オネェの野望
「エリカ。大丈夫なのっ。このヒト?なんか変なこと言っているし・・・」
「うん。たぶん。ちょっとお話ししてくるね。ロゼは、馬車を守って」
シャドを引き付けると、雑魚はロゼに任せることになる。
シャドと同時に現れたのは、使い魔が3匹…。何とかなるだろう。
「では、行きましょう」
魔族が使う移動魔法は、空間をゆがめて瞬間移動するものだ。シャドが作った空間に飛び込んだ。
ここは、見覚えがある。魔王領の中だ。シャドとは5メートル程の間合いで向き合っている。
「よく、わかったな」
相手は魔族だ。何があっても不思議ではないが。
「あらー。私が愛しのダーリンを見間違えるはずないじゃない」
相変わらず気持ちの悪い奴だ。
「元の姿に戻れるのかしら?」
シャドが続ける。
「あぁ。かなり魔力を使うがな」
「ということは、エルフの秘宝ですの?わたくしとしましては、戻っていただきたいわ」
「いや。このままでいく。一応聞いてみるけど、このまま、消えてくれるわけにはいかない?」
「ダメよ。良いこと思いついちゃったからね~」
返事を聞くまでもない。私は、最強の爆裂魔法の魔法陣を描く。
「その魔方陣は、不味いわね」
シャドの魔力が上がるのを感じる。魔法防御に使うのだろう。
えい、ぶち破ってやる。魔力を込めるとシャドに向かってエネルギーが向かい爆発する。
あたり一面が焼け野原になる。地形が変わるほどの威力。
やはり魔力が上がっている。魔法の威力も2割ほど上がっている感じだ。
爆風が去ると、一つの人影を確認する。耐えたのか。
もう一度だ。魔法陣を描きなおす。
「遅いですわ。エリスさんなら魔法を撃った瞬間にもう一度魔法陣を描いていますことよ」
シャドは無傷ではない。かなりのダメージを与えたのには違いない。が、次の瞬間シャドの姿が消えた。
後ろに気配を感じた瞬間。
「つ~かま~えた。っと」
後ろから、羽交い絞めにされた。体の自由を奪われると、少女の体では抵抗できない。
「おほほほっ。なんて非力なのかしらねぇ。もう一度くらえばわたくしもイってしまっていたのに。詰めの甘いお方。」
口を押えられて声が出ない。ヤバい。これは。
「さて。ちょっとの我慢だからねー」
何かひものようなもので、ぐるぐる巻きにされ体の自由を奪われる。魔法陣も描けない。魔法陣の必要のない移動魔法も声が出ないので無理だ
ミノムシのようになり吊るされている。
「さて、痛くないですよ~。ちょっとの我慢ですよ~ってね」
シャドの手が、手刀となり胸に突き刺さる。殺されるのか。
音もなく胸に手刀が刺さっていく。痛いよ~。
うん。痛くない?不思議な技だな。って感心している場合じゃないが何もできん。
「あったわ。これねー」
何かをつかまれる感覚がある。そして、私の体に入ってしまっていたシャドの手が、抜けていく。
全部抜けてしまったシャドの手の中には、見覚えのある水晶があった。
「・・・・」
それをどうするつもりだと聞きたいが声が出ない。変化の指輪の水晶だった。
「これで、アナタは、ダーリンに戻れないのよ。」
なんで、そんなことをする。殺してしまえば良いのに
「アナタは勇者。魔王と戦えるただ一人の人間。この世界に呼べる勇者は一人。これが、どういうことかわかるかしら?」
意味がわからん。勇者しか使えない魔法と、勇者装備が魔王を倒せる鍵となるが・・・
「ここにほっておいて、魔物に襲われでもしたら私の計画がダメになるわ。」
空間が歪む。
「さよなら。会えてうれしかったわ。ダーリン。アナタの体大切にするわね。あなたも命を大切にするのよ」
なんか不安な感じしかしない。大切にしてくださいね。帰してもらいに伺いますから。
馬車の近くに放り出される。体の自由がないので、一度バウンドして3回ほどゴロゴロと転がって止まる。いてぇ。
目の前では、ロゼが使い魔3匹に苦戦している。
1対1なら、ロゼが軽く勝てるが、3匹のコンビネーションが秀逸だ。
ロゼが、私に気付いたようだ。ミノムシ状態になっていることに驚く。
「エリカっ。大丈夫なの?」
戦いの最中よそ見しちゃだめだロゼ。防戦一方だった3匹の使い魔がロゼに襲い掛かる。
ロゼに対して3匹が重なってとびかかっていく。使い魔の飛行能力は低いが、スピード重視で突っ込んでいく。
おぉ、あのコンビネーションは、黒いアレだ。ものすごく懐かしいアニメを思い出した。
ロゼが、一匹の使い魔の頭を踏み台にして。ということにはならず。ロゼは防御の体制をとるのが精いっぱいだ。
と、その時どこからか飛んできたナイフが先頭の使い魔の頭に命中。陣形が乱れた。
その隙をロゼは見逃さない。
「やぁ、えぃ」
残りの使い魔2匹が一刀両断された。さずがは、バラックの娘だ。とにかく一撃なのね。
ところであの、ナイフ投げの威力は・・・
「今ほどくからね」
ロゼが駆け寄ってくる。剣でひもを切っていき、何とか脱出できた。
「ふー。助かった。ありがとう」
「どうしてそんな恰好になってたの?あの、変な魔族はどうしたの?」
「うん。・・・帰ったよ」
確かに帰って行ったよ嘘じゃないよね。あっちも無傷じゃなかったし、魔力切れぽかったしな。
ナイフが飛んできた方向から一人の人が歩いてくるんだけど。ロゼは、私のことで頭がいっぱいなのか全然気づかない。
「危ないところをありがとうございます」
ロゼに説明できないので、その人に話しかけてみた。
「いえいえ。間に合ってよかったです。このまま無視されるんじゃないかと思いましたよ。僕はゴート。父はピーターで、母はローザです。バラックさんとエイタさんの娘さんたちですね」
歳は同い年くらい。言われてみれば二人に似ている。
ナイフ投げはピーター仕込みか。
「お二人を迎えに来ました。キングダムまでもう少しですし。」
シャドのせいで元の姿に戻れなくなってしまったらしい。胸の中に水晶の存在を感じない。
ただ、魔力その他は変わらない。移動魔法や戦闘力補正魔法も使える。ということは、勇者の力は失っていない。でも、あの水晶がないとコアがないのでこの体動かないはず。シャドが代わりの何かを植え込んだのだろうか。
キングダムについたらとりあえずエリスに相談してみよう。うん。