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二話

寒気を感じ、目を開けると見渡す限り木、木、木、自分がいるところは土、地面が傾斜しているところを見るとどうやら山の中らしい。それにしても寒い。


 「うわ~、さみ~」


自分の服を確認してみると上半身は白色のTシャツ一枚、下半身も白のズボン、靴はトイレにあるようなサンダルだった。


これ病院にいたときの格好じゃん!そりゃ寒いわ!


あの野郎、心の中で悪態をつく。

てか左腕の骨折治ってないじゃん!2か月の安静!!


というか武器すらない!

しかし何の装備もなしにいきなりフィールドに投げ出されるとか、なんだよこれ!魔物に見つかったら即死じゃん!


・・・はぁ、とりあえず隠れながら下ってみるk_____目が合った。


なんだこいつ?鹿みたいな犬みたいな外見なのに口元グロい。

というか食事中?なんか食ってるよこいつ。口元真っ赤な血の色してるし。というかこの鹿犬肉食かよこいつ。


__やばいやばい、どうしよう。


えっと、こ、こういう時は確か、目を合わせたままゆっくりと後ろに下がるんだっけ。


恐る恐る、1歩づつ後ろに下がる。


 「ガーー!」


 「うわぁ!?」


いきなり吠えるから驚いて背を向けて走っちゃったよ、もう。怖い怖い。

これ大丈夫だと思って振り返ったらそこにいるパターンの奴だよ、後ろ振り向けないよ。しかも地味にサンダル走りにくいし。



木々をすれすれに避けていくと前方に開けた場所が見えた。


山を一気に駆け下りているからなのか止まらない足でバランスを崩さないように開けた場所に突っ込む。


 「ここまでくれば__」


ちらっと後ろを向いて追いかけてこないか確認する。


 「はぁ、はぁ、はぁ」


どうやら追いかけてはこないようだった。


 「ふ~マジ死ぬかと思った~」


割と本気でそう思う。あの眼はやばかった。あやつが食事中でよかったと思う。

息が落ち着いてからあたりを見渡すと村が見えた。


 「とりあえず行ってみるか」


というか主人公はチートなんだから余裕だったんじゃないか?とか考えながら村に入った。入ろうとした。


 「貴様何者だ」

 

 「へ?」


突然声をかけられて変な声を出してしまった。


声の主はこちらをじっと睨んでいた。


 「貴様は何者だ。プリーストか?」


 「え、えぇ、はい」


 「・・・・」


だめかな?これだけじゃ。通らせてくれる顔してないや。


 「い、いや~今日もお勤めご苦労様です」


 「・・・・」


これもだめか。

というか俺は何を言ってるんだ。まずいな。

状況がますます悪化している気がする。何とかしなくちゃ。何か、何か!


 「そ、そんなあなたに神の祝福があらんことを」


ほんとに俺は何を言ってるんだよ、こんな時に。

あ~も~!くそっ。どうしよう。


 「・・・・・・・・はぁ。何をしている。さっさと通れ」


うわ!通れた。通れた!あっぶね~通れた。よかったわ~。って、あれ?

あれれ?普通に通ってよかった感じ?俺これ恥かいた感じ?


くそ、損したじゃねーか。マジ緊張した。じろじろ見やがって。

普通に通っていいならそう言えよ。プリーストってなんだよ。

俺のコミュ力なめんな、まったく。


しかし記念すべきファーストコンタクトが門兵だなんて。

ここはふつうヒロインだろーがよ。

ま~とりあえず入れたんだから良しとするか。

次は情報収集だな。そう思いながら足を進める。


 「・・・・どうしよう。」


まさか異世界にきてこんなことになるとは、とほほ。


というかあいつお金と装備くらい用意しといてくれたっていいじゃないか、ほんと。愚痴りながら一応ズボンのポケットも確認する。

左ポケットが確認しづらい。


頑張って確認したのに何もないとがっかりしているとほら、

変な人を見る人だかりが完成だ。

そりゃそうだよな、左腕にわけわかんないもんつけてんだもんな。

自分が不便になるんだったらつけるなよって話だよな、ほんと。


だが!俺はあきらめない!俺は勇者になるんだから!


