【第4話】 宴
名札の件は、また別の機会にやります。
「うん? 裸族の男よ、気分でも悪いのか?」
族長サラディンは、射るような眼で俺を睨んだ。
優しそうな言葉と目付きが一致していない。
「い、いや。何でもアリマセン、ハイ。」
たぶん俺は、この時アホ面を晒していたのだろう。
「ラミアの娘については、これで良し!」
「次は、貴様についてじゃ!」
ティナの家出の件については、片がついた。
次は俺の容疑についてだろうか。
心臓が早鐘を打っている。
「貴様も、ラミアの娘と東方へ向かうのであろうの?」
「は、はい。ルルティナ王女様の行き先が、東の国ですので。」
「おお、そうであったの! …して、貴様らの目的は何じゃ?」
俺は、今までの経緯をできるだけ詳細に語った。
……どもりながら。
俺が異世界の出身であること。
ロリ王女様に、魔道書の力で俺が召喚されたこと。
王女様の卷族とされたこと。
蛇娘ティナと王女様側で、行き違いがあったこと。
なりゆきで、俺とティナが卷族の契りを結んだこと…。
……ティナに俺の全裸を晒したことは省略した…。
それから、シャルル王国で反乱があったことも。
結局、東方へ行く目的を明かすことはしなかった。
シャルル王国の現状を知られる事は得策ではないと判断したのだ。
しかし、族長は意外な所に食いついてきた。
……おかげで、うまく誤魔化すことができたのだった。
*
「ふむ。貴様は異世界から来たというのか……面白い!」
「しかし……異世界の者が裸族というのも、不思議な話だな…」
あれ? 何だろう、含みのある言い方だ。
「できれば裸族について、知っていることを教えて頂けますでしょうか?」
「うん? 裸族とは…貴様のような者をいうのだが…。」
「いやいや。見た目とかでは無くて、住んでる国とか…」
「特技だとか、必殺技とか……目からビームが出せるとか…」
「……裸族は国を持たんっ!」
「ひいっ!」
「おお。驚かしてしもうたか。すまんすまん。」
……この族長、声だけでヒトを殺せるんじゃないだろうか?
「…裸族はのう…聖アスラ教会から破門され、呪いを掛けられた者じゃ。」
「……呪い?」
「衣服を着られぬ呪いを掛けられ、辱めを受ける者達のことだ。」
「財産を没収され、国を追い出され、流浪の民となった者達だ。」
「流浪の…民…ですか…」
………。
……ちょっと待て。俺にも、その呪いは掛かっていないだろうな…!?
「それゆえ、聖アスラ教会の支配地で見掛けることは無い。」
「と、いいますと…」
「裸族は魔族の地か、聖アスラ教会の及ばぬ東方を彷徨うことになる。」
「東方はともかく、魔族の地…ですか?」
「ふん! 我ら魔族はヒトは好まぬが、裸族は歓迎するのだぞ。」
「へっ!? そうなんですか?」
「聖アスラ教会に逆らった奴らだ。我らにとっては友人であろう。」
なるほど。魔族の皆さんは、アスラ教がとっても…お嫌いらしい。
「……言っておくがの…」
族長さんの眼に凄味が増した。……たいへん、お怒りのご様子である。
……コワイ。マジでコワイ。
「我ら魔族の者とて、アスラの神を否定している訳ではないのだぞ!」
「聖アスラ教会の教え、そのものが我らの真の敵なのだっ!!」
小屋全体がビリビリと震えた。
あまりの迫力に、ついにティナが気を失った。
俺は必死に耐えたが、そろそろ限界が近い…。
タスケテ… タスケテ…
*
「それぐらいにしてもらおうか!」
小屋の戸口に立つ人影があった。
槍を片手に、仁王立ちするケモ耳の女兵士。
「ナナさん……!」
マジでカッコイイ! ヤバい、惚れてしまいそう!
その姿は逆光でシルエットとなり、神々しささえ感じられた。
ナナさんマジ天使!
