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カブラギ君、異世界で裸族になる。  作者: 貴船 俊之輔
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【第4話】 宴

名札の件は、また別の機会にやります。

「うん? 裸族の男よ、気分でも悪いのか?」


族長サラディンは、射るような眼で俺を睨んだ。

優しそうな言葉と目付きが一致していない。


「い、いや。何でもアリマセン、ハイ。」


たぶん俺は、この時アホ面を晒していたのだろう。


「ラミアの娘については、これで良し!」

「次は、貴様についてじゃ!」


ティナの家出の件については、片がついた。

次は俺の容疑についてだろうか。

心臓が早鐘を打っている。


「貴様も、ラミアの娘と東方へ向かうのであろうの?」


「は、はい。ルルティナ王女様の行き先が、東の国ですので。」


「おお、そうであったの! …して、貴様らの目的は何じゃ?」


俺は、今までの経緯をできるだけ詳細に語った。

……どもりながら。


俺が異世界の出身であること。

ロリ王女様に、魔道書の力で俺が召喚されたこと。

王女様の卷族とされたこと。


蛇娘ティナと王女様側で、行き違いがあったこと。

なりゆきで、俺とティナが卷族の契りを結んだこと…。


……ティナに俺の全裸を晒したことは省略した…。

それから、シャルル王国で反乱があったことも。


結局、東方へ行く目的を明かすことはしなかった。

シャルル王国の現状を知られる事は得策ではないと判断したのだ。


しかし、族長は意外な所に食いついてきた。


……おかげで、うまく誤魔化すことができたのだった。




「ふむ。貴様は異世界から来たというのか……面白い!」

「しかし……異世界の者が裸族というのも、不思議な話だな…」


あれ? 何だろう、含みのある言い方だ。


「できれば裸族について、知っていることを教えて頂けますでしょうか?」


「うん? 裸族とは…貴様のような者をいうのだが…。」


「いやいや。見た目とかでは無くて、住んでる国とか…」

「特技だとか、必殺技とか……目からビームが出せるとか…」


「……裸族は国を持たんっ!」


「ひいっ!」


「おお。驚かしてしもうたか。すまんすまん。」


……この族長、声だけでヒトを殺せるんじゃないだろうか?


「…裸族はのう…聖アスラ教会から破門され、呪いを掛けられた者じゃ。」


「……呪い?」


「衣服を着られぬ呪いを掛けられ、辱めはずかしを受ける者達のことだ。」

「財産を没収され、国を追い出され、流浪の民となった者達だ。」


「流浪の…民…ですか…」


………。

……ちょっと待て。俺にも、その呪いは掛かっていないだろうな…!?


「それゆえ、聖アスラ教会の支配地で見掛けることは無い。」


「と、いいますと…」


「裸族は魔族の地か、聖アスラ教会の及ばぬ東方を彷徨さまようことになる。」


「東方はともかく、魔族の地…ですか?」


「ふん! 我ら魔族はヒトは好まぬが、裸族は歓迎するのだぞ。」


「へっ!? そうなんですか?」


「聖アスラ教会に逆らった奴らだ。我らにとっては友人であろう。」


なるほど。魔族の皆さんは、アスラ教がとっても…お嫌いらしい。


「……言っておくがの…」


族長さんの眼に凄味が増した。……たいへん、お怒りのご様子である。

……コワイ。マジでコワイ。


「我ら魔族の者とて、アスラの神を否定している訳ではないのだぞ!」

「聖アスラ教会の教え、そのものが我らの真の敵なのだっ!!」


小屋全体がビリビリと震えた。

あまりの迫力に、ついにティナが気を失った。

俺は必死に耐えたが、そろそろ限界が近い…。


タスケテ… タスケテ…




「それぐらいにしてもらおうか!」


小屋の戸口に立つ人影があった。

槍を片手に、仁王立ちするケモ耳の女兵士。


「ナナさん……!」


マジでカッコイイ! ヤバい、惚れてしまいそう!

その姿は逆光でシルエットとなり、神々しささえ感じられた。

ナナさんマジ天使!