ここはこの雰囲気を逆転させる圧倒的なカリスマ性から叩き出されるパフォーマンスが必要だ。


くっ。さっきの孫の手もらっておけばよかった。こうなったら___


 「俺はバーナーってもんだが、あんた、何もんだ?」


 「へ?・・・あっ、えっと自分は全く怪しいものじゃなくて、えっと、プ、プリーストです、、、はい」


くそ、出鼻をくじかれた。

おかげで本来の俺のコミュ力が曝されちまったじゃないか。

しかも、話しかけてきたおじさんがたい良いし目つき怖いし。

こうなるんだったらさっさとお面ガイラーのまねをすればよかった。

悔やんでも仕方ない、やれることをやろう。ひとまずは情報収集だ。


 「あ、あの~すいません、少しお時間をいただきたいのですが~」


よし。俺にしては上出来な切り崩し。ま~あえて欠点を挙げるなら声が小さかったことかな。二回言う羽目になった。


 「なんだ、布教か。その恰好からみるにルーヴェン教か?ここまで来るのは相当大変だっただろう、うちで飲んでけよ」


 「え?い、いや、俺まだ未成年なんでちょっと__」


 「何ぶつぶつ言ってんだ?ルーヴィエン教は飲酒は許されてるんだろ?ま~話くらいは聞いてやるからうちで飲んでけや」


そう言うと俺は肩をつかまれて連れていかれた。話全然通じなかったな~。しかも左腕結構痛いし。




 「で、なんか言うことはあるか?」


 「いやっ、なんていうか、俺、まず一度も飲むとか言ってないんですけど・・・はい」


 「ああん?」


 「あっいや、えっと、はい」


状況を説明しよう。いや、説明できない。俺にも何が何だか。ただ、酒場に連れていかれてお酒を少し飲んだ記憶しか残ってない。


とりあえず俺は今閉められている酒場の一角で尋問されてる。

ま~予想するとなんだ、どうやら俺は飲み逃げしようとしたらしい。

ま~・・・お金ないしな。


 「そんな恰好で旅なんてできるか!杖も持ってないし、お前プリーストじゃないな。大体プリーストだったらその左腕なんてさっさと治してるだろ。金も一銭も持ってないし。それに、結局飲んでんじゃねーか」


一気に畳みかけられて言葉に詰まる。


 「うぐっ。それは~ですね~、えっと~、n、逃げてきたんですよ」


嘘は言ってない。けどやばい、切り抜けられない。

ここで異世界人だと明かすしかないのか。しかし信用されるか?

さらに信用失ってしまいには牢屋行きなんて___いやだ!何とかしなくちゃ。どうしよう。


 「なに!そりゃ運が良かったな!」


 「へ?」


・・・え?

なに?もしかして逃げてきたって言い訳が通用するの!?何それ。


 「あんた、山の方から来たな。だったらあそこか。また住み着いたのか」


 「えっと、また住み着いたって__」


 「あぁ、あそこにはよくゴブリンが住み着くんだ。前に討伐したのは3年くらい前か、そろそろやらなきゃな」


何それ、危ないじゃん。ま、ま~とにかく切り抜けられたか。


 「あんた、金のあてはあんのか?」


 「はいっ!あっいや、ないです」


油断してたぜ。おかげで、面接で新卒の大学生がする並みの返事しちまったじゃねーか。


 「そうか、ならうちで5か月働け。それでチャラにしてやる。ちょうど討伐隊のおかげで人手が足りなくてな」


g、5か月だと?いくらなんでもそれは長過ぎないか?