「……なんだ? 亜人の娘よ…」
「我らの仲間を恫喝するなど、見逃す訳にはいかん!」
「……ほう。仲間とな…」
「貴様、いい度胸をしているのう。名は何という?」
「シャルル王国、ルルティナ王女親衛隊、ワン族のナナ!」
「ほう、亜人の娘が親衛隊とは…珍しい事もあるのだのう…。」
族長サラディンは愉快そうに笑い声をあげた。
「おのれ! 愚弄する気か!」
ナナさんが槍を構える。
これは……マズい。
……血を見ることになりそうだ。
それだけは避けたい!
……その時、槍を構えるナナさんの横に、もう一つの人影が加わった。
「この者は妾の忠実なる家臣である。侮辱は許さんぞ!」
……ヒーローは遅れてやって来る!
ロリ王女様のお出ましである。きゃー。
小柄な幼女なのに、この威厳。貫禄。
眼力だけは、族長サラディンにも負けていない。
「……ふむ。無礼については詫びよう。」
あっさりと、族長サラディンは頭を下げた。
拍子抜けしたのか、ナナさんは戸惑っていた。
構えた槍を、どうしたものかとアタフタしている。
「王女殿。いや、ルルティナ王女殿下。」
「……妾のことは、ルルで良い。」
「さようか。では…ルル殿。」
「うむ。なんじゃ?」
「そなたらを、我が一族の客人として迎えよう…。」
「えっ?」「えっ?」「えっ?」
……期せずして、再びハモってしまった。
「どうやらワシは、そなたらを気に入ってしまったらしいわ!」
……そう言って、族長サラディンは豪快に笑った。
極度の緊張と緩和。
限界を超えた俺は、そこで意識を失った。
*
「ショータ殿! …ショータ殿!」
……誰かが俺を呼んでいる。
ゆっくりと目を開けると……そこには天使がいた!
「ああ……天使様!」
俺は天使様の胸元に飛び込み、力いっぱい抱きしめた。
顔を豊かな胸に埋め、柔らかな感触を思う存分味わった。
ぐりぐりぐり。
「ななな何をするだぁ!!」
完全に声が裏返っている。
天使様は嫌がる俺を無理やり引き剥がした。
「ねねね寝ボケているのかっ! わわ私はナナだっ!」
俺は天使様の御尊顔をあらためて拝見した。
……ナナさんだった。……うん、やはり天使様である。
いつの間にか兵装を外しており、体のラインがはっきりとわかる。
髪もポニーテールの留め具を外し、ロングヘアーをなびかせている。
ナナさんは整った顔を真っ赤に染め、明らかに動揺しているようだ。
俺は再び天使様を抱きしめ、胸元の豊かな感触を味わった。
ぐりぐりぐり。
「おおお、お前! 起きているんだろ! ワザとやっているんだろ!」
……いや、俺は今、寝ボケているのだ。
幸せな夢を見ているのだ。
夢の中の俺に罪は無い。
俺は……そう…思い込むコトにした!
「あっ!…あぁ…ああぁ!…だ、だめ…い、いや!…あああぁ!」
あれ?……なんか、マズい反応が返ってきている…。
……いつのまにか俺はナナさんを押し倒していたようだ。
さて、どうしよう。困った。
……俺の予想とは違う展開になってしまった。
パンチの一発でも喰らい、正気に戻った俺を罵倒するナナさん。
俺は五体投地で謝罪し、渋々、許してくれるナナさん。
……完璧なストーリーであったはずなのだが。
俺はナナさんから離れようとするのだが、ナナさんが放してくれない。
ナナさんは、俺の頭を抱え込むように抱きしめてくる。
すごい力だ。
あっ! 足も絡めてきた! いかん、完全にロックされた!
俺の貞操が絶体絶命である!
……いかん! 俺も変な気分になってきた!
鎮まれ! 鎮まるのだ、我が分身よ!
