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カブラギ君、異世界で裸族になる。  作者: 貴船 俊之輔
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【第1話】 逃避行

やっぱり説明過多となっております。

シリアスパートだと、どうしても…ねっ!

鬱蒼(うっそう)とした森の中を進む2つの影。

薄暗い中をしっかりとした足取りで歩んでいる。

木々の間から、月明かりが漏れている。


満月の夜。


ナナは、後ろを歩く少女を時おり振り返りながら先を進む。

まだ、幼い少女であるルルの手を引きながら。


そう、今夜は満月だ。

獣たちが最も活動的になる最悪のタイミングである。


魔獣の森。

魔族のテリトリーであり、恐ろしい獣たちが住む森。


いつもならば、この森に近づこうとさえ考えなかったであろう。

しかし…2人は追い詰められ、逃げ込んだのである。


ルルは消耗していた。それでも気丈に疲れを(おもて)に見せなかった。


不憫(ふびん)な……』


そんなルルの姿をみて、ナナは何度目かの嘆息を漏らした。




ルルは幼いながらも、シャルル王国の正統な王女である。

突然のクーデターにより、彼女は追われる身となった。

王女を護る親衛隊も、今となってはナナひとりだけであった。

他の者は、すべて王女の盾となり散って行った。


孤児であった8歳のナナを、拾ってくれたのがシャルル王であった。

シャルル王は、ナナに衣食住を与え、教育まで施した。

最初は小間使いとして仕え、剣を習ってからは、城兵として仕えた。

王の好意に応えようと、ナナも絶対の忠誠を誓った。

10年の月日が流れ、ナナは、王女ルルの親衛隊に任ぜられた。

剣の腕が認められたのである。


親衛隊の中で一番若いナナは、まだ幼い王女のお気に入りとなった。

警護役としてよりも、遊び相手として王女ルルに認められた。

同性だったことも大きいのだろう。

王女ルルは常に、ナナを近くに(はべ)らせていた。

幸せな日々であった。




「ルル様、そろそろ何処かで休みましょう」


(わらわ)は、まだ大丈夫じゃ」


嘘だ。ナナにはわかっていた。

この様な状況でも、気丈に振る舞う幼き王女。

高貴な身分にありながら、泣き言ひとつ漏らさない。

いや、高貴な身分だからこそ、誇り高き精神を保っているのか。

下賤な身分であったナナには、王族としてのプライドが眩しかった。


「しかし、夜中にこの森を進むのは危険です」

「今夜は満月、獣共がいつ襲ってくるやもしれません」

「歩き回るよりは、どこかでやり過ごす方が安全です」


「……うむ、わかった。ナナに任せる」


王女の目からは、まだ力は失われていない。

しかし幼い少女の体力は、そろそろ限界を迎えるであろう。


……ふと、ナナは森の奥に違和感を感じた。

夜目の利く、ナナにとっても微かな明かりであった。

月明かりとは異なる、なにか薄明かりが差しているのだ。

揺らめき具合からみて、火を焚いているのだろう。

杖がわりにしていた槍を、ナナは改めて握り直した。


息を殺して明かりに近づく。

追っ手であろうか。 

いや、ここは魔獣の森。ここまでは追って来れまい。

だとすると……魔族か!