 「あの、俺そんなに飲んだんですか?それと討伐隊ってなんかあるんですか?」


 「覚えてないんか。きのうあんたはきのう居た冒険者と賭けして負けたんだよ。きのうの客の料金は全部あんた持ちだ。きのうはうちの一番も一本飲まれちまった」


なんだと。くそ!なんて奴らだ。身なりからして俺が金を持ってないことくらいわかってたはずなのに。顔も名前も分からないけどあったらぶっ飛ばす。絶対。


 「あと、討伐隊ってのはあれだ、魔王討伐のために王都が兵を集めてんだよ」


落ち着け俺・・・なるほど。


ここの王様は勇者なんてものには頼らないのか。

確かに勇者一人にすべてを託すよりかは現実的にもいいことなんだろうが、だがそれでうまくいくほどRPGはあまくないぜ、王様よ。


 「あんた名前は?」


 「あ、渡部淳、ジュンです。」


 「そうか。忘れてるかもしれないから言っとくが、俺はバーナーだ。この村で酒場を経営してる。それとこれからは敬語じゃなくていいぞ。それじゃさっそく仕事だ」




それから1か月はとても忙しかった。


朝の水汲み、店の運営、それと料理。どれも初めてのことだったし左手がろくに使えなかったから、最初の頃は村の住人によくからかわれた。

でもその1か月で収穫もたくさんあった。

空き時間に村のいろんなところを歩き回ったおかげで村のみんなとあいさつするくらいにはなれた。


それにこの世界についてある程度はわかった。


まず、この世界には大きく5つの大陸がある。アールセン大陸、コーグジー大陸、カトペール大陸、ジーフィア大陸、そしてロード大陸。


世界地図があるとすると中央にロード、南西にアールセン、北西にコーグジー、北東にカトペール、南東にジーフィア大陸がある。


正確に言えばアールセンとコーグジーは陸続きなので大陸とはいいがたいが、アルピオ砦と呼ばれるばかでかい建造物に分断されていてここでは大陸とみなされている。


ロード大陸とコーグジー大陸以外のそれぞれの大陸はその大陸と同じ名前の大国があり、統治している。

コーグジー大陸にも大国はあったが200年前になくなったらしい。


ここはアールセン王国のトーズヘス村。アルピオ砦の近くにある山脈のふもとにある。

一応にぎわってはいるが、アルピオ砦のちかくにあるもう一つの町の方が物流も活気もすごいらしい。


そして今は征暦547年。

もともとこの世界はドラゴンに支配されていたらしく、この征暦というのは、50年にもわたる解放戦争でドラゴンの支配から人が解放されてから始まった年号らしい。

ただ、ロード大陸にはまだドラゴンがいるらしいが。冒険者が何組もロード大陸を征服しようと挑んだが帰ってきた人はいないとか。


ロード大陸以外の大陸の名前は解放戦争の時の英雄がその大陸を治めたからその人の名前だそうだ。と、まぁ歴史の話はこれくらいにしとこう。


どうやらこの世界にはちゃんと魔法があるらしい。


大体の魔法使いは王都か、領主のところにいるらしい。といってもこのトーズヘス村にはいない。

聞けば、有能な魔法使いは皆、年老いて、眼鏡をかけ、腰が曲がっていて、杖で体を支えているとか。そりゃ、弟子も王都とかに集まるわな。


ともかく魔法はあるにはある。が、想像していたのとは全然違う。

皆が使えて強くて便利!なんてものではないらしい。


もともと魔法はドラゴンのもので魔力みたいな概念もなく、それの構造を理解するのは困難でもはや才能がいるレベルで、しかも有能になるには相当時間がかかるらしい。


これを聞いたとき、相当ショックだった。異世界の醍醐味の一つである魔法がそんなにも難しいものだとは。


 「ジュン?呼ばれてるわよ?」


この、誰々~朝よ~、がよく似合う声の主はネービアさん、バーナーの奥さんだ。少しぽっちゃりとした体形で、いかにも酒場の女将って感じの人だ。


 「は~い」


休憩時間の習慣にしていた読書を切り上げ、下に降りる。

俺は今この店の長男の部屋を借りている。その長男は今現在討伐隊に参加しているらしい。俺が魔王を討伐するまで死なないといいけど。


あれ、いない。


 「外にいるわ」


そう言われ外に出ると、バーナーがエストールと話していた。

エストールはこの村の自警団長をしている齢57のギリギリ現役の老剣士だ。


老剣士といえば聞こえはいいが、いつも俺をひょろいとか馬鹿にしてくる口うるさいただの爺さんだ。しかし、何の用だ?