*
「……昼間から何をやっているのじゃ、お主らは…。」
『ヒーローは遅れてやって来る!』
……我らがロリ王女様のお出ましである。
一気に力の抜けたナナさんの腕を振りほどき、顔を上げると…。
……かつてない程、冷たい眼をしたロリ王女様がそこにいた。
ナナさんは慌てて半身を起すと、豊かな胸を抱えて顔を伏せた。
顔が真っ赤なのは、恥ずかしいのか、火照っているのか。
両方かもしれない。……どうでもいいが。
それよりも問題は、この場をどう切り抜けるかである。
ロリ王女様の質問には迅速に答えなければならない。
「た、体術の稽古をしていました! で、ですよねぇ、ナナさん!」
ナナさんも、慌てて大きくうなずく。
「………。」
ロリ王女様は無言で俺たちを見つめている。
気まずい空気が流れている。
しかし!
俺は確かにボールを打ち返したのだ!
ボールは相手のコートにあるのだ!
……クソボールだけど。
「まっ、良いわ。…そういう事にしておいてやる。」
ロリ王女様から無罪の評決が出た!
……俺の脳内で、紙テープと花吹雪が舞い踊った。
そこに、『無罪』と大きく書かれた紙を持って走る俺がいた。
「……じゃが、ショータには後で話がある。心しておけ!」
ロリ王女様はそう、おっしゃると憤然と部屋を出て行った。
……どうやら、執行猶予判決だったようである。
裁判長が出て行った後には、未だに気まずい空気が流れていた。
ナナさんが恨みがましい目で俺を見ている。
あー。こういう場合、何て声を掛ければいいのだろう。
DTの俺には経験値が足りないのである。
「き、貴様! な…何か…言うことが…あるだろう…。」
ナナさんは伏し目がちに言ってきた。
……やはり、怒っていらっしゃる。
「はい…。えーっと…」
俺は、テンパってしまっていた。
「あの…。 ナナさん……とっても可愛かったです…!」
「!!!」
ナナさんは、再び顔を真っ赤に染め、涙目で部屋を飛び出していった。
……やはり、俺には経験値が足りなかったようである。
*
ところで、ここはドコなのだろう。
俺とティナが放り込まれた小屋ではない。
調度品は無いが、部屋一面にフカフカの毛皮が敷き詰めてある。
明かり取りの窓もあり、ちゃんとした部屋のようだ。
フカフカの毛皮の上では、ティナが静かな寝息をたてていた。
……先ほどの騒ぎでも目を覚まさないとは、たいしたものである。
起こそうか…と思ってみたものの、面倒くさそうなので、やめとこう。
部屋から出ると、そこは吹きさらしの廊下があり、隣にも部屋があった。
どうやらココは、人狼の村の一軒家らしい。
その証拠に、家の前の広場でチビっ子ウルフ達がいる。
集団で誰かを取り囲んでいた。
手で顔を覆って蹲っているナナさんを、物珍しそうに…。
……ナナさん、元気を出してください。
隣の部屋から、族長サラディンとロリ王女様が出てきた。
……何か話をしていたのだろうか?
……しかし、すごい身長差、体格差である。
それでも、ロリ王女様は臆することなく接しているようだ。
……まさか、本当は50歳とかいうオチじゃねーよな!?
「おお、裸族の男よ。やっと目を覚ましたようだな。」
「あ、はい。……おかげ様で。」
「今宵は歓迎の宴がある。それまで、ゆっくり村でも見物するが良い。」
族長サラディンは、ガッハッハッと大声で笑いながら去って行った。
去り際にちら、と広場にうずくまる女兵士を気にしていたが…。
「ショータよ。お主との話はまた今度じゃ。」
「妾も少し疲れたゆえ、宴まで休ませてもらう。」
「お主はそれまで好きにするが良い。」
小さな欠伸をすると、ロリ王女様は隣の部屋に入って行った。
……あの、ナナさんのコトは無視ですか…。
チビっ子ウルフの一人が、木の枝でナナさんをつついている。
しゃがんでナナさんの顔を、覗き込もうとする奴もいる。
ナナさんの頭を撫でている、優しい子もいるようだ。
……なんだ、人間社会と変わらないじゃないか!
俺は少し嬉しくなった。
*
俺は基本的に子供が大好きである。
別にエロい意味ではない。念のため。
子供の純粋さが、たまらなく好きなのである。
しかも相手はチビっ子ウルフ。
モフりまくってやる!
