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陽介は草原エリアから洞窟、そして迷路に至る全体の構造を再確認しながら、手直しするべき箇所を探していた。完成に近づいているという実感が湧く一方で、彼の中にはまだ改善の余地があると感じる部分があった。
「安全地帯をどうするか……」
陽介は独り言のように呟きながら、ディスプレイに草原エリアの一角を拡大表示させた。安全地帯とは、冒険者たちが一息つき、次の挑戦に備える場所だ。しかし、ただの休憩所ではつまらない。何か特別な要素を加えたいと考えていた。
「例えば、回復効果のある泉を置くのはどうだろう?」
陽介は思案しながら、自然に溶け込むような小さな泉を設置してみた。しかし、設置した瞬間、違和感が胸に浮かぶ。
「いや、回復はやりすぎかもしれないな……ダンジョンの緊張感が薄れる気がする。もっと控えめで、それでも冒険者に喜ばれるような仕掛けがいい」
陽介は泉の回復効果を取り除き、代わりに光る水を満たした大きめの器を置くことにした。その水には触れるだけで冒険者に一時的なバフ効果を与えるよう設定した。攻撃力の強化、耐久力の向上、体力の自然回復速度の増加など、様々な効果をランダムで付与することで、冒険者たちが戦略的に利用できる仕組みにする。
「これなら、使い方次第で冒険者の挑戦が楽しくなるはずだ。しかも、バフが切れるまでは再使用できないようにすれば、乱用も防げる」
陽介はディスプレイを操作し、光る水が器の中で神秘的な輝きを放つように演出した。そして、その周囲に色とりどりの草花を配置し、景観としても美しい空間を作り上げた。
「安全地帯には景色の癒しも重要だな。ただ機能的な場所じゃなく、冒険者たちが少しの間でも心からリラックスできるような雰囲気を作りたい」
陽介は視界全体を拡大し、草原エリアの安全地帯に澄んだ小川や風に揺れる木々を追加した。さらに、夜空を思わせる星の光がほんのりと降り注ぐようなエフェクトを加え、幻想的な雰囲気を演出した。
「どうだ、コア?これなら冒険者たちも楽しんでくれるんじゃないか?」
「うん、すごい!見てるだけで癒されそうだよ!」
コアが嬉しそうに輝きを放ちながら言った。「それに、バフが切れるまで再使用できない仕組みもいいね。これなら冒険者たちが戦略的に使うはずだよ」
「そうか。それなら、この安全地帯はこれで完成だな」
陽介はディスプレイを閉じ、草原エリア全体をもう一度見渡した。そこには冒険者が楽しめる様々な仕掛けが詰まった空間が広がっていた。
「次は洞窟エリアの細部を詰めていくか。安全地帯の場所も同じように考え直す必要があるな……」
陽介の中には、創造の楽しさがどんどん膨らんでいくのを感じていた。彼が手掛ける最初のダンジョンは、ただの試練の場ではなく、冒険者たちが心から楽しめる舞台へと変わりつつあった――。