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眼前のデュフィ上級大佐の言葉と表情に微妙な隔たりを感じたサンデルスは、同じ所感をマズリエも得ただろうかと、さりげなく分析官の横顔を窺った。
冒頭で挨拶をしてからこれまで一言も発していないマズリエは、やはり黙ったままデュフィ大佐を観察している。
大佐はそれに気付いていない振り――それが〝振り〟であることはサンデルスにはわかる――で、シーロフ支部長の表情を窺うようにした。……自身の仕える準州代表を揶揄しているかのような言葉は、〝鎌をかけた〟ということだったか。
しかし、それなりに年齢を重ねているシーロフは、迂闊に乗らなかった。
「捜査の件でしたら〝順調に進んでいます〟と(しか)……」
デュフィ大佐はそれを遮り、大きく肯いてみせた。
「…――私も〝彼女〟にそう言った」 含みのある、落ち着いた言い様である。「軍と警察は違う。軍は出しゃばらず、〝この件〟は現場のプロにお任せなさい、と」
「ご配慮、感謝します」
この〝駆け引き〟に、シーロフも慎重に応じた。
「礼に及ぶことではありません」 デュフィは表情を改めると、もう一度頷く。「ただ、くれぐれも〝敵〟を見失うことのないよう願いたい」
「――ロマン・リシュカのことをお教え頂けますか?」
ここで、マズリエが初めて口を開いた。
「話が〝見えない〟な……」
マズリエを見返したデュフィ大佐は、わずかに表情を軟らかくする。だが警戒はしたようだった。
マズリエは淡々とした口調で食い下がる。
「テロリストは彼の釈放を要求しています。違いますか?」
「話にならない。それは不可能事だ」
デュフィは声音を少し低く改めて応じた。
「〝テロリストとは交渉しない〟という原則でしたら…――」
〝使い古された方便〟を盾に話を煙に巻かせない、というマズリエを、大佐は手を上げて遮った。
「…――そうは言っていない。居ないものは釈放できないと言っている」 大佐は主任分析官に頷いて続けた。「……本当だよ。〝彼は死んだ〟と聞いている」
「IISOはそう見てない」
シーロフが〝助け舟〟を出す。
「彼らは〝ファテュで起こっていたこと〟を正しく評価できなかった。そういう組織だ」
デュフィは落ち着き払ってはいたが硬い声となって応じる。「彼らは〝戦場〟に立っていない」
その言には、マズリエだけでなく他のPSI捜査官ら全員が〝納得しがたい〟という目になった。
「情報源は?」
デュフィが硬い声音のままに訊く。
「ジーン・ラッピン」
マズリエが簡潔に答えた。つい先日にバンデーラから得たばかりの情報だ。
「ああ…――」
それで得心がいったとばかりにデュフィは嗤った。「あの女にサローノのことは解らない。デスクワークしか知らない手合いだ」
これまでの会話でサンデルスは理解した。
デュフィ上級大佐の頭の中で〈諜報特務庁〉の情報分析組織の〝序列〟は〈軍情報局〉の下なのだ。この分では〈公安調査部〉や〈情報調査室〉はその更に下になるのだろう。……優男然とした容貌に似ず〝マッチョ〟な考え方をする男らしい。
「そうですか……」 一方、デュフィのその言葉を〝女性蔑視〟と捉えたのか、セシリアは素気のない声で応じた。「心しておきます」 ――部局内外の情報調整は彼女の職責だった。
「さて、私としても仕事の邪魔をするつもりはない。失礼するとしよう」
場の雰囲気にようやく気付いたという〝振り〟をして、デュフィ大佐は席を立った。
「どう思う?」
客人が帰った後、部屋に残った3人にシーロフ支部長は訊いた。
「我々の動きを見にきたんでしょう」
「〝動き〟? ――〝働き〟でしょ」
無難な回答をしてみせたサンデルスに、セシリアが言葉尻を訂正した。その様子から、どうやら大佐を好きにはなれなかったらしい。マズリエは逆に支部長に確認をした。
「大佐は〝軍務で〟来たのじゃなく〝準州代表の顧問の肩書で〟来た?」
支部長が肯くと、マズリエは肩をすくめるようにして言った。
「……彼は何かを知っているかも知れないし、そうでないかも知れない」
それはつまり、現時点では情報が少なすぎて判断はできない、ということだ。




