第百十話 怠惰と憂鬱
〜原初の世界〜
「それにしても、さすがお兄ちゃんというか、拾ったのお姉ちゃんだっけ?」
「そうですね、まさかお母様の飼い主が魔王様だとは・・・」
「それにしても、人類の気配が無いな・・・」
「皆魔物か天使ですね」
「しかし、こんなボロ屋敷にお母様が?」
「リア、入って声かけてよ」
「私がか!?」
「その気配は、ラトですか、何しに来たのです・・・誰でしょうか?」
「すまない、我は数あるうちの一つの未来から来た、グラトニル=ヴァリアノイドという者だが」
「グラトニル・・・ヴァリアノイド・・・なるほど、ラトとリリーの子孫ですか・・・するとそちらは?」
「この時間軸では初めまして、お母様、私は洲楼流恵、と言います」
「あらあらまあまあ、あの人に言ったら喜びそうですね、とても爽快な事です」
「アル、またラトが来てるのか?」
「ベル、お客様ですよ、きっと貴方も勤勉になれましょう」
「どういう意味だよ・・・」
「こちらがグラトニル=ヴァリアノイドさん、ラトとリリーの子孫で、こちらが洲楼流恵さん、私達の子です」
「ラトの子孫に・・・って今子供っつったか!?」
「はい、私達はきちんと子を産めるのですね、なんと爽快な事でしょうか」
「・・・しかし、なるほど、大変だな」
「分かるのか?」
「当たり前だ、数あるうちと言えども未来は未来だ、それに、流恵の魔力から追尾出来る」
「それでは」
「ダメだ」
「・・・はい?」
「今は大事な時だ、魔力を失う理由には行かない」
「ですが」
「すまない、お前の為なんだ・・・」
「・・・分かりました、では、他の悪魔の情報を教えて欲しいです」
「近いのはアスモデウスか、でもアイツは今行方不明だしな・・・」
「なあ、るぅ、段々と透けてないか?」
「透けてますわね」
「どうすれば!」
「・・・まさか」
「何か思い当たるのか?頼む、娘の事だ、教えてくれ」
「るぅは最初は悪魔じゃなかった、猫だったんだ」
「・・・そういう事ですか、なんと憂鬱な事なのでしょう」
「アル、何か分かったのか?」
「ベル、私は貴方の先が短い事を知っていました、魔力が日に日に弱くなっていますね?」
「ああ、バレてたか」
「・・・そんな、お父様」
「アルの魔力が尽きるまでに産めるとは思ってましたが、憂鬱な事にその願いを叶えると将来流恵が消えてしまいます」
「そうか!流恵はどのパラレルワールドでも、絶対猫として生まれ無くてはならない、そして、優希に出会わなければ・・・」
「存在が、消滅する?」
「そうか、じゃあ、仕方ないな、親父として、最初で最後のひと仕事するか」
「・・・お父様?」
「流恵、顔を見せてくれてありがとうな、娘の顔が見れて嬉しいよ」
「そんな!ダメですお父様!私に力を託したらお父様は!」
「流恵、いいか?俺はお前の中で生きてる、魔力として、流恵が生きてる限り、忘れない限りずっと生きてる、だから大丈夫だ」
「お父様・・・」
「さあ、始めるぞ!これが、怠惰だ!」
「・・・終わったのか?」
「ええ、終わりました、お父様には感謝を、しかし、怠惰で憂鬱ですね・・・なので、勤勉に事を終わらせます、良いですね?お母様?」
「流恵?」
「お母様、私は悪魔です、しかし、とあるお方のお陰で死神でもあるんです、お父様の魔力は無くなってしまいました、ですが、今ならわかります、僅かに残っているお父様の霊力があると」
「それでは!」
「時間はかかります、ですが、また再開を祈りましょう、リア様、疑問に思いませんでしたか?」
「何がだ?」
「なぜお母様は"連絡も無しに崩壊した世界で私達と接触出来た"のか?」
「それはパラレルワールドのバアルが・・・」
「いいえ、あり得ません、なぜなら、私達と接触した時点でお母様は妖怪・・・悪魔なんです」
「確かに!悪魔や精霊はどの世界にも一人です!」
「そして霊界には、パラレルワールドという概念がありません、これだけ分かれば解釈は簡単です」
「まさか?」
「・・・きっと、お母様を私達の所へ差し向けたのは、私なんですよ」
「どうして分かるんだ」
「それはこれから私がお父様にかける魔法が関与しています、お母様見ていてください」
「ええ、見ているわ」
「閻魔との契約の元、消えゆく魂に使命を与える、いでよ、冥界の扉!」
[死神よ、汝が差し出す犠牲はなんだ?]
「扉が・・・喋った」
「私が差し出すものは無い、私は死神・・・」
[なるほど、であれば死神になる前のお前の魂で宜しいか?]
「構いません、私が父を救えるのなら」
[・・・面白い死神よ、少しばかり契約を変えてやろう、犠牲は要らぬ、その代わりじきにに生まれるの新たな冥王に死神としての命を全うせよ
、ではこの魂、預かり受けるぞ]
「・・・今のは?」
「父を死神として推薦しました、まだ霊力は弱いですが、私達がこちらに来る直後ぐらいには立派な死神になり得ましょう」
「新たな冥王とは?」
「リア様、気づいていますでしょう?」
「・・・まさか優希さんですか!?」
「いえ、厳密には違いますが、私が死んだ時、閻魔様は笑っていました、1代遅いぞと・・・」
「まさか怜介か」
「まあ、2代目の命令で3代目に仕えているのですが、それは後の話です」
「次は誰の所へ行くんです?」
「・・・どうやら向こうから来たみたいだぞ?」
「何じゃ、わっちに文句あるのかの?」
「その様子だと全て知ってそうだな」
「当たり前じゃ、わっちは天下のグラトニーじゃぞ?」
「でも、死んでるんですよね?」
「まだ死んどらんわ!魔力から記憶をインストールしただけじゃよ!」
「なあ、ラト、インストールってなんだ?」
「リリーにはわからんで良いわ」
「そちらは?」
「わっちの主人のリリンスじゃ」
「初めまして、虚栄の悪魔2代目、リリンスです、リリーって呼んでください」
つづく