俺はワザとチビっ子集団の横を通り抜けた。
そのまま、村の中を散策する。
かなり大きな集落のようだ。
村のはずれには大きな建物があり、そこでは牛や豚らしき動物がいた。
その近くには養鶏場らしき建物もあった。
まるでウチの田舎と変わらない。
そこで俺は振り返った。
予想通り、そこにはチビっ子ウルフの集団がいた。
ただし、予想外の大集団であった。
……100人近くいるんじゃないのか?
手前のチビっ子たちが、わっ!と叫んで逃げていく。
……予想通りの反応だが、期待通りでもある。
俺は、わ―!と叫びながらチビっ子集団を追いかける。
キャー!と嬌声をあげながら逃げ回るチビっ子たち。
……なんだろう、めちゃくちゃ楽しいんですが!
俺が立ち止ると、チビっ子たちも逃げるのをやめる。
俺がヒョイヒョイと手招きすると、何人かが駆け寄って来る。
そのうち1人を捕まえ、存分にモフる。モフる。
キャーキャーと喜ぶ声につられ、チビっ子の大集団が突進してきた。
チビっ子ウルフの団子状態である。
俺は片っ端からモフりまくり、勢いに倒されても、モフりまくった。
ぶんぶん、と揺れるチビっ子ウルフ達の尻尾がスゴイことになっていた。
……俺は、天国はここにあったのかと、その時思った。
*
「何を…やって…いるのだ?」
夕方になり、俺を探しに来てくれたのだろう。
ナナさんは俺を見て目を丸くしていた。
日が傾き、ほとんどのチビっ子たちは帰って行ったが、まだ数人が残っていた。
彼らは、地べたに胡坐をかいた俺に、まさに集っていた。
膝の上、肩の上、背中、頭の上にまでチビっ子達が集っていた。
それらを俺は丹念にモフっていたのだ。
キャーキャーと嬌声をあげるチビっ子たち。
ぶんぶん、と揺れる尻尾たち。
ぺろぺろ、と舐められる俺の顔。
「……ショータ殿は、子供が好きなのだな…。」
なぜか悲しそうな顔をして、ナナさんは呟いた。
「???……大好きですよ? …ナナさんはお嫌いですか?」
「そうではないのだが…」
1人のチビっ子ウルフが尻尾を振りながら、ナナさんに走り寄った。
口をパカっ、と開き、嬉しそうにナナさんを見上げるチビっ子。
ナナさんはしゃがみ込み、チビっ子の頭をやさしく撫でた。
「……子供を…捨てるような…親は…」
………俺はナナさんの小さな呟きを、聞き取ることができなかった。
チビっ子が尻尾をぶんぶん振りながら、ナナさんの顔をペロペロと舐める。
「うふふ。子供はやっぱり可愛いものだよな…」
……なぜだろう。ナナさんの笑顔が寂しそうに見えて仕方がなかった。
*
宴は盛大なものであった。
村の中央の広場で開催されたのだが、村人全員が参加していた。
その数、およそ500人。
まさにすし詰め状態である。
これでも全員ではないと聞いて、俺たちは驚いた。
村人に占める子供の割合が多い。
大人の中には出稼ぎに行っている者も多いらしい。
料理は素朴ではあったが、充分に美味かった。
出された酒はアルコール度の低い、シードルのようであった。
これも、充分に美味かった。
……俺は未成年だが、現地の習慣に従っているだけなのである。
ティナは料理に出された、ゆで卵を泣きながら貪っていた。
美味い、美味いと言いながら号泣していた。
……よほど酷い食生活を送ってきたのだろう。
チビッ子たちが、代わるがわる料理を俺に直接食べさせようとする。
尻尾をフリフリさせながら「あーん」と言われれば、食べざるを得ない。
もちろん、その後はご褒美のモフモフタイムである。
そのうち、俺の前にはチビっ子たちの行列ができてしまい、驚いた。
ついに俺にもモテ期がやってきたのだ!
……くっ、悔しくなんかないもん!
