第二話 魔界へようこそ
起きたそこはまさに魔界。
そこには乱れ曲った枯れ木が1つ、2つとあるだけで、他には何も無い。
そんな荒野に人間が1人。
そして英霊が1人。
ちなみに、京香が言うには英霊とは精霊の最上位階級に位置する最強の精霊だそうだ。
俺にはもったいないものだ。
そう。京香が顕現していた。
白い花と赤い花が彩られた着物に身を包んだ少女が
つまり実体を持ち、俺の目の先にその英霊様がいらっしゃるのだ。
「おい!バカ、誰かに見られたらどうすんだ!?」
「はぁ。バカはお主じゃ。こんな場所で誰が見るというのじゃ」
この毛先が白く、紫がかった黒色の髪を持つ少女はなんとも麗しい姿をしながら頬を膨らませた。
その幼ない美声から奏でられるその特徴的な口調からは小さな妖艶さすら感じられた。
「あ、そっか。それはそうとこっからどうする?」
「今の状況は…まぁよく言えば敵陣への潜入だ。悪く言えば魔界に迷い込んだんだが。魔族を皆殺しにする。それに尽きる。さすればわらわたちの故郷をも救えるかもしれぬ。」
「同感だな。そうなるとひとまず情報収集しなければ。」
「うむ。だがお主のような人間が街に謎訪れれば魔族共が許さぬだろうな。」
間違いないな。
だって戦争をしている敵兵が近くにいるなど許容しがたい。
「そういえばお主、ずっと気になっていたんじゃが、その目はどうしたんじゃ?」
「え?なに?充血してる?」
京香は水魔術で水玉を出し、鏡の如く反射するように俺の顔を映した。
「うわあああ!なんじゃこりゃ!?これも魔界の影響か?」
「まぁそう考えるのが妥当じゃろうな。おそらくあの人型魔族の仕業じゃな。こんな高等魔術を使おうとはのう…」
京香は何か見当づいたようだった。
だけど俺は聞きたてはしない。
これはいつものことである。彼女の叡智には人間などは到底及ばない。
「お主は今悪魔に成り代わっとる。悪魔は手の紋章と翼が特徴じゃ。そして1番の特徴はその『魔眼』じゃ。魔眼は発動するまでどんな能力かはわからん。なんとも忌々しいものよ…」
悪魔というものを俺は知らないが、強そうっていうのはわかった。悪魔ってアニメとかでもかっこいいよネ
逸話にある悪魔というのはどんなものだっただろうか…
「っとそんなことはよい。これは良い機会じゃぞ。」
「何言ってんだ。たしかにかっこいいけど、」
「そうでは無いわ!つまりは潜入が可能になったというわけじゃー!!」
まるで玩具を手にした赤子のようなワクワクした目をして俺に向かい指を指した。
「はぁポジティブが過ぎるぞ京香…」
「お主がわらわを褒めるとは珍しいのう。」
「まぁ、ともかくこの荒野を抜け出すぞ。」
「同感じゃな。こんな何も無い所はうんざりじゃ。」
「ではゆくぞ。『転移門』開」
そう唱えると轟音が響き、魔法陣の下から白銀色の大かがりな門が現れた。
「気を引き締めよ。今から敵陣へ潜入を開始するのじゃ。いざ。」
―
門をくぐればすでに荒野の姿はなくなってしまった。呆気ない。
その代わり、ひたすらな草原と生い茂る木々が広がっていた。
ぐぅぅぅー
なにかの楽器のような音が響いた。
今日の朝から魔族討伐で何も食べていなかったな。
まったく。魔界はは忙しいものだ。
「まったく貴様は腹から声を出すのがうまいのう。」
「よし。衣食住の確保を急ごうぜ。」
「お主にしては良いことを言うもんじゃ。魔界には頭の冴える効果でもあるのかのう。」
「しばくぞ?」
少し歩けば、下の方にもう集落の門が見えてきた。舗装された土色の道が初めての魔族の街まで案内してくれているようだった。
それに集落は予想外にも広大だった。
レンガ造りにも見える家がずらりと地平線の先まで続いていた。
―
ここでハプニングが発生する。
きゃー!と痛い悲鳴が耳を貫いた。
音の元に目をやると、
馬車…いや魔族車の荷台に目を赤く腫らして泣きじゃくる幼子が見えた。あれはエルフか?
もしや魔界とはあるある展開量産機とかなのか?
「ギャハハ!このみすぼらしいエルフを売り捌けば億万長者だぜww」
犯行者は5人。
主犯格だと思われるゴブリンが、
そう奇声のように叫びケタケタと笑った。
俺らは瞬時に木陰に隠れた。
「京香、どうする?助ける?」
「助ける以外の選択肢はない。魔界生まれの人材は欲しいし、エルフは強いしのう。恩でも売っとけ。」
やけに優しいと思えば理由は全然優しくなかった。
「はぁ…京香ちゃんは冷静で良いことですね。」
「お褒めに預かり光栄じゃ。ご主人様。」
京香に皮肉は効かないみたいだ。
「よし、さっさと売っちまおうぜ!このガキ!さっさと行くぞ!」
「残念ながらここからは通行止めだ。」
「な、なんだこいつ!どっから出てきやがった!?」
「こいつ、悪魔だ!なんでこんな所にクソデーモンなんかがいやがる!?」
犯行者5人は大層に驚いたようだ。
まぁ無理もない。だって荷台の隣に悪魔が英霊少女を膝に乗せて現れたんだから。
どうやって乗り込んだかと言うと…
めっちゃ早く走って静かに乗った。
なんかせっかく魔界来たのにって感じだけどな。
「ほれ、犯罪者共、その娘を置いて去れ。」
「俺の王女様が言ってるんだ。従ってもらおうか。」
俺なりに悪魔を演じてみたが、これで合っているのか?
