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産廃スキル『アイテムボックス』しか使えない俺が、何故か魔王と呼ばれるその日まで。  作者: 雪月 智也
第一章 〇〇殺し編  新人冒険者の俺が〇〇殺しとなるまで
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16話 『竜殺し編』エピローグ 報告



「テオ君。君は、この部屋にやって来るのが好きなのかね?」


 頭を抑えたヴェルナーはそう居並ぶ者たちを前に、思わず皮肉を口にした。


 ここはゲディックの街の冒険者ギルドの一室。テオが『スライムの目玉』の盗難疑惑を問い詰められた部屋だ。


 デスクの向こうの椅子に座るヴェルナーの前にはテオ、カール。そしてイーリスの三人が並んで立っている。


「好きなわけ無いでしょう」


 テオは思わず答えた。

「そうだな。そうだろうとも。この部屋にやって来る冒険者は問題を起こしたか、その関係者だけだ。この部屋が好きな冒険者など居ないだろうな。

 だがな、思わずそんな皮肉を言いたくなる気持ちもわかるだろう?」

「いや、そんな事いわれても……」


 ヴェルナーの嘆きの言葉に、テオは小さくもらす。

 まあいいと、ヴェルナーは溜息をつくと、改めてカールを見直す。


「それで。カール君。改めて聞くが、この報告は事実なのかね?」

「事実です。ポイズントードの捕獲作業中、真紅を身に纏う竜(レッドドラゴン)による襲撃を受けました。

 こちらの被害は竜の咆哮(ドラゴンロア)による精神的なモノを除けば、死傷者は0人。ポイズントードの群れに多数被害が出ております」


「ああ、そこの点はいい。次回の蛙狩りはポイズントードの数を見なければならないが、今はいいのだ。

 今の問題は、その真紅を身に纏う竜(レッドドラゴン)がどうなったのかを聞きたいのだ」


 すでに一度、彼に聞いているが、改めてカールに問う。


「は。真紅を身に纏う竜(レッドドラゴン)はテオのアイテムボックスにより、捕獲されました」

「……。

 聞き間違居では無いのか……。


 では続いてテオ君。君はその捕まえた真紅を身に纏う竜(レッドドラゴン)をどうしたと言ったのかね?」


「昨日の夜。野営場にて、ドラゴンの殺害に成功しました」


 テオの真剣な面持ちの報告に、ヴェルナーは額を抑える。


「……事実、なのかね?」

「ドラゴンが首を切断されても生きているっていうのなら、殺害には成功してません。

 けど、ドラゴンも首を切断されれば、死ぬでしょう?」

「……そうだな。どんな生命力の高いドラゴンでもゾンビでもない限り、首を落とせば死ぬな」

「なら、殺害に成功したことになります」

「……証拠は?」

「アイテムボックスの中に真紅を身に纏う竜(レッドドラゴン)の生首と胴体。まるまる残ってます」


「見せられるか?」

「ここでですか? 止めといた方がいいですよ」

「何故だ?」

「この部屋は狭いし、危険です」

「狭いのは、まあわかるが、危険?」


「俺のアイテムボックスは保存の力が働いてますから、ドラゴンは首を切り落とされた直後の状態なんです。

 ただの蛇でさえ、首を切り落とされてしばらく経ってから人に噛み付いたって話もありますし……。

 生命力の凄まじいドラゴンが、首だけで火を吹いたとしても俺は驚かないですよ?」


「確かに……相手はドラゴンだ。頭部だけでも油断するべきではないか……。

 所で話は変わるが、何故イーリス君も一緒に居るのかね?」


 カールが居るのは蛙狩り隊の隊長として責任があるためだし、テオはドラゴンを捕らえ殺害した当事者だ。しかしイーリスは蛙狩り隊の一員だが、それだけだ。彼女一人だけをこの場に連れてくる理由にはならない。


「私も一緒に来たくはなかったっすよ……。と言うかそれは私のセリフっすよ。

 なんで私もここに居るんすか?」


 彼女の疑問の言葉にヴェルナーに向けて答えたのはテオだった。


「イーリスの助言によってドラゴンを倒せたからですよ」

「え? いや助言って、それはただの雑談をしただけじゃないっすか。

 なんで雑談をしただけ私も功労者扱いをされてるんすか?!」


 イーリスは抗議に、テオは不思議そうな顔をわざとらしく作る。


「いや、そう言われても……。実際、イーリスの話が無かったら『竜断ちの鋏』はできなかったし、立派な功労者だろう?」

「それはテオさんが勝手に作ったモノっすよ! 私をドラゴンキラーの功労者に巻き込むのは止めてほしいっす!」


「いやいや。イーリスの言葉があったからこそだよ。ドラゴンキラーの栄誉をともに受けようじゃないか」

「あ、テオさんってばドラゴンキラーの厄介事を一人で受けるのが嫌だからって私も巻き込むつもりっすね?!