そんな俺を、薄い微笑で見つめてくる女性がいた。
我が天使様、ナナさんである。
俺と目が合うと、さっ、と目を逸らされてしまう。
……普段の俺なら、間違いなく勘違いしていただろう。
ナナさんの夕方の様子は、明らかに何かおかしかった。
俺はお調子者だが、鈍感系主人公ではないのだ。
何か、ワケでもあるのだろう。
しかし、それは俺が立ち入るべきではないのかもしれない。
ヒトは誰でも他人が立ち入れない部分を持っている。
経験値の少ない俺が言うのだ! 間違いない!
……あ、やっぱり、間違っているかもしれない。
*
盛大な宴も終盤を迎え、片付けの者を除くと、広場には俺達と族長サラディンだけになった…
……はずなのだが。
なぜか俺の膝で、1人のチビッ子ウルフがスヤスヤと寝息をたてている。
どうやら族長の子供らしい。
酔っぱらったティナは、だらしなく俺に寄りかかっている。
シャルル王国のお二人は、さすが、シャキッとしている。
「その子は可哀想な子供なのだ…」
酒が入っている族長サラディンは、ポツリ…と語りだした。
「この村の北の谷にも、我が一族の集落があってな…」
「ある日、そこが銀龍の襲撃を受けたのだ…。」
「……銀龍!?」
「その子は…ウルは…ただひとりの生き残りなのだ…。」
俺は、膝の上で眠る子供の頭を撫でてやった。
1回だけ尻尾が揺れた。
族長が優しい眼差しでそれを見ていた。
「ワシらが救援に駆け付けた時には、すでに全滅したあとだった…」
「崩れた家の中から、1人の死体が見つかったのだが…」
「その死体の下から、その子は見つかったのだ…」
俺達全員が言葉も無く、スヤスヤと眠るその子を見つめていた。
「死体は、ウルの母親でなぁ…必死に守ろうとしたんだろうなぁ…」
族長の目に光るものがあった。
俺の横でティナが、いつの間にか身を乗り出して話を聞いていた。
……ティナも、ボロボロと大粒の涙を流していた。
「不憫に思ったワシが、ウルを引き取ったのだが…」
「母親の無惨な死を…間近で見てしまったのだろうな…」
「ウルは心を閉ざし、言葉も不自由になってしまったのだ…」
「この子が…そんな目に…!」
ウルが、俺の膝の上で寝がえりをうった。
……お腹を撫でてやると、嬉しそうに笑ったような気がした。
「出来ることなら、この子の仇をとってやりたいものだなぁ…」
族長サラディンは、しみじみとそう言った。
……恐らく、人狼達の力を以ってしても、太刀打ちできない相手なのだろう。
半分、あきらめにも思える言葉を、この族長が口にしたのだ。
……現在の俺達に、できることはないだろう。
*
しかし、そうは思わなかった者もいたようだ。
……ティナである。
「アタシ達が仇を討ってやるわ!」
ティナはブルブルと震える拳を握りしめ、宙に向かって絶叫した。
「お、おい…。やめとけ…」
俺はティナの手を押さえつけた。
「なんでよっ! こんな小さい子が酷い目にあって! 可哀想じゃないの!」
「ウルが起きちゃうだろ。静かにしてろ…。」
「……なんでよ…なんで…こんな小さい子が…」
ティナは手で顔を覆って、むせび泣いた。
……俺は黙ってティナの頭を抱いてやった。
族長サラディンは、そんな俺たちの様子を黙って見つめていた。
「……ラミアの娘よ。そなたの気持ちは有難い。」
「しかし、激情にまかせて死を急ぐことは無いのだぞ…。」
……そう、やさしく語りかけた。
「……今夜はしゃべり過ぎたようだ。この辺でお開きにしよう…。」
宴は、静かに終わりを迎えた。
*
満天の星空に、少し、いびつな満月があたりを照らしていた。
……その満月を横切る黒い影に、気付いた者はまだいなかった。
【続く…はず】
描きたかったコメディーパートが、どんどん削られてしまいます。
自分で削っておいて、なんですが、悲しいです。