「……なんだ? 亜人の娘よ…」


「我らの仲間を恫喝するなど、見逃す訳にはいかん!」


「……ほう。仲間とな…」

「貴様、いい度胸をしているのう。名は何という?」


「シャルル王国、ルルティナ王女親衛隊、ワン族のナナ!」


「ほう、亜人の娘が親衛隊とは…珍しい事もあるのだのう…。」


族長サラディンは愉快そうに笑い声をあげた。


「おのれ! 愚弄ぐろうする気か!」


ナナさんが槍を構える。

これは……マズい。

……血を見ることになりそうだ。

それだけは避けたい!


……その時、槍を構えるナナさんの横に、もう一つの人影が加わった。


「この者は妾の忠実なる家臣である。侮辱は許さんぞ!」


……ヒーローは遅れてやって来る!

ロリ王女様のお出ましである。きゃー。

小柄な幼女なのに、この威厳。貫禄。

眼力めぢからだけは、族長サラディンにも負けていない。


「……ふむ。無礼については詫びよう。」


あっさりと、族長サラディンは頭を下げた。


拍子抜けしたのか、ナナさんは戸惑っていた。

構えた槍を、どうしたものかとアタフタしている。


「王女殿。いや、ルルティナ王女殿下。」


「……妾のことは、ルルで良い。」


「さようか。では…ルル殿。」


「うむ。なんじゃ?」


「そなたらを、我が一族の客人として迎えよう…。」


「えっ?」「えっ?」「えっ?」


……期せずして、再びハモってしまった。


「どうやらワシは、そなたらを気に入ってしまったらしいわ!」


……そう言って、族長サラディンは豪快に笑った。



極度の緊張と緩和。

限界を超えた俺は、そこで意識を失った。




「ショータ殿! …ショータ殿!」


……誰かが俺を呼んでいる。

ゆっくりと目を開けると……そこには天使がいた!


「ああ……天使様!」


俺は天使様の胸元に飛び込み、力いっぱい抱きしめた。

顔を豊かな胸に埋め、柔らかな感触を思う存分味わった。

ぐりぐりぐり。


「ななな何をするだぁ!!」


完全に声が裏返っている。

天使様は嫌がる俺を無理やり引き剥がした。


「ねねね寝ボケているのかっ! わわ私はナナだっ!」


俺は天使様の御尊顔をあらためて拝見した。

……ナナさんだった。……うん、やはり天使様である。

いつの間にか兵装を外しており、体のラインがはっきりとわかる。

髪もポニーテールの留め具を外し、ロングヘアーをなびかせている。

ナナさんは整った顔を真っ赤に染め、明らかに動揺しているようだ。


俺は再び天使ナナ様を抱きしめ、胸元の豊かな感触を味わった。

ぐりぐりぐり。


「おおお、お前! 起きているんだろ! ワザとやっているんだろ!」


……いや、俺は今、寝ボケているのだ。

幸せな夢を見ているのだ。

夢の中の俺に罪は無い。

俺は……そう…思い込むコトにした!



「あっ!…あぁ…ああぁ!…だ、だめ…い、いや!…あああぁ!」


あれ?……なんか、マズい反応が返ってきている…。


……いつのまにか俺はナナさんを押し倒していたようだ。

さて、どうしよう。困った。


……俺の予想とは違う展開になってしまった。

パンチの一発でも喰らい、正気に戻った俺を罵倒するナナさん。

俺は五体投地で謝罪し、渋々、許してくれるナナさん。

……完璧なストーリーであったはずなのだが。


俺はナナさんから離れようとするのだが、ナナさんが放してくれない。

ナナさんは、俺の頭を抱え込むように抱きしめてくる。

すごい力だ。

あっ! 足も絡めてきた! いかん、完全にロックされた!

俺の貞操が絶体絶命である!

……いかん! 俺も変な気分になってきた!


鎮まれ! 鎮まるのだ、我が分身よ!




