しょうぎ
出来るだけ早く更新します。すいません(-_-;)
忘れられた村
わたしの生まれ育った村は他領はおろか王都の人達からもそう呼ばれているそうだ。
一応は王都直轄の王領なのだが、北西にある王都に至る迄には標高3000メード級の山々が連なるピルネー山脈がそびえ立ち、その山々はそのまま東回りにぐるっと北西まで繋がっている。まあ正確に言うと、村を取り囲んでいるのではなく、ピルネー山脈の中に村があると言うか、山脈の少しだけ開けたところに村があると言うか。
まあその名もピルネー村だから、つまりはそういう事である。
ちなみに村の真っ直ぐ東にある小さな草原を過ぎて、更に山脈を越えた所に貿易の盛んな港町があるらしいが、そこに行くための道が無いので結局は王都へ至る道だけがこの村と外の世界を繋いでいる。
人口は101人。
最年長は村の一番奥に住むおばあちゃん108才。
最年少は今年1才になる女の子。サラちゃん。
もちろん自給自足であり、木を斬り倒し、それを焼き、畑にして作物を植え、収穫する。
山あいにあるので標高はそこそこ低く、日があたる時間が短いのだが、土壌がいいのか焼き畑が利いてるのか収穫量は悪くないらしい。
小麦、大麦、豆類、じゃがいも、生野菜等を作っている。
果物の木も数多く植えているが、特に良く取れるのはリンゴで、とても甘くて美味しい。
村のすぐ東北東にある東の森には野生の動物が数多く生息しているので猪、鹿、兎などの獲物には事欠かない。
まれに大型の肉食獣や魔物も出るので子供だけで東の森に入るのは禁止されている。
牧畜もしていて、牛、豚、鶏などを飼っているが、冬の間保存出来る牧草に限りがあるので冬を越せるだけの数を残して干し肉、塩漬け肉にして冬の間の食料になる。
エールやワインも作っているが、圧搾機がないし、酒用の大樽の数も少ないのであまり多くは作っていない。
野菜などの種や苗、薬類、砂糖、塩、胡椒などの各種調味料、衣料品、農具や斧、刃物などの鉄製品は、一年に一回は村出身の行商人(あるいはその代理)が来てくれるので、必要な物を事前に頼んでおき、その時に まとめて買うようにしている。
その行商人が村に来るまで、あるいは村から帰る途中に崖から落ちたり、魔物に襲われたりして死んでしまった場合は、行商人が来ない年もあって、その場合は村の中で最も頭が回って体力がある男の人が販路を引き継いでいたそうだ。
しかし二年前からは父さまが途中まで迎えに行き、途中まで送る事を始めてからは、そういう事は起きていない。
村からは、一年かけて皆で狩った獲物の皮、毛皮、角、牙、干し肉、塩漬け肉や、周辺で取れる薬の原料になる薬草、毒草、木の実、木の皮、花の種、乾燥させたキノコ類、珍味、岩塩、魔物の部位などを王都に持っていってもらい。それを売ったお金で必要品を仕入れてきてもらうのだ。
鉱石や、宝石の原石なども少しだけ取れるのは取れるのだが、重量物は輸送の危険度が増すので、特に価値がありそうな少量だけを持っていってもらう。
これも2年前から母さまが薬の原料そのものではなく、薬に加工してからと、鉱石や草木、魔物の部位を鑑定して選別してから運んでもらうようになって、ずいぶん収入が増えたそうだ。
この村には誰にも説明出来ない不思議な事がいくつかあるらしいのだが、その1つにウルドを具現化する率が高いことがある。
普通は10人いたら1人か2人なのだが、ここでは40人もの人がウルドを持っている。約4割である。
もしかしたらこの厳しい環境が影響しているのかも知れない。
あまりにも村に来るまでが険しい道のりなので、王都からの役人や物好きな人も滅多に来なくて納税の義務も無い。
村に課せられているのは、男の子が16才になったら、4年間の兵役があるくらいだ。
そんな忘れられた村にわたしは生まれた。
わたしはそれを握りしめて産まれてきたそうだ。
最初にそれに気づいたのは母さまで、産まれたばかりの我が子の指の間から覗く白っぽい物に、?だったらしいが、すぐにウルドに違いないと思い至ると、この子はウルドを持ってると父さまに慌てて伝えて開かせるように頼んだらしい。
