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「……見せしめですか?」
マルレーヌ・デュギーの検束の一報を聞くと、ベアタは、そうサンデルスに訊くともなく呟いた。
サンデルスが口を開かないので、彼の方を向いて大きめのサングラスを下げ、眉根を寄せて睨め上げる。
「予防検束(※)じゃない、これって」
サンデルスの方は、やっぱりそう来たか、と内心で溜息を吐いて、頭の中で慎重に言葉を探し始めた。
いまベアタは予防検束と言ったが、彼の見方は少し違った。むしろマルレーヌ・デュギーの身柄を保護するための〝方便〟だろうと見立てている。だが、法執行機関が表立って女史を保護しないのは、結局は右傾化する世論に阿る現政権の姿勢……ということであり〝見せしめ〟ということに変わりない。
どうもその線では相棒の怒りは鎮まりそうになかった。
(※公安を害する惧れのある者に対して自由な行動をさせないよう連行して留め置くこと。この場合ベアタは、公権力が〝都合の悪い人物〟を刑法などに規定された犯罪によらずに犯罪予備軍として拘禁できてしまうことを非難している。)
それはそれとして、マルレーヌ・デュギーにしてもまるきりの受難者というわけではないと、サンデルスはそう踏んでもいる。事実、ヒルダ・ケンナ――件の爆弾テロリスト――はヨーダム大学で学生の身分を得ているのだ。
だからサンデルスは、あえて断定調の口調で言った。
「――…他の逮捕者と比べれば明らかに〝黒〟だ」
案の定、ベアタの表情が硬くなったので、サンデルスは多目的車両の窓の先へと視線を振って見せた。そこには屋外競技場の外壁と屋根が見える。
6万人を収容するアールーズ・タイタンズの本拠地は、現在は戒厳部隊が市中で逮捕する〝サローノ人〟の拘束される収容所となっていた。そこに日々連れてこられる若者の大部分は、罪とは言えない些細なことで逮捕されている。
翻って、ヨーダム大学の学籍を得て入邦したテロリストが、市中でバスを吹き飛ばしたことは紛れもない事実なのだ。少なくともキャンパスを統括する筆頭学部長として、管理責任は問われるべきだろう。
そのサンデルスの言わんとすることは、ベアタにも理解できる。間違っていないことも。
結局、ベアタは矛先を収めることにし、屋外競技場から戻した視線を視線をサンデルスに向けることなく前に向き直った。
…――そうして、
それから半日が過ぎたその日の夕刻、定時で仕事を終えて帰宅していたサンデルスは、ベアタから電話で屋外競技場に呼び出されることになる。
2000台を収容可能な駐車場の端に車を停めたサンデルスは、周囲でやたらと目に付く軍用車両の間を縫うようにして屋外競技場へと急いだ。
屋外競技場は駐車場の1/3程が鉄条網の巻かれたフェンスで囲われており、入口として置かれたゲートの周辺は小銃を携えた兵士で固められていた。
その兵士らの対面には、防衛軍の警備行動によって逮捕・連行された者らの安否を気遣う関係者や、軍への抗議の声を上げる集団、そしてそれらを取材に集まった報道関係者といった者らが居並んで大層な人混みとなっており、抑制的な振る舞いを見せている兵士の列との間に怒号が飛び交っている。
サンデルスはその人混みを掻き分けるようにゲートへと進んで〈公安調査部〉の身分証を提示した。迷彩服の警備の列の若い兵士――サンデルスと同じか少し年少だろう――は、それでひと1人分の隙間を作って通してくれた。「そいつだけなぜ通すんだ!」というような声を聴いたが、構わずそのままゲートを潜った。
タイタンズのホームゲームで何度も訪れたスタンドまで階段を上ると、照明に照らされた競技場は、鉄条網付きのフェンスで区切られていた。
周囲の観客席から小銃を抱えた兵士が見下ろしており、競技場の芝生の上を、若者――おそらく〝サローノ人〟…――が、迷彩服の兵士の間を、まるで追い立てられるようにしてフェンスの内側へと誘導されて行く。
フェンスに押し込められた彼らの表情の中に〝怒り〟を見て、サンデルスは暗澹たる気持ちとなった。




