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アクマの命題  作者: 匿名希望α & 千鳥
10/20

【8】優雅なお茶会を/Side メル(作者:千鳥)  ※挿絵有り※

「確か用件は……バルドクス・クノーヴィという人物についてでしたわよね?」

「は、はい!」


 ミルエが突如そう切り出すと、メルはクッキーに伸ばしていた手を慌て引っ込める。ミルエは優雅に微笑み「どうぞ召し上がって」と言った。メルは手近にあったクッキーを口に入れると、ハンカチで手を拭いて手帳を開いた。

 三日月型のクッキーは生地がしっとりと軟らかく、まぶしたシュガーパウダーと一緒にあっというまに口の中で溶ける。お菓子と一緒にとろけそうになる表情を必死に引き締めながら、メルは尋ねた。


「この方とミルエさんは同じ分野を専攻していらっしゃったのですね?知る限りでよいので、この方の性格などを教えていただきたいのですが…」 

「そうですわね。確かにわたくしとバルドクス・クノーヴィは学生時代から同じ分野を専攻していましたわ。彼の所属する研究室はちょうどこの部屋の斜め左でした」


 長年同じ畑で学ぶ学友について話すにしては、ミルエの口調は親しげな様子ではなかった。ちなみに、ここはミルエの研究室である。図書館でミルエと共に居たオルドはお茶会という響きが性に合わないのか、メルの誘いをあっさりと断り去っていった。

 ミルエはバルドクスの性格と当日の様子を詳しく語ってくれた。


「クノーヴィ家はソフィニア周辺に荘園を持つ貴族ですの。学院への寄付金も多く、それなりの影響力はありますわね。バルドクスはその一族の直系ということもあって、随分自信家な方でしたわ。あの日は、研究生の中間報告会があったのですが、そこで厳しい反論を浴びて、発表の途中で退場したのですわ。自分のプライドを傷つけられた彼が逆上して悪魔召喚を行ったという可能性は大いにありますわね。愚かですこと」


 そういって、ミルエはティーポットを持ち上げる。


「お茶のお替りはいかがかしら?」


 気安い様子でメルに微笑みかけるミルエだが、言い放った言葉は辛辣でしかなかった。メルはこの美しい貴婦人のような女性の裏側の部分を垣間見た気がしてくらくらしながらお替りをもらう。


「では、彼が悪魔召喚の魔法陣を入手したのがいつごろなのか、見当がつきますか?または、それ以前から悪魔について彼が興味をもっていたということは…」

「さぁ・・・わたくしには見当もつきませんわ。でも、そうですわね…きっと当日偶然発見したのでしょう。バルドクスがそれ以前に見つけていれば絶対に学院側に報告したでしょうね。そういう人間なのですわ。もちろん使用した人間を弾劾するためにですけれど…」


 何となくだが、バルドクス・クノーヴィの性格が見えてくる。


「では、最後に・・・彼が悪魔召喚を実際に出来たと思いますか?」

「魔方陣については、学生の誰もが必須科目として基本は存じてますわ。でも、悪魔については、学院では扱ってませんし、彼がそれに興味を持っていたとも思えませんわ。わたくしたちの専攻は精霊・自然魔法についてなんですもの」

「そうですか…」


 "事件以前に召喚者と悪魔との関連性は見られない。今回の悪魔召喚は魔方陣入手という偶然的な条件の下、召喚者の衝動的な行動であると思われる"


「ありがとうございました、ミルエさん。参考になりました」

「それは良かったですわ。当分こちらで調査をするのでしょう?何処にお泊りになってるの?」

「学院長が女子寮の空いたお部屋を使えるように用意して下さいました」

「そう……なら、安心ね。最近この町も物騒ですのよ」


 先日騒動をおこしたばかりの学院にある学生寮の何処が安心だというのか。

 余ったお菓子を分けてもらったメルは、そんな考えなど微塵も浮かぶ事無く笑顔でミルエの研究室を後にした。

 外はいつのかにか夕日が落ち、校舎の窓ガラス一面がオレンジ色に染まっている。


 長いソフィニア魔術学院の一日が終わろうとしていた。

 しかし、怒涛の翌日が刻々と近づいていることにメルはその時まだ気がついていなかった。





挿絵(By みてみん)

あまり内容と関係ないですが、挿絵を一枚。

2年前に描いたと思うと懐かしいです・・・

あ、通常メルは眼鏡はかけてません。目も悪くないです。

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