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アホなのか?

わたし、父さま、ヘーカはリビングのテーブルの前に並んで正座させられている。


全員正座して下を向いて握ったこぶしを膝の上に乗せているという、この姿勢になってとうに一時間はたっているが、そろそろ足が痺れて来た。

チラッと横を見ると、隣に座らされている父さまも、1つ向こうに座っているヘーカもモジモジしているので同じだろう…板間に直接正座はキツすぎる。

後ろのテーブルの上には夕食が並んでいるが、香りはするが見ることもできず、お腹はすいているのに口に入れることも出来ない…

父さまもヘーカも、何とかしてくれ。という目でこちらを伺って来るが、何か言おうものなら間違いなくまた怒られるので、黙ってうつむいていると、


ドンッ!!!!


「あなたたち、ちゃんと聞いてるの!!反省してるの!!??」


母さまはテーブルを叩いてそう聞いて来る。


わたしたちはビクッとしてまた下を向いてうなだれる。



事の顛末はこうだ。


あのあと怒り狂い取り押さえようする大人達から逃げ回る父さまは

「わかった。黄国に行くから、何とかしてくれ」

ヘーカは

「そんなもんは当たり前じゃ。その間貴様の家にやっかいになるからの」


「な、何をバカな事を……い、いや、何日でも居てくれ!」


「居てくださいじゃろ?」


「……い、居てください。」


「それと毎日三回スイーツをつけるんじゃぞ?その内一回はリンゴのタルトじゃ。良いな?」


「お前…調子に乗りやがって……く、くそう。わ、わかった…頼んでみよう……」


「確約せんか!!それと言葉使いにも気をつけんか!!」


「わ、分かりました……仰せのままに……いたします」


「良かろう。そこまで言うならタルトを食ってやろう」


「……」


「……」


「あの~誤解を解くのをお願いします」


「お、おう。そうじゃったそうじゃった」


このあとヘーカは竜の姿に戻り、ボーゼンとする村人全員に念話で


《ドッキリ大成功~!!》


何とも雑な説明でした。





帰宅してこの話を聞かされた母さまは全てを把握するためにしばらくニコニコして聞いていたが、ヘーカの


「あのランスロットの狼狽した姿と村人の唖然とした表情が最高じゃったのう~~」


の言葉にキレた。




そして今に至る。


頼みの綱のレオンはこの空気の中、平然と寝息をたてていて、

「かあさま、僕おなかすいた~」

の、助けは期待出来ない…

弟ながらかなり大物かもしれない。


簡単に説明すると、


父さまは、東の森に魔物狩りに行っておいて、結局一番大物の竜を見落とすという失策から始まり、村人に勘違いさせた態度と、簡単に疑われるのは普段の行いが悪いからだと言われて普段のどこが悪いかを詳細に批判され、とにかく結論は詰めが甘いということらしい。

しかし最後に

とにかく村人に怪我をさせなかったのは評価出来る。竜族の角と牙を折った剣の技量も素晴らしい。さすが私の旦那さま。

と持ち上げて、父さまは嬉しさで涙ぐんでいた。


ヘーカは、年頃の娘が簡単に肌を晒すんじゃありません。から始まって、「ワシ300才なんじゃけど…」の反論には、実年齢がどうであれ、見た目が15才前後ならそれは、独身の若者を誘惑する事になるのは変わりなく、悪影響と理性のなんたらかんたら、とにかく慎めと釘を刺され、供も連れずにこんなところまで1人で来ることじたいが非常識で、国を背負うものとしての責任感の欠如などと叱責され「それを言うならラインハルトもじゃ…」との反論には、「今はあなたの事を言っているのです。それに、その事については後で説明します」と、ピシャリ。

