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産廃スキル『アイテムボックス』しか使えない俺が、何故か魔王と呼ばれるその日まで。  作者: 雪月 智也
第一章 〇〇殺し編  新人冒険者の俺が〇〇殺しとなるまで
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13話 決着



俺の世界(アイテムボックス)に引きずりこんでやる!」


 収納吸引力を再び最大にする。

 対象は当然片腕を突っ込んだ間抜けなドラゴンだ。


「ギヤォォォンッ!」


 咆哮と共に、ドラゴンは暴れだす。残った前脚と後ろ脚で後退しようとするが、体勢が悪い。火竜の吐息(ファイヤーブレス)と全事象収納の(ゲート)の為に、(ゲート)のドラゴンのいる側は大きく地面を削られている。

 残った前脚と長い首の先にある頭を、ドラゴンには見えない存在するであろう(ゲート)に触れないようにすると、どうしても力が入らない体勢だ。


 ドラゴンは残った後ろ脚と翼を用いて後退しようとする。


 力強く羽ばたかせるが、巻き起こる風は(ゲート)が吸い込み続ける暴風には劣る。


 後退に使えるのは後ろ脚だけだ。けれど――


「――嘘だろ!? これでも引きずり込めないのか!?」


 (ゲート)の吸引力は鉄を引き千切るだけの力が最小限だ。最大になるとどれほどになるかテオでも理解できていない。

 今現在の吸引力は、鉄を引き千切る力の数十倍は確実に出ている。


 なのに、引きずり込めない。


 単純な力だけの問題じゃない。


 (ゲート)に触れているドラゴンの腕の表面に、なにやら弾かれている感覚があるのにテオは気がつく。


「ガォォォォォォォンッ!!」


 竜の咆哮(ドラゴンロア)が放たれる。


「やっかましいっ!! 抵抗してないで、さっさと中に入りやがれっ!」


 竜の咆哮(ドラゴンロア)に硬直される事なく、テオは興奮する気分のまま怒鳴り返す。

 しかし、頭の片隅は信じられないほど冷たく冷静な部分があった。冷たい思考ではある一つの答えがはじき出されていた。


 このままではドラゴンを(ゲート)に引きずり込む前に、自分の気力と体力が尽きると。


「なら、これでどうだ!?」


 テオはドラゴンを引きずり込む(ゲート)を維持しながら、もう一つ、浸透形式の(ゲート)でドラゴンを収納しようと試みる。


 だが、他のモンスターでは感じた事のない弾かれる抵抗を受けて、上手く浸透させられない。


 その事にドラゴンは気がついた。

 無遠慮にまさぐるように触れる、見えず感じる事も無いはずの二つ目の(ゲート)に、ドラゴンは不快の目をテオに向け、怒りの咆哮を上げた。


「ガォォォォォォォォォォンッ!!」


「くっ……?!」


 竜の咆哮(ドラゴンロア)にテオが硬直することは無かった。だが、テオは戸惑いの声を上げる。


 ほんのわずかだが、二つ目の(ゲート)はドラゴンの身体に浸透していたのだ。けれど、竜の咆哮(ドラゴンロア)が放たれると同時に、一気に引き剥がされた。


 それともう一つ、感じ取った事がある。


 竜の咆哮(ドラゴンロア)が放たれた瞬間、(ゲート)に突っ込まれたドラゴンの腕が、ほんの数センチ引き抜かれた。


 何が起きた?


 テオは動揺する。もしドラゴンの腕が完全に抜け、ドラゴンを自由にしてしまえば、命は無い。


 そんなテオにドラゴンが嘲笑った気がした。


 ドラゴンは息を大きく吸い込む。


 ――火竜の吐息(ファイヤーブレス)が来る。


 動揺していても、わずかに残った冷静な部分が状況を正しく判断した。


「全事象収納!!」


 ドラゴンの腕を引きずり込む(ゲート)が漆黒に染まる。

 次の瞬間、再び火竜の吐息(ファイヤーブレス)が放たれた。


 轟音と強烈な光に包まれる中、テオは思わず笑みを浮かべた。

 一度目の火竜の吐息(ファイヤーブレス)に比べたら大したことがない。一度目を十としたら、今のは五か六の威力しかない。しかも今回は至近距離からの攻撃だと言うのに。


 ドラゴンは疲弊している。もしくは動揺から立ち直れては居ないのだ。


 その事に気がついたテオは余裕を取り戻す。


 ――まだ諦めるのは早すぎる。


 冷静な思考が一つの伝承を思い出させる。

 ドラゴンは息をしているだけで、ありとあらゆる攻撃を弾く魔力を発生させるという伝承が無かったか?


