表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アクマの命題  作者: 匿名希望α & 千鳥
12/20

【10】 狂え旋律よ/Side メル(作者:千鳥)


 ゴォオオ――ン


 巨大な鐘の音が朝の学院に響き渡った。

 その音に引き寄せられるように、人気の無かった校舎に次々と人がなだれ込んでくる。

 冷えた空気に包まれていた校舎は、若い生徒たちの熱気とざわめきで急速に空気を変えてゆく。

 そんな朝の登校風景をメルは中庭のベンチに座って眺めていた。


 いつも通り、夜明けと共に目を覚まし朝のお祈りを終えたシスターは女子寮のコックに苺のジャムサンドを包んでもらうとまず講堂を繋ぐ回廊へと足を運んだ。

 昨日見逃したことが無いかを確かめるためだった。

 調査に必要な情報は全て集めた。

 学院から送られて来た依頼書の内容と見比べても怪しい点はない。

 召喚者は死に、悪魔はスレイヴに撃退され、魔法陣を復元した人間も除籍され行方不明である。

 この調査書を大聖堂に渡せばメルの調査員としての仕事は終わるはずであった。

しかし、悪魔はまだこの学院から立ち去ってはいない。

 回廊に残された文字、十字に崩された柱。それは間違いなく悪魔からメルへのメッセージだった。

 スレイヴが撃退した悪魔が未だこの学院に身を潜ませているのか、または別の悪魔なのかは分からない。


「誰かが興味本位で触ったら大変ですわ・・・。やはりラクトルの魔法陣を消さなくては」


 メルは調査員では無くエクソシストとして動き始めた。


 


 しかし、その決意も空しく数時間後にはメルは中庭のベンチに座っていた。


「せっかく人のいない早朝の時間を選んだのに、反応は、なし・・・」


 聖水と聖句で魔法陣を清めると、ラクトルの魔法陣は呆気なく消え去った。

 大聖堂の許可なしに行動したことは後に問題になるかもしれなかったが、悠長に返答を待つ余裕はなかった・・・はずだ。

 その後悪魔が攻撃してくる気配はない。


「お花さんおはよう。太陽さん、もっと光をおくれ。」


 そんな時、抑揚の無い声が突如、茂みの中から聞こえた。

 びっくりして振り返ると男が両手を上げて立っている。


「何をして・・・らっしゃるの?」


 ベンチから腰を浮かせた体勢のままメルは尋ねる。

 男のポーズは子供たちが演劇でやる木の役に似ていた。


「僕は木。光をいっぱい浴びて光合成するんだ」


 二十代後半と思われるの男の異様な様子に、普通の人間なら即座にその場を離れたであろう。

 しかし、メルは辛抱強く語りかけた。


「貴方は光合成が出来るのですか・・・?」

「僕は無害な植物。植物ならだ~れも僕を虐めない」


 男は短く刈り上げた金髪に高い鷲鼻を持つ、彫りの深い顔立ちをしていたが、目は虚で顔中の筋肉が弛緩しているようだった。


「誰が貴方を虐めるのですか?」


 男の言葉を素早く汲み取ると、メルは両手を組んでなるべく優しい声で語りかけた。


「わたくしは貴方を虐めたりしませんわ。貴方のお役に立てることはありませんかしら?」


 メルはこの哀れな男を不憫に思い、救いの手を差し延べようとした。

 しかし、男はその言葉を聞くとぎょっと表情を変えた。


「「わたくし」!?「かしら」だって!?やめてくれミルエ!!そのような姿をしたって騙されないぞ。お前はまだ私を愚弄したりないというのか!!」


 叫び出した男の顔は正気に戻っていた。

 その中には予想もしていなかった名前が含まれている。


「あの男たちを使って!私を!汚らわしい!!お前たちこそ悪魔だ!!」


 狂ったように・・・事実彼は狂っていたが、吠え続ける。


「バルドクス様!!屋敷を抜け出してまたこんな所へ」


 呆然と立ちつくすしかないメルの脇を若い従者がかけてきて男を取り押さえた。


「その方は・・・バルドクス・クノーヴィさんですか?」


 もしやという思いが頭から離れず、尋ねずにはいられなかった。

 学院の話ではバルドクスは死亡しているはずだ。


「え・・・?そうですけど。うわっ!!君、シスターだったのか!?」


 従者は狂った主の横に立つ少女がシスターだとは思っていなかったようだ。

 慌てた様子で辺りを見回すと・・・


「あ、主はもう充分な罰を受けました。これ以上の追求はクノーヴィ家の名を落とすことに。どうか、これでご勘弁を・・・」


 金貨を数枚メルの手に握らせようとする。

 そんな従者の手をメルは思い切り払った。


「そのような物は不要です!!」


 愛らしいその容姿からは想像できない気迫に、従者は飛び上がり、バルドクスが怯えて耳を塞いだ。


「大勢の人を死に追いやりながらその態度は何ですか!!」


 メルは怒っていた。

 しかし、目の前にいる男たちだけではない。

 昨日出会った彼ら――アルフ、オルド、ミルエ・・・それに、スレイヴに対してもだ。

 彼らは友好的に捜査に協力するフリをし、裏ではメルを騙して嘲笑っていたのだ。

 「お前たちこそ悪魔だ!」そう叫んだバルドクスの声が未だ耳の中でこだましていた。


「シスターどうかお許し下さい。私どもに懺悔のチャンスを」


 メルの余りの剣幕に従者は怯えきった声で懇願した。


「ならば貴方の主に起こった事を全て話してください。貴方を神が見放さないうちに!」


++++


 絶対四重奏。



 平和な生活を送りたいのならば近づいてはならない場所、物、人と言うものが何処にでもあるある。

 ソフィニア魔術学院において、彼らはまさにそれだった。

 彼らの演奏を妨げてはいけない。

 天才と馬鹿は紙一重と言うが、奇才を放つ彼らは天災と紙一重だった。


「バルドクス様はよりによってミルエ様と全く同じ研究を選ぶ事で彼女の好敵手となろうとされました。しかし、あの方に敵うはずも無く発表会で礎となる理論を覆されたバルドクス様は自暴自棄となり、偶然手に入れたメモから悪魔召喚を行ったのです」


 従者はそこで、地面をくの字に這い「僕は虫けらです」と繰り返す主に視線をやった。


「あれが術のリバウンドなのか、別の圧力があったのかはお医者様にも分かりません。ただ、悪魔はスレイヴ様に撃退され、バルドクス様の身はオルド様とアルフ様に拘束されていました」

「何て酷い・・・」


 メルは「気の病はきっと治りますわ!!」とバルドクスの手を握った。

 しかし、バルドクスは、奇声を上げて飛びあがるばかりだった・・・・。

光合成男、バルドクスさんは、意外に人気で他の方のリレー小説にもこっそり登場してます(笑

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