魔王シャド
すごい。すごすぎる。
エリカの目を通してだろうか、信じられないものを見ている気がする。あれが勇者パーティーの戦いか、大人の戦い。
今まで、私たちがしていたのは、子どもの遊びだったのか?
私、あの中心にいたんだ。信じられない…
「凄いな。父ちゃん、普段はただの変な親父なのに」
ゴートが言う。そりゃ、ピーターはローザが惚れる実力なんだよ。
「うん。あれがお父様の本気。初めて見た。」
バラックは、魔族含めてもこの世界最強の戦士なんだよ。
「ローザ先生。凄いです。あんな治癒魔法があるなんて」
アリアさん。ローザは治癒魔法を極めてる。でも、すごいのは戦場での身のこなし。並みの戦士より凄いんだよ。
攻撃は、エリスが中心になっている。
あ、また爆裂魔法打った。いったい何発うてるんだろう。威力も私のとは違う…
いや、比べられるくらいには、私が成長したんだ。
「う、キーっ。なんでアンタ達が揃っているのよー。聞いてないわよ!」
シャドが叫ぶ。拡声魔法かかったままですよ、聞こえてますよ。
「私だって、あなたが来るなんて聞いてないわよ。」
エリスが答えた。
「あらかた片付いたか。あとは、お前だけだな」
バラックが言う。キングダム騎士団が残りの魔物は引き受けたようだ。
シャドが不敵に笑った。
「まぁ、いいわ。勇者の剣の無いあなた達では、魔王の私に止めはさせないのよ。魔王の力を見せてあげる。」
シャドと4人の戦いは、最初は均衡していたが、ローザの治癒魔法で持続力のあるエリス達が押し始めていた。
シャドもローザを狙うものの、ピーターがフォローしている。
バラックは攻撃を受け止めるだけではなく、時折カウンターを的確にヒットさせている。
「んー。やっぱり、まだ完全じゃ無いのよねー。先手必勝って思ったんですけどねぇー。でも、この人達相手に、ここまでやれるなんて、嬉しくてイキそうよ。」
変態なんだよこのお方は。バラックが返す。
「確かに、以前のお前とは違うな。」
「ほーほほっー。でしょう?もう少し馴染めば、あなた達も蹂躙できるわね。た、の、し、みぃー」
シャドがエリスの指先を見て、更に口角が上がる。
「その指輪。エイタさんのとお揃いの?」
「エイタは?大切にしてるんでしょうね?」
シャドは、邪悪な微笑みを浮かべたまま
「イタズラしたかったんだけど、どうやっても水晶から取り出せないの、だからここに入れて大切にしているわー」
シャドがお腹を指差す。
…食べちゃったの?うわぁ、もう、戻りたくないなぁ!
「返してはくれないのね?」
「答える必要あるのかしら。その指輪についてはずいぶん調べましたわ。うふふっ。こんなこともできるんですの。」
シャドが魔力を溜めると、エリスの指輪が光だした。
「えっ、何。どういうこと。」
「こうすれば、強制的に変身させられるはずよ。水晶もついでにいただくわぁー。ほーほほっー」
「指輪つけたままだった、迂闊だったわ。」
「じゃあ、この魔法の弱そうな男の子にしましょう。あのダーリンと仲良くしてもよくてよ。許してあげる!」
シャドさん、ごめんなさい。もう、仲良しですよ…
エリスは何か覚悟を決めたようだ。シャドをまっすぐ見つめている。
「私が、ただ呆然とこの10数年過ごしてきたと思った?」
「強がりはよすことですね。もう、充分でしょう。イキますわぁー」
エリスの体がひかり、水晶に吸い込まれシャドに囚われた。それと同時に、シャドの回りを魔方陣が取り囲んだ。
「きゃぁ!!!何これぇ?」
シャドの叫びとともに、砂ぼこりと煙のようなものが巻き上がり、何も見えなくなった。
暫くすると粉塵は落ち着いたが、シャドの姿は消えていた。そこには、1つの人影以外、何もなくなっていた。
人影は誰?
カイが横たわっていた。
  
 