 「おう、きたか」


バーナーには悪いがここは先制攻撃だ。


 「あれ、こんな真昼間から珍しいな。何の用だよ?爺さん」


そう。俺はこのおじいさんを夜しか見たことがない。しかもいつも酔っぱらって難癖をつけてくる。昼間はいつも、鍛冶か自警をしているから会うことはあまりないのだ。

 

 「そう噛みつくな、ガキンチョ」


まるで俺がこういうのがもとからわかっていたみたいな返答だ。ここで俺がただ単に突っ掛っているだけじゃないかと騙されてはいけない。


 「まあまあ、ジュン、お前戦闘は出来るかというかしたことあるか?」


 「え?あ~いや、ないけど?」


何のことだ?

とりあえずこの場合嘘言っても損するのは俺の方だと思ったので本当のことを言っておく。


 「ほらみろ。やめとけ」


すぐにエストールが話を終わらせようとする。

そういうことすると気になってしまうのが人の性という奴だ。


 「なんだよ、何の話だよ」


 「いやな、そろそろゴブリン討伐をやろうって話になったんだ」


 「なるほど。じゃあ俺を呼んだのはゴブリン討伐に参加させるためだな?」


確かに魔王を倒すならこんなところには構っていられないわな。


 「違う。お前が来ても足手まといだ」


またこれだ。そこまでガキじゃねーっつーの。

それに俺は勇者なんだぜ?今思い出したけど。


 「はぁ?なんだよそれ。俺にだってゴブリンくらいどうにでもなるだろ」


 「確かに、今から鍛えればゴブリンの1体や2体どうにでもなるだろう。だが奴らは狡猾で集団意識が強い。1度囲まれてしまえば手練れでなければ抜け出すことは困難だ」


真面目な顔してエストールが言う。ま~そういうもんか。

真面目に言われると戦闘未経験の俺は何も言えない。


 「・・・じゃあ何で俺を呼んだんだ?」


バーナーがそれは俺が言う、みたいなせきをしたのちに言う。


 「それはだな、ジュン。俺たちがゴブリン討伐にいってる間、お前にこの村の自警をしてほしいんだ」


・・・確かにそれは必要だわな。


 「あ~そっか。わかった」


 「断ってもいいんだぜ、ガキンチョ。」


いちいち俺を小ばかにした物言いだな、ほんと。


 「いや、やる。もう決めた。それに俺もそろそろ何かやりたいと思ってたんだ。いつまでも俺をガキだと思うなよ」


 「・・・・・・はぁ」


 「どうやら決まったようだな。ほら」


そういうとバーナーは俺に金の入った小袋をよこした。


 「これは?小遣いか?」


 「ばか、それも借金の内だ。それ持ってエストールについていくんだな」


あぁ、さらに遠のく俺の旅立ちの日。なんだかもうこの村から出れない気もしてきた。



そうしてエストールについていくと、彼の店についた。


 「おぉ、スゲーな、やっぱり」


中を見わたすと、剣や盾、防具なども飾られていた。


 「おいガキンチョ、いくら渡された」


近くにあった剣を眺めていると不意に声をかけられる。前を見るとカウンターの前にエストールが金くれポーズをしていた。


 「いくらだろ、わかんない」


確認する時間がなかったたし、面倒だったのでさっき渡された小袋をそのまま渡した。


 「はぁ、ま~こんなもんか」


小袋に手を突っ込み、そう言いながら手を抜く。ごっそりと持っていかれた。小袋を返されると明らかに半分以上減っていた。


 「おいおいおい、何すんだよ、返せよそれ俺が借りた金だぞ」


 「ぅるせーな、黙ってそこに突っ立ってろ」


そういうとエストールはお金を奥にしまいに行き、メジャーらしきものを持ってきた。

そして俺の体のあちこちをこんなもんかとか言いながら測り、それが終わると奥に入ってしまった。


 「明日の空き時間にここに来い」


ぽけ~としていると、奥から声が聞こえ、我に返る。

そうか、これから本格的に俺のRPGが始まるんだな。やったーとか思いながら店を出る。



