ヤンデレって一歩間違えると犯罪者だと思う
初投稿です。暇つぶしになれば幸いです。
「ヤンデレ?」
菜摘の言葉に私は首を傾げた。
「ヤンキーがデレるってこと?」
「それはそれでちょっと萌えるけど、違う」
私の言葉は即効で否定された。
他に略でヤンになるような言葉ってあったかな? 人名とかならありそうだけど、違うだろうし。
「ヤンは病んでるのヤン」
菜摘はアイスの殆ど無くなったクリームソーダを飲みながら言った。
話とは全く関係ないけど、私はクリームソーダのアイスが少し溶けかけたところにソーダがくっついて固まりかけてちょっとシャリシャリしているところが好きだ。そのシャリシャリ部分だけでメニューにあったら絶対頼む。残念ながら無理なので、私が頼んだのはアイスココアだ。
「病んでるってことは、病気か。不治の病とかで『君の負担にはなりたくないから別れよう』とか言って距離をおこうとしたけどできなくってデレるとか?」
それってツンデレみたに一般的な略になるんだろうかと思いつつ、なんとか想像してみる。
「はずれ。普通に物語とかでありそうだけど、違う」
菜摘は私の発想が予想外だったのか、呆れてるんだか面白がってるんだか分からない表情で口を開いた。
「身体の病気じゃなくって、精神的な方」
精神的?
ということは精神病か。現代社会は、ストレスにあふれているのか、精神病にかかる人が多くなっていると聞いたことがある。ツンデレみたいなジャンルになるほどだったとは知らなかったが。
「鬱病とかになって、恋人関係を解消しようとして、距離をおこうと以下略」
「外れ。ってか普通にラブストーリーっぽいよね、それ。デレっていうより普通の恋愛ものじゃない?」
むう。そう言われると否定できない。
しかし、精神的に病んでるのとデレが結びつく状況が考え付かない。
そんな私を微妙にかわいそうな子を見る目で菜摘は生ぬるく笑った。
「まぁ、色々種類はあるけど、好きな子をつなぎとめる為に自傷行為に走ったりとか、逆に相手を傷つけて暴力で支配しようとするとか、監禁しちゃうとか、殺しちゃうとか、周囲を殺しちゃうとかそういうの」
私はいざ飲まんと口に含んだアイスココアをあやうくふきだすところだったが、なんとかこらえた。白い服にアイスココアは絶対染みになる。
「ツンデレっぽく可愛く言っても、それって犯罪じゃんか」
菜摘の説明によると、そんな犯罪行為に至るような狂った恋情が人気らしい。
人の趣味をとやかく言うつもりはないし、性癖だって別に人それぞれだとは思うが、犯罪はいかんだろう。犯罪は。
「殺したらそれで終わりだし。犯罪なんぞしたら、警察に捕まって結局一緒にいられないだろう。そこまで好きな相手なら末永く一緒にいる方法を考えるべきじゃないか?」
私のもっともな台詞に、菜摘は笑い出した。
「いや、萌えにそんな一般常識言われても困るって。大体そのての話って、相手がお金持ちとか権力握ってたりとかで、犯罪行為しても大丈夫だったりするし」
菜摘一旦言葉を切ると肩をすくめた。
「ま、ヤンデレは二次元に限るけどね。実際にいたら怖いっしょ」
私は二次元でも怖いというか好んで関わりたいとは思わない。リアルだったら全力で逃げるしかあるまい。
「なかなかすごい会話だね」
予想外のところからツッコミが来た。
世間で言うところのイケメンという輩で、あまり接点が無い。一応名前は知っているが、話したことは殆どない。
「杉村君。いきなり会話に入ってくるのはどうかと思う」
私の当然の言葉に、彼はどこか情けないような、不満そうな微妙な表情をした。
「俺、杉村じゃなくって杉浦」
「殆ど同じじゃないか」
私の言葉はあっさりと無視され、何故か当然のように話に加わってきた。
まぁ、どちらにせよ私の意見としては犯罪者お断りだ。
菜摘も杉浦君同意してくれた。まぁ、当たり前か。普通犯罪は推奨しない。
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そして私は現在進行形で監禁されている。
犯罪者お断りに同意してくれた筈の杉浦(もう呼び捨てでいいだろう)の仕業である。
「ん? 犯罪者になったら一緒にいられないから、逮捕されないように考えて行動して欲しいって意味だろう?」
杉浦の発想は私の斜め上をいっていた。
「ちゃんと入籍して夫婦だし。今はネットで買い物も出来るし、家に引きこもってる主婦だって結構いるだろうから、外に出なくてもおかしくない」
いや、おかしいおかしくないの話ではない。
外に出ないのと出られないのは根本的に違う。
「それにしても、なかなか素直になってくれないよね。あの最中はおねだりとか好きとか言ってくれるのに」
杉浦は私の頬を指でなぞりながら耳元で囁いた。こそばゆい。
「あれは素直とかじゃなくってそっちが言わせているんだろう」
まともな思考が出来る状態なら絶対言わない。言いたくも無い。
「心は身体に引きずられる。それに何度も口にしてるとその気になるから。いいかげんに俺に堕ちろ」
「だが断る」
耳をかまれた。
杉浦は私から離れると、ため息を吐いた。珍しく真剣な顔でなにやら考え込んでる。
とうとう私の希望が通じ、開放してくる気になったのか? そうであってくれると非常に嬉しい。
「仕様が無い。ドロドロに見も心も甘やかしてやろうと思ってたんだけど、そうまで俺を拒むなら」
いやいやいやいや。
今までの言動のどこが甘やかしてたんだ。
拉致監禁している段階で間違っているだろう。確かに暴力こそふるわれなかったが、それは甘やかすとイコールではない。いや、こっちの意思を無視して無理矢理やることやられたんだから、暴力より酷いか。身体は慣れたけど最初はものすごく痛かったし。身体が慣れたって精神的には慣れないし、慣れたくない。
私の非難の眼差しに、何故か杉浦は昏く笑った。
「生殺与奪を俺が握ってるって理解してるか?」
「脅迫か?」
脅迫でどうこう出来ると考えるような男だとは思っていなかったんが、予想外だ。
確かに死にたくはないが、脅迫されて相手を好きになる訳がないだろう。
「まさか。脅迫なんて莫迦な真似はしない。俺を拉致監禁の犯人だと言うなら、それ相応の対応をしようと思ってね」
びくりと身体が震えた。
この男は莫迦ではない。それは今までの私に対する対応で良く分かっている。
甘やかしていたと言ったが、どちらかというとマインドコントロールしようとしていたという方が正しい。
精神的に貶め、追い詰め、私の存在を否定しておいて、こちらが弱ったら肯定し、優しくする。私の存在を認め、受け入れることが出来るのは杉浦だけだと思いこむように。
まぁ、思い通りになんぞなってやらなかったが。
そんな事をやる男が犯人らしい行動を取るということは……
「ストックホルム症候群」
ぼそりと呟いた私の言葉に、杉浦はひどく楽しげな笑みを浮かべた。
月夜の闇猫様のヤンデレ増殖企画投稿作品です。
文章を書くのは久しぶりのリハビリ中なので、生暖かい目で見て頂けると有難いです。