「っくく、しかしこっちは5人だ。悪魔様のご詠唱は間に合うかな?」
魔界では魔法を使う時、詠唱をするのが普通だそうだ。
「無駄な抵抗はやめたほうがいい。君たちを殺す気は無いんだ。」
「ははw舐めるんじゃねぇぞ!やれお前ら!」
そうニタニタ笑いながら飛びかかってきた。
「『保護治癒結界』展開」
「『雷ノ槍』」
俺と京香が術を発動した。
京香により、エルフっ子は保護しながら治癒効果を与える結界を張られた。エルフっ子の額の痣がみるみる肌色を取り戻した。ちなみに核爆弾に当たっても無傷らしい。怖い。
そして俺の術によって雷で創られた槍がゴブリン共を貫き、丸焦げたゴブリン共は荷台からずり落ちた。
「はぁ…だから抵抗はやめろと言ったのに。悪魔ってのはおっかないな…」
悪魔に転生してから、魔力が膨大に増え、術の精度も格段にあがっている。
「おっかないのはお主じゃ。この娘に当たったらどうするんじゃ!」
「ごめんね王女様。」
「それもやめんか!!」
「まぁいいじゃない。目標は達成したんだし。」
「楽観的がすぎるんじゃお主は。」
「あはは。王女様は怒っても可愛いなぁー」
「お世辞はやめい!って誰が王女じゃ!」
こんな掛け合いはよくする。
京香はなかなかに良いツッコミをするもんだから、からかいたくなる。
「まぁよいわ、その娘をかつげ。休める場所まで運ぶぞ。」
「はいはい。行こうか。」
俺はエルフっ子担いで歩いた。
―
1キロ程歩くとちょうど街の門に届いた。
俺たちが思っていたよりも栄えた街のようだ。
大掛かりな門には武装をしたオークとワーウルフが立っている。門番だろう。
「よぉ。兄ちゃん!見ねぇ顔だな。おうそこの嬢ちゃんも見た事ねぇべっぴんさんだ。」
「ほう。見る目のいい魔族じゃ。」
「ところで門番さん、俺らはここで宿なんかを見つけたいんだが、ここの門を通ってもいいかな?」
「あぁ。もちろん構わねぇが、魔力測定だけ頼んでもいいか?」
なにやら魔力には色や純度、密度など様々な要素があるらしく、それには人格が映るらしい。
例えば悪心を持っているなら黒色のようになるらしい。
そう言って透明な水晶を差し出した。
それに手を当てろとジェスチャーされたので、
手を当てた。
その途端水晶は赤紫色に濁った。
「な、なんちゅう純度だ…すごいなあんた。初めて見たぜこんな魔力。」
そう言ってワーウルフとオークの門番が顔を揃えて水晶に見入っていた。
なんだか、魔界は案外平和なのかもと思わせるような絵面だ。
「あんたは相当強いようだが悪人じゃあないみたいだな。いいぜ通って。」
「こっちのはいいのか?」
そう言って僕は軽く京香に目を向けた。
「あぁいいのさ。嬢ちゃんは兄ちゃんに懐いているようだし、こんなに強い兄ちゃんがついていれば事故も起きなさそうだしな。」
そう言って自慢げな顔を見せた。
―
とりあえず第1目標を達成した。
街へと足を踏み入れた。
俺らはあまりに大規模な街にまさに目を丸くした。
とりあえず休めるところを探そう。
エルフっ子を迎えるのに俺がおぶった状態では、格好がつかないしな。
俺らは宿をめざして街の中央部に向けて歩いた。
歩いていくと様々な店が視界を満たした。
服屋に、装備屋、レストラン、書店に、美容屋まで。
そして10分ほど歩いたところに宿を見つけた。
俺たちは迷わずそこに入った。
宿の受付に向かうと、そこに居たのは片目に眼鏡をかけた賢そうな、典型的と言えるような老ゴブリンだった。
「すみません、1部屋お願します。」
「よぉ。もちろんいいぜ。1泊銅貨2枚だ。なかったら後払いでもいいが、どうする?」
「あぁ。ひとまず1泊頼むよ。」
「あいよ。じゃあここを右てに4つ行ったところだ。ごゆっくり。」
そう言って受付から小さく指を指した。
気さくな老ゴブリンだと思った。
部屋に着くと素朴だが良い部屋だった。
「はぁ…疲れた」
「はぁ…疲れた」
京香と声が合った。
流石の英霊様でも長旅は疲れるようだった。
「じゃあエルフっ子が起きるまで休もうぜ。」
「うむ。休みながらでも今の状況を整理するかのう。」
「そうだな。じゃあひとまず今の状況だけど、地球に魔界か天魔島が出現し、魔族の侵攻が始まった。そして俺らは敵陣の魔界に突如召喚…今更ながらピンチ過ぎないか?急がないと日本が持たないぞ。」
「うむ。中々にまずい状況じゃのう。日本にあの人型魔族を抑止できる人間なぞおらん。急がなくてはな。」
「うーん。どうするかな…まだマグスリアのみたいなやつが魔界にいる可能性があるからには、無闇に攻め込めないよな。」
「そうなると、情報が必須になるのう。敵情視察じゃな。マグスリアの言った、「魔王」というのに近づくのが得策じゃな。」
―
とかなんとか話してるうちウトウトとし始めたので、2人共眠ることにした。
第二話終わり。




