まぁ、変な夢を見た後で
夢を見た。この世界に飛ばされる2年前位のことだったと思う。小学6年生の時、俺は性に目覚めたと思う。
ある日、映画のベットシーンをみて興奮してしまった。今までは、何か気まずい感じだけだったのに、下半身に硬くなるものを感じた。そんな頃の記憶の夢だった。
夢の中では、少年に戻った俺は、風呂場から出て行ってから、女性の下着を付けたていた。下着は、女の子の可愛い物だった。胸が膨らみかけの少女の胸にかわっていて、下着はそれを包むものになっていた。ものすごく不安な気持ちになったけど、なぜかその体を自然と受け入れていた。下半身は硬く、大きくなっていた。だけどその大きくなったはずのモノはどんどん小さくなり、終いには、床に落ちた。
そして朝を迎えた。すごい夢だったなぁ。うーん、女の子になってしまったという気持ちを整理するための夢なのかな。良く分からない夢だったなぁ。まぁ、元に戻れるんだけどねっ。
この姿になって、2回目の朝。夢のせいもあるだろうけど、おっさんの時と比べ少し目覚めが悪い気がする。
元の姿に戻ろう。胸に手を当て水晶をイメージし魔力を込める。スーッと視界が白くなり一瞬意識がなくなった後、元の姿に戻った。
くるくると腕をまわしてみる、やはり元の体のほうがしっくりくる。というか元の体は、力強くて安心感がある。女の子の体の時は、何か不安感というか、そういうものを感じる。上手く言えないけど。
・・・少し魔力が残っているようだ。変身で魔力を大量に使ったので、魔力が上がったのかな。今までより魔力の上がり具合が早い気がするが、正確なことはわからない。
変身が魔力の成長を促すのかもしれないな。とにかく、移動魔法が使えそうなくらい残っている。さっそくソーディアムの城下町に飛んだ。
剣の国らしくソーディアムの城下町は、あまり飾られたところがない。
民家が城のまわり囲むように建っており、その周りを城壁が覆ってある。魔王がもし復活するようなことがあれば、おそらくこの国の近くに現れると考えられ、この城は、その時には人間側の前戦基地となるようになっている。
城下町から、城に入るには2つの門がある。正門と裏門。裏門は、掃除人や料理人、メイドさんたちの通用門になっていて関係者以外立ち入り禁止になっている。普通の人や兵士たちは、城に用があるときは正門で身分チェックを受けると、城にはいることができる。
俺は、この国では有名な傭兵なので、大体顔パスで通れる。最近、あまり顔を出してないので止められることもあるが、身分証となる札を見せ用件を話し認められれば、通ることができる。
この国の戸籍の札には、弱い魔法が掛けられており、偽造の防止、身分証の簡易化が測られている。札自体には何も書かれていないが、魔力でその情報を読み取ることができる。魔力のない人間は、この世界に原則的には存在していないので、誰でもその札を読むことができる。ちなみに札には、名前、出生地、職業等の個人情報が書かれている。
「よぅ。王さんはどこにいるかぃ」
門番は、顔見知りの兵士だった。
「お久しぶりです。ムタさん。王は中庭で兵士たちに稽古をつけているはずです。」
「ありがとう。さっそく会いに行くよ」
城に入って、まっすぐに行くと中庭に出る扉がある。昼間、その扉は開きっぱなしになっていて、誰でも自由に中庭に入ることができる。中庭は、50m四方位の広さがあり、それを囲むように城が立っている。城壁の上からは、どこからでも中庭を見渡すことができる。中庭では、武術大会等も開かれ、城壁は即席の観客席となる。
中庭にはいると、数名の兵士が大男を取り囲んでいた。兵士たちは一斉に大男に、襲いかかるも一瞬の内に兵士たちは蹴散らかされた。
「次!!!」
また別の兵士たちが、大男に襲いかかる。だが結果は同じ。数十人の兵士が束になってかかっても、敵わない大男。それがこの国の王バラックだ。
「くそっ。最後は俺が行く」
あれは、4軍団長の一人ルートだ。この国には、バラックの次に強い4人の将軍がそれぞれ兵士を率いている。今までやられていたのはルートの兵士ということか。今日は日ごろの鍛錬の成果を試す機会なのだろう。
ルートの武器は槍だった。突きの高速連発が彼の得意技だ。
「せぃや!!!」
槍が雨のようにバラックに襲いかかる。バラックは木刀なので間合いに差がある。バラックは、最初、木刀で槍の攻撃を受けていたが、一歩飛び下がり槍の間合いから離れ、木刀をルートに向かって投げつけた。ルートが木刀を槍で払いのけようとしたその時、一瞬でバラックは間合いを詰めルートを蹴り上げた。勝負ありだ。
