


 ガタガタッっと近くに置いてあった椅子を倒して、隣にひかえていたイーリスが壁に貼りつていた。その顔は引きつっている。


「……マ、マジっすかそれ?」

「マジだ。そもそも、俺に使えるのはアイテムボックスだけなんだ。

 俺にできる事はモノを入れる事と出す事だけ。

 防御魔法なんて使えない。

 自分に向かってくる火竜の吐息(ファイヤーブレス)なんて脅威を防ぐには、アイテムボックスの中に入れるしか方法が無いんだ」


「……それで、火竜の吐息(ファイヤーブレス)をアイテムボックスの中に入れる事で防ぎ、襲い掛かってくる真紅を身に纏う竜(レッドドラゴン)もアイテムボックスの中に入れたというわけか」


 眉根を寄せて、誰かを絞め殺すクマのような様子でキリクはつぶやく。


「……つまりそれは、お前さんが死ぬ時は、辺り一面火の海になると言う事か?」

「なんとかそれは防ぎたいんですけどね。

 ですけど、火竜の吐息(ファイヤーブレス)は破壊力の大部分を収納してしまったから、下手に出す事もできないんですよ。

 ドラゴンを捕まえた時の周辺被害は、ただの余波で。破壊力の九割以上はアイテムボックスの中です」


「え? アレが、一割以下の被害っすか?」


 直接見たイーリスはその顔色を青くする。


「残念ながらな。

 俺は三発、火竜の吐息(ファイヤーブレス)を収納しましたけど……。

 本気の一発目を百としたら、焦った末の二発目は七十。ヴェルナーさんも見た首だけの最後の三発目は二か三でしょうね。

 一応、小出しには出せるんですけど。元の力が強すぎで、どれくらいの火力になるか把握しきれてないんで、まだ試していません」


 先日、新たに判明した『Eの項目』にて、熱エネルギーの量を細かく設定できるのならば、安全に排出できるかもしれない。だが、そちらの方もまだ試していない以上、不正確な事は言うことはできない。


「二つ名だけでも問題だっていうのに、そんなもんも抱えてやがるのか……」

「……【竜牢】とは言い得て妙な二つ名だと言う事ですね。『竜を捕らえた者』という意味だけではなく、『竜の力を閉じ込めている』という意味もある」


 キリクのうめき声に、ヴェルナーの呆れた様子の言葉続いた。

 テオは反論したいと思ったが、うまいことを言うと一瞬納得してしまった。

 火竜の吐息(ファイヤーブレス)に比べると大した事がないので言っていなかったが、竜の咆哮(ドラゴンロア)も収納済だ。

 ヴェルナーの言うことはとても正しい。


「ともかくだ。テオ。お前は【竜牢】という二つ名に相応しい人間だという事だ。

 自覚を持て、そうでないとこちらも対応にこまる。

 それで、お前、他にも何か有るのだろう?」


 言いがかりにも近いキリクの問いかけだが、その勘は正しい。


「他にもって言うと、入れたモノを凍らせる事、熱くする事ができるって機能が、アイテムボックスの標準機能だという事が判明したことか?


 それとも、生き物を長時間入れて置くと死にかねないって話は、一度その例があっただけで……。今じゃ多分、どんな生き物でも長時間入れても平気だと思う事か?」


 ギルド職員の2人はテオの言葉にドンドン顔色を悪くしていく。そして最後に付け加えた事柄に、表情が凍りついた。


「それとも、おそらくだが、俺のアイテムボックスの能力は、他のアイテムボックス持ちにも再現可能だって事か?」



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