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いくら過去をやり直しても殿下が私のプリンを食べてしまう

作者: 月宮 かすみ

 私は公爵令嬢クラリッサ・フォン・エーベルライン。

 聡明で気品あふれる貴族令嬢……のはずなのに、最近の私は プリンを守ること に全力を注いでいる。


 きっかけは、ほんの些細な出来事だった。


 宮廷の食堂で、私は専属のパティシエが作った特製プリンを前にして、至福の時間を迎えようとしていた。


 そこへ――


「おや、クラリッサ。それはなんだ?」


 金色の髪を持つ王太子アレクシス殿下が、ふらりと近づいてきた。

 いやな予感がする。


「私のプリンです」


「ふむ、うまそうだな」


 そう言いながら、殿下はスプーンを手に取る。


 ダメ!!!!!


 私は慌てて止めようとしたが、時すでに遅し。

 殿下は私のプリンを掬い、一口で食べてしまった。


「……美味いな」


 それ、私のプリンです!!!!


 あまりの悔しさに、私は思わず 時間を巻き戻した。


 ――そう、私は過去をやり直せる力を持っているのだ。


 ◆ 二回目


 再び宮廷の食堂。私は慎重に辺りを見回し、殿下の姿がないことを確認する。

 今度こそ、誰にも邪魔されずにプリンを食べるのだ。


「よし……」


 スプーンを持ち上げ、震える手でプリンを掬う。

 ぷるぷると揺れるその姿が美しい。


 ぱくっ。


「うまいな」


「…………」


 ……え?


 振り向くと、殿下が私の隣に座り、 すでに私のプリンを食べ終えていた。


「なっ……!? ど、どうして!? さっき、あなたはいなかったはずでは!?」


「ん? ちょうど通りかかったからな」


 そんな偶然があってたまるか!!


 悔しさに震えながら、私はもう一度時間を巻き戻した。


 ◆ 三回目


 作戦を変える。今度は宮廷の食堂ではなく、自室でプリンを食べることにした。

 これなら誰にも邪魔されないはず……!


「いただきます……」


 一口食べる。


 甘くて濃厚な味わいが、口の中に広がる。幸せだ……!


「うまいな」


「!?!?」


 そこにいるはずのない殿下が、 私のプリンを食べていた。


「な、なんで!? ここ私の部屋ですけど!?」


「そうだったか?」


「そうだったか、じゃありません!!!!」


 私は思わず叫んだ。おかしい、どうしても殿下にプリンを奪われる。


 ◆ 四回目


 もう宮廷のどこも信用ならない。ならば、城の外で食べるしかない。


 私は森の奥の秘密の庭園で、プリンを手にした。


 ここなら誰も来ない。静かで平和な場所だ。

 今度こそ、誰にも邪魔されずに――


「おや、こんなところで何を?」


「………………」


 そこにいたのは、やっぱり殿下だった。


「……どうしているんですか」


「俺もたまたま散歩していたらな……ん? それはプリンか?」


「ちょっと待って!? 絶対にダメ!!!」


「ふむ、美味そうだな」


 ぱくっ。


「やっぱり美味いな」


「いやあああああ!!!!!」


 ――こうして私の戦いは続くのだった。



  ***



 ――何度過去をやり直しても、私のプリンは殿下に奪われる。


「今度こそ……今度こそ絶対に……!!」


 私は決意を新たにし、気合いを入れて作戦を練った。

 もう適当な隠し方ではダメだ。奴(殿下)は必ず嗅ぎつけてくる。

 ならば、もっと徹底的に守るしかない。


 宮廷食堂作戦は失敗した。自室もダメ。秘密の庭園もアウト。ならば――


 ◆ 五回目


 私は宮廷の厨房に忍び込んだ。

 この場で直接食べてしまえば、誰にも奪われることはない。


 パティシエたちの目を盗み、私は棚の影でこっそりとプリンを手に取る。


「よし……!」


 スプーンを手に取り、プリンに差し込もうとした――その瞬間。


「おや、クラリッサ。こんなところで何を?」


「――ッ!?!?!?!?!」


 振り向くと、そこには 当然のように殿下がいた。


「な、なんでいるんですか!!!」


「いや、散歩していたらな」


「ここ厨房ですよ!!??」


「そうだったか?」


 そうだったか、じゃない!!!!