父さまは小さな右手にしっかりと握り締められた羊水まみれのそれを取り上げるのに苦労したそうだが(赤ん坊とは思えない程の凄い力で握ってたとの事)、取り上げたら取り上げたでコブリンも近寄らない程の大声で泣き出す始末で、キレイに拭いて、また握らせるとピタッと泣き止んだそうだ。
「ワハハ、これだけの大声で泣けるなら元気に育つだろうし、産まれながらにウルドを持ってるとは神に愛されてるしな。きっとこの子の前世は聖女に違いない。ワッハッハ」
「聖女かどうかは分からないけど目元と眉はあなたにそっくりで凛々しいわね。それに元気なのはその通りね」
「ワハハ、キレイな金髪と鼻と口元はオマエ似だな。これは美人になるぞ、女神様だって裸足で逃げ出すに違いない。ワッハッハ」
「もう、親バカもほどほどにしてよね」
「なにおう、わしは事実しか言っとらん。ワッハッハ」
木こりをやってる豪快な父さまと、理知的な母さまはそんなやり取りのあとに、わたしに聖なると言う意味の
「ホリィ」
と名付けた。
それは縦4セルチ、横3セルチ、厚さ5ミル程の5角形の木片のような石のような奇妙に軽い材質で、片方の面には黒で「飛車」その裏の面にも黒で「龍王」と書かれている。
村の誰にも読めなかったらしい。(王都で教師をしていた母さまが読めないのに村長でも無理だろう)
「ワハハ、この文字からするとホリィは遠い異国の地で巫女をやってたに違いない。ワッハッハ。」
「もう、あなたはそればっかり。機会があったら私の先生に手紙を書いて調べてもらおうかしら?」
「おう。じゃあそれで頼む。ワッハッハ」
母さまは自分の古着の布を使ってそれがちょうどすっぽりと入り、口がギュッと締まる巾着を作ってくれて、紐を通していつでも首に下げられるようにしてくれた。
私が1才の頃に村に来た行商人に見てもらった事があるそうだ。
「ワハハ、ちょっとホリィのウルドを見てほしいんだが、どうも木ではないし石でもないし、なんだか分かるか?」
「うーん、これは見たことがないですね。たぶん魔法で作られたものだとは思うのですが、、良かったら預かって王都に行くときに鑑定して来ましょうか?」
「おう。それで頼、、いや、ダメだダメだ。ホリィが今にも泣きそうだ。お、おい、ほら返した返した。ホリィ、悪いのはあのおっちゃんだからねえ~。パパは取ってないよお。ほら、何してる、早くホリィに謝らんか!」
「あ、あたしは何も、、旦那~ヒドイ…」
わたしはまだウルドを持ってないと泣き出すし、王都オルドランは、村の北西にそびえるピルネー山脈を越えないと行けないので長期間預けるのは諦めたそうだ。
2才の時に母さまの先生から返事が来た。
「えーと、内容を要約すると、、
はるか昔に東海に沈んだの古代国家が近い文字を使ってたらしいとか、
2000年以上前に封印の巫女が書き記した書物に似たような記号があるとか、
竜族の王の家紋が似てるとか、
魔族の使う攻撃魔方陣にデザインが近いとか。
はるか昔に深淵を覗いた賢者が神の姿を書き写した物に似てるとかね。まあその賢者は発狂して自害したとかしてないとか。
かなり遡って調べてくれたみたいね。
まあ、簡単に言うとよくわからないって事なんだけど」
「ん?んん?」
「え?なんなの?言われて思い出したみたいな顔だけど。もしかして見覚えあるの?」
「ワハハ、すまん。そういえば似てるな」
「……」
「………」
「…………」
「ワハ………ごめんなさい。似てるのは似てるが同じではないと思いマス…」
「忘れてたって事ね」
「ワッハッハ、つまり王都の偉い先生でも分からない程ホリィは凄いって事だな。それにやっぱり巫女かもな。ワハハ」
「まああなたはそれでいいわ。いちおう先生は引き続き調べてはくれるらしいから、この事はとりあえず保留ね。何か思い出したら教えてちょうだい」
「おう。了解だ」
「……」
「スイマセンデシタ」
「はぁ、それはもういいわ。
…………それと手紙の最後に書いてるのだけど、先生が調べた範囲ではまだ捜索は続けてるみたいよ?