 (ゲート)に引きずり込めないのはその魔力の作用ではないか。


 そして竜の咆哮(ドラゴンロア)によって浸透方式の(ゲート)が弾かれ、わずかでも腕が引き抜かれたのは、その魔力が一時的にも増大した為ではないか。


 もしそうならば、その魔力はドラゴンの意思によって増減する。


 ならば、ドラゴンをアイテムボックスに収納するためには、ドラゴンの意思を失わせなければならない。


 …………。


 ――……どうやって?


 そもそも、ドラゴンの意思を失わせる事が可能であるならば、ドラゴンをアイテムボックスの中に収納しようだなんてバカな事を考えも、実行しようともしない。


 ドラゴンの意思を失わせるような魔法など持ち合わせてなど居ない。世の中に存在している事すら疑わしい。

 もし仮にテオがそんな高度な魔法を持っていたとしても、魔法系のスキルの無いテオには宝の持ち腐れだ。

 テオが持っているのはアイテムボックスと、その内容物のみ。高度な魔法など、テオが持てる代物では無いのだ。


 ――……?


「……あ」


 あった。


 火竜の吐息(ファイヤーブレス)が止む。テオは全事象収納から光のみを透過させる。


 視界を遮る漆黒の壁が消え、未だに健在のテオの姿にドラゴンは不快感を見せた。そして次の瞬間、微かな戸惑いを見せた。動揺し、心が折れかけていたはずの存在が、何故か笑みを浮かべていたからだ。


(ゲート)最大開門!!」


 テオは三つ目の(ゲート)を開く。


 一つ目の(ゲート)はドラゴンの腕を引きずり込み、火竜の吐息(ファイヤーブレス)を防いでみせた収納の(ゲート)

 二つ目の(ゲート)はドラゴンの身体に浸透し、アイテムボックスに送り込もうとする、浸透方式の収納の(ゲート)


 そして今開く、三つ目(ゲート)は、排出の(ゲート)


 その位置は、ドラゴンの上空五十メートル。


 テオが持てる手札など、アイテムボックスとその内容物しか無いのだから。


「排出っ!!」


 テオの声と共に、ソレが排出された。


 その(ゲート)から排出されるのは、テオの今までの人生で、最大のやらかした(・・・・・)成果物。


 直径三十メートルを超える、巨大な岩石だ。


 昔、どれほど大きな物を収納できるのか。テオは村の近くにあった岩山の一部を対象に、収納ができるかどうかを試してみたのだ。

 本当に、これだけ大きな物を収納できるとは思わなかった。しかも、岩山の一部を引き千切る形で収納したために、元に戻すこともできなくなった。

 その後、岩山の一部が無くなっている事が発見され、村は大騒ぎとなった。己のアイテムボックス内部に鎮座する巨大な岩石を、テオは見て見ぬふりをするしかなかった。


 それからテオは巨大な岩石の存在を極力無視してきた。


 けれど今は、それに頼るしか無い。


 慣れた高さである三十メートルが一番確実に命中させる事ができる。

 しかし巨大な岩石が出現する高さはあえて五十メートルにした。それは岩石の直径と同じ高さに排出しては、落下の勢いが十分に得られないと危惧した結果だ。


 頭上に現れた巨岩に、ドラゴンは気がつく。

 空を見上げたドラゴンは、ギョッとした様子で逃げようとする。しかし(ゲート)に片腕を引きずり込まれていては、逃げる事は叶わない。


「ガァァァァァァァッ!!」


 竜の咆哮(ドラゴンロア)が放たれる。だが、それでテオが動揺することは無いし、わずかにでも腕を引き抜けたとしても、ドラゴンは逃げられない。


「もうそんなモノ(竜の咆哮)は慣れた!! 大人しくしていろ!!」


 叫び返すテオの言葉が終わるか終わらないかの頃、巨大な岩石がドラゴンの背に直撃した。


「ガァ……ッ!!」


 轟音と、衝撃に地面が揺れた。

 ドラゴンは生きている。だが、その身体から一瞬力が抜ける。ドラゴンは強制的に大人しくされた。


 テオはその瞬間を望んでいた。


 二つ目の浸透方式の(ゲート)を一気にドラゴンの身体に浸透させる。先程までの弾かれる魔力はほとんど感じられない。

 ドラゴンは全身に(ゲート)が浸透する寸前、その事に気がついた。


 しかし、すでに手遅れだ。ドラゴンの全身に対する、(ゲート)の浸透はもう終了している。


「収納っ!!」


 テオの声と共に、巨岩の下敷きになっていたドラゴンの姿は消失した。


 思い出したかのように、巨大な岩石は消えたドラゴンの空間だけ落下し、地響きを立てた。



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