【11】それぞれの朝/Side スレイヴ(作者:匿名希望α)
朝。それは誰にでもやってくるもの。
太陽光が空気の屈折を受け赤い光となり周囲を照らしている。
日差しは東から。
ピンと張り詰める空気が心地良い今日の始まり。
我らが絶対四重奏。初めに行動を開始するのは、意外にも彼である。
「どわぁぁ!!ゆ、夢か……変な夢見ちまったぜ。ったくなんであんなアルフがいるんだよっ……マテよ。ここドコよ?」
見知らぬ天井どころではない。
オルド・フォメガ。森の中で目を覚ます。
「……落ち着けオレ。昨日なにが起こった?いいか自分。気合の貯蔵は十分だ。行動を思い返せ」
朝日の差し込む森の中、どっかりとあぐらをかいて座り込むオルド。
腕を組み、昨晩の出来事を思い返す。
初めに説明しておくならば、彼の現在地はソフィニアから北へ半日程歩いた距離である。
そして、彼の寝床はしっかりソフィニアの隅に存在している。
「酒場で酒食らってそれから獣人のジョニーとボブとバトルしてから、ソフィニア郊外まで競争してまた殴り合ってから別れたんだよな。それからどうしたんだオレ」
走馬灯のようにコンコンと湧き出る昨日の行動が一瞬にごる。だが、それも一瞬。
「あぁ、そうか。そこで一回ぶっ倒れたのか」
過剰な魔力消費で負荷がかかり、寝転んだら寝てしまったということらしい。
だがそれは一刻。朝までではなかった。
「よし、問題はそっからだ。なにが原因で……」
オルドが呟いた時、目の前にいる一匹の黒猫が目に入る。
オルドは「あ」と思わず声を出し、その謎は一気に氷解した。すべては目の前の猫の所為なのだ。
「またテメェかよ!!。オレの夢で遊ぶなっつーのがわかんねぇかなこの馬鹿猫は!」
(だって馬鹿猫ダモン)
オルドの目の前の黒猫は、淫夢を見せて性を奪う使い魔の類である。が、自由奔放と一人歩きしている。
この使い魔の主は……オルドと深い知り合いだ。
故に、オルドは手加減していた。
が、
「今日という今日は許さねぇ。よりにもよって、あんな夢を見せやがってゴルァ」
蒼白になり気味で身を震わせるオルド。頭をぶんぶん振って忘れようとする。
ガァっと立ち上がり、地団駄まで踏んでいる。
そして黒猫へビシッっと指を指した。黒猫はそのまま鎮座している。
「どういうつもりだか知らねぇが覚悟しやがれコノヤロウ!!」
(ぽっ)
……はぁ?
怒りにわなわなと指先を震わせている。猫の癖に頬を赤らめるなど、どういう状況だ。
「なんで!俺と!アルフが!裸で抱きあ…ゴファ!!」
オルドは口にしたところで自爆したことに気づき、思わず吐血した。それはすごい無駄な特技である。
肩で息をしているがその体勢は変わっていない。そこで黒猫の一言が決定的だった。
(だって、見タカッタンダモン)
オルド、直立不動。
小鳥のさえずりが響く朝の森の中、指を指したまま固まる男と、その先の黒猫。
直後。オルドの額に特大怒りマーク。
後日語ったが、黒猫は何かが切れた音がしたという。
「テメェの妄想に、本人ツキアワセテンジャネェェェェェェェェェェ!!!!」
鳥達が羽ばたき去っていく音が聞こえる。オルドは叫んだあと、身を前にかがめ体をひ
ねり力いっぱい拳を握った。
空気が先程とは別の意味で張り詰める。
これは空気がではなく力場が張ったことを意味する。
黒猫はびくッと震え、ソロソロと忍び足で退散しようとした。
しかしそれは意味を成さず。誰にも理解されず。
「詠唱省略フルブースト!!!」
周囲の空間が一度大きく振動し、収束する。黒猫が駆け出すがもう遅し。
「吹き飛べやゴルァ!!」
(にぎゃーーーーーーーっ!!)