「……昼間から何をやっているのじゃ、お主らは…。」


『ヒーローは遅れてやって来る!』

……我らがロリ王女様のお出ましである。


一気に力の抜けたナナさんの腕を振りほどき、顔を上げると…。

……かつてない程、冷たい眼をしたロリ王女様がそこにいた。


ナナさんは慌てて半身を起すと、豊かな胸を抱えて顔を伏せた。

顔が真っ赤なのは、恥ずかしいのか、火照っているのか。

両方かもしれない。……どうでもいいが。


それよりも問題は、この場をどう切り抜けるかである。

ロリ王女様の質問には迅速に答えなければならない。


「た、体術の稽古をしていました! で、ですよねぇ、ナナさん!」


ナナさんも、慌てて大きくうなずく。


「………。」


ロリ王女様は無言で俺たちを見つめている。

気まずい空気が流れている。

しかし!

俺は確かにボールを打ち返したのだ! 

ボールは相手のコートにあるのだ!

……クソボールだけど。


「まっ、良いわ。…そういう事にしておいてやる。」


ロリ王女様から無罪の評決が出た!

……俺の脳内で、紙テープと花吹雪が舞い踊った。

そこに、『無罪』と大きく書かれた紙を持って走る俺がいた。


「……じゃが、ショータには後で話がある。心しておけ!」


ロリ王女様はそう、おっしゃると憤然と部屋を出て行った。

……どうやら、執行猶予判決だったようである。


裁判長が出て行った後には、いまだに気まずい空気が流れていた。

ナナさんが恨みがましい目で俺を見ている。

あー。こういう場合、何て声を掛ければいいのだろう。

DTの俺には経験値が足りないのである。


「き、貴様! な…何か…言うことが…あるだろう…。」


ナナさんは伏し目がちに言ってきた。

……やはり、怒っていらっしゃる。


「はい…。えーっと…」


俺は、テンパってしまっていた。


「あの…。 ナナさん……とっても可愛かったです…!」


「!!!」


ナナさんは、再び顔を真っ赤に染め、涙目で部屋を飛び出していった。


……やはり、俺には経験値が足りなかったようである。




ところで、ここはドコなのだろう。

俺とティナが放り込まれた小屋ではない。

調度品は無いが、部屋一面にフカフカの毛皮が敷き詰めてある。

明かり取りの窓もあり、ちゃんとした部屋のようだ。


フカフカの毛皮の上では、ティナが静かな寝息をたてていた。

……先ほどの騒ぎでも目を覚まさないとは、たいしたものである。

起こそうか…と思ってみたものの、面倒くさそうなので、やめとこう。


部屋から出ると、そこは吹きさらしの廊下があり、隣にも部屋があった。

どうやらココは、人狼の村の一軒家らしい。

その証拠に、家の前の広場でチビっ子ウルフ達がいる。

集団で誰かを取り囲んでいた。

手で顔を覆ってうずくまっているナナさんを、物珍しそうに…。

……ナナさん、元気を出してください。


隣の部屋から、族長サラディンとロリ王女様が出てきた。

……何か話をしていたのだろうか?


……しかし、すごい身長差、体格差である。

それでも、ロリ王女様は臆することなく接しているようだ。

……まさか、本当は50歳とかいうオチじゃねーよな!?


「おお、裸族の男よ。やっと目を覚ましたようだな。」


「あ、はい。……おかげ様で。」


「今宵は歓迎の宴がある。それまで、ゆっくり村でも見物するが良い。」


族長サラディンは、ガッハッハッと大声で笑いながら去って行った。

去り際にちら、と広場にうずくまる女兵士を気にしていたが…。


「ショータよ。お主との話はまた今度じゃ。」

「妾も少し疲れたゆえ、宴まで休ませてもらう。」

「お主はそれまで好きにするが良い。」


小さな欠伸あくびをすると、ロリ王女様は隣の部屋に入って行った。

……あの、ナナさんのコトは無視ですか…。


チビっ子ウルフの一人が、木の枝でナナさんをつついている。

しゃがんでナナさんの顔を、覗き込もうとする奴もいる。

ナナさんの頭を撫でている、優しい子もいるようだ。


……なんだ、人間社会と変わらないじゃないか!



俺は少し嬉しくなった。




俺は基本的に子供が大好きである。

別にエロい意味ではない。念のため。

子供の純粋さが、たまらなく好きなのである。

しかも相手はチビっ子ウルフ。

モフりまくってやる!


