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カブラギ君、異世界で裸族になる。  作者: 貴船 俊之輔
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【プロローグ】

導入編につき、説明過多となっております。

これでも、かなり削ったんです。

勘弁してください。

俺は自他共に認める、お調子者である。

自信をを持って言い切れるんだぜ。エッヘン。


例えば、通りすがりの見知らぬオッサンに、いきなり…

「おお、君には才能がある。ぜひ、ウチの道場に来てみないか?」と誘われれば、

その気になってホイホイついていくような、フットワークの軽い男である。


そうして案内されたところは、古武術を教える道場だった。

剣術・柔術・忍術、さらには兵法の科目もあった。

忍術がある、というところが俺の中2スピリッツを刺激した。

……ま、その時すでに高校生になってはいたのだが。

なんやかんやで、その場で入門した。


それが3年前のことである。


今にして思えば、言葉巧みに勧誘されただけ、という解釈もある。

しかし、俺は後悔などしていない。

俺は『反省』することはあっても、『後悔』だけは絶対にしない。

ポジティブシンキング、というやつである。

……まあ、得るものも多かったし、良しとせねば。




話がそれてしまった。

俺はホメられて伸びるタイプである。

ホメられると、どこまでも調子に乗るタイプである。

その道場もホメて伸ばす方針だったため、俺とは相性が良かった。

おかげで修業に打ち込むことができ、大学受験に失敗した。

……あれ?


というわけで、俺は今、花の浪人生である。

昼過ぎまで布団にくるまっていられる幸せを、実感できる男でもある。

俺の事をニートと呼ぶ者もいるが、それは正しくない。

形式上は浪人生であり、本質的には自由人なのである。


それでは、改めて自己紹介をしよう。

俺の名は鏑木 翔太かぶらぎしょうた、ピチピチの18歳である。


彼女いない歴イコール年齢であるが、別にホモではない。

顔はブサイク…ではない、と思いたい。

自己評価では『並』と勝手に判定している。

ただ、恋愛対象の範囲が他人より少しだけ狭いだけなのだ。


格闘技を愛好する以外は、ゲームやマンガ、そしてロリを愛する、量産型の平凡な日本男児である。

少なくとも、俺はそう思っているのである。


ただし……性格に難あり、と他人様からご指摘を頂くことも多い。

ええ、わかっていますよ。どうせ、お調子者ですから。



そんな俺が、おかしな少女と出会ってしまったところから…

……話は始まってしまうのだ。




その日も俺は、昼過ぎまで惰眠をむさぼり幸せを噛みしめていた.

しかし、布団を干すと言う母親に叩き起こされてしまった。

仕方なく、俺は日課のトレーニングに行くことにした。

え?勉強?

ナニソレ、オイシイノ?


俺は愛用のジャージに着替え、使い込んだトレーニングシューズを履く。

母親の罵声を背に、春の陽ざしのなかに飛び出していった。

少し肌寒さは感じるものの、やわらかい陽ざしが心地よい。

軽めのトレーニングのつもりだ。

俺はジョギング程度のスピードで走る。


お気に入りのコースは、川に沿った堤防上の小道である。

桜並木があり、シーズンになると多くの行楽客でにぎわうこの場所。

しかし、すでに花を散らした今頃の時期には、ほとんど人影が見られない。

人口の少ない山間部の地方都市というのは、不便な事も多い。

それでも俺は、この街を結構気に入ってるのだ。


そんな静かな雰囲気の中、俺は気持ちよく走っていた。

絶好調という言葉が脳裏に浮かぶ。体力、気力ともに充分な状態である。

こんな時の俺は、簡単に調子に乗りやすい。要注意である。

…まあ、注意したって無駄なんだけど。


しばらく走り続けていると、遠目に何か動物らしきものが見えた。

自然豊かなこのあたりは、野生のサル、シカ、イノシシなどが生息している。

ただし、里にまで下りてくることは稀である。

俺は何も警戒などしていなかったのだ。


それは子連れのイノシシだった。

4匹のウリ坊を引き連れた1頭の大きなイノシシが、1本の桜の樹のまわりをなぜかウロウロとしている。

興味をひかれた俺は、イノシシに気付かれないよう慎重に接近を試みた。


イノシシという奴は、ヒグマを除けば日本の野生生物の中でも格段に危険な存在である。

例えば、ツキノワグマは木の実などの草食が中心であり、積極的に人を襲うことはまずない。

人を襲ったケースでは、たいていの場合、人との急な遭遇でクマが驚いてしまったためであり、それ以外では危険度は高くない。


しかしイノシシの場合、草食中心のくせに、肉食獣のような獰猛性を持っている。

機嫌が悪ければ積極的に人を襲うという、やっかいな存在である。

厚い脂肪と硬い獣毛に覆われたその体は、防御力も高い。

噛みつきと、体重を活かした突進による攻撃は、かなりの脅威となる。


イノシシの奇妙な行動を観察していると…。

いる!……誰かが桜の樹の上にいる!

