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コメディー短編(異世界恋愛)

サリーナ様がブチギレましたわ……

作者: 多田 笑

少しでも笑っていただけたら嬉しいです。

 伯爵家のご令嬢サリーナ様は、幼い頃から才女と名高く、学問も経済もお手のもの。私の友人、そして“推し”なのですわ! 


 めっちゃLOVE!


 そんなサリーナ様と幼い頃に婚約したのが、侯爵家の嫡男ノーム様でした。


 しかし、ノーム様のお父様。

 領地改革を次から次へと打ち出しては失敗し、十五歳の息子に当主の座を丸投げして失踪してしまいます。


 その結果──

 財政は傾き、領民は疲れ果て、屋敷の使用人が次々と辞めていく有様。


 ノーム様は重圧に耐えきれず、引きこもり状態。


 普通なら、ここで完全に詰み。


 ですが――

 ここで登場するのが、我らがサリーナ様! 


 不正を洗い出し、税制を整え、商人との取引を再構築。書類の山に埋もれながら夜更けまで働き、「働いて、働いて、働いて参ります」と言わんばかり。


 ノーム様のお母様(以後、“()母様(かあさま)”)も、心配して何度もお声掛けになったそうです。


 あ、申し遅れました。

 私、サリーナ様の友人、マーブ・ダーチと申します。


 さてさて。

 その努力の甲斐あって、侯爵家は見事に立て直されました。


 ――が!

 なんとサリーナ様、ご自分の功績を一切主張なさらず、すべて「ノーム様のお手柄」で通したのです。


 もう!

 奥ゆかしいにも程がありますわ!


 サリーナLOVE!!


 とはいえ──。

 これから先、ようやく幸せになっていくサリーナ様の姿を見られると思うと……。


 嬉しくて、“マーブの舞”を披露してしまいそうですわ!



「サリーナ、君との婚約を破棄する!」


 きらびやかな舞踏会の、ど真ん中。

 空気が凍りつき――次の瞬間、会場はざわめきました。


 宣言したのは、ノーム様。

 しかもそのお隣には、伯爵令嬢のクレジーナさんが寄り添っております。


「理由を、お聞かせ願えますか?」


 サリーナ様は、声を震わせながら問いかけました。


「ふん! そんなことも分からんのか! だから捨てられるのだ! 俺は真実の愛に目覚めた。クレジーナと婚約する」


「っ……!」


 サリーナ様は、ぎゅっと唇を噛みしめておられます。


「うふふ……。ノーム様のお気持ちが理解できない方に、侯爵の妻など務まりませんわ」


 クレジーナさんが、見事なまでの嘲笑顔で言い放ちます。


(ノーム様の辛い時期を支え続けてきたのは、サリーナ様なのに……。ようやく幸せになれると思っていたのに……。こんな仕打ち、あんまりですわ!)


 ――と、その時です。


 場の空気を読んだかのように、“ノ母様”が登場なさいました。


(来ましたわ! 救いの手! 貴族の婚約は政治同盟のようなもの。簡単に破棄などできるはずがありません。この場で止められるのは、あなただけですわ!)


「ノ……お義母様!」


 サリーナ様が、すがるように声をかけます。


「サリーナさん。ごめんなさいねぇ」


(……え?)


「ノームがどうしても婚約を解消したいって言うものだから。私も止めようと思ったのだけれど……。男の決意って、母親にも止められないものなのよ」


 そう言って、肩をすくめるノ母様。


(いやいやいや……それはないでしょ!)


 サリーナ様も、落胆しておられる様子。


「あなたには感謝しているのよ。本当に助けられたわ。だから恨まないでね、ね?」


 まるで「私は悪くありません」と言わんばかりの声音。


 サリーナ様は、うつむきながら肩を震わせておられます。


(やっと、幸せになれると思ったのに……。サリーナ様……そのお気持ち、痛いほど分かりますわ……)


 ――と、思った、その瞬間。


「はあ!? お前ら、マジで言ってんの!?」


(……え?)


 顔を上げたサリーナ様は、まるで昔のヤンキーのような目つきで、お三方を睨みつけておられました。完全にメンチを切っております。


(あれ? 涙は? あ、ありませんわね。代わりに殺意がありますわね)


「ノーム様。まず確認させていただきますけど……」


 先程とは打って変わって、にっこり笑顔のサリーナ様。

 一方、ノーム様は、驚き戸惑っております。


(怒った人の笑顔は凶器ですわ……)


「誰が、侯爵家を建て直したと思ってんじゃああああ!? このウジ虫クソ野郎がぁぁぁあ!!」


――炸裂。


(ば、罵倒の初手が、もう最終奥義ですわ!!)


「ひっ……! ウ、ウジ虫クソ野郎は……さすがに言い過ぎ……」


 勇気を振り絞って反論するノーム様。


「あら、大変失礼いたしました」


 サリーナ様は、すっと背筋を伸ばし、急に淑女モードに戻られました。


「訂正いたします。あなたは“ウジ虫クソ野郎”ではありません」


(おや?)


