プロローグ
ファンタジー×将棋なんて変な組み合わせですが、楽しんで読んでもらえると嬉しいです。
一日目に全能の存在は全ての源であり無限の広がりを持つ虚無なる世界を創造した。
二日目に全能の存在は太陽と2つの月を創造し、塵芥を集めて大地を創造した。
三日目に全能の存在は大地を5つに割り、水を降らせ緑を増やし、火を起こし命を生み出し、風を吹かせて魂を運んだ。
四日目に全能の存在は自分の翼の羽を一枚使い、飛翔する力を有する竜種の世界を創造した。
五日目に全能の存在は自分の魔力の一部を結晶化し、高密度な魔力を有する魔族の世界を創造した。
六日目に全能の存分は自分の血を薄めて、自然と心通わせる妖精の世界を創造した。
七日目に全能の存在は自分の知識の欠片を分け与え、伝える力を持つ人の世界を創造した。
八日目に全能の存在は翼なく、魔力低く、生命力弱く、ただ命を繋ぎ知識を伝えるのみのか弱き人を哀れに思い。魂を伝える力を付け加えた。
調和の取れた世界に満足した全能なる存在は彼方へと飛びさっていった。
大聖教創世記より
翼なく、魔力低く、生命力弱く、自然と心通わせられず、ただ命を繋ぎ知識を伝えるのみの弱き存在である人に全能の存在が付け加えた奇跡
それすなわち前世を繋ぐ遺物 ウルド
長年愛用せし道具には自らの魂が宿り、思い叶わず志半ばで倒れたる魂は最後を共にした道具に宿る。
前世からの業を今世に繋ぎ、昇華する機会を与えるために全能なる存在が与える奇跡であり試練でもある。
戦いの最中に倒れたる剣士ならば、その手の中の剣に。
守るべきを守れなかった騎士ならば、かざせずに地に伏したる盾に。
魔法を修めたる魔術師ならば魔力の通いし杖に。
教えを説く聖職者ならば一冊の経典に。
統治すべき国を失った王ならばクラウンに。
富を得、命と共に奪われし商人ならば金貨に。
鍜冶師ならば多くの槍剣を鍛え上げてきたハンマーに。
細工職人ならば数多の木材を削ってきた一本のノミに。
各々それぞれに魂が宿るのだ。
そしてそれは次の人生で再びその手に具現化する。
力を欲する若者の右手に剣が具現化したならば前世は剣士なのだろう。
家族を守る決意を誓った父の左手に盾が具現化したならば前世は騎士なのだろう。
魔法の起こす奇跡に憧れる少女の眼前に杖が具現化したならば前世は魔術師なのだろう 。
戦争を憂う老婆の膝の上に経典が具現化したならば前世は聖職者なのだろう。
眠る赤子の傍らにクラウンが具現化したならば、その子の前世は王なのだろう。
一攫千金を夢見る冒険者の懐に金貨が具現化したならば前世は商人なのだろう。
火葬の炎の美しさに何かを感じた少年の両手にハンマーが具現化したならば前世は鍜冶師なのだろう。
母の遺品のブローチに悲しみを覚えた娘の手のひらにノミが具現化したならば前世は細工職人なのだろう。
ウルドを具現化するきっかけは衝動であり、希望であり、憧れであり。達観であり。使命であり。願望であり。閃きであり。絶望であり。
ウルドを具現化する時期も、各々それぞれ老であり。若であり。
ほとんどの人がウルドを手にした事により、前世で身につけた能力、知識、感覚を思いだす。
剣技等の身体記憶を思い出す者。責任感が強くなる者。魔力に目覚める者。神の声を聞く者。使命に導かれる者。計算力に目覚める者。力が強くなる者。手先が器用になるもの。
そしてまれに前世の人生の記憶を思い出す者。一部を思い出す者。時間と共に少しづつ思い出す者。独自のスキルに目覚める者等、個人差があるものの、大小それぞれ恩恵がある。
しかし、そのあとは各々それぞれである。
ウルドの恩恵で手にした力で前世と同じ職業につく者。新たな道を目指す者。冒険に出る者。冒険を止めて店を開く者。家族を作る者。家族を捨てる者。前世の夢を再び追いかける者。現在の夢に能力を応用するもの。これまで通りと気にしない者。
記憶が戻った者の中には、自分の敵討ちを志し果たす者。そして返り討ちにあう者。前世の故郷を一目見たいと旅に出る者。娘を探してさ迷う者。現在の名を捨てて、前世の名前を名乗る者。中には記憶の重みに耐えきれず発狂する者もいる。
ならば若くして病に倒れた天才棋士の魂ならば?
大地より広く海より深い81マスの盤上に人生を賭けライバル達としのぎを削り、遥か高みを目指し、真理を追求し、名人の称号を夢見たが届かず、志半ばで潰えた魂は何に宿るのだ?
そして地球ではない、遥か宇宙のどこかの剣と魔法の世界の片隅に、少女として転生した天才棋士はどのような人生をおくるのだろうか?
宇宙に住まう人の生から死までの全ての行動が書かれていると言われる、アーカーシャの記録を読まない限り、それは誰にも分からない