お箸の上手な使い方
ボクは、お箸を使うのが大嫌いだった。
だって、今まで使ってたスプーンやフォークなんかは、一つだけを握ればよかったんだ。
でも、お箸は二本使わないといけないでしょ。
指使いが上手くいかないし、フォークみたいに、ハンバーグを刺したりしたら、行儀が悪いって、お父さんに怒られるし。
それでボクは、お箸を使ってご飯を食べるのが嫌いだったし、そのお箸はも〜と嫌いだった。でも、お母さんが、
「キミにお箸を教えてあげることも。ごめんね、私には何もできないの」
って悲しそうに言ったから、ボクはガンバって、お箸を上手に使えるようになったんだよ。
お母さんに、喜んでもらえるようにね。
それで、お母さんの所にボクの手にぴったりの大きさのお箸を持って、会いに行ったのさ。
扉を開いたら、お母さんがベットの上で空っぽの顔をしていたけど、ボクを見ると、いつものような笑顔になってくれた。
近くのお店で、お母さんの大好物の焼きそばを買ってきたボクは、それをお母さんに食べさせてあげたんだよ。
右手のお父さん指と、お母さん指を曲げて、お箸を持てば、準備OK。
それで、ソース色の麺を一本挟むと、ゆっくり、落とさないようにお母さんの口に運ぶんだ。
少しお口の周りに着けちゃって、怒られるかな、なんて考えていたけど、なんでか。
お母さん笑ったんだよね、泣きながら……。
「どうしたの?美味しくないの?」
ってボクが心配して聞いたら、お母さん、ボクをぎゅっと、抱きしめて、
「ううん、すっごく美味しいよ。ありがとう」
だって……良かった。
お母さんにもっと喜んで欲しくて、ボクは何度も同じ事をしたよ。
お母さん、このところ、ご飯が欲しくないみたいで、心配していたけど、全部、食べられたんだ。
丸いイスに座ったボクの、頭をなでるお母さんは本当に幸せそうで、ボクもとっても幸せだった。
………でも、それからずっと、お母さんのところに連れて行ってもらえないんだよね。
どうしてかな?
ボクは、お母さんが主役だっていうしんみりとしたお祭りの後、お父さんたちと、工場のようなとこに来た。
「何をつくるところなの?」
お父さんに聞いてみた。
「お母さんがな、天国って所に行くんだ。それでオレ達が少しでも寂しくならないようにな、ここでお母さんのカケラを作ってもらうんだ」
ふ~ん。
……天国ってどこ?
それから、ボクはカケラが出来上がるまで、あちこちうろうろすることにした。
工場はどこも明るくて、とてもきれいで。
でも、何もなくて。
なんとなくだけど、早く家に帰りたくなった。
それで少し離れた場所に着いたら、みんな悲しそうに泣いてたんだよね。
お父さんは?
……いた!
お父さんも泣いてる。
その手に持った二本の棒を小さく震わせて、白いカケラを、摘まんでは落として、摘まんでは落としてる。
お母さん。
……ボクの方が上手だよね。