私たちの冒険物語
土手沿いに立つ私たちは、さらさらと流れる川のせせらぎに耳を澄ませながら、キラキラと輝く川面を見つめていた。
「おい、待ってくれよ!」
男の子たちの騒ぎ声がする方に目を向けると、数十メートル下流に赤い鉄橋が見えた。
「まさえちゃん、行ってみよう!」
「うん!」
そこには、私の兄たちとその友達、四人の少年たちがいた。
線路上の少年達は、鉄橋の向こうに側を見つめていた。
今から何が始まろうとしているのか想像がついた。
度胸試しだ。
その場所からずっと先に、隣地区の駅が小さく霞んで見えた。
駅には、今まさに発車しようという電車の姿があった。
これは、ただの度胸試しではない。
近くの踏切からカンカンカン・・・・・・と警報音が鳴り始めたのを合図に、私の一番上の兄は鉄橋に足を踏み入れた。
「行くぞ!」
兄の後を少年たちが続く。
それは、こちらに走ってくる電車に向かって鉄橋を渡りきるという無謀なチャレンジだった。
私とまさえちゃんも線路上から、鉄橋を渡ろうとする少年たちを固唾を呑んで見守っていた。
「お前たちも早く渡れ!」
突然、二番目の兄が、切羽詰まった声で私たちに思いも寄らぬ言葉を投げかけたため、私の心臓が大きく跳ね上がった。
けたたましく鳴り響く警報音。迫りくる電車。ドキドキと張りつめる心臓の鼓動。
気持ちが高ぶった私は、反射的に鉄橋に足を踏み入れてしまった。
それを見て、まさえちゃんも私の後に続いたのだ。
渡り始めて気づいたが、鉄橋の長さは十メートル以上あり、川から鉄橋までの高さは住宅の二階程の高さだった。
枕木の間隔は、六歳の子供が踏み外したら落ちてしまいそうなほど広く感じた。
その高さに思わず足がすくみ、鉄橋の真ん中辺りで足が止まってしまった。
先を行った少年たちは、無事渡りきったようだ。
私とまさえちゃんは、枕木を一歩づつ恐るおそる踏みしめて渡っていく。
電車の運転手は、鉄橋の上の子供たちに気づき警笛を鳴らした。
顔をあげると、先程まで小さかった電車が大きく見えたためギョッとした。
「飛び込め! 川に飛び込め!!」
兄たちの声が響いた。
枕木の間から覗く下は、川といっても水位が低く石がゴロゴロとしていて落ちたことを想像しただけでも恐ろしかった。
私たちは、迫りくる電車に向かって鉄橋を渡るしかない。
私は、心臓が口から飛び出てしまうのではないかくらい恐怖を覚えた。
何とか渡りきった私たちは、線路脇に倒れ込むように逃れると電車とすれ違った。
『九死に一生を得る』とは正にこのことかと、大人になった今になり思い知らされる。
それなのに、あの頃の私たちといったら。
皆驚きの眼で顔を見合わせ、そして思いっきり笑った。
あの頃、どうして笑ったのかよくわからない。
今思えば、『自らの力で強いものに打ち勝った』ということが誇らしかったのかもしれない。
まるで冒険物語の主人公になったみたいで、心躍ったのを覚えている。
それは、私たちの冒険物語――
あの頃の私たちには、怖い物なんてなかった。
私たちは無敵だったんだ――