俺はワザとチビっ子集団の横を通り抜けた。

そのまま、村の中を散策する。

かなり大きな集落のようだ。


村のはずれには大きな建物があり、そこでは牛や豚らしき動物がいた。

その近くには養鶏場らしき建物もあった。

まるでウチの田舎と変わらない。


そこで俺は振り返った。

予想通り、そこにはチビっ子ウルフの集団がいた。

ただし、予想外の大集団であった。

……100人近くいるんじゃないのか?


手前のチビっ子たちが、わっ!と叫んで逃げていく。

……予想通りの反応だが、期待通りでもある。

俺は、わ―!と叫びながらチビっ子集団を追いかける。

キャー!と嬌声をあげながら逃げ回るチビっ子たち。

……なんだろう、めちゃくちゃ楽しいんですが!


俺が立ち止ると、チビっ子たちも逃げるのをやめる。

俺がヒョイヒョイと手招きすると、何人かが駆け寄って来る。

そのうち1人を捕まえ、存分にモフる。モフる。


キャーキャーと喜ぶ声につられ、チビっ子の大集団が突進してきた。

チビっ子ウルフの団子状態である。

俺は片っ端からモフりまくり、勢いに倒されても、モフりまくった。

ぶんぶん、と揺れるチビっ子ウルフ達の尻尾がスゴイことになっていた。



……俺は、天国はここにあったのかと、その時思った。




「何を…やって…いるのだ?」


夕方になり、俺を探しに来てくれたのだろう。

ナナさんは俺を見て目を丸くしていた。


日が傾き、ほとんどのチビっ子たちは帰って行ったが、まだ数人が残っていた。

彼らは、地べたに胡坐あぐらをかいた俺に、まさにたかっていた。

膝の上、肩の上、背中、頭の上にまでチビっ子達がたかっていた。

それらを俺は丹念にモフっていたのだ。

キャーキャーと嬌声をあげるチビっ子たち。

ぶんぶん、と揺れる尻尾たち。

ぺろぺろ、と舐められる俺の顔。


「……ショータ殿は、子供が好きなのだな…。」


なぜか悲しそうな顔をして、ナナさんは呟いた。


「???……大好きですよ? …ナナさんはお嫌いですか?」


「そうではないのだが…」


1人のチビっ子ウルフが尻尾を振りながら、ナナさんに走り寄った。

口をパカっ、と開き、嬉しそうにナナさんを見上げるチビっ子。

ナナさんはしゃがみ込み、チビっ子の頭をやさしく撫でた。


「……子供を…捨てるような…親は…」


………俺はナナさんの小さな呟きを、聞き取ることができなかった。


チビっ子が尻尾をぶんぶん振りながら、ナナさんの顔をペロペロと舐める。


「うふふ。子供はやっぱり可愛いものだよな…」



……なぜだろう。ナナさんの笑顔が寂しそうに見えて仕方がなかった。




宴は盛大なものであった。


村の中央の広場で開催されたのだが、村人全員が参加していた。

その数、およそ500人。

まさにすし詰め状態である。

これでも全員ではないと聞いて、俺たちは驚いた。

村人に占める子供の割合が多い。

大人の中には出稼ぎに行っている者も多いらしい。


料理は素朴ではあったが、充分に美味かった。

出された酒はアルコール度の低い、シードルのようであった。

これも、充分に美味かった。

……俺は未成年だが、現地の習慣に従っているだけなのである。


ティナは料理に出された、ゆで卵を泣きながらむさぼっていた。

美味い、美味いと言いながら号泣していた。

……よほど酷い食生活を送ってきたのだろう。


チビッ子たちが、代わるがわる料理を俺に直接食べさせようとする。

尻尾をフリフリさせながら「あーん」と言われれば、食べざるを得ない。

もちろん、その後はご褒美のモフモフタイムである。

そのうち、俺の前にはチビっ子たちの行列ができてしまい、驚いた。


ついに俺にもモテ期がやってきたのだ!


……くっ、悔しくなんかないもん!