バラックは、随分前から俺が来ている事を気づいていたと思う。槍の攻撃を力技でなぎ倒すこともできたと思うが、俺が見ていたので違う方法をとったようだ。
「エイ…ムタじゃねえか。久しぶりだな」
「王様もますます元気そうで。先ほどの勝負見事です。」
兵士たちの手前、敬語を使うことにしているが、バラックはいつまでたっても俺をエイタと呼び間違える。
「お前が来ているのがわかったからな。力技だけじゃないところ見せてみた。」
「ははっ。ところで今日は、お願いがあって伺いました」
「そっか。じゃあ。奥へ来いよ。」
バラックは入り口との逆方向にある階段を指差した。その階段を登った奥に王の部屋がある。
「いったん休憩だ。次はフレドの軍団だ。準備しておけ」
バラックは兵士たちに大声で指示を出した。中庭では、立ち上れないものはタンカで運ばれ、立ち上れるものも医務室のほうへ体を引きずりながら退散していった。ルートは、失神していたが、水を掛けられて意識が戻ったようだ。
「で、何の用だ。エイタ」
仲間たちは、俺のことをエイタと呼ぶ。エーターというのは、最初に魔物討伐をした国の王が、俺のことをエーターと呼びそれが広まったからだ。
「理由は聞かないでほしいんだが、娘を預かることになってな。戸籍が欲しい」
「それは構わないが、聞かないでほしいと言われると聞きたくなるな。・・・隠し子か?」
「ま、そんなところだ。年齢は12才。来年からキングダムの学園に行かそうと思っている。魔法の素質が高いみたいなので、勉強させたい」
「12才ってと、エリスとまだいっしょだった頃の・・・それで理由は聞くなと。俺も男だ。うんOKだ。」
なんか、一人で納得してしまっている。浮気の子供ということになってしまったのか?
「なあ。じゃあロゼと同い年だな?」
ロゼというのは、バラックの娘だ。アーシャという魔族の娘との間に生まれた子供で、最後に会ったのは2年程前になる。そのころすでに大人顔負けの戦闘能力があったが・・・
「ロゼちゃんがどうしたんだ?」
「キングダムの学園から入学案内が来てな。迷っていたんだ。ロゼはハーフだから馴染めないんじゃないか。とか。でも、お前の娘がいるんなら安心かもな。一度その娘にも会わせてくれ」
ごつい男に似合わない親心だな。
「あぁ。今は俺の家にいる。今度こっちに来るように言っておくよ。俺ちょっとしばらく留守にするから」
「それだったら3日後にロゼに迎えに行かす。あいつ最近、飛龍に乗れるようになったから練習にもなる。」
「飛龍に…すごいな。でも、家のまわりまだ魔物もいるけど大丈夫か?」
「大丈夫だ。あいつかなり強くなったし、今日もマッドの軍に付いて行って魔物討伐手伝ってる。」
…そんなんさせるから同世代の子供と馴染めないんですよ。お父さん。と心で突っ込んでおく。
そういえば、魔力がないので帰れん。
「今日は、城に泊まっていくけど良いか?」
「あぁ。大歓迎だ。久々に飲むか」
その後、フレドの軍に稽古を付けたバラックは、執務室で王様の仕事らしい事を1時間ほどやり、夕食にした。夕食には、アーシャも来て昔のことを語り合った。アーシャは、魔王軍の幹部だったが、魔王の手下の一人と折り合いが悪かったため、俺たちの手助けをしてくれた。
バラックとは敵同士の時からお互いに惹かれあう仲になっていた。ロゼを生んだことで魔族としての全ての魔力を失って、人間になった。らしい。本当に人間になったかどうかはわからないけど、そんなことはどうでも良いことだ。バラックもそう言っている
ロゼは魔物討伐に出てて、明日か明後日に帰ってくるので今回は会えなかった。
久々に楽しい夜でした。次の日の朝、移動魔法で家に帰った。
その日は、男の姿でできること主に力仕事をやり、その次の日に少女の姿になった。
やはり、少し魔力が残っている。火玉だけじゃなく火炎弾位は打てそうだな。
明日は、ロゼが来るはずだ。2年で随分強くなったらしいが、アーシャに似て美人になる感じがする娘だったなぁ。
そんな時だった。鈴の音が鳴り出した。
魔王城の会った場所にも近いこの家には、2、3週間に一度魔物が挨拶に来る。問題なく蹴散らせるレベルの魔物しか来ないが、家を壊されると嫌なので、魔物が近づいたら警報として鈴が鳴るようになっている。人間の匂いに魔物が寄せられるのか留守の時に家が襲われることは今まで一度もない。魔物避けもしているしね。
とにかくこの姿で、体力がなく魔力が低い状態だ。どうしようか?
もしかしてかなりピンチなのか。俺・・・
まぁ。とりあえず状況確認だ。蔵にあるアイテムで対処できるかもしれないしね。