というかヘーカって王さまだったんだ…とてもそんなふうには見えないけど。

そして、王たるものの資質が足りないとまで言われて涙ぐんでいた。

しかし最後に

私の自慢の旦那さまを欺く魔法と巧みな演技、村の大人達を手玉に取る意識誘導は一流だと褒め称えて締めた。

ヘーカは悔しさと嬉しさで鼻をすすっている。

でも、1日三回のスイーツは無しだと念をおされて、大粒の涙を人目もはばからずこぼしていた。


わたしは、森に1人で行った事の追及から始まり。アーカーシャのことも全て説明させられて、約束を破った事のお叱りに続き、「でもそのおかげでワシは助かった」とのヘーカのフォローには

それとこれとは話が別で、結果的にはそうでも、約束を破った事実には代わりがなく、もし森にいたのが悪い魔物なら取り返しがつかなかったと言い、仮にわたしが母さまの立場でレオンが約束を無視して危ない事をしたらあなたはどう思うのですか?心配するものの気持ちを考えなさい。と、怒られた。

でも最後に、好奇心と行動力、それに父さまが見落とすほどの隠蔽魔法を見破った観察力は、さすが私の自慢の娘だと褒めて、わたしは耳まで真っ赤になった。

そして次にアーカーシャのアドバイスがあったら、必ず父さまと母さまに相談することを約束させられた。


妻よ、同じ失敗は二度とすまい。

ママ殿、せめてタルトは、なにとぞタルトは。

母さま、ごめんなさい。二度と約束は破りません。




更に一時間後


「もういいわ。三人とも、反省してるみたいだからそろそろ夕食にしましょう。着替えて手を洗ってらっしゃい」


わたしたちは安堵のタメ息をついた。

夕食中もわたしたちは終始ビクビクして、重苦しい空気のまま会話も少なめで最後の晩餐みたいだった。



夕食後、久々にお風呂に入る。

療養中はお湯で拭くだけだったし、今日は森に入ってかなり汚れたし、汗もかいたので髪もベトベトである。

父さまが一緒に入る予定だったのだが、母さまが、とうさまに話があるとのことで、


「ヘーカちゃん、ホリィとレオンと一緒に入ってもらってもいいかしら?髪もちゃんと洗うのよ」


「ママ殿、了解した。それじゃあ二人ともワシの体を洗うことを許可するぞよ」


「…………。あなたが二人の面倒をみるのよ」


「な、なにい!!いちおうワシ王なんじゃけど…」


「そう。じゃあタルトはいらないのね?」


「??!!ホリィ!レオン!風呂に行くぞ。隅々まで洗ってやるから覚悟するんじゃぞ!」


こうして三人で入ることになった。

レオンは今日の村長さんちで、知らない女の人に慣れてしまったのか、特に緊張したふうでもなく気持ち良さそうに頭を洗ってもらっている。

わたしは先に髪を洗ってもらったが、ヘーカはスッゴく優しくて、「カユイとこはないかの?」「おぬしは美人になりそうじゃの」「ママ殿のおっぱいは人界一かもしれん」


等と言いながらホントに隅々まで洗ってくれた。

髪の色も同じだし、なんだがお姉ちゃんが出来たような気がした。

今は隣で立って自分で体を洗っているが、よし。このあとはヘーカの髪を洗ってあげよう。




* * * *


最後の食器を奥の台所に運び終え、テーブルを拭きながら、足を組み天井の一点を睨み続けている夫に話しかける。


「で、あなたはどうするつもりなの?予定を聞かせてちょうだい」


「うむ…黄国には、最短最速で行くつもりだ」


「それだと1人よねえ。陛下を護衛しながら送り届けるのが無駄がないとは思うのだけど。あなたが付いていれば滅多な事は起こらないでしょうし、そもそも彼女は拳術の達人でしょう?自分で帰れないのかしら?」