きっと襲われて樹に登って逃げたのであろう。

俺はすぐに行動を開始した。

そう、ノリノリで。


……お調子者のフットワークは誰よりも軽いのだ。




人が素手でイノシシを相手にすることは、まず不可能だ。

銃を使うのが最適解である。

相手に反撃される事を考えると、ショートレンジの武器は向いていない。

少なくとも槍か、弓のようなロングレンジの武器が必要になる。

しかし、そのいずれもここにはない。

どうするか。


俺の出した結論は、『印地いんじ』だった。


『印地』、かんたんに言うと投石である。

投石は、世界各国で古来より戦闘に使われてきた。

日本においても戦国時代の合戦で、投石部隊が活躍した記録が残っている。

俺の通っている古武術道場でも、兵法のひとつとして認識されている。


俺は河原に下りて手頃な石を拾い集める。

直径10cmぐらいの丸くて平たい石が望ましい。

数は3個もあればいいか? どうせ、それ以上使う余裕はないだろう。

反撃をくらえば、俺も樹の上に逃げるまでだ。


問題はちゃんと当たるかだ。

自信は…ある。一応、少年野球の経験者だ。

コーチがホメてくれなかったので、辞めてしまったが。


俺は上着の左右のポケットに1つずつ石をいれ、右手に3つめの石を握りしめた。

うおおお! テンション、上がってきたあああ!




俺がワインドアップモーションで投げた石は、1投目で見事、脇腹に命中した。

子連れのイノシシは草むらの中に逃げて行った。

恐らく、予想外の方向からの攻撃に驚いたのだろう。

何はともあれ、俺は人命救助ミッションに見事成功したのである。


『コレって表彰ものじゃね?』

『もしかして新聞に載るんじゃね?』

『うおおお、俺、ヒーローじゃん! カッケーじゃん!』

『モテ期くる? ついに悲願のDT卒業か!』


などという、さもしい想像をしながら、ニマニマしてしまった。

お調子者の想像力は無限である。

俺はニヤついた表情を、一瞬で男前モードに変換し、樹の上の人物に声をかける。


「おい、大丈夫か?」


俺の渾身のイケメンボイスに応えて、樹の上から…

ひとりの少女がズルズルと滑り落ちてきた。

スカートがめくれて子供パンツが丸見えである。

…いや、本当にありがとうございます。


地面にペタンと腰を落とした小柄な少女は、涙目で俺を見上げていた。

すごい美少女だった。

うん。俺好みの美少女が、樹の上から降ってきたのだ。

ちなみに、俺のストライクゾーンは極めて狭い。

俺はフラグが立ったのを確信していた。




「あああ、ありがどうございますぅぅ…」

「助がりまじたぁ。ほほほ、ホント死ぬかと思いまじたぁ…」


俺の左足にすがりつく少女は、半泣きで礼を言った。


三つ編みの黒髪。前髪はぱっつん系だ。

紺のブレザーにスカート、白いブラウスに赤いリボンタイ。

白いレースの靴下に茶色のローファー。

どこかの私立中学か小学校の制服だろうか?。

そして少女は、小柄な彼女に不釣り合いな、大きなリュックを背負っていた。


「ケガはない? どこか痛いところはない?」


俺は極めて紳士モードで対応する。

もちろん、下心は…ある!

ええ、ありますとも、たっぷりと。


「だいじょうぶですぅ。よくあることですから!」


イノシシに追われるなど、しょっちゅう、あってたまるか!

ボケなのか? ツッコミ待ちなのか?