そろそろ元気だって事くらい伝えてあげたら?」
「…………………」
「もう、仕方のない兄弟ねえ…」
「すまん………」
そしてあと2週間で3才という日の、父さまが木こりの仕事に行ってる時にそれは起こった。
あの時の事は今でもハッキリ覚えている。
「かあさま、これはひしゃっていうの。こっちはりゅうおう」
「ほ、ホリィ読めるの?もしかして前世の記憶が戻ったの?」
「うん、よめる」
「他に何か思い出したことはある?慌てなくてもいいのよ。ゆっくりでいいから母さまに教えてちょうだい」
「えとね、これはしょうぎのこまっていうの。ひしゃはまえとうしろとよこにすすめるの。りゅうおうはまっすぐとうしろとよことななめにズーとすすめるのよ。すごいのよ」
「えーと、もう一度言ってもらえる?何のコマ?」
「だ~か~ら~しょうぎのこまなの」
「なるほどしょうぎのこまね。他にはなんだっけ?ひしゃとりゅう何?」
母さまはメモをとりながら質問する。
「ひしゃはまっすぐとよこにズーっとすすめるの。
りゅうおうはまっすぐとよことななめにズーっとすすめるの」
「なるほど、ひしゃとりゅうおうは分かったわ。他にも何か思い出したことはある?それに頭や体に変な所はない?いったん休憩しようか?」
記憶を取り戻して体調を崩す人は多いので、母さまはそれを心配してるのだ。
「だいじょうぶ。でもりんごジュースのみたいの」
「良かった。でも少しでも変だと思ったらすぐに言うのよ。ちょっと待ってなさい。」
母さまはこっちを心配そうに見てから台所に向かう。
ジュースを飲み終わるのを待つ間、母さまは何か変化はないか駒を丹念に調べている。
「じゃあ続きを聞かせて。他に思い出したことはある?」
「えーとね、こまはもっとたくさんあるの」
「へー、沢山ってどれくらい?」
「たくさんはたくさんなの。ふでしょ。きょうしゃでしょ。けいまでしょ。ぎんでしょ。きんでしょ。かくでしょ。ひしゃでしょ。おうしょうでしょ。ね、たくさんなの」
「ホント沢山あるのね。他には何かある?」
「ほかにはね。しょうぎばんがいるの」
「しょうぎばんね。しょうぎばんっと」
母さまは更にメモに書き足していく。
「で、他には何か思い出したことはある?」
「んとね。ふはね。いっこじゃダメなの。ううん、ふだけじゃなくてほかのこまもいっこじゃダメなの」
「1個じゃダメなのかあ、じゃあ何個あればいいか母さまに教えてくれる?」
「いいよ。ふはね、たくさんいるの」
「たくさんね。あっ、ちょっと待ってなさい」
母さまはそう言うと、果物の入った箱を持ってきた。
「ねえホリィ、母さまにも分かるようにこの林檎をふと同じだけ出してみてもらってもいいかしら?」
「しかたないなあ。でもあとでりんごをたべてもいい?」
「分かったわ。ホリィの好きなウサギに剥いてあげる。でも夕食が食べられないといけないからちょっとだけよ。父さまが帰って来たときにホリィがお腹いっぱいだと父さま悲しい悲しいになるからね」
「わかった。とうさまのためにホリィちょっとでがまんする」
「ホリィは優しい子ね。じゃあ、さっきの続きでふと同じ数の林檎を出してみよっか?」
「えへへ、わかったー。えーとねえーとね、えーとねえーとね、えーとねえーとね、えーとね、これだけ」
「なるほど、18個ね。じゃあ他のこまは何個いるの?えーとね…やだ、うつったわ。えー、きょうしゃはどう?これも18個?」
