第六十二話 無口
「ん?」
「…」
「うぉ!?」
「流恵ちゃん、ステルススキル高すぎやで?優ちゃんが腰抜かしてるやないの!」
「…そう」
「せやで?流恵ちゃん、ほなついでやけども、その無口はどうにかならへんの?」
「…なぜ?」
「何故って、決まってるやろ?相手に意思を通達するために言葉っちゅうもんがあるねんで?せやのに言葉を使わな相手に意志が伝わらんやろ?」
「…そう」
「か、彼女は?」
「…スロウ=べルフェ」
「貴女が…」
「…そう」
「日系人か?」
「…私は日本人」
「でも名前はスロウ=べルフェでしょ?」
「…朱楼流恵」
「は?」
「…私の本名」
「すろう…るえ?」
「…そう、朱楼流恵」
「じゃあスロウ=べルフェって言うのは?」
「…外国向けの名前」
「なんか、深いな」
「…そう」
「何て言うか相手にするのもだるくなってきた」
「…耐えて」
「まさかこのだるさに耐えるのが修行とか言わないよな?」
「…」
「図星かよ…」
「ただだるくなっているだけじゃない、今のあなたたちは本能的に心臓を止めてしまうレベルの怠惰に駆られている、普通の人なら三秒すら保てない」
「いきなり饒舌になったよ…」
「…私の元ネタは長t」
「いや、解ってるから、それ以上は言うな」
「…そう」
「なあリア」
「なに?」
「朱楼さんって普通に喋らないのか?」
「えっとね、たしか…」
「…契約主には饒舌」
「そうか…なら」
「…!?」
「これでいいか?」
「な…なにしたの?」
「契約」
「今…何て?」
「だから、契約を…ん?そう言えばしたの名前…流恵?るえ…るぅ!?」
「ご主人…さま?」
「流恵ちゃん、何か思い出したの?」
「思い出した…転生するまえ、私は猫だった」
「記憶喪失だったのか?」
「そうよ、右も左も解らない状態で魔王城の地下水路にいたの」
「そうなのか…」
「とりあえず、無くしてた記憶を教えて?」
「…私はある人と暮らしてた、とても優しい男の人」
「…」
「私は彼に忠誠をしていた、だけど…」
「まさか?す、捨てられたの!?」
「ご主人さまはそんなことしない!」
「え?あ、ごめん」
「…ある日台風が来てたんだ、大型のやつがな」
「…え?お姉ちゃん?」
「そう、台風が来てた日だった、私は雨風で増幅した川の近くで運悪く怪我をしてしまった、そんなとき、ご主人さまがびしょびしょになりながら私を助けてくれた、だけど、ご主人さまと私は、逆流した川に呑み込まれてしまった」
「…」
「…台風の時、怪我をしたるぅの姿が見えた、俺は必死になって家まで帰ろうとした、だが、足を濁流に飲まれて、川で溺れちまった、必死に離さないようにしたが、俺は気絶した、気がついたら病室にいた」
「…確かに、城に流恵ちゃんが来たのと優希が溺れて病院に搬送されたのは同じ日…でも、優希が猫を飼ってた何て初耳よ?」
「家族には内緒で飼ってたからな」
「つまり?」
「朱楼流恵は優希の飼ってた猫?」
「ご主人さま…」
「るぅ…」
「ご主人さま、会いたかった、溺れた時、ご主人さまが私を離さないようにしてくれた事、ご主人さまがくれた温もり…忘れたくなかった、なのに、なのに私は忘れてしまった…私はもう、ご主人さまに会う資格なんて無い」
「るぅ…会う資格なんて必要ない」
「…え?」
「だって、こうしてまた会えたじゃねぇか」
「…」
「やり直そうぜ、もう一度」
「…はい」
続く