しかし、相手は八重歯のカワイイ太眉美少女である。

無粋にツッコミをいれるべきか、スルーすべきか躊躇する。

うん、俺はオトナの男を演じるのだ。ここはスルーだ。


「よくあるわけ…ねーだろ!」


あっ、言っちゃた! お調子者は自分に嘘をつけないのだ。


「ひいいい! ……おにいさん、こわいですぅ」


いかんいかん。年端もいかぬ、いたいたけな少女を怖がらせてしまった。

せっかく立ったフラグを無駄にするわけにはいかない。


「ゴメンゴメン。だいじょーぶだから!」

「……怒ってないから……ねっ!」


そう言って俺は、怯える少女の頭をなでてあげた。

きわめてナチュラルに。紳士的に。

そう、不純な気持ちはいっさいない。

……嘘だけど。


「……いぢめないの?」


少女は上目遣いに俺を見つめてきた。


『うおおおおお! かわいいんじゃあ!』

『抱きしめたい! 抱っこしたい!』

『ぷにぷにほっぺに、すりすりしたい!』

『ぺろぺろしたい!』

『ちゅっちゅしたいんじゃあああ!』


……いかんいかん、犯罪はヨクナイ。

落ち着け、俺。

変態は紳士でなければイケナイ。

イエス、ロリータ。ノー、タッチ。


「だだだ、だいじょうぶ。いぢめたりしないよ!」


「………おにいさん、やさしいんですねぇ!」


ちょろい。……俺は素直にそう思った。


「さ、さあ、街まで送ってあげるから…ね!」


絵づら的には、ロリコンの変質者のようである。

しかし、ここは人通りの少ない散歩道。

チャンスである。

……えっ? ナニガ?


「あの……おにいさん。ちょっとお願いがあるんですが…」


うん、なんだね? おにいさん、何でも言うこと聞いてあげるよ!


「腰が抜けちゃって……歩けないんで、おぶってもらえませんか?」


恥ずかしそうにそう呟いたのを、俺は満面の笑みで即答した。


「はい、喜んで!」


俺は合法的に少女と肉体的接触を図ることに成功したのである。

イエス、ロリータ。ノー、タッチ。

緊急事態のこの場合、それはノーカンとしよう。

うん、これは緊急事態なのだ。

そうに決まっているのだ。




「あの……重くないですかぁ?」


「問題ない。それより、危ないからしっかり掴まっているんだ」


「は、はい。わかりましたぁ」


少女の小さな胸が俺の背中に密着する。

今、俺の全神経は、背中と両腕に集中している。

俺の両腕は、少女の生足をしっかりと支えているのだ。


「あの……言いにくいんですけど……」

「……どうして足を…なでまわすんですかぁ?」


「常に同じ場所を押さえていると鬱血するからね。」

「君を傷つけたくないからさ!」


「ふわああ。……おにいさん、紳士なんですねぇ!」


うん……この子、ちょろいわ。


「それより、なんであの状況になったんだい?」


「はい、山の麓でイノシシの赤ちゃんがいたんです!」

「カワイイので、抱っこしてたら襲われちゃいましたぁ」


ああ、そりゃお母さんイノシシも怒るだろうな。


「それで…その子を抱っこしたまま、走って逃げてしまいました…」


……あわててたんだろうが、最悪の選択をしたわけだ。

あれ? もしかして、ドジっ子設定なのか?


「必死で走りつづけたんですが、追いつかれそうになって…」


なるほど、それで樹の上に逃げた、と。

しかし、山の麓からココまで2kmはあるぞ?

意外に体力あるのかな?


「赤ちゃんを返してあげたんですけど……」

「……許してもらえなかったんですぅ」


目の前で子供を誘拐されたわけだし、イノシシの怒りは当然か。


「それより、おにいさん! おにいさんの名前をおしえてください!」


「ああ。俺は 鏑木 翔太かぶらぎしょうた。ショータでいいぜ」


「カブラギさんですか。わたしはモモ。リクルーターをやってます!」


ほう、モモちゃんですか。カワイイ名前ですなあ。

ショータ、と呼んでもらえなかったのは残念だが…。

すべすべの足をなでまわしながら、俺は新鮮な桃をイメージした。

そういえば、桃ってえろい形してるよな…などと考えながら。

うん? そういえば、最後に何て言った?


「りくるーたー?」


「はいっ、わたしはこの第6世界に派遣されたリクルーターなのです!

 リクルーターとして、勇者候補生を探して全国を旅しているのです!」


「???」


なんだ、この娘は? ちょっと頭が残念系?

それとも、中2病をこじらせたのか?