「ちがうの。きょうしゃはね。えーとね。これだけ」
「4個か。じゃあけいまは?」
「きょうしゃといっしょ」
「4個ね。じゃあぎんは?」
「けいまといっしょ」
「同じく4個ね。じゃあきんは?」
「よんこー」
「おお、4個を覚えたのね。ホリィは賢いなあ。じゃあかくは?」
「えへへ、よんこー。あー、ちがうちがうの。かくはね、えーとね。これだけ」
「なるほど2個ね。じゃあひしゃは?」
「にこー」
「やだ、この子ホント賢い。もう2個を覚えてるし。じゃあおうしょうは?」
「えへへ。にこー」
「じゃあ最後にしょうぎばんは?」
「いっこー」
「これで数は分かったわね。ホリィ疲れたでしょ?今日はしょうぎの話はこの辺にして、また明日教えてもらってもいいかしら?」
「わかった。じゃあホリィりんごたべる。うさちゃんなのよ」
「ハイハイ。うさちゃんね。ちょっと待ってなさい」
そして夕方に帰って来た父さまが「うおお」とか「ホリィ天才だ」「凄い凄い」とか「ワッハッハ」と大騒ぎしたのは言うまでもない。
それから何日かかけて駒の字と意味、将棋盤の形状、駒の動かし方、基本ルール、禁じ手、千日手、入玉などを説明して、更に数日後に母さまが分かりやすくまとめて父さまに説明する。
「とまあだいたいこんな感じね。
今のところ将棋以外の記憶は戻ってなくて、どうやらホリィの前世はこの将棋っていうのを仕事にしている棋士って職業みたいね。たぶん軍師みたいなものかしら。って、あなた聞いてる?」
「ワッハッハ…は~~。頭いたいです」
「ちょっと、何を逃げようとしてるの!まずあなたのやることは、将棋の駒と盤を作ってルールを覚える事よ。
私たちが将棋を理解してあげないとホリィが寂しがると思わないの?それともあなたはホリィが寂しい思いをしてもいいって言うわけ?」
「ワハハ、そんなわけがあるか。でも頭が痛いのデス」
「しょうがないわねえ、とりあえずあなたは盤駒の製作をお願い。幸いうちには木材は売るほどあるし(売ってるけど)字の方はさすがにこのままじゃ特殊過ぎるから読みはそのままに私がオルドラン語にデザインし直すわ」
「ワッハッハ、任せろ。駒40個と盤一枚くらいホリィのためにすぐに作ってみせるぞ。ワハハ」
「何言ってるの。駒はオルドラン語とオリジナルの字の二組作るに決まってるじゃない」
「ワハ?」
「オルドラン語の駒は私たち用よ。あなたねえ、もうすぐ8月8日よ。あの子の誕生日にオリジナルの字の駒をプレゼントすれば喜ぶと思わない?」
「………………うおお、我が子のみならず我が妻のなんと聡明な事だ!さっそく行ってくる!!二人とも愛してるぞ」
「ちょ、ちょっと、どこに行くのよ?もうすぐ夕食よ」
「うおお~~」
「もう、いつまでたっても慌てん坊なんだから。まあそういう所も好きなんだけどね」
あとで聞いたのだが、どうやら父さまは村の木細工職人に弟子入りして、指導を受けながら作ってくれたらしい。母さまは駒に字を書くのと、駒を入れる袋を古着から作ってくれた。
誕生日に盤駒のセットをプレゼントされたわたしは大喜びした。
「とうさま、かあさま、ありがとー。だいすき。」
駒の説明が平仮名ばかりで読みにくいと思いますがご容赦くださいm(__)m
幼い感じをだすとどうしてもこうなってしまいました。
長さと、重さの単位
ミリ=ミル
センチ=セルチ
メートル=メード
キロメートル=キリメード
グラム=グロム
キログラム=キリグロム
トン=トウン