「ああ。七合拳の亜流だが、竜人化していてもワシと互角の力はあるし、大型の魔獣でも汗一つかかずに倒してのけるだろう。何もなければ1人でも帰れるはずだ。

しかしあいつも言っていたが大きな問題があってな、碧国と敵対していて王不在を気づかれたくないらしいのだ。

黄国まで最短の海路を使うなら碧の領海を通ることになるし、北回りの帝国経由は時間がかかる上、碧国と同盟関係にあるからリスクは変わらん。

アイツの性格がああじゃなければ隠密行動も可能だろうが、どう考えても無理だろう。

それにワシが不在の間の村の警護をまかせる事も出来るし、とにかく黄国にあいつが無事な事を出来るだけ早く伝えるのが先決だと思う」


シーラは話を聞きながらテーブルを拭き終えて、夫の向かい側の席に腰を下ろす。


「なるほどね。ところで話しは変わるけどワンロン陛下はここに何しに来たの?」


「……」


「……」


「さあ?」


「はあ、聞いて無いのね。まあそれは後で本人から聞きましょう。

次にホリィの事なんだけど、あのアーカーシャって予言みたいなのはどう思う?

何か心当たりはない?」


「ワハハ、全く聞き覚えがない」


「そう……なの……。私は虚無であり深淵でもあるってのが引っ掛かるのよねえ。

専門じゃないから詳しくは知らないけど、魔法使いや魔術師が最後に目指す場所が虚無と深淵なのよ。

創世記にある虚無はともかく、深遠なんて言葉をホリィが知ってるとは思えないし…」


「たまたまどこかで聞いた言葉が夢に出てきただけじゃないのか?」


「それならいいんだけど……

夢を見た夜は高熱にうなされてたし、もしかしたら何か前世の記憶が戻ったのかもとも思ったんだけど、どうもその感じでもないし…

たまたまにしては助けを待ってるヘーカちゃんがいたのも出来すぎのようにも思えて」


「確かに出来すぎではあるな」


「推論に推論を重ねても仕方がないのはわかってはいるのだけれど……」


「確かに仕方がないな」


「もう。ちゃんと考えてるの?かわいい娘の事なのよ!」


「もちろんだとも。しかしワシはホリィを信頼しておるし、愛しておる。だから大丈夫だ」


「…………フフ。そうね。それが一番大事よね……あなたには負けるわ」


「ワハハ。もちろんお前の事も、レオンの事も愛しておる。何かあったらワシに任せろ」



「ウフフ。私もよ。頼りにしてます旦那さま。

じゃあ、とりあえずこの事は情報が足りないので様子見って事にしましょう」


「おう。了解した」


「さてと、そろそろお風呂から出てくる頃かしら。

私は二人を寝かしつけて来るから、あなたはお風呂に入ってて。

そのあとにヘーカちゃんに話を聞きましょう」


そう言うとシーラは立ち上がり奥へと向かって行った。




三人に先ほどまでの重苦しい空気はない。

ランスとシーラは紅茶を飲みながらヘーカがクーキーを食べ終わるのを待っている。


「ボリボリ、ポリポリ」


「………」


「ボリボリ、ポリポリ」


「………」


「ボリボリ、ポ…」


「いい加減にしろ!!」


さすがに痺れを切らしたランスが一喝する。


「な、なんじゃ、クーキーくらいいいじゃろうが」


ヘーカがクーキーの入った皿から目を放し言葉を挟んだその隙にシーラがその皿を取り上げ、すかさずランスが話を切り出す。


「さて、とりあえず何から聞こうか?」


「まあまずはここに来た経緯からお願いしようかしら。

ちなみに話が終わるまでこれはお預けです」


「う、うむ。簡単に説明するのと順を追って説明するのとどちらが良いかの?」


「簡単にだな」「簡単な方ね」


「良かろう。では簡単に。

南魔海でレバイアサンが暴れていると報告を受けて碧国領海を通り討伐に行ったら不意打ちを食らって角にヒビが入り、魔力の制御が出来なくなって、何とか不時着したのがあの森じゃった。

以上!!」


「あなた、一言どうぞ」


「……お前はアホなのか?」


二人は先が思いやられて頭痛がしたような気がした。

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