俺は右手を彼女の足の付け根にすべらしながら、考えた。


「ひやぁ!」

「……あ、あの、カブラギさん?」

「カブラギさんて…やさしくて親切な紳士さん…ですよねっ?」


当然である。俺は変態だが、変態であるがゆえに紳士なのだ。

今のは手がすべっただけなのだ。

あくまでも、偶然であり、ちょっとしたハプニングなのだ。

お尻に触れたのも、事故なのだ。


「い、いま、パンツに指を入れたり……しませんでしたよねっ?」


「気のせいだよ。お兄さんを信用しなさい」


「むむむ。……わ、わかりましたぁ…」


やっぱ、ちょろいわ……この娘。


「そのリクルーター?ってなんなの?」


「はいっ、私は『アスラ世界』からこの『第6世界』に派遣された、リクルーターなのですっ!」


「はぁ?」


「私の使命は、アスラ世界を救う勇者候補生を探してスカウトすることなのですっ!」


「………」


「あっ、いまウソだと思ってるでしょう! ホントなんですから!」




……どうやら俺は、メンドクサイ奴と関わってしまったようだ。




「あの……街も見えてきましたし、そろそろ降ろしてもらっても…」


少女は遠慮がちに言葉を掛けてくる。

だが、俺は男らしく毅然として言い切った。


「断る!」


「へっ?」


一瞬にして身を固くする少女。


「全国を旅してるんだろ? 今日から俺がお前の足になる!」


「ひいいい!」


いや、冗談なんですけどね。

アホなこと言う小娘には、ちょいとしたお灸をすえてやる気になったのだ。

……まあ、もうちょっとだけ、少女の感触を楽しみたかっただけなんですけど。


「ややや、やめてくださいっ!」

「ずっとこのままなんですかっ?」

「ずっと、ずっとですかっ?」


少女の小さな両手が俺の肩を強く握りしめる。

予想外に力が強い。

というか、痛いんですけど。


「どうするんですかっ! いや、どうしてくれるんですかっ!」

「このままだとお風呂もトイレも不便ですよっ!」

「ベッドで大の字で寝るには、私を下敷きにしなければなりませんよっ!」

「だいたい、このままじゃ、着替えもできませんよっ!」

「どうするんですかっ! 責任とれるんですかっ!」

「そもそも、こんなの『子泣きじじい』じゃないですかっ!」

「子泣きじじいの逆バージョンじゃないですかっ!」

「そんなの! 私は絶対に! 認めませんからねっ!」

「水木先生が許しても! 私は絶対に許しませんからねっ!」


すごい剣幕である。

しかし……いやあ、おもしろいわ、この娘。

俺はガンガン調子に乗ってきた。お調子者だけに。


「心配するな。例えトイレであろうと、俺はすべてを受け入れてやる!」

「……それが、大でも小でもだっ!」


「ももも……漏らしても良いんですかっ?」

「ま、まるで変態さんじゃないですかっ!」


「確かに俺は変態だ。……だが、変態という名の紳士なのだよ!」


「あわわわ。だ、誰か、助けてくださ…」


少女が暴れ始めたので、俺は素直に彼女を降ろした。

遊びはこれまでである。

本音では、もうちょっと遊んでいたかったのだが。

人を呼ばれてしまえば、本当に警察のお世話になってしまう。


俺の背中から唐突に降ろされた少女は、ペタンと尻もちをついた。

子供パンツが丸見えである。

…本当にありがとうございます。


「ち、近寄らないでくださいっ!」

「はっ! まさか…まさか犯すつもりですか?」

「……条例を!」



なんだろう……この娘の言い回し、いちいち面白いんだけど。




「冗談だよー。本気にするなよー」


「本気にしますよっ! この変態さんっ!」

「消えてくださいっ! この世から消えてくださいっ!」


ずいぶんな言われようである。

自業自得ではあるが。


「俺はお前を助けてやったんだぜ。恩人に対してそれはないだろ?」


「ぐぬぬ。……わかりました。今日のところは大目にみてあげます」


しぶしぶ、といった感じで少女は俺を許してくれた。

……ちょろ過ぎだろ、この娘。

少女は立ちあがると、スカートのお尻をぱんぱん、とはたいてこう言った。


「お別れの前に、お礼を差し上げないといけませんねっ!」


いやいや。 もう、たっぷりお礼はいただいているのだが。


「特別にあなたにも、コレをさしあげましょう!」


彼女は、会社員がつける名札のようなものを取り出した。

