勇者はお兄ちゃんと呼ばれたい
試合の次の日が卒業式だった。
1日では、完全に回復とはいかず、まだちょっとだるい。
リュウやロゼもそのようだ。
「兄さん。卒業おめでとうございます。」
リュウに話しかけた。父ちゃんは嬉しいよ。
「お兄ちゃんって呼ん、」
「えっ?」
「いや、何でもないよ」
えっ、お兄ちゃんって呼んでほしいのか?どうしたんだろ。
覚醒してから、コイツおかしいよ。
「リュウっ。おめでとう。」
エリスがいた。
「用事もあったんだけど、愛する息子の晴れ舞台だからね。戻ってきたよ。」
エリス。カイじゃないけど、私の恋人には違いないよね。
「エリカ。リュウをありがとう。上手くいったみたいね。」
「うん。」
言葉が上手く出ない。
エリスがエリスでいるなら、私はエイタに戻りたい。
エリスが私だけに話しかける。
「シャドが、やはり魔王化したみたい。」
「えっ。」
「バラックとピーター、できればローザにも来てもらって、魔族領に様子を見に行こうと思う。」
「大丈夫なの?」
エイタの時、魔王を倒したものの、シャド達魔族全てを殲滅させることは出来なかった。魔族が人の国に現れると被害が出るので、バラックが国を作って魔族領を監視するという形ととっている。
「今ならまだ、シャドを押さえ込めると思う。時間稼げれば、リュウとあなたとロゼ達が、成長して魔王と戦えると…」
卒業式は、リュウが挨拶を行い、つつがなく終了した。
「兄さん、進路について相談があります。」
「エリカか?卒業後は、一度旅に出るつもりなんだ。」
キングダム騎士団の誘いを断っていたな。
「ところで、エリカ。気になっていたんだけど、僕達、兄妹なんだから敬語は要らないよ。」
「えっ。でも」
「夢を見てさ、エリカが僕のことを、お兄ちゃんって呼んで普通に話しかけててさ。普通兄妹ってこんなだよなって思ったんだ」
勇者装備になにか見せられたんだね。
「うん。…わかり、分かった。努力するよ、お兄ちゃん!!!」
「うん、良いねっ。それで、相談ってのは?」
それから、魔王の話をしようとしたんだけど。
「城の外に、魔物の群れがぁー。避難するんだー。」
誰かの叫ぶ声が聞こえた。
魔物の群れ?なんで?
外が見えるよう、学園の屋上に移動して確認した。
まだ遠く、点くらいしか見えないが数は結構いる。
「くっ、戦いになるとキツいな。やるしかないが」
リュウが言う。昨日の試合の影響で本調子では無いのだ。
ゴートにロゼ、アリアさんやラウル達も屋上に上がってきた。
「俺、目が良いんだ。この距離でも大体見えるよ」
ゴートが言う。やはり斥候とかできそうだな。
「数は結構いるな。1000体とか?あ、先頭に地竜に乗った魔族がいるな」
そいつがボスかな?ゴートが続ける。
「その魔族なんだけど、女?男?気持ち悪っ、なんかケバい感じ。」
隣にロゼがいる。
「わからないけど、それってエリカの知り合い?なんじゃないん」
あー、ケバい魔族っていえばシャドか?
魔王化したシャドが攻めてきたのか?
「魔王となりました。シャドですわー。挨拶に来ましたのよ。よっろしくお願いしますぅー。」
魔法で拡声したのかわからないが、その気持ち悪い声は、キングダム中に響いたのだ。
「早すぎる。こんなはずじゃ無かったのに。」
エリスが呟く。
「エリス。ここかっ。不味い状況だが、俺たちがいる。ピーターとローザもいる。俺たちならなんとできる。行くぞ」
バラックだ。
「母さん。僕達も。」
リュウが言うが、エリスが遮る。
「ダメ。戦える状態じゃないでしょ?」
「それは。でも」
「私たちの戦いを見てなさい。あなた達も、一緒にいるから好都合ね。」
エリスはそう言うと、私たちの周りに結界を作動させた。
…出れない。
「これで魔族からも見えないはずよ」
エリスとバラックが魔物の群れに向かっていった。
エリスをエロスとタイプミスするこの頃…