 「しかしまだ時間があるな」


上機嫌で村を歩いてると苦手というよりむしろ嫌いな奴と出くわした。


シルカ。


年下で髪は茶色、背は女にしては大きいが俺よりは低いくらい。顔は中の上か上の下あたり。


俺が見たところ、若い者の中ではこの村の1位2位を競うくらいだ。

が、性格がひどい。人間の皮をかぶった悪魔。すでに下僕が2人いる。

こいつがあの日冒険者に悪魔の言葉をささやかなければ俺は、おれは・・・


 「なに気持ち悪い顔してんの?」


どうしたの?みたいに聞きながら普通に悪口を入れてきやがる。

もっと優しく聞けないのか。


 「お前にはかんけーねーよ。じゃあな」


お前にかまってる暇なんかねーよ、って顔しながら足早に通り抜けようとする。


 「ちょっと待ちなさいよ」


肩をつかまれることはなく、その代わりとして思いっきり腹を殴られる。

そう来たか。みぞに入ったのか口から勢いよく空気が出て膝をついてしまった。


 「・・・も、もっと優しくは出来ないのか。この暴力悪女」


顔を上げるとは~すっきりした、って顔していた。くっそ。


こいつこれで俺より年下とか親はどういう教育してんだよ。

この性格修正しなきゃこいつ売れ残るぞきっと、いやもう遅いか。

絶対売れ残る。俺もいらない。


 「なに言ってんの?」


こいつ、自分は悪くないとでも思ってんじゃねーの。

というか俺こいつになんも悪さしてないし。むしろ俺被害者っす。


 「レディはもっと淑やかでいるべきだから、そう心がけて行動しろって言ってんだ」


 「うっさいわね、蹴るよ」


言いながら蹴るモーションを始める。


 「なんなんだよ、もう」


慌てて距離を取る。ほんとにこいつはなんなんだよ。


 「ついてきて」


 「は?」


 「聞こえなかった?ちょっと面貸せっつってんだ」


鬼の表情でそう言うと俺は強引に腕をつかまれて引きずられる。

怖いよ(汗)。

ちょっと、これ恐喝ですよ?

こいつ絶対暗がりで俺がさっき借りたお金かっさらう気ですよ(悲)。


 「ぁ、あぁ」


少しだけ。ほ、ほんとに少しだけなんだけど怯えながら逃れることのできないことを嘆き、覚悟を決めさせられた。




 「はい、じゃよろしく。勝手に帰ったらお前の借金増やしてやるから」


シルカの家の裏庭に連れてこられた俺はそう言われると、斧を渡されその場に取り残される。


目の前には大量の小さい丸太。

というか借金増やすとか、マジやめてくれよ。地味にこたえるわ。いや、ポジティブに考えろ・・・考えらんねー。いや、金とられるよりましか。

いや待て、その思考がもはや負け犬だ。


は~~やるか。しかたない。


あいつの家は大まかに言うと木材屋だ。丸太から薪までありとあらゆる木材を扱っている。

そして今回やれと言われたのは薪割りだろう。


なんでこの時期なのかというと、冬に薪を切ってそれを使ってもあまりよく燃えないからだ。

この時期に切ってあらかじめ薪を乾燥させることによって冬の時期によく燃える薪を各家庭に提供できるということだ。


というか、なんなんだ。これ俺がやることじゃないよな。

まぁ、100歩譲って俺がこの仕事をしてやるとしてもだ。

借金増やすって。逆だろ、逆。俺はお金をもらう側だろ、これ。

あいつほんと頭おかしいな。

あ~なんか苛ついてきた。とりあえずストレス発散するか。



この頃は左手も普通に使ってる。

大丈夫なのかって?大丈夫なんだな~これが。

2か月の安静でも1か月と2週間くらいで骨折が治った感じがするあれだ。


えっ?訊いてない?・・・ごめん。 


なんでこんなこと言ったかというとだね、俺には斧を片手で持って薪を割れるような力がないからだよ。

こう言っておかないとまるで俺が片手で薪をバキバキ割ってる絵しか想像できないだろ?