 慌ててプリンを隠そうとするが、時すでに遅し。

 殿下は私の手をするりとかわし、見事な手さばきでプリンを掬い取った。


「ふむ、美味そうだな」


「ちょっ――!!」


 ぱくっ。


「やっぱり美味いな」


「やっぱり、じゃありません!!!」


 私は泣きそうになりながら、再び時間を巻き戻した。


 ◆ 六回目


 今度こそは、万全を期して食堂で食べる。

 だが、学習した私は プリンに銀の蓋をかぶせ、徹底ガード することにした。


 殿下が近づく前に、給仕が紅茶を運んでくる。

 私は注意深くテーブルの上を見つめ、絶対に目を離さないと誓う。


「おや、クラリッサ」


「……殿下」


 にこやかに微笑みながら、殿下が私の向かいに座った。


「珍しいな、お前が一人でいるとは」


「ええ、今日は一人でゆっくりしたいので」


「ふむ、それは邪魔をして悪かったな」


 殿下は呟きながら、給仕が私の前に置いた紅茶を手に取った。

 次の瞬間――


 プリンが消えた。


「――!? どこに行ったの、私のプリン!」


「ん? これはなかなか美味しいな」


 振り返ると、殿下が涼しい顔でプリンを食べていた。


「どうやって!?」


「どうやって……? さあな」


 私が一瞬でも目を離した隙に、殿下は何をしたの!?

 魔法!? 超能力!? それともただの神業!?


 私の努力は、またしても水の泡になったのだった。


 ◆ 七回目


 もう……もう耐えられない。

 これ以上プリンを奪われるぐらいなら、いっそ作戦を変えるしかない。


 そうだ、ならば――


 私は決意し、時間を巻き戻した。


 そして、宮廷の厨房で もう一つプリンを作らせた。


「これで完璧……!」


 私の目の前には 二つのプリン がある。

 これならば、たとえ殿下に一つ奪われても、もう一つは私のもの……!!


 意気揚々と食堂に向かい、プリンを二つ並べる。

 案の定、殿下が近づいてきた。


「おや、クラリッサ。またプリンか?」


「ええ、殿下。どうぞ、一つ差し上げます」


「ほう……?」


 殿下は珍しそうに私を見つめたが、すぐに微笑んだ。


「では、いただこう」


 ぱくっ。


 殿下が一つ食べる。


 ぱくっ。


 ……そして私のプリンを一つ食べる。


「ちょっと待って!? なんで二つとも食べるんですか!?」


 私は信じられないものを見る目で殿下を見つめた。


「ん? くれるんだろう?」


「一つだけです! 一つだけ!! もう一つは私の分です!!!」


「そうだったのか?」


「そうだったのか!?!?!?」


 私は思わず頭を抱えた。どうしてこうなるの!? なぜ、いくら過去をやり直してもプリンを奪われるの!?


「ふむ、今日も美味かったな」


「ちょっ……待って……もう……私の……」


 力なくテーブルに突っ伏す私を見て、殿下は微笑むと優雅に席を立った。


「では、またな」


「またな、じゃない……!」


 このままではダメだ。


 私は今、重大な事実に気づいた。


 これはただのプリン攻防戦ではない。

 これは 私と殿下の知恵比べの戦争 なのだ。


「……いいでしょう、殿下」


 私はゆっくりと顔を上げ、決意を新たにした。


「次こそは、絶対に絶対に絶対に……!!」


 今度こそ、私のプリンは私のものだ!!!


 ――私の戦いはまだ終わらない。


(つづく……かもしれない)

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