 そういはいかないっすよ! ヴェルナーさん。ドラゴンを殺したのはテオさん一人の功績っすからね!? 私は何もしてなかったっすからね?」

「いやいや、ヴェルナーさん。イーリスの知恵があったからこそ、ドラゴンを殺せたんだです。しっかりと彼女の功績も評価してあげてくださいね。俺の功績は評価しなくてもかまいませから」

「何言ってるんすかーっ! 人に功績を押し付けるのは良くないっすよ!」


 思わず本音が漏れたテオの襟首を、イーリスは掴みガックンガックンと揺さぶる。


「素直に功績を受けとっておけ。お得だぞ?」


 テオはしれっと言うが、その手は彼女の揺さぶる手を必死になって引き剥がそうとしている。残念ながら二人の腕力に大した差は無く、攻防は拮抗する。


「お得なら、テオさんが一人で受ければいいじゃないっすかっ……!」

「いやいや。一人で受けるなんて、イーリスの功績をないがしろにするなんて畏れ多い。是非とも受けていただきたく……!」


「オホンッ!」


 咳払いに、二人は動きを止める。視線を向けると、ヴェルナーの怒りの視線に晒された。


「じゃれ合うのもいい加減にしたまえ。功績をどう評価するのはギルドの仕事だ。君たちは正確な報告をしてくればそれで良い。


 それでカール君? イーリス君がここに居るのは何故だ? 功績を押し付ける為だけとう言うわけではないのだろう?」

「は。蛙狩り隊の中で、テオがドラゴンを殺した事実を知ってるのが、この三名なのです。


 他の者はテオが真紅を身に纏う竜(レッドドラゴン)をアイテムボックスの中に捕まえたと事実を知っています。ですが、殺害の事までを知ってるのはこの三名だけです。

 私が知ったのはテオから、ドラゴン殺害の報告を内密に受けたからです。

 イーリスも先の助言の事もあり、彼から教えられたそうです。そのため彼女もこの場に連れて来ました」

「なるほど……」


 カールの報告にヴェルナーはテオに視線を向ける。


「テオ君。何故彼女にドラゴンを殺した事を教えたのですか?」

「イーリスの助言があったからこそ、ドラゴンを殺せた事は事実です。

 その結果、彼女はすぐに、俺がドラゴンを殺した事を察っした様子だったので、口止めも兼ねて直接教えました」


「イーリス君? テオ君のいう事は事実ですか?」

「確かにテオさんの様子が今朝は変わってて、『あ、もう危険は無いんだな』とは思ったっすけど……。ドラゴンを殺したとまでは……」

「いや、気がついては居ただろ? 直接教えても『あ、やっぱり』みたいな顔してたし」

「テオさん。なんでそこで黙っててくれないんすかっ」

「黙っててもヴェルナーさんに見抜かれるだろうに」

「うーっ!」


 再びじゃれ始める二人に、ヴェルナーは言葉を続けて静止する。


「なるほどわかりました。ではイーリス君も、ドラゴンの死亡確認に同行してもらいましょう」


 彼を先頭に移動する。その途中、テオはイーリスの恨みがましい視線を受けた。


「テオさん。なんで私に功績を押し付けようとするんすか……?」

「功績は事実だろう。正直、イーリスの助言が無かったら、安全には倒せなかった。


 あの助言がなかったら、生きたドラゴンを抱えたまま軟禁生活のスタートだったろうしな」

「いや、だからと言ってドラゴンキラーの功績なんて厄介事の塊じゃないっすか」

「その厄介事からお前一人だけが逃げようとしたから、なんだが?」


 テオは一度半眼で見やった。イーリスは気まずそうに視線を反らした。


 彼女は自分の助言がドラゴンキラーの功績の一部だと気がつくと、すぐに離れようとした。そんな彼女を捕まえ、この場につれてきたのはテオではなく、カールだ。ドラゴンの殺害の事実を知っているだけではなく、正確な経緯を説明させるためだという。