そして時は動き出す。
実に彼らしい、騒々しい朝である。
‡ ‡ ‡ ‡
次の起床はミルエ嬢である。
寝起きの姿は……む、睨まれてしまった。ここは退散しよう。
‡ ‡ ‡ ‡
「おはようございます、ミルエ様」
「おはようございます」
身だしなみも整え終わり部屋から出たミルエは廊下を歩いていたメイドと挨拶を交わす。
彼女は人一倍、時間がかかっていた。がそれは余念がないだけであり、時間には間に合うよう早く起きている。
魔術師でありながらあまり夜には時間を使わず、平常的な生活習慣を送るのが美しく在る為としているからだ。
そのため、朝食を摂る時間も十分にある。
「なかなか可愛い方でしたね」
食事中、一人ごちる。
両親は屋敷にいるのだが、この時間の朝食には出てこない。彼らの生活パターンからすれば早いからだ。
ソフィニアの高級住宅街にミルエ・コンポニートの家はある。
代々ソフィニア魔術学院を卒業している家系で、ミルエも当然のようにそう在った。
ただ、両親達を違うのは『友人と呼べる存在』。それによって学んだ『自分の在り方』。
能面とした家系の中、それは際立って見えた。優秀であれという親の教えには反してない。
親とは疎遠になってしまったが、後悔などなかった。
「ミルエ様。今日はとても楽しそうですね……あ、昨日からですね」
その理由としてこの家に仕えている者からは慕われていた。
お付のメイドがミルエの仕草を確認しながら発言する。言った本人も何か楽しそうだ。
「えぇ。昨日もお話しましたけどあのシスターがかわいらしくて」
ふふ、と笑みをこぼしメイドに答える。
魔術学院内ではあまり見られない笑みであることを、このメイドは半ば知っている。
それがまた嬉しくて、メイドは笑顔で話しに聞き入っていた。
たまに相槌を打ち、たまには意見を出し。
二人では寂しく感じられる大広間だが談笑が続く中ミルエの朝食は無論、笑顔で行われていた。
「ミルエ様、今日も早いですなぁ!」
玄関から門へ向かう途中、庭師の老人が陽気に声をかけてくる。
だが、老人とはいささか御幣があるかもしれない。
歳は確かにいっているのだが、その肉体はあまりに若々しい。長身のドワーフ族のようなどっしりとした体格である。
彼女の通う魔術学院の学生がもやしに見えてならないのは当然だろう。
例外はいるが。
「ふふ、早起きは得だって言ったのは貴方でしょう?」
「がっはっは。そうですな!」
日が大分上がっているが活動時間として動き始めるにはまだ早い時間である。
先ほどの台詞を言った本人は、やはり早起きなのだ。
季節が冬になれば日差しはもう少し傾いているかもしれないが、それでも彼女のスタイルは変わらない。
無論、この老人の行動も変わるはずがない。
豪快に笑う老人を背中に、門を通る。ここから、魔術師としてのミルエが始まるのだ。
「さぁ、今日もいきますわよ」
気合を入れて、歩み出す。
‡ ‡ ‡ ‡
次は……アルフである。
彼は学内の寮に住んでいる。
布団を押しのけ、まずはベットの上に座り込んだ。
「……」
……。
「……」
……。
「……」
おい、動けよ。
「……」
彼は、朝に弱い。
まずは頭を覚ますことから始まる。
ぼーっとしており、寝巻き用のよれたシャツがはだけているのはお約束だろう。
ふらふらとベットから置き出し、水浴びを慣行する。これで目が覚めてくれるはずだ。
彼がいる部屋は本来二人部屋である。
しかも魔術学院はここで生活技術の試行をしているので、上質な部屋となっていた。
が、アルフ一人しか使っていない。
これはいろいろと噂があるが、誰しもが思うことがある
『コイツらと一緒にいたら命がいくつあっても足りない』
”ら”とは無論、絶対四重奏である。故に、誰も相部屋など申し出る輩などいない。
一部女生徒からたまに話が上がるが、男子寮と女子寮は別館なので論外である。
もしその枷がなくなったとしてもアルフは動じないだろうが。
水浴びから戻ってくるアルフ。
その肉体は非常にがっしりしている。どちらかというと鉱山で働く男のようだ。
普段はそのようには見えないことから、着やせする人種なのだろう。
絶対四重奏の中で一番筋力があるように見えるのはオルドだ。
だが、純粋な”肉体のみ”の能力ではアルフが遥かに上を行っている。
その事実は、殆ど知られていない。
「……」
無駄なことはせず、ただ黙々と着替えるという作業を続ける。
だが、一つ思うことはある。
あの小さな聖職者だ。
今までの生活のなかで中々なレベルのイレギュラーとされている。
面と向かってあのようなことを言われるとは思わなかった。
資料をトンとまとめたところで、手が止まっていることに気づくと「ふ」を息を漏らして笑っていた。
誰も見ていなかったことが幸いだろう。目撃者でもあれば何がどうなったかわからない。
それ以後は単調に準備を行い、外へ出るためドアを開けた。
‡ ‡ ‡ ‡
最後にスレイヴである。
彼は個別にラボを持っている。どういう契機で手に入れたかは闇に葬られている。
好奇心は猫をも殺す。あまり勘ぐらないほうが身のためだろう。
夜明け頃に吹き飛ばしていた奴もいたが、それはご愛嬌。
書物に埋もれたベットなのか、書物に埋ったベットなのかわからない状態の寝床で目を覚ます。
「あぁ、もうこんな時間ですか」
積み上げた本の上にバランスよく乗った置時計を見る。すでに彼の起きる時間となっていた。
昨晩はあれこれ考え事をしていたらしく、ベットの側にもメモ書きが散らばっていた。
ここは郊外の商店街の脇に位置するラボのである。
一階が研究スペースとなっており、住居スペースは二階となっている。
スレイヴは側に置いてあった眼鏡を手に取り、かけてからベットから降りた。
そしてちょっとこった感じのする肩をコキコキならすと、散らばっていたメモ書きをまとめ始める。
同時に寝起きの頭に開始号令をかるため、昨日の情報の整理を開始した。
図書館でメルに会う。
現場検証をする。
悪魔が仕掛けてくる。
グレイスを訪ねる。
そして。
スレイヴはまた一人、笑みを浮かべていた。
「ここまで楽しいことがあるのは久しぶりですねぇ……ブリケット以来でしょうか」
日はすでに昇りきっている。スレイヴは”魔術学院に所属しているわけではない”ので時間に縛られる必要はなかった。
自分のペースで赴き、自分の成すべき事を成すまで。
着替え後、おもむろに一階へ降りる。
執務室風なそこは二階と違って整理されていた。奥にも部屋があり、施術スペースとなっている。
スレイヴはわき見も見ずに外へ向かう。
外は無駄に晴れていた。
「くくくっ……楽しくなりそうですねぇ!」
魔術学院のある方向を眺めたその表情は、爽快な笑顔であった。
そろそろ佳境です。このあたりでラストまで毎週日曜更新を目指します。