ネックストラップ付き名札、というものにそっくりだ。


「これはあなたが、選ばれし勇者候補生であることを示すものなのですよっ!」


あーはいはい。


「これを首に掛けていると、いつの日か、『アスラ世界』より迎えが来るのですっ!」


ふーん。


『大事なモノです。決して無くしたり、盗まれたりしないでくださいねっ!』


おk。


「あの…ちゃんと話きいてますぅ?」


「聞いてるよ…ちゃんと、な」


俺はモモちゃんから、名札のようなモノを受け取った。


「……ゴホン。では、なんじ、アスラの世を救う英雄たれ!」


左手を腰に当て、右手で俺を指差し、得意顔で少女はそう言った。

おそらく、決めポーズなのだろう。


「貴方様の今後の活躍を心よりお祈り申し上げます」


……まるで、就職を希望した会社から来た、お断りのメールである。

ただし、傾斜角45度の完璧なお辞儀付きだ。


テンプレのようなセリフを言い終わると…

少女はくるり、ときびすを返し、走り去ろうとした。


俺はなぜだか……

本当になぜだか、彼女との別れが急につらくなってしまい、声をあげた。


「あ、ちょっと待って!」


「ん? どうかしましたか?」


立ち止まった少女は、こちらを振り返り、にっこり、とほほ笑んだ。


「あの、また会えるかな…」


なんだろう、この感覚…。

……恋なのか? これが恋なのか?


少女はおもいっきり素敵な笑顔で、


「はいっ! 必ず会えますよっ!」


……そう言うと、街中に向かって駆けて行った。


俺は彼女が見えなくなるまで、ずっとそこに立ち尽くしていた。

心臓がドキドキする。

これは、恋だ。

俺は、そう確信した。




「なぜ、連絡先を聞いておかなかったのだろう…?」


浴槽のお湯につかりながら、俺は激しく後悔していた。

別れる時まで、自分の気持ちに気付かなかった。

『反省はしても、後悔はしない』

俺のモットーが足元から崩れていった。


俺は彼女からもらった、ヘンテコな名札みたいなものを見つめていた。

名札部分は、薄い金属のようなものであり、模様も何も描かれてはいない。

まったくの無地である。

ストラップの部分は、細いワイヤーを編みこんだような構造になっている。


これだけが、あの不思議な少女とつながるものなのだ…

そう思うと、風呂の時でさえ手離すことができなくなったのだ。


彼女がこの街の住人であれば、また会うこともあるだろう。

しかし、なんとなく、もう会えないような予感があった。

彼女は『必ず会える』と言っていた。

でもそれは、ずいぶん先の話であるような気がしてならなかった。


俺は風呂からあがると、脱衣所の洗面台に設置された鏡を見た。

首から胸元には、少女からもらったプレゼントがある。

本当に不思議な少女だった。

ああ、そういえば、こいつを首に掛けていれば、どっかから迎えが来るとか言っていたな…。

確か、勇者候補生がなんとか、アスラ世界の英雄になれとか…。


面白いことを言う少女だった。

彼女の言動を思い出していると、少し元気がでてきた。

英雄だとか、勇者だとか、きっと俺を笑わせる気だったのだろう。

そうに違いない。


ふふ……俺が勇者候補生に、ねぇ。

あれ? なんだかテンション上がってきたぞ!


うん、俺は単純なのである。

常にポジティブシンキング、なのである。


俺はバスタオルの端を首で結び、マントのように羽織ってみた。

やっぱ、ヒーローにマントは必要だよな!

俺は鏡に向かってガッツポーズをとった。

ボディービルダーがするように、両脚をガニ股気味に、上腕二頭筋に力をこめて…。


その瞬間。


唐突に『お迎え』がやってきた。


俺は激しい閃光に視界を奪われた。


なにがなんだか、わからなかった。


薄れゆく意識の中で、俺は…


俺は、どこか遠い所へ連れてゆかれるような気がしていた。



……ただし、全裸で。





【続きます】

お気づきの方も多いかと思いますが…

私が敬愛する、西尾維新先生の作品を一部パクr……ゲホンコホン

もとい、リスペクト&オマージュさせて頂いた表現があります。

ご不満のかたも多いでしょう。先に謝ります。

ごめんなさい。

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