ほんとは一回やってみたんだよ。したら、大幅にずれるし、あんまり刃が埋まらないし、でいいことがなかった。


そうそう、この薪割りって単純作業だけど意外とムズイ。

最初はなかなか薪の中心に振り落せなかった。ま~もう慣れたけどね。


しかしもうそろそろ宿に戻って下準備とかしなくちゃいけない時間なんだけど、あいつ帰ってこないから帰れないんだよね。しかも手止めたら疲労感が押し寄せてきたし。

さて、どうしようか。


ま~こんだけやれば勝手に帰っても許されるでしょ・・・たぶん。そう結論づけて立ち上がり、酒場に戻る。



酒場に戻るとバーナーとネービアさんがすでに準備を始めていた。


 「おう、今日はどうしたんだ」


 「いや、シルカの奴に薪割りやらされてた」


 「あっはっはっは。お疲れさん。しかしお前も何だかんだであいつの頼みは断らないよな」


 「断らないんじゃないんだ、断れないんだ。断ったら借金増やされる。もしかしたらもっとひどいことになる」


 「ふふっ、ジュンはシルカに尻に敷かれてるのね」


厨房で料理を作っていたネービアさんがひと段落ついたのか、会話に入ってくる。


 「は!?まさか。あとその言い方だとまるで俺があいつの頼みを喜んでやってるみたいじゃないですか。嫌ですよ。断れるなら断りますよ、勿論。そ・れ・に、俺とあいつの関係は敵対関係です。何度言えばわかってくれるんですか」


