いつだってフルスロットル
「くぅ~! 冷たい! 足がじんじんする!」
「ねー見て見て! ザリガニがいる! ここにはカニが!」
私たちの故郷は、湧き水で有名な街でもあった。
それは、奥深い山々で長い年月をかけ濾過された滴が、その昔溶岩が作りあげた空洞を通ってこの地にこんこんと湧き出たものだ。
湧き水は、夏でも長時間足をつけていられないくらい氷水のように冷たい。
そこは、子供たちの遊び場でもあり夏は水着を着て水遊びすることもあった。
唇が青くなるくらい水に浸かった二人は、小さな石橋から足を投げ出し地面に座ると、キラキラと輝く水面を見つめながら冷えた身体を温めた。
「えっこちゃん、すごく美味しい飲み物があるから一緒に作って飲まない?」
「え、いいの?」
製麺所を営むまさえちゃんの家族は、同敷地内に隣接する建物内で作業中のためお邪魔した家には私とまさえちゃんだけ。
まさえちゃんは、手慣れた手つきで茶色くて丸い見慣れぬものをガラスの器に取り出すと、牛乳をたっぷり入れてかき混ぜ始めた。
出された器を手にした私は、まさえちゃんの真似をしてスプーンでかき混ぜた。
しかし、それはどれだけかき混ぜても一向に溶けることなくざらざらとしていて、牛乳の底に沈殿している。
ガラスの器の底を横から覗くと、キラキラとして綺麗だった。
色はコーヒー牛乳のような色合いで甘い香りが漂っていた。
「これ、なかなか溶けないんだ。でもね、コーヒー牛乳みたくて美味しいよ」
まさえちゃんはそう言って、その飲み物に口をつけた。それを見て私も初めてそれを口にしてみた。
「うん、甘くて美味しい! ほんと、コーヒー牛乳みたいだね」
口の中は、ザラザラとした食感が残っていたものの味はよかったため二人はそれを飲み干した。
夕方「また明日遊ぼうね」と約束をして私は自宅に戻った。
その日の夕食時、血相を変えたまさえちゃんのお母さんが我が家に向かってバタバタと足音をたてながら走ってきた。
「困ったよう! えっこちゃん大丈夫? うちの子、えっこちゃんに毒を飲ませちゃったのよー!!」
息を切らせながら、まさえちゃんのお母さんは『毒』と確かにそう言った。
「えー!!」
大人たちは何やら大騒ぎ。
どうやら、食品工場で扱う害虫駆除のためのホウ酸団子を食べ物と勘違いしたまさえちゃんは、私にご馳走してくれたのだ。
『毒』と聞いて間もなく私は死んでしまうんだ。そう思ったのを今でも覚えている。
だた、『毒』ってあんなに美味しい物なんだと思いに耽っていた。
親たちの心配とは裏腹に、件の私たちは何事もなかったかのようにけろりとしていた。何の異常も現れなかったのが不思議なくらいだったらしい。
思えば、私たちの遊びは常に危険と隣り合わせだった。命がけといっても過言ではないだろう。
女の子と思えないそのやんちゃぶりに、思い出しただけでも笑みが零れる。
ああ、そうだった。私たちは、いつだってフルスロットル――