 テオは疲れた、ため息を漏らす。


「まさか、ドラゴンを生かしたままにするのと、同じくらいの厄介事になる思わなかった……」


 ドラゴンの殺害自体は、なんの問題も無く、本当に拍子抜けするくらいアッサリと終わったのだ。

 問題はドラゴンを生かしたままにしておくと発生する面倒事から逃れたくて、殺した後の面倒事を考慮に入れてなかった事だろう。


 その後、カールへの報告時に、ドラゴンキラーとなる事の厄介事を教えられて、テオは顔が引きつった。


 王との謁見の義務。ドラゴンキラーの称号授与式の出席の義務。凱旋パレードの参加の義務。高位モンスターの襲撃の際の参戦義務。

 その他、多数の義務と引き換えに、絶大な名誉と僅かな権利を得ると言う。


 ふざけるなと言いたくなる話だ。

 ドラゴンと言えどモンスターの一匹を殺しただけで、何故そんな面倒事になるのか。


 それにテオにとっては、更に面倒な事がある。テオはそれらの義務のほとんどが履行できないのだ。

 昔、アイテムボックスに武器を隠し持ち、王の暗殺に成功した者がいる。それ以来、ほとんどの国で、アイテムボックス持ちは王族、貴族への謁見が禁止されている。この国でもそうだ。


 謁見を禁じられたアイテムボックス持ちに謁見の義務を求めるとは、厄介事の予感がしてならない。


 諦めの気持ちを抱きながら、テオは再び溜息をもらした。道連れを求めても許されると思うのだが……。


 そんな身勝手な事を考えていると、目的地にたどり着いた。


 ギルドのモンスターの解体場だ。多くの作業員が冒険者によって持ち込まれたモンスターの解体作業をしている。彼らの仕事の対象はキラーラビットが多い。まるごと持ち込まれたキラーラビットはここで毛皮と精肉に捌かれて、それぞれの店に卸されるのだ。


 ヴェルナーが連れて来たのは、大多数の冒険者が世話になるその解体場ではなく、その横にある、頑丈な壁に囲まれて隔離されている大型モンスター用の解体場だ。


 扉を開けて中に入ると、中には何もないガランとした広い空間があるだけだ。


「ここでなら大丈夫かい?」


 ヴェルナーの問いかけに、テオは周りを確認する。石作りの頑丈そうな部屋だ。


「ここなら燃える事は無さそうだけど、火竜の吐息(ファイヤーブレス)で吹っ飛びそうな気がするな……」

「流石に頭だけで、あの威力は出ないと思うが……」


 カールは深刻な表情で推測する。


「テオさんの防御があれば、大丈夫なんじゃないっすかね?」

「まあ、それはするつもりだよ。あのドラゴンは頭だけになっても、俺の姿を見つけたら、絶対に攻撃してくてるだろうし」


 相談の結果、なんとか大丈夫だと判断すると、不安そうにするヴェルナーに、ドラゴンの頭を出すこと告げる。


「ヴェルナーさん離れていてくださいね。」

「わかった。ドラゴンの頭を見せてくれ」


 テオが部屋の中央に手を伸ばす。


 今回使用する(ゲート)は二つ。


 一つはドラゴンの頭を部屋の中央の床に設置する排出(ゲート)

 もう一つは、それと自分たちの間に火竜の吐息(ファイヤーブレス)を防ぐ為の収納(ゲート)だ。


 現れたドラゴンの頭は、己の身に何が起きたのか理解はできてはいない様子だった。


「……まだ生きてる……」


 その呟きを漏らしたのはカールだ。イーリスは顔色を悪くし、ヴェルナーは本当にドラゴンの首を見せられ驚愕する。

 テオは、ジッとドラゴンの頭を見据えていた。


 ドラゴンの頭はテオの姿を見つけ――その瞬間、その瞳は憤怒に染まる。そして口を開く。


「全事象収納!!」


 ドラゴンとの間に開いている収納(ゲート)が漆黒に切り替わる。吸引力も部屋に被害をもたらさない形で、最大にする。


 次の瞬間、轟音が響いた。


「ひぃぃぃぃ!」


 イーリスはテオの背後でうずくまり、悲鳴を上げた。


 しばらくすると、その轟音は止む。


 テオは三度目の火竜の吐息(ファイヤーブレス)を収納する。

 収納により、炎の威力を正確に知覚できるテオは、威力、継続時間、共にあまりにも小さいと感想は抱いた。


 漆黒の(ゲート)は光を透過する。

 その先にあったのは、灼熱した石の床と、その先に瞳の光を失ったドラゴンの頭だ。


「……これが火竜の吐息(ファイヤーブレス)か……」


 驚愕に言葉をもらすヴェルナーにテオは首を振った。


「いえ、これは大した威力じゃ無いです。五体満足のドラゴンの火竜の吐息(ファイヤーブレス)はこの百倍は威力がありましたし」


 その証拠に、今回は危険な熱量をもった空気は少ない。大量の空気を収納せずともすぐに冷えるだろう。


「そうか……しかし、本当にドラゴンキラーになっていたのだな……」

「できれば目立ちたくないのですけど、なんとかなりませんかね?」

「諦めたまえ、ギルドもこれから大騒ぎになるのだ。その騒ぎの中心人物が、騒動に無縁で居られるわけ無かろう?」


 ヴェルナーの言葉にテオは諦めのため息をついた。



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