この人はいったい何を言っているんだ、まったく。これだから女は・・・すぐに恋話にしたがる。

というかいつも思うけどネービアさんこういう時頭吹っ飛びすぎるんだよ。どう見たら俺とあいつがそういう関係に見えると言うのだ。


 「ジュン。敬語、戻ってるぞ」


 「あっ、すいま__ごめん」


 「ふふふっ。焦っちゃって。まだまだ子供ね」


 「だから違うって。ほんとにいい加減にしてくださいよ、もう」


 「あら。吹きこぼれちゃう」


そういうと俺の話なんか聞いてないかのように鼻歌を歌いながら厨房に消えていく。


 「しかし、年下に尻に敷かれるか~」


 「だから違うって!」


くそ、やっと消えてくれたと思ったら。

なんなんだこいつら、ほんと頭どうかしてる。


 「悪かった。だがそんなむきになるなよ。余計ほんとに見えるだろ?さて、そろそろ客が来るころだ。店を開けるぞ」


 「はぁ。わかった」









 「お~い。来たぞ~。じいさん?」


少ししてから奥から声が聞こえた。


 「来たか。装備はそこに置いてある。とりあえず着てみろ」


 「あ、これか。おぉ~」


そこには革でできた防具があった。厚めのタンクトップ、胸を覆うプレート、ガントレット、ベルト、ブーツ。

ゲームの世界に入り込んだみたいなに思えて感動する。が、すぐに現実に戻される。装着しづらい。マジックテープでもあればいいのに。

そんなこんなで上から下まで着終わるまで結構時間がかかった。


 「どう?」


調子こいて振り向きざまにポーズをしながら聞いてみる。


 「って、いねーのかよ」


恥ずかしいわ、くそ。

格好つけたこともそうだけど誰もいないのに人に話しかけたことが恥ずかしい。あ~忘れたい。


 「不格好だな」


俺が顔を真っ赤にしながらうわ~うが~言っているとやっと爺さんがやってきた。


 「悪いかよ。何してたんだ?」


気を取り直して?悪態をつく。大体こっち来るのが遅いんだよ。声かけてから何分経ってたと思ってんだよ。


 「ついて来い」


それだけ言うと爺さんはさっさと再びカウンターの奥に入って言ったしまった。さっきから会話が成立してないと思ってしまうのは俺だけか?とか考えながらついていく。


どこに行くのかと思っていたら爺さんの家の裏の空き地だった。


 「ほら、これ持ってかかってこい」


そう言って渡された刃のついてない剣と盾を受け取りおもさを確認したのち構える。相手を見るとだら~んとしていた。

ふっふっふっ、ここでいけると思う俺ではないぜ。


こいつはあれだろ?あの油断してるふりをして逆に相手を油断させるやつ。いい年こいてやることがせこいな。


そう考え、注意深く相手を観察する。相手は右手に剣を持ち、両腕をだらんと下げている。ここであることに気付く。


 「あれ?そっちの方が剣長くないか」


ほんとせこいな。普通に考えて戦闘初心者な俺には同じかそれ以上の長さのものをよこすだろ。


 「あ?俺の体に一回でも当てられたら使ってもいいぜ」


 「くそが」


とりあえず突進する。最後に腕を突き出せばあたるだろ。作戦を決めて走り出す。


 「とりゃ」


 「ふん」


思いっきり突き出した剣を半身で避けられあえなく剣を叩き落される。


 「まず、走るときに腕を振るな。自分のリーチぐらいすぐ理解しろ。突くとき腰が引けていた。なんだあの腕の突き出し方は、それと・・・・」


 「・・・・いっぺんに言わないでくれ」


なにこれ?異世界人はこういう時『ふ~む、貴様筋がいいな』とか言われるだろ、常識的に考えて。というかこっちは初心者なんだぞ。


いや、ここは特技のポジティブシンキングだ。逆に今の時期にたくさん怒鳴られることで、徐々にその回数は減っていくんじゃないか?


 「えっと、なんだったかな」


剣を拾って言われたことの思い出せるものだけを意識、確認して前を見る。


相変わらずだら~んとしている。いつまでもその余裕が保てると思うなよ。


 「いくぞ!」









 「はぁ、はぁ、はぁ」


もう無理。動けない。最初の頃はまだよかった。

一回の攻撃が終わるごとに怒られて、直して、怒られて。

初日にしてあのころが懐かしい。

まぁ、俺が直しても直してもできなかったから途中で型とかいうやつを教えられてそれを何百回・・・・ありがたいけどしんどいわ。


 「今日はここまでにしておくか」


そう言われた瞬間に剣と盾を手から放して地面に座り込む。


 「やっと終わった」


 「明日からは空き時間にはここに来い。俺がいるときは相手してやる。いないときは適当に動いてろ」

 

 「休みはないのかよ」


 「んなもん俺がいないときに適当に入れろ」


こうして俺の地獄が始まった・・・・ってこれでいいわけないだろ!


 「俺そこまで暇を持て余してるわけではないんだが」


 「関係ない」


 「・・・・これいつまで続くの?」


 「お前次第だ」


 「・・・・マジかよ」


マジかよ。思わず口に出る心の声。これからほぼ毎日訓練するためにここに来なくちゃいけないのか。ここに来るのがほんと億劫になりそうだ。あ~いやだな~と現実逃避をしながら立ち上がり、帰ろうとする。


 「そうだ。忘れるところだった。ほらよ」


そう言って鞘に入った剣と新しい盾を渡される。


 「なにこれ?くれんの?」


 「もともとお前の金だ」


あっ、さいですか。少し落胆しながら鞘から剣を引き抜く。今度はちゃんと刃がついていた。


 「それは今は使う必要ないから部屋にでも置いておけ。」


あれ、なんかまたテンション下がるような発言が聞こえた。


 「え、これ使っちゃダメなの?」


 「お前は俺と殺しあいをしたいのか?」


うぐ、確かにそうか。

これからは酒場かここにいる時間が多くなる。ここには武器が有り余っているから自分の部屋に置いておけば何かしらの時に役立つか。


 「わかった。そうする。ありがとな」


そう言い、とりあえず剣と盾をベルトに何とかして付けて持ち直したテンションでその場を去る。



 「ふん、ふふん、ふ~ん」


剣をもらったことでテンションが上がり、鼻歌まで出てしまった。


 「気持ちわる」


横からいきなり思いっきり聞こえるような声で悪口を言われる。くそ、何でこんな時にと思いながら振り向く。


 「うるさいな。お前には関係ないだろ」


 「あるわよ。あんたのその雑音を振りまけないで。迷惑よ。やめてくれる?」


一気にテンションが下がった気がする。も~ほんとなんなんだよこいつ、面倒臭いな。さっさと帰りたい。


 「あ~悪かったよ。以後気を付ける。これでいいか?」


 「きのう、何で勝手に帰ったの?」


 「あ?いや俺にだって仕事があんだから無茶言うなよ。ガキじゃあるまいし」


そう言いながら歩き出す。そろそろ店を開ける時間だからほんとどうにかして撒けないかな。


 「あ~そう。わかったわ。みてなさいよ、後悔させてやる」


あれ?意外とすぐひいてくれた。後の方はよく聞き取れなかったけど。まあなんにせよこれで帰れるんだ。こんな珍しいこともあるんだな。きっと明日は雪だな。そう思いながら再び帰路につく。







その日、借金が合計1年分に増やされた。









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