そんな俺を、薄い微笑で見つめてくる女性がいた。

我が天使様、ナナさんである。

俺と目が合うと、さっ、と目をらされてしまう。


……普段の俺なら、間違いなく勘違いしていただろう。

ナナさんの夕方の様子は、明らかに何かおかしかった。

俺はお調子者だが、鈍感系主人公ではないのだ。

何か、ワケでもあるのだろう。

しかし、それは俺が立ち入るべきではないのかもしれない。


ヒトは誰でも他人が立ち入れない部分を持っている。

経験値の少ない俺が言うのだ! 間違いない!


……あ、やっぱり、間違っているかもしれない。




盛大な宴も終盤を迎え、片付けの者を除くと、広場には俺達と族長サラディンだけになった…

……はずなのだが。

なぜか俺の膝で、1人のチビッ子ウルフがスヤスヤと寝息をたてている。

どうやら族長の子供らしい。


酔っぱらったティナは、だらしなく俺に寄りかかっている。

シャルル王国のお二人は、さすが、シャキッとしている。



「その子は可哀想な子供なのだ…」


酒が入っている族長サラディンは、ポツリ…と語りだした。


「この村の北の谷にも、我が一族の集落があってな…」

 「ある日、そこが銀龍シルバードラゴンの襲撃を受けたのだ…。」


「……銀龍!?」


「その子は…ウルは…ただひとりの生き残りなのだ…。」


俺は、膝の上で眠る子供の頭を撫でてやった。

1回だけ尻尾が揺れた。

族長が優しい眼差しでそれを見ていた。


「ワシらが救援に駆け付けた時には、すでに全滅したあとだった…」

「崩れた家の中から、1人の死体が見つかったのだが…」

「その死体の下から、その子は見つかったのだ…」


俺達全員が言葉も無く、スヤスヤと眠るその子を見つめていた。


「死体は、ウルの母親でなぁ…必死に守ろうとしたんだろうなぁ…」


族長の目に光るものがあった。


俺の横でティナが、いつの間にか身を乗り出して話を聞いていた。

……ティナも、ボロボロと大粒の涙を流していた。


「不憫に思ったワシが、ウルを引き取ったのだが…」

「母親の無惨な死を…間近で見てしまったのだろうな…」

「ウルは心を閉ざし、言葉も不自由になってしまったのだ…」


「この子が…そんな目に…!」


ウルが、俺の膝の上で寝がえりをうった。

……お腹を撫でてやると、嬉しそうに笑ったような気がした。


「出来ることなら、この子のかたきをとってやりたいものだなぁ…」


族長サラディンは、しみじみとそう言った。


……恐らく、人狼達ウェアウルフの力を以ってしても、太刀打ちできない相手なのだろう。

半分、あきらめにも思える言葉を、この族長が口にしたのだ。


……現在の俺達に、できることはないだろう。




しかし、そうは思わなかった者もいたようだ。

……ティナである。


「アタシ達がかたきを討ってやるわ!」


ティナはブルブルと震えるこぶしを握りしめ、宙に向かって絶叫した。


「お、おい…。やめとけ…」


俺はティナの手を押さえつけた。


「なんでよっ! こんな小さい子が酷い目にあって! 可哀想じゃないの!」


「ウルが起きちゃうだろ。静かにしてろ…。」


「……なんでよ…なんで…こんな小さい子が…」


ティナは手で顔を覆って、むせび泣いた。

……俺は黙ってティナの頭を抱いてやった。


族長サラディンは、そんな俺たちの様子を黙って見つめていた。


「……ラミアの娘よ。そなたの気持ちは有難い。」

「しかし、激情にまかせて死を急ぐことは無いのだぞ…。」


……そう、やさしく語りかけた。


「……今夜はしゃべり過ぎたようだ。この辺でお開きにしよう…。」


宴は、静かに終わりを迎えた。




満天の星空に、少し、いびつな満月があたりを照らしていた。


……その満月を横切る黒い影に、気付いた者はまだいなかった。







【続く…はず】










描きたかったコメディーパートが、どんどん削られてしまいます。

自分で削っておいて、なんですが、悲しいです。

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