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アクマの命題  作者: 匿名希望α & 千鳥
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【3】 アルフさんに会う前の事/Side メル(作者:千鳥)

出だしは前回のお話の一つ前の出来事です。

場所:ソフィニア魔術学院

††††††††††††††††††††††††††††††††


 大きくなったら、立派な魔法使いになって孤児院に帰ってくるよ。


 メルの暮らしていた孤児院にも、そういい残してソフィニアに旅立った兄弟がいた。

 彼は、メルよりも5つ程年上の頭の良い少年だった。その後彼がどうなったのかメルは知らない。彼の帰ってくるべき孤児院が閉鎖された今となっては二度と会うことも無いと思っていた。


 ††††††††


『北研究棟2-4 アルフ・ラルファ』


 学院長から渡されたメモには、場所と名前が記された一行の走り書きがあった。今回の事件の担当者の名前である。直ぐでも話を聴きたいところだが、メルは学院長室を追い出された瞬間に迷子になっていた。


「えぇと、確か玄関のそばに案内板があったはず…」


 さて、玄関はどちらだろう…?

 けして、メルは方向音痴というわけではない。しかし、この巨大な学院はたくさんの建物が隣接しておりとても複雑な造りをしていた。しかも、同じような教室がいくつもならんでいるのである。教会や修道院での暮らしの長いメルが直感で目的地にたどり着くのは不可能に思えた。


「……どこに行きたいの?良かったら連れて行ってあげようか?」


 最初の一歩を渋っていると、一人の生徒が声をかけてきた。色白にノッポの少年である。年はメルよりも二つか三つ年下に見えた。

 そばかすを浮かべたその顔には親切そうな笑顔が浮かんでいて、メルも安心して笑みを返す。


「ありがとうございます。実はお会いしたい方がいるのですが、北研究棟までの行きかたを教えてはくれませんか?」

「研究棟…?誰に会いに行くんだい?連れて行ってあげるよ」


 馴れ馴れしい少年の口調が気になったが、相手はメルの事をずっと年下の少女と思っているのだろう。こういったことは慣れていた。メルは再びメモを開いた。


「『アルフ・ラルファ』という方なのですが、ご存知ですか?」

「 ………。 」

「あの……」


 少年の動きは止まっていた。

 笑いを浮かべた口元は緩んだまま開きっぱなし。目は何処を見ているのか分からなった。突然起きたこの親切な少年の変貌にメルは心配になって声をかける。そういえば、悪魔憑きにあった人々がよくこんな表情を浮かべていた。もしや、問題の悪魔がこの少年に憑依してしまったのだろうか。心配になったメルは、


「失礼」


 素早く十字を切ると、少年の身体に触れる。パチンと小さな音がしたのは、偶然におきた静電気だったのだが、少年はびっくりして数歩後退した。


「す、すみましぇん!!」

「大丈夫ですか?」


 邪まな思いを抱える少年は、小さな聖職者に思わず1オクターブ高い声で謝まる。メルは不審そうに少年を見た。


「さ、さぁ、行こうか!行ってやろうじゃないか!」


 その視線が痛くて、少年は慌てて少女の頼りない肩を掴むと廊下を進み始めた。何故かすこしやけっぱちだった。



「あそこがアルフ・ラルファの研究室だ」

「ご親切にありがとうございました。助かりました」


 少年は目的地の数メートル前で足を止め、指差した。まるでその先に暗黒でも広がっているかのような目つきで指をさしていたが、深々とお辞儀をしたメルの手を握った。


「気をつけてね、アメリアちゃん」

「はい。あの、あなたのお名前をお聞きしてもよろしいですか?」


 ここに来るまで、ずっと質問攻めにあっていたメルはやっと少年の名を問うことが出来た。すると、突然少年は表情を変えた。そしてしばらく苦悩すると、低い声でぶつぶつと呟くように言った。


「その…僕の名前なんてどうでもいいんだ。“お兄ちゃん”って呼んでくれないかなぁ…」

 

 メルには少年の趣向も意図するものも理解できなかった。むしろ知らなかった。だから純粋に疑問を返す。


「確かにわたくしは“シスター”ですが、何故あなたを“お兄ちゃん”と呼ばなければならないのですか?」


 二人の間に沈黙が起きて、どこかで扉の開く音がした。

 驚いた少年の体が数センチ床から飛び上がったのをメルは見た。


「じゃ、じゃあね!アメリアちゃん!!」


 情緒不安定な方なのかしら。メルはそう思いながら少年の姿を見送った。

 彼女の頭の中では未だ、ソフィニア魔術学院は、素晴らしく真面目で、優秀で、聡明な人々集まりと信じて疑っていない。


 しかし、その考えを改める日はそう遠くは無い。


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