尊くて儚い世界
あっ、ここって――。ふと目に留まったそこは、雑草の生い茂る空き地。
幼かった私たちは、数軒建ち並ぶ借家のとある家の玄関先でその子の名を呼ぶ。
「もーっくん、あーそーぼ!」
そうだった。ここは『もっくん』と呼ばれる二つ年下の男の子の家だった。
数十年の時は、昔と何も変わらない故郷の風景から、あったはずのものを消し去った。
この場所には、もっくんの家はもうない。
大人になった私は、何故かもっくんの顔だけ思い出すことができなかった。
その時、無いはずの借家から小さな男の子が一人現れた。可愛い顔した男の子、もっくんだ。
物静かで、恥ずかしがり屋で、仔犬のように後をついてくる子だった。
そんなもっくんが亡くなったと、大きくなってから聞いた。
自殺したという噂だった。
あのもっくんに、一体何が起こったのだろう――。
未来に何が待ち受けているやも知れず。私たちは、野原を駆け巡り、泣いて、笑って、ケンカして、そして仲直り。
幼き頃の私たちは、そんな日が訪れるなんて思いも寄らなかった。
幼きもっくんと遊ぶ私は、何故だか切ない思いが胸に込みあげる。
尊くて儚い世界――