ここは魔族の土地であり、我々は侵入者に過ぎないのだ。




シャルル王国と魔族は友好的ではなかったが、敵対もしていなかった。

お互い、不干渉とすることで平和を保ってきた。


『事情を話して助けを求めるか…』


話が通じる相手とは限らない。

敵と見なされれば、戦いになるだろう。

剣の腕には自信があるが、幼い王女を護りきれるだろうか。


……しかし、手持ちの食料も残り少ない。

いずれ、誰かの助けを求めることになるのだ。

ナナは覚悟を決めた。


「ルル様、しばしここでお待ちください」

「私が様子をうかがってまいります」


幼き王女は、黙ってうなずいた。

こんな暗い森の中に一人残されるというのに、不安を(おもて)に現すことはなかった。


ナナは槍を手に、暗い森を静かに進んでいった。


ナナが進んだ先には、小さく開けた場所があった。

ほとんど消えかけの焚き火が、辺りをわずかに照らしていた。

人や獣の気配はなく、何故か古びた背嚢(はいのう)と布切れが2つ、残されていた。

しばらくの間、様子を窺っていたナナであったが、次第にその顔には安堵の色が見えた。




「恐らく、ここで休んでいた旅人が、魔獣に追われて逃げたのでしょう」


焚き火に小枝を投げ入れながら、ナナはそう説明した。

王国から持ち出した背嚢はいのうを降ろし、やっと落ち着いた気分になれた。

幼き王女も、先ほどまでの固い表情から、少し和らいだ顔を見せている。


「ルル様も、背嚢はいのうを降ろしてお休みください」

「私は水を汲んでまいります」


近くに川があるのだろう、せせらぎの音が微かに聞こえていた。


「……ナナ…」


「?……ルル様、どうかなさいました?」


幼き王女は、焚き火に目を落としたまま、じっとしている。


「妾を…見捨てることもできるのじゃぞ……」


そう言って、寂しそうな笑顔でナナを見た。

久しぶりに見たはずの王女の笑顔は、哀しくも美しいものであった。


「ルル様、ご冗談を。私はいつでも(そば)におりますよ」


ナナは精一杯の笑顔で答えた。

その笑顔は作り笑いであったが、言葉の方は本気であった。




「ところで、ルル様。 ルル様の背嚢はいのうは少し…変わっていますよね?」


慌ててナナは、話題を替えた。

ルル様の境遇を思えば、明るい話題でもしなければ、やっていられない。


「なんじゃ今頃。城を脱出する時から持っておったじゃろう」


「いえ、ずっと気になっていたのですが」


「これはな、妾の生誕祝いに東方の国から贈られたものでな」


幼き王女は、フフフ、と嬉しそうに笑った。

無邪気な少女の姿がそこにあった。


「それでな、妾の5歳の誕生日に父より譲られた宝物なのじゃ」


「というと、国宝級のものなのですか?」


「うむ。そうなのじゃが…問題は中身の方でな」


幼き王女は、年相応の悪戯っぽい目つきでナナを見つめた。


「この中には、伝説の大魔道士サミュエルの魔道書が入っておるのじゃ」


「伝説の大魔道士…サミュエル!?」


その名前は、子供達の童謡から貴族の歌劇にまで登場する伝説の存在であった。


「そうじゃ、この魔道書はな…フフフ」

「持ち主が危険にさらされた時、異世界より戦士を召喚するものなのじゃ!」


「異世界の…戦士…ですか」


「左様。ただし…使えるのは1回きりと聞いておる」


「ああ…それは使いどころが難しいですね」


「うむ。父が(のこ)してくれた宝物じゃ。大事にせねば、な」


そう言って、幼き王女は寂しげに笑った。




再び、しんみりした空気が流れ、2人は押し黙ってしまった。


「……で、ではルル様。水を汲んでまいります」


「……お、おお。……気をつけるんじゃぞ」


「何かありましたら、大声でお呼びください」


「心配するでない。妾には、この魔道書があるのじゃから」


東方の国から贈られたという、風変りな背嚢を抱きしめ、王女はウインクしてみせた。



王女様に気を使われてしまった……。


ナナは自分の不甲斐なさに落ち込んでいた。


……そこに油断があったのだろう。

ナナが水音のする方に足を向けた途端。


目の前の草を掻き分け、魔物が現れた。


『くっ、不覚!』


ナナは激しく狼狽していた。

全く魔物の気配に気づいていなかったのだ。

愛用の槍は、背嚢とともに置いてきてしまっている。

使える武器は、腰に差した短剣のみである。


ナナは素早く短剣を構えた。

冷や汗が全身を流れる。

相手が悪すぎたのだ。


魔物は…上半身が裸の女、下半身が蛇の姿をしていた。


『ラミア……だと!?』


400年前の大戦争でも、凶暴な戦いぶりを示したという魔族のひとつ。

半人半蛇の魔物の名は、半ば伝説として伝えられている。

死の配達人、ラミア。

……それが今、目の前にいるのだ!


「ルル様!お逃げください!」


ナナは死を覚悟した。

自分が命を捨てでも、ルル様だけは護らなければいけない。

……絶対に、だ。



剣を向けられ逆上したのか、ラミアは両腕を振り回し、大声で喚き始めた。

その迫力は、剣術に秀でたナナをたじろがせるに足るものだった。

知らず知らずのうちに、後ずさりをしてしまう。


「ナナ! そこをどけ!」


王女ルルの叫びが耳に届く。

ナナがちら、と振り返ると、そこに魔道書を手にしたルルの姿があった。


「いけません! それは1度きりのものなんです!」

「ここは私が食い止めます! ルル様は早くお逃げください!」


「やかましい! 父の形見など、お主の命に比べれば屁でもないわい!」


威勢よく啖呵をきると、王女ルルは左手のひらに魔道書を載せ、右手を前に突き出した。


「我、いにしえの大魔道士、サミュエルの名代(みょうだい)として、ここに命ず!」

「いでよ! 異世界の戦士よ!」


ラミアの前方の地面に、明るく輝く魔方陣が出現した。


王女ルルの持つ魔道書が、大きく光り輝く。


そして……。


魔方陣の上に、ひとりの男が現れた。




と、いうか俺だった。


……全裸で。






【続きます!】








次回からは、ちゃんとコメディーできるといいなあ…。

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