「何もしない・決められない・責任を取らない・それでいて成果だけは欲しがる――」


 サリーナ様は、淡々と言います。


「領地が傾いたら引きこもり、立て直ったら胸を張り、そして調子に乗って“真実の愛”とか言い出す」


 一歩、ノーム様に近づく。


「ですから正確には――」


 にこやかに、はっきりと。


「“無能で、責任感ゼロで、寄生虫気質の、自分を優秀だと勘違いしているウジ虫クソ野郎”ですわ」


(訂正じゃありませんでした! パワーアップさせましたわ!!)


 会場のあちこちで、クスクスと笑い声が聞こえ始めます。


「で? そんなあなたが私を“捨てる”ですって?」


 サリーナ様は、鼻で笑われました。


「立場、分かってます? 捨てられるのは――」


 一拍置く。


「あなたの方ですわ!」


(決まったぁぁぁ!! ゴォォォォルッ!!)


「私が侯爵家を支えてきました。だから、私がいなければ――」


 遠くを見つめる。


「今ごろ、どこで何をしていたんでしょうね? 引きこもり侯爵様?」


「ま……待て……侯爵家を建て直したのは……俺──」


 ノーム様は必死に訂正しようとします。


「ああん!? てめぇ、まだ自分の立場が分かってねぇようだな!! ケツ穴に爆竹さして、爆発させてやろうか! あん、侯爵様よ!!」


「ひっ……」


 ノーム様は、もう限界。

 鼻水まで垂らし、ついに泣き出します。


「ひ……ひっく……うぇ~ん! 母ちゃ~ん!!」


(……出ましたわ。最終奥義“ママ召喚”)


 ノーム様は泣き叫びながら、ノ母様にしがみつきます。


 “よしよし”するノ母様。


 そして──

 満を持して、ノ母様が口を開きました。


「サリーナさん。あなたの気持ちは分かるわ。でも、許してあげてほしいの。あなたは優しい子じゃない?」


(出たぁぁぁ!! 都合のいい“優しさ”の押し付け!!)


 その言葉を聞いた瞬間、サリーナ様の拳が、ぎゅっと握り締められました。


「はあ!? ババア、何を寝ぼけたことをぬかしてんだ!! そもそも、てめえが止めていれば、こんなことにはならなかったんだ! 自分のせいだって、分かってんのか!?」


「わ、私のせい……?」


「ああ、そうだよ。お義父様が失踪したのも、このウジ虫クソ野郎が、こんな性格に育ったのも――」


 一拍。


「全部、てめえのせいだ!! 無能で無責任なクソババア!!」


(言葉が、急所を正確に貫いていきますわ……)


「ち、違うわ……」


 ノ母様は頭を抱え、か細い声で呟き始めました。


「違う……違う……わ、私は悪くない……」


(現実逃避、始まりましたわね)


 それを見たサリーナ様は、にっこりと、とても綺麗な笑みを浮かべます。


 (……怖い)


「いい加減、お認めになってください」


 静かに、はっきりと。


「悪いのは、あなたです」


「ひっ……! ひぃぃぃぃい!!」


 ノ母様はその場にしゃがみ込み、「悪くない……悪くない……」と、ぶつぶつ呟き続けます。


(ああ……心が折れる音がしましたわ……)


「さて──」


 そう言って、サリーナ様は、ゆっくりとクレジーナさんの方を向かれました。


「ひっ……!」


 クレジーナさんは、それだけ言い残し、踵を返して全力で逃走。


(判断が早い。生存本能だけは一級品ですわね)


「ふぅ~、やれやれだぜ……」


 深いため息をつくサリーナ様。


 その瞬間、会場から――


 ぱち、ぱち、ぱち……


 やがて、大きな拍手が巻き起こりました。


 今夜の主役は、間違いなくサリーナ様です。



 その後。


 サリーナ様のもとには、

 山のように婚約の申し込みが舞い込みました。


 あの舞踏会での立ち回りを見て、多くの男性が心を奪われたのです。


 ……まあ、当然ですわね。

 強くて賢くて、美しくて、しかも容赦がありませんもの。


 そして、もちろん──

 私のサリーナ様への愛も、深まっております。

最後までお読みいただきありがとうございます。

誤字・脱字、誤用などあれば、誤字報告いただけると幸いです。

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― 新着の感想 ―
うん、これはキレてよい案件ですわ。 お釈迦様も全力で殴ってくるレベルの酷さ。
あっ、今回はお友達目線の作品かぁ〜、と思ったら…なんか様子が違う〜〜w こうやって、ハッキリズバッとダメなことをダメと言える人は尊敬します。僕は思っていてもなかなか言えないことのほうが多いので。
ノームというネーミングでピクッときたのですが、ムノーなのかちっちゃいオジさんの姿の土の妖精なのか迷った次第です マブダチは(笑) >ケツ穴に爆竹さして、爆発させてやろうか